252日目 魔法造成実習:対人戦闘訓練【VS.フィルラド】
252日目
猫の鳴き声で目覚める。窓の外にたくさんの猫がうろついていた。いったい何をしていたのだろうか。
ギルを起こして食堂へ。なんか今日はやたらとちゃっぴぃが甘えんぼで、『きゅー……っ』って寝ぼけ眼をこすりながら俺に抱き付いてきた。『たぶん、昨日あんまり寝られなかったんじゃないかな?』とはロザリィちゃんの談。普段からこれだけ大人しければホント言うことないのに。
朝食はあったかいグラタンをチョイス。珍しくちゃっぴぃは俺がふうふうして口に入れてやるまで大人しく膝の上に座っていた。もしかしてこいつ、眠いと頭が働かないタイプなのだろうか。ちょっとこれはいい収穫かもしれない。
ギル? もちろん『うめえうめえ!』ってジャガイモを食べていたよ。たぶん、こいつはどんなに深く眠っていても、ジャガイモを口先にもっていけばすぐに覚醒すると思う。
今日の授業は女神ステラ先生の魔法造成実習と言う名の対人訓練。『外の訓練って寒くてやだよねー』って杖をコンコンしながら出席を取るステラ先生がマジキュート。かじかむ手を『はぁーっ』って温める姿も最高。
さて、今日の対戦相手はフィルラド。やっぱり俺を警戒しているのか、『ズボン降ろしは反則な』と事前に通告してきた。さすがにクラスメイトにそこまでするつもりはないのに、あいつは俺を何だと思っているのだろうか?
で、早速試合開始。『全力で行くぞッ!』と珍しくイケメンっぽくあいつはアイスゴブリン、フェデルタカーネ、プリズム・ビー、炎魔、ファイアジャイアント、さらにはよくわからん大蜘蛛をめっちゃいっぱい召還してきやがった。
さすがにこれには驚きを隠せない。中級冒険者のパーティで苦戦するレベル。いや、一匹一匹はそうたいしたことないんだけど、数が凄まじい。ほかで戦っているやつもビビってこっちを見てきたくらい。
もちろん、俺もそれに付き合う義理はない。ミニリカの魔法舞踊のステップを中心に機動力重視で立ち回り、立ちふさがるやつだけ吹っ飛ばしていく。ミニリカみたいに無双状態が出来ればよかったんだけど、アレは真性のクレイジーだけしかできない高等技術だからね。
さて、なんとかかんとかあとちょっとでフィルラドってところまで距離を詰めることに成功する。『まだまだまだぁ!』ってあいつはいろんな魔物を召還しまくる魔物製造機と化していたけど、魔法陣を打ち破ってやればそれも止まる。残るは杖一本で俺と対峙するフィルラドと、俺たちを囲んでおろおろする魔物の群れだけになった。
『召還魔法じゃ乗り切れないだろ? 素直に降伏しろ』と俺は優しく降伏を促したんだけど、『無傷で降伏なんてカッコ悪いところ、女の子に見せられないだろ?』とあいつはいつになくイケメンオーラをまとってウィンクしてきた。
あいつミルク吹きの印象があるけど、もともと正統派イケメンだったからか、何人かの女子がちょっと赤くなっていた。
ちなみに、肝心のアルテアちゃんは『グダグダ言ってないでさっさとぶちのめせ。油断が命取りだ』ってフィルラドに喝を飛ばしていた。ちょっとフィルラドかわいそう。
さて、あんまり長引かせるのもあれだからお望み通り手に雷魔法を纏わせてアイアンクロー&吸収魔法を叩き込もうとしたんだけど、ここで文字通りフィルラドの目の色が変わり、そして纏うオーラが一変する。
まずいと思って回避行動をとったその瞬間、俺の頭があったところにヤバそげオーラを纏ったフィルラドのケツビンタが通り過ぎていた。
『さすがにカンがいいな』とあいつはにやりと笑う。背中に夢魔が引っ付いていた。どうやら、大量の魔物に紛れて夢魔も召還し、俺が近づく隙を見計らって憑依させてトランスブーストしたらしい。
実際、髪の毛数本持っていかれたし、ここ最近不意打ちでやられていたことを注意していなければ、マジで手痛い一撃を喰らっていたかもしれない。つーか、フィルラドが接近戦をしてくるとか想定外にもほどがある。
