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260日目 ステラ先生と秘密のシチュエーション

260日目


 なんかいつのまにやらヴィヴィディナの鱗粉がぺたぺたしてるんだけど。徹夜明けにこれとかどうなってんの?


 俺の努力のかいもあり、みんなが無事に起床……する前に、ステラ先生だけ朝早く(ぶっちゃけまだ夜)に起きた。寝起きで状況がわかっていないのか、『──くん?』と寝ぼけ眼で俺を見つめてきてドキッとする。


 とりあえず、『おはよう……にはちょっと早すぎますね』と軽く微笑んでおいた。もちろん、すでにこの段階で暖炉の準備はしてあったからお部屋はぬくぬく。万が一にもステラ先生に寒い思いをさせるわけにはいかないしね。


 冬場に火がないのってマジで死にそうになる。ここは壁があるからいいけど、ステラ先生だけにはあんな思いをさせたくない。冬の夜の寒さってさ、物理的にもそうだけど、なんか精神的に病んでくる寒さなんだもん。


 さて、だんだんと意識を覚醒してさせてきたステラ先生は状況を理解し、なんかちょっと赤くなって照れだした。ぐっすり寝たおかげか、だいぶ落ち着きを取り戻したらしい。


 『──くんこそ、ず、ずいぶん早起きなんだね!?』と慌てて小声で聞いてきたので、『宿屋の息子は誰よりも遅く寝て、誰よりも早く起きて、そしてお客様に最高のひと時を提供するものなんですよ』と伝えておいた。実際、マデラさんはいつもこのくらいの時間に起きてたし。


 しかもステラ先生、しゃべりながらなんと俺の隣に座ってきた。悪夢椅子じゃないけど、ランプの薄明りに浮かぶステラ先生がちょう近くて超綺麗。思わず女神かと思ったくらい……っていうか女神だ。


 せっかくなので、『ホットミルクでもどうですか?』とその場でミルクを用意し、寝ているちゃっぴぃの乳をいくらか絞って加えて先生に渡す。先生、こくんと小さくうなずいてふうふうしながらそれに口を付けた。もちろんめっちゃプリティだった。


 で、その薄明りの何とも言えない雰囲気の中でポツリポツリとおしゃべりする。ステラ先生、『先生、ちゃんと先生できてるのかなぁ……』って漏らしだした。『あんな情けない姿見せちゃったし、あんまりみんなのこと気にかけてあげられないし……』としゅんとした表情。


 あげく、『──くんのほうが面倒見もいいし、よっぽど先生らしいよね……』と言い出す始末。俺、ステラ先生以上に先生にふさわしい人を見たことが無いというのに。


 ちょいちょい話を聞いたところ、やっぱりお義父様から『早くこっちに帰ってこい』ってしつこく言われているそうな。こっちは出会いが少ないし、このままだと娘が行き遅れになると心配しているんだろう。


 地位はともかく、ステラ先生はまだ若手だから、お義父様は若いうちに地元に戻らせ、娘に幸せな家庭を築いてもらいたいらしい。


 『なんかずっとそれ聞いていたら、先生は未だに学生の延長なのかなって思っちゃって……』とはステラ先生の談。曰く、学生の一番ヤバい時期に比べれば今はずいぶん楽だし、なにより毎日が楽しいから、お義父様の言う通り遊びほうけているって思っちゃうそうな。


 とはいえ、俺としてはそれに是と答えるわけにはいかない。『ステラ先生は最高の先生ですよ。いっつもすごく僕たちを気にかけてくれるし、頑張っていると思います。僕たちは先生のおかげでここまで来ることが出来ました。僕たちルマルマの今この瞬間が、それを物語っているとは思えませんか?』とやさしく諭す。


 ステラ先生、なんか感極まってまた泣きそうになっていた。たぶん、この【誰かに認めてもらえる】ってのが一番欲しかった言葉なのだろう。俺もその経験があるからよくわかる。それにこういうの初めてじゃないし。


 しかし、ステラ先生はここでショッキングな一言を俺にはなった。


 『やっぱり──くんはズルいよ。そんなこと言われたらまた頑張りたくなっちゃうじゃない』


 ここまではいい。そう、ここまではいいのだ。はにかむステラ先生がエクレセントキュートだったし。


 『──くん、先生、こないだ──くんが頼りになるって言ったけど、ちょっと訂正するね。──くんはパパみたい。おばあちゃんみたい。先生みたい。すっごく頼りになるし……あとね、こうして夜にこっそりホットミルクを入れてくれるところもすっごく大好き。先生ね、昔から夜に薄明りの前でこっそり飲ませてもらうホットミルクが好きだったの。……知らなかった、よね? でも、──くんはいっつもみんなのために、みんなのことを思ってくれているんだもん。みんながほしいものをくれるんだもん』


