253日目 冬の日常と気弱ステラ先生
253日目
なにもない……と思ったらトイレがネトネトしていた。何とか流れたけど、この学校の設備のボロさに悲しみを隠せない。
ギルを起こして食堂へ。休日だからか、やっぱり人は少ない。ついでに雪も降っている。たぶん、寒さのせいでベッドから出られないやつが続出しているんだろう。ポポルとフィルラドもいなかったし。
せっかくなので、朝から贅沢にホワイトシチューを食す。おばちゃんが『鍋ごともってっていいよ!』というのでありがたくそれに従い、みんなで分け合って食べた。なんかお泊まりキャンプの時みたいでちょっと楽しい。『たまにはこういうのもいいよねっ!』って微笑むロザリィちゃんがホント可愛かった。
ちなみに、シチューだけじゃ足りなかったのか、ギルはいつものジャガイモの大皿を『うめえうめえ!』と平らげていた。ヴィヴィディナ(蝶形態)とヒナたちもジャガイモのホワイトシチュー和えをうまそうに食べていた。最近ギル・コーン印の特製調整餌を食べているところを見ないけど、もう十分大人になったのだろうか? なんか、見た目があんまり変わらないんだよね。
さて、雪が降っているので今日は部屋の中でゆっくりすることに。最近ハゲプリンやクッキーの備蓄が心もとなくなっていたため、のんびりのお菓子作りをすることにした。何か知らんけど、昔から雪が降る日にお菓子作りをするのが好きなんだよね。たぶん、マデラさんがそういう人だったからだと思うけど。
で、材料とかの支度をしていたら、驚くべきことにちゃっぴぃが『きゅ! きゅ!』とか言ってこないだのエプロンを片手にやってきた。どうやら俺に着せてほしいらしい。せっかくなのでエプロンを付けがてら、ロザリィちゃんが作ったコサージュも付けてやる。邪魔になるものでもないので俺も付けた。俺ってばマジプリティ。
さらに恐ろしいことに、なんとちゃっぴぃ、俺のお菓子作りを手伝い始めた。棚から切れた材料を取ったり、お皿を用意したり、ひたすらこねる作業とか簡単なものばかりだけど、いつになく上機嫌で『きゅん♪ きゅん♪』って鼻歌すら歌って自発的に動いてくれる。
明日はギル・クリーチャーが出現するのか……と身構えていたら、ここでパレッタちゃん、ミーシャちゃん、ポポルと言うつまみ食い三人衆が現れた。が、『ルァァァッ!』というちゃっぴぃのガチ威嚇で未然に防ぐことに成功。『まさかちゃっぴぃが敵に回るとは……』、『あたしたちと同類だと思ってたの』、『こないだ教え込んだの失敗だったか』と奴らは断念する。
が、ここではいそうですかと見逃す俺じゃない。ポポルを捕まえ、『失敗ってどういうことだ?』とくすぐりの刑をスタンバイして問い詰める。『いや、いい子にしないとクリスマスにサンタさんが来ないぞって言ったんだよね』とあいつは宣った。
つまりなんだ、ちゃっぴぃはつまみ食いではなく俺のお手伝いをすることでサンタさんを召還しようとしているらしい。まったく、ポポルも困ったことを教えやがったものだ。
なんだかんだで午後にはそれなりの量が出来上がり、クラスルーム中にいい匂いが満ちていた。女子たちにマフラーの編み方を教えていたクーラスや『俺なんて本棚作れるし』とクラスルーム用の本棚を負けじと作っていたジオルドがのそのそとやってくる。『喰い過ぎるなよ』と前置きだけ残して猛獣の群れに餌を放り込んだ。
外雪降ってるから、中で作業しているのが多かったんだよね。今週は製図もレポートも一応ないし、マジでみんなゆったりしていた。まあ、俺もこんなゆったりが好きだからお菓子作りをしたんだけど。
ちなみに、ちゃっぴぃはこの時も『きゅ!』ってエプロンをはためかせてみんなにクッキーを配っていた。『あら、いい子ね!』って女子たちに褒められまくって実に気分がよさそう。