とはいえ、ここで俺を一撃で仕留められなかったのは失敗だった。『来い、ちゃっぴぃ!』と俺が声をかけると『きゅーっ!』ってちゃっぴぃがパタパタと飛んできて俺の肩車にすぽっと収まる。
そう、いつになく甘えんぼな今なら出来る超必殺技。ちゃっぴぃはすぐさま俺の意図を理解し、憑依してきた。もちろんトランスブースト。
溢れ出る魔力。漲る力。心の奥に感じる『ふーッ!』っというちゃっぴぃの猛る意志。もう何も怖くない。何にでも勝てそう。親子の共同作業に喜びを隠せない。
で、夢魔をトランスブーストさせたまま俺たちは接近戦としゃれこむ。イケメンだけあってフィルラドの体術もそれなり。普通の魔法も交えてきてなかなかにやりにくい。『途中でちゃっぴぃ呼ぶのは反則だぞ!』とか言ってきたけど、召還魔法を使うやつが何を言っているのか。
当然のことながら、あいつがヘバッてきたところで首に手を添えて終了。元々俺はヴァルヴァレッドのおっさんに鍛えられているから、同条件なら付け焼刃のフィルラドに負けるはずがない。
しかし、ここで気持ちよく勝利宣言をしようとしたところで、『……おまえ、ホント油断しまくりだよな』とフィルラドがローブを開く。マルヤキ、ロースト、ポワレ、グリル、ソテー、ピカタが飛び出し容赦なく俺の顔面を突いてきた。
んで、『タダで負けるはずがねえだろ!』とあいつは杖を突きつけられているのにもかかわらず、その隙をついて俺に抱き付いてきた。野郎に抱き付かれる趣味なんてないんだけど。
しかもこともあろうに俺の服の中に手を忍ばせてくる始末。冗談抜きに貞操の危機を感じる。もう遠慮はしないと俺が氷魔法を放つのと、あいつが召還魔法でネトネトスライムを呼び出したのは同時。
もうね、マジで言葉で形容できないほど全身ネトネト塗れ。結果的には俺の勝ちだけど、『いい格好じゃないか!』ってゲラゲラ笑うフィルラドに怒りを隠せなかった。
ちなみに、ちゃっぴぃも余波を喰らって全身ネトネト。『きゅぅぅぅぅ!』って必死に俺のローブで全身のネトネトを落とそうとしてたけど、そもそも俺のローブがネトネトだったから意味はなかった。
あと、ステラ先生が『ねとねと……』って俺の姿を見て震えていた。なんか昔嫌なことがあったらしい。ちょっと聞いてみたい気がするんだけど、果たして教えてくれるだろうか?
あ、総評は『フィルラドくんは最後まで諦めないところが良かったけど、最初の召還魔法を使った後、もっと効率的に動けないか考えてみようね。──くんは、やっぱり最後の油断が課題かな』って言ってた。出来れば油断している俺をステラ先生にそのままかっさらってほしい。
夕飯喰って風呂で念入りに体を洗って雑談して今に至る。雑談中、ロザリィちゃんとミーシャちゃんとアルテアちゃんとパレッタちゃんが『ネトネトプールはありかなしか』で真剣に議論していた。ロザリィちゃんとパレッタちゃんは『程よいネトネトならあり』で、アルテアちゃんとミーシャちゃんは『絶対なし』とのこと。
ネトネトロザリィちゃんとかちょっと興奮するんだけど。ロザリィちゃんの意外な趣味に驚きを隠せない。そんなところもマジプリティ。
そうそう、クラスルームからだいぶ人がいなくなったあとなんだけど、アルテアちゃんがフィルラドにこっそり膝枕してあげているのを見てしまった。
『あいつに何らかの形で攻撃できたのはギル以外じゃ初めてだしな。そのご褒美だ』って真っ赤になったアルテアちゃんがフィルラドの頭を撫でてたけど、気高きアルテアちゃんがあんなことをするなんて思わなかった。
フィルラドのほうは完全にカチコチだったけど、まあ、デレたアルテアちゃんを前にしたのだからしょうがないのかもしれない。案外念願のケツ枕まで近い……のか?
ギルは今日も大きなイビキをかいている。こいつは雑談中ミーシャちゃんに引っ付かれてたけどあんまりロマンスな感じがしない。ポポルもちょくちょくよじ登っているからだろうか?
とりあえず、さりげなく回収しておいたネトネトスライムのネトネトを鼻に詰めておいた。詰めておいてなんだけど、鼻水みたいでちょうばっちぃ。グッナイ。




