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261日目 クリスマスの準備

261日目


 すごくさむい。ひもじい。からだがうごかない。くさい。くちのなかがうじゅうじゅする。まぶたがおもい。つめのところがいたい。おなかすいた。のどかわいた。くらくてこわい。さみしい。さむい。さむい。さむい。ざらざらする。


 どろみずはそんなにおいしくない。でもいたくないからけっこうすき。きれいなみずはおいしい。でもいたいからあんまりすきじゃない。


 おもいからもちたくないらしい。くさをたべるのはだめなんだって。せまいからひろいところへ。でもせまいほうがすき。さむくないし。


 ねずみはばっちぃ。へんなめでみられる。でもつかんでいるとちょっとだけあったかい。なんかみみからへんなのぼろってとれた。


 めをあわせるな。しかいにはいるな。あれはだめだ。しんようするな。いたいだけだ。みられるな。ばれなきゃもんだいない。きにするな。きにするようなやつじゃない。


 なけりゃうばえ。ためらうな。やれるならなんでもいい。たよれるのはじぶんだけだ。






 まったく、久しぶりにベイビーキッズな頃の夢を見てしまった。嫌な意味で心臓バクバクの汗ダラダラ。ここ最近これほどまでに最悪の寝起きがあっただろうか? いや、ない。


 せっかくなので断片的に書いてみる。書いてて思ったけどなかなかの臨場感。そして溢れ出るホラーサスペンス臭。我ながら結構荒んでいると思う。


 クソが。なんで今になってこの夢なんだよ。茶化さないとやってられないっていう。マジ泣きそう。さっさとロザリィちゃんに慰めてもらう。


 ギルを起こして食堂へ。あの野郎、俺の姿を見るなり『……どうした親友? 怖い夢でも見たのか?』となかなかに鋭いカンを見せつけやがった。できればそのセリフはロザリィちゃんの口からききたかったけど、まあ、親友だし心配してくれたこと自体はうれしい。


 で、食堂に行ってからも、『お前顔色悪いぞ?』、『ちょっといつもと違うの』、『マジでヤバい顔している』、『ヴィヴィディナに捧げるのをためらうレベル』……と、我がクラスメイト達から言われた。


 たぶん、純粋に悪夢を見て怯えた表情をしていたってのと、あとあの時代の雰囲気を纏ってたからってのがあるんだと思う。ちゃっぴぃもヒナたちもなんか怯えていたし。マデラさんに拾われたばかりのころは目つきが悪いってよく言われてたんだよね。


 さて、そんなヤバそげな感じだった俺を優しくぎゅって抱き締めてくる女の子が一人。書くまでもなくロザリィちゃん、ホントに無言で、ただただ慈愛の表情を浮かべ、人前だってのに思いっきり、それこそ俺の頭が胸に埋まるくらいに抱きしめてくれた。


 もうね、ホント泣いたよ。我慢しようって思ったけど、声を抑えようって思ったけど、涙がポロポロ出まくるんだもん。安心できるのに、すっごくうれしいのに涙出るっておかしくない? たぶんきっとラフォイドルあたりが涙の呪でもかけてたに決まってる。


 『……落ち着いた?』って頭をポンポンしながら微笑んでくれる姿が最高に聖母だった。俺、マジであの時死を選ばなくてよかった。こんなにも素敵な人に抱きしめてもらえるんだって、あの時の俺に伝えたいくらい。あるいは、あの時の俺がロザリィちゃんに会ってたらまたいろいろと変わっていたと思う。


 やっぱり人のぬくもりってうれしい。あれに勝る代物はない。俺はロザリィちゃんのぬくもりを守るためならなんだってできる。


 なんだかんだで結構長い間ロザリィちゃんにぎゅってしてもらっていたと思う。もちろん俺も遠慮なく抱き締め返した。今から思えばちょっとみっともなかったかもしれないけど、客観的に考えれば俺はそれくらい許されるべきなのだ。本来もらうべきだったものを今ここでもらっても何も問題あるまい。


 さて、落ち着いたところで来るべきクリスマスのための準備に入る。課題とかいろいろあって時間が取れなかったけど、さりげなくクリスマスまで一週間も残っていない。自分の手際の悪さに絶望を隠せない。


 さしあたって必要なのはクリスマスのディナーとケーキ、そしてクリスマスツリーと言った飾りつけだろう。ディナーのほうはある程度はおばちゃんが用意してくれるから、俺が用意しなきゃいけないのはケーキってことになる。