さて、予想以上に材料を消費したため、午後の早い時間からちゃっぴぃの乳搾りに取り掛かることに。ホントはロザリィちゃんと一緒にやりたかったんだけど、いないものはしょうがない。それに、ちゃっぴぃが協力的だったから普通に手揉みで搾乳することができた。もう『悪い子はギルに搾乳してもらうぞ』って脅さなくて済むようになったのはなかなかデカいと思う。
んで、健全に搾乳してたのはいいんだけど、唐突に『……な、なにやってるの?』と声をかけられる。この天使な声は間違いなくピアナ先生。どうやら遊びに来たらしく、ステラ先生、ロザリィちゃんとともにクラスルームの入り口に立っていた。
『見ての通り、搾乳ですよ?』と紳士的に受け答え、本来のより健全な搾乳法を見せようとロザリィちゃんに『ちょっと手伝ってくれる?』と声をかける。『……えっ、先生の前でやる……の?』と聞かれたので、『何も問題ないだろう?』とほほ笑んでおいた。
なお、真っ赤になりながらも(手を)揉まれるロザリィちゃんが超かわいかったです。あとクッキーよりも百億万倍甘いいい匂いがして気絶しそうになった。
書くまでもないけど、ステラ先生は『あうあう……!』って真っ赤になってプルプルしていたよ。ピアナ先生は『一応健全……いや、乙女の尊厳的にダメ、かも?』って難しい顔をしていたけど。
一息ついたところで先生たちにもジャムクッキーを振る舞う。『やっぱおいしい……!』、『さいこぉ……!』ってほおばる姿がプリティすぎて大変だった。ロザリィちゃんは『二人してずるいぞっ!』ってコサージュを装備。こないだのデートで買った飾りも付けてくれる。なんでこうも俺を喜ばしてくれるのだろうか。
そうそう、なんかステラ先生が妙に憂鬱そうな顔をして『もう一生このクラスに引きこもっていたいぃ……!』ってロザリィちゃんとかミーシャちゃんとかに抱き付きまくっていた。『なんかあったんですか?』と聞いたらピアナ先生が『年末はいつもこうだから気にしないで!』と答えてくれる。
これ、逆に気になるパターンだよね。あと、『元気出してください』ってハゲプリンをだしたら『──くんって、ホントいつも優しいよね……先生なんかダメ人間になりそう……』って弱弱しく微笑みながら頭をポンポンしてくれた。
なんか本格的にステラ先生の精神状態がアブナイかもしれない。嬉しいけどすっごく心配。見かねたちゃっぴぃがステラ先生を後ろからぎゅって抱き締めていたレベル。アルテアちゃんも先生の肩を無言で抱いてあげてた。すっげえ気高かった。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。ピアナ先生は夕飯前に返ってったけど、ステラ先生は最後までクラスルームでグダグダしていた。なんか今はとにかく人の温かさに触れたいらしい。ちょっと気遣っただけでクーラスやジオルドにも頭ポンポンしてたし。
ギルに至ってはそのデカい背中を背もたれとして使ってもらっていた。まあ、これに関しては『あそこが一番気持ちいいの!』ってステラ先生に背中からぎゅってされたミーシャちゃんがリクエストしたからなんだけど。なんか姉妹みたいでステラ先生が別の魅力を放っていたよ。
長くなったけどこんなもん。ギルはいつも通り大きなイビキをかいている。あ、最後になるけどロザリィちゃんが『私も恋しくなっちゃった♪』って寝る前にぎゅってしてくれて超幸せ。やわらかいのってすっごくあったかいし、ロザリィちゃんの髪ってめっちゃいいにおいがするんだよね。
とりあえず、ギルの鼻にはクラスルームに落ちてた爪を詰めてみた。誰のかわからんけど、たぶん人間の。爪切りした後の処理くらいちゃんとしてほしいものだ。




