249日目 発展魔法生物学:鏡魔の生態について
249日目
天井が傷だらけ。見なかったことにしていいかな?
天井の軽い補修をしてから食堂へ。ギルの野郎、あいつが原因なのに『なんか今日起きたら天井がボロボロで参っちゃったぜ!』って超笑顔で周りに話していた。そりゃ、あいつが肩車してくれたおかげで直すの楽だったど、なんか違くない?
朝食はホットサンドをチョイス。はさまれた卵とハム、そしてチーズが最高にデリシャス。サクッとした食感もいい感じで、焦げ目がまた何とも食欲をそそる。ついつい三つも食べてしまった。
やっぱりというか、『きゅーっ♪』って俺の膝に乗ってきたちゃっぴぃが最高においしいところを食べてしまった。あの野郎、なんで毎回おいしいところだけをかっさらっていくのか。ロザリィちゃんが『はんぶんこしようね♪』って食べかけホットサンドをくれなければブチ切れていたかもしれない。
ちなみに、『うぉぁぁぁ!?』ってフィルラドもヒナたちにホットサンドを突かれまくっていた。アルテアちゃん、『油断するからだ』って超おいしそうにホットサンドを食べ、『思ったより多かった……もったいないから食べろ』ってホットサンドをフィルラドの口に突っ込んでいた。
フィルラドは超真っ赤。アルテアちゃんはツンデレなのだろうか? いや、今日のはマジで多かっただけだな。あ、一応書いとくけど、ポポルはヴィヴィディナに眠気を捧げることでホットサンドを確保していたよ。
書くまでもないけど、ギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。『あたしもそろそろなにか使い魔ほしいの』ってミーシャちゃんがギルに言ってたけどまるで聞いちゃいなかった。
今日の授業はピアナ先生&グレイベル先生の発展魔法生物学。今日もピアナ先生の天使な笑顔に癒される……と思ったんだけど、なんかピアナ先生の様子がおかしい。俺たちを見つけるなり目をカッて見開いて、明らかに敵意をむき出しにしていた。
で、隣にグレイベル先生がいるにもかかわらず、なんかいきなり俺たちに襲い掛かってきた。それも、植物魔法で刺毒花を体にまとった状態で。
さすがにみんな焦る。『どうしたんですか!?』と結界を張りつつ声をかけるも、ガン無視。明らかな異常事態なのに、『…機嫌が悪いんじゃないか?』とグレイベル先生も不干渉の立場をとった。
敵意丸出し、そう、まるで堕ちた天使のような……堕天使ピアナ先生はその後も魔界の茨や太古の絡蔦なんかを使って俺たちを攻撃してきた。逃げ惑うやつに抗うやつといろいろいたけど、誰もピアナ先生に攻撃をあてられない。先生、防御は世界樹の抱擁で完璧だし、おまけに颶風花の綿毛を使ってるもんだからめっちゃ素早い。
ちなみに、この段階でアルテアちゃんは蔦に絡め取られ、フィルラドはヤバい花の香りをモロに吸ってラリり、ジオルドは食獣植物に脇腹をガジガジされていた。ポポルやミーシャちゃんなんかは小さくてすばしっこいから大丈夫だったけど、ほかの連中はみんなこんな感じね。なぜか女子が蔦にからめとられまくてって、男子に『今こっち向いたら全力で呪ってやる!』って女の子がしちゃいけない顔で叫んでた。
当然、俺も反撃できない。天使過ぎるピアナ先生に攻撃なんてできるはずがない。一人、また一人とクラスメイトが倒れていっても、とうとう俺は杖を向けることができなかった。
ので、ピアナ先生の魔法を全部体で受け止めて『なにがあったんですか?』と超紳士的に微笑みながら一歩一歩進んでいく。蔦の一撃も種の砲弾も全部喰らったけど、愛の前にはそんなの無力。近づくにつれて『ひっ……!』って怯えられたけど、いったいどうしてだろうね?
さて、本当ならぎゅっと抱きしめて先生を落ち着かせてあげたかったんだけど、さすがにその場で黙って待っていてくれるほど先生も甘くない。が、『うん、お前ならそうすると思ったぜ』と俺の行動を読んでいたクーラスが、先生が俺にビビった隙を見て先生を拘束罠魔法にかけていた。
さらには、『軽い軽い!』とギルがピアナ先生の首根っこを引っ付かんでぶらぶらさせている。まあ、拘束された上で神速の筋肉のギルに抗えって方が難しいだろう。おまけにあいつ、植物魔法全部弾いていたし。
とりあえず、先生に近づき『落ち着きましたか?』と、声をかけようとした……ところで衝撃展開が。
なんとピアナ先生、ギルに首根っこをつかまれながらも器用に体を動かし、俺の顔面をけりぬいたのだ。
さすがに悲しみを隠せない。体以上に心に傷を負った。あの時の俺、ショックで地面に膝を付けていたと思う。
しかもピアナ先生、俺がやられたことに動揺したギルの隙を突き、自らの衣服を破ってその拘束から逃れようとした。
目の前に広がるピアナ先生のきれいな肌。プリティでエンジェルな可愛らしいおへそ。スレンダーで美しいライン。思わずぎゅって抱き締めてしまいそうになるか弱さ。そして、万物に夢を分け与えてきた双丘がちらりと見えそうに──!
なったところで、『みぃぃぃるぅぅぅなぁぁぁぁ!』って神霊樹の旋風葉が叩き込まれた。すんげえ魔力を帯びたヤバそげな葉っぱの嵐が俺たちの目の前全てを覆い尽くす。たぶん、ちょっとでも動いていたら全身ずたずたでお陀仏になっていただろう。
葉っぱの嵐が過ぎた後、そこには真っ赤な顔して肩で息をするピアナ先生と、全身銀色……だけど血まみれで事切れたサルっぽい魔物が転がっていた。
『…手を出すなと言っただろう?』、『乙女の尊厳のほうが大事に決まっているでしょ!』といつも通りの先生たち。あと、赤くなりながらぷるぷる震え、そしてぷんすかしながら執拗にげしげし死体を蹴るピアナ先生がめっちゃかわいかった。
どうやらあれ、今日のテーマの魔物の鏡魔だったらしい。せっかくだからその特性を一番わかりやすい形で教えたかったそうな。以下に、先生の言ったことをそのままメモしたものを記す。
・鏡魔は化ける。その姿かたちのみならず化けたものの能力までコピーするが、人格までは模倣できない。上級の鏡魔は人語を話す場合もある。とりあえずぶっつぶせ。
・女の敵。ぶちのめせ。
・最低のクズ。ぶん殴れ。
・デリカシーのないホント最悪なやつ! ボコボコにしていいから!
・他人の肌を見せようとするとかありえない! 極刑にすべき!
・これでも嫁入り前なんだよ!? あのサル責任とれるの!? もっと大きい魔法にすればよかった! とりあえず見かけたらメタメタのぼこぼこのぐっちゃぐちゃにしといて!
・鏡魔は敵! 敵! 敵ったら敵! 慈悲なんてなし! なしったらなし! ぜぇったいなし