 早速、みんな分かれて準備に入る。ポポルとパレッタちゃんはクリスマスの飾りを求めて町に、アルテアちゃんとフィルラドはチキンを求めて山に狩りに、ジオルドとクーラスはまあ適当にいろいろやってくれと頼む。


 あ、ミーシャちゃんとギルには『ツリーを頼む』といつぞやの恐慌の怨念樹を渡して栽培スペースに行くように言っておいた。『なんであたしたちにそれ頼むの!? そのアブナイ樹はなんなの!?』ってミーシャちゃんは最後まで抵抗したけど、ギルが『えっ……俺と行くの嫌?』って悲しそうな顔をしたら『そうじゃないの!』って慌てて取り繕っていた。


 個人的には冬の誰もいない栽培スペースで二人きりになるように気を効かせたつもりだったんだけど、なぜこの二人はそれに気が付かないのか。まあ、結果的にはいってくれたから問題はないけどね。


 んで、俺とロザリィちゃん……と、ちゃっぴぃはクッキーだのケーキだのの下準備。ちゃっぴぃにはこないだのクーラスのエプロンを付けてやった。『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃは上機嫌。


 あと、ロザリィちゃんの調理の腕が結構上がっていた。思えばピアナ先生のところに通いだしてから結構時間が経つ。『ちょっとは追いつけたかな?』って微笑む姿がマジプリティ。エプロン姿でクッキーを焼く姿とか、新妻感が半端ない。思わず抱き締めそうになった


 ロザリィちゃんとちゃっぴぃの助け(かき混ぜるのだけやってもらった。あいつはサンタ召還のために実にキビキビ動いてくれた)があったおかげで、思った以上に作業ははかどった。クッキーとハゲプリンに関しては魔材研のも属性研のも仕上げることに成功する。もちろんクリスマスエディションにデコったやつね。


 煉獄ケーキはまだまだだけど、仕上げは前日にするから問題なし。今回はあくまで下準備だしね。


 そうそう、途中でつまみ食いに来たポポルとパレッタちゃんだけど、『ふーッ!』ってガチ威嚇するちゃっぴぃと大乱闘を繰り広げていた。ちゃっぴぃのやつ、パレッタちゃんのくすぐりの呪をまともに喰らって『きゅ、きゅう……!』ってビク……ッ! ビク……ッ! ってしてたけど、なんか精神感応でパレッタちゃんに反撃したらしく、『ひゃああああッ!?』ってパレッタちゃんもビク……ッ! ビク……ッ! って地面に伏せていた。


 なお、ポポルは無事。ご丁寧に二人を縛り上げ、『これで独り占めできるぜ!』と宣ったところで背後から近づいた俺がつまみだし、直々にくすぐり倒してやった。もちろんあいつもビク……ッ! ビク……ッ! って震えていた。


 夕方ごろ、フィルラドとアルテアちゃんが狩ってきた鳥(残酷なことにコーラスバードである)を検分していたら、なにやら地響きのようなものが聞こえてきた。みんなとっさに杖を構えたら、なんと栽培スペースのほうから寮と同じくらいの大きさの禍々しい樹が根っこを使って走ってきていた。


 さすがにみんなビビる。しかもその樹、悍ましい悲鳴なんかも上げている。聞いているだけで精神が病みそうになるやつね。


 さて、撃退しようと杖を構えたら、『弱ぇ弱ぇ!』ってどこからともなく飛び出したギルがおもっくそそいつを蹴り倒していた。バカでかい樹なのにこっちまで吹っ飛んできて、慌ててみんなで逃げる羽目になった。


 で、事のあらましをギルの背中に引っ付いていたミーシャちゃんから聞く。なんでも、あの怨念樹の勝手がわからなかったので畑を耕してとりあえず植えたら、いつぞやの時のように勝手にクレイジーリボンが共鳴し、樹が急成長して襲い掛かってきたらしい。


 が、当然のごとくそんなものギルに通用するはずがない。刃向かう気が失せるまで今までずっとサンドバックとして殴ったりけったりしていたらしいんだけど、さっきたまたま隙を見せてしまい、怨念樹が逃げ出しちゃったんだって。


 ちなみに、ギルの腕の筋肉には小さな噛み痕があった。ギルのやつ、誰かの使い魔のカマイタチ(怨念樹から逃げたやつ)が突風でミーシャちゃんのローブをぺろんってしたのをつい目で追っちゃったそうな。