 ……一言一句覚えている。ステラ先生のあの最高の表情も忘れるはずがない。子供の時に戻ったかのようなあどけない笑顔を忘れるはずがない。


 でも、パパ&おばあちゃん認定されちゃった。せめてそこは恋人認定してほしかった。なんかうれしいけどちょう悲しい。


 さて、なんだかんだですっきりしたのか、ステラ先生は『……これも日記に書いちゃうのかな?』といたずらっぽく笑ってホットミルクを飲みほした。『ありがと! もう元気いっぱいなんだから!』と小さくガッツポーズも決めてくれる。『パパとはもっときちんと話し合って、納得してもらうから! 先生はずっとルマルマの、みんなの先生だから! 今度は先生がみんなのお母さん……は無理かもだけど最高の家族になってみせるから!』と新たな意気込みも語ってくれる。


 なんかよくわからんけど感動のシーン。あの謎の感動の正体は何だったのかいまだによくわからない。まあ、元気になったのだからそれでいいや。


 そして、神は俺を祝福してくれた。なんと……『これは、お、お礼ね!』ってステラ先生がほっぺにちゅっ♪ ってしてくれたのぉぉぉぉぉ! 思わぬ不意打ち&女神の匂いに心臓爆発寸前! この秘密のシチュエーションも最高! 照れ顔ステラ先生がマジプリティだった!


 すんげえ喜びに包まれていたんだけど、ふと気づいたらそろそろ夜明けって時間になってた。もっと先生とお話ししたかったけど、みんなが起きだすと忙しくなるので『僕でよければいくらでも相談に乗りますし、どんなことでも協力しますから』と紳士的にほほ笑む。で、『今日の朝食は僕が準備しますからここで待っててください』って慌ててクラスルームを後にした。


 んで、ちょっぱやで風呂で鱗粉を流し(もちろんほっぺは洗わなかった)、おばちゃんに『早起きすぎやしないかい?』と聞かれながらも食材をもらい、クラスルームのキッチンでパパッとみんなの朝食を仕立て上げる。


 『先生も手伝っちゃうよ!』と自前のエプロンで一緒にキッチンに立ってくれたステラ先生が最高にかわいかったです。新妻感がバリバリで一瞬幸せな家庭を幻視しちゃったよ。


 スクランブルエッグのいい匂いがするころにはみんなも起きだしてくる。パレッタちゃんは寝相が悪く、同じく寝相の悪いポポルの顔に足を乗っけていた。あと、アルテアちゃんは髪が長いから寝癖がボンバー。ミーシャちゃんは若干のヨダレ。ロザリィちゃんはマジプリティ。


 そしてギルは普通のクソうるせえイビキだけだった。俺の結界がズタボロになってたけどなんとかみんなを守り切ることに成功する。『おい、起きろよギル!』ってポポルとヒナたちにボディプレスされて起こされていた。『親友以外に起こされるのってなんか新鮮だな!』と割と上機嫌。


 ちなみに、男子たちは寝起きの女子たちを見てどきどきしてた。動きがぎこちない。女子たち、最初は寝ぼけてたから割と無防備だったしね。


 ここから先は書くことが少ない。俺特製の朝食にみんなが舌鼓を打つ中ギルはいつも通りジャガイモを『うめえうめえ!』と食べ(なんとステラ先生も『おいしいおいしい!』って一緒に食べてくれた!)、なんか妙に元気&人懐っこくなっているステラ先生にみんなが喜ぶ。


 で、妙にスキンシップの激しいステラ先生(ずっと誰かをぎゅっ! ってしてにこにこしてた)と部屋の中でゴロゴロして過ごし、午後は特製ジャムクッキーで盛り上がる。ステラ先生、早起きしたからかおやつの後に寝ちゃったけど。


 夕方ごろに目覚めたステラ先生は『……見ちゃった?』とみんなに寝顔を見たか確認し、そして雑談中のカードゲームで俺たちのケツの毛を一本残らず毟り取って行った。すんげえ楽しそうだった。


 最後かなり飛ばし気味だけど、だいたいこんなもん。朝早くのあれが一番のハイライト。なのに真面目に一日のすべてを書く俺って超えらい。


 結局、ステラ先生はお義父様にいろいろ言われて先生としての自信をなくし、これからについて不安に思ってたってことなんだろう。よく考えてみれば俺たちと十も離れていないわけだし、その若さで今の地位に上りつめたのだから、その過程で若人には重すぎるいろんな苦労もあったはずだ。


 俺はこれからも一生徒として、そして先生を慕う一個人としてステラ先生を支え続けようと思う。それが俺がステラ先生に出来る精いっぱいだ。


 なんかガラにもなくクサいことを書いてしまった。そして、昨日の朝から一睡もしていないため非常に眠い。最後に布団に入ったのが一昨日の夜とか、さすがの俺もこれには参る。


 ギルの鼻には適当に何か詰めておいた。確認するのも面倒。おやすみ。


 あ、書き忘れたけど夕方近くにペル・メリメロとエルメダノッサから材料の納品があった。明日はクリスマスの準備をしようと思う。今度こそ本当におやすみ。

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