 ギルが隙を作るなんて珍しいと思ったけど、きっとあいつは戦闘中にもかかわらずトロールみたいな笑顔を浮かべていたのだろう。あいつ、あれで結構ムッツリだよね。


 とりあえず、抵抗の意思がなくなった怨念樹にはルマルマの全力の脅しをかけ、クリスマスの日まで寮の前で大人しくしているように説得した。意外と聞き分けのいい奴らしく、ズタボロになりながらもぶんぶんと枝を振って応えてくれたのが好印象。


 あとでみんなで飾りつけしてクリスマスツリーにしようと思う。まさか魔物化するとは予想外だったけど、当初の目的は果たせたし問題なし。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ステラ先生が遊びに来てくれた。ひゃっほう。


 ステラ先生、(未完成とはいえ)クリスマス仕様のクラスルームを見て『すっごぉい……!』って目をキラキラさせていた。学生時代は忙し過ぎてクリスマスをやる余裕がなかったらしく、一人寂しくシャンパンを開けるのが精々だったとか。


 『一度でいいから、クラスのみんなでクリスマスをやりたかったんだぁ……っ!』って子供みたいにはしゃぐ姿を見て、ルマルマのみんなが先生に同情した。さすがに涙を隠せない。


 さて、いつも通りカードゲームに誘おうとしたところ、『ところでみんな、サンタさんに何をお願いするのか決めた?』とステラ先生が言ってきた。


 まさかそんなはずはないと思ったけど、『先生、ちょっと悩んでて。もしよかったらなんだけど、みんながほしいものを参考に聞かせてくれる? あ、先生はサンタさんに伝手があるから一緒に伝えとくね!』とパチリとウィンクしてくる。マジプリティで惚れ直した。


 ポポルのやつ、『別にそんな気を使わなくてもいいですけど……だってサンタなんて……』って言いかけたんだけど、『サ、サンタさんは本当にいるもん! 先生見たことあるもん! 悪い子にはサンタさん来てくれないよ!?』とステラ先生は割とガチだった。そんな姿もマジプリティだった。


 『未だに白いおひげのサンタさんを信じる人がいるんだな……』ってクーラスが言ってたけど、ここで先生の気配りを無駄にする俺じゃない。『何言ってるんだ、サンタさんはいるぞ』と同調し、『僕はステラ先生があの舞踊衣装を着て踊っている姿をナマで見たいです。それとできれば先生がサンタさんの格好をしているところもみたいです。サンタさんにお願いしておいてください』と伝える。


 先生、『つ、伝えるだけだからね! 物じゃないから、叶うかどうかはわからないからね!?』って超真っ赤になってた。


 俺はステラ先生とサンタさんを信じている。きっと俺のお願いを聞いてくれるに違いない。だって俺超いい子に過ごしてきたし?


 その後、ステラ先生はこっそりみんなのお願いを聞いて(恥ずかしいものもあるかもしれないからって一人一人耳打ち形式で聞いていた)、『ちゃんとサンタさんに伝えておくからね!』ってきりっ! ってしながらカードゲームで俺たちのケツの毛をむしりまくって行った。


 そうそう、別れ際、ステラ先生が『今度は先生が助ける番だね?』ってぎゅっ! って抱きしめてくれた。あまりの不意打ちに思わず茫然。『今日、ちょっと無理してたでしょ? 先生にはわかるんだから』とやさしく頭を撫でてくれた。


 何も言ってないはずなのに、どうしてわかったんだろう? 思わず泣きそうになる。『つらいときは、いくらでも泣いていいんだよ? たまには誰かに甘えてもいいんだよ?』って言われたけど、なんとかみっともない姿を見られずには済んだ。


 ステラ先生が女神すぎる。マジで一生ついていきたい。


 なんか無駄に長くなった。そして文章にまとまりがない。やっぱなんだかんだで朝のあれが大きすぎたのだろう。ロザリィちゃんとステラ先生がいなければどうなっていたかわからない。


 ギルは『魘されてたら起こしてやるから!』と超いい笑顔で言ってぐっすりスヤスヤとうるさいイビキをかいて寝こけている。やつの鼻にはケーキの準備の時に落としてしまったイチゴを詰めた。おやすみるくれーぷ。


※燃えるごみは燃やし尽くせ。魔法廃棄物は全力で捨てない。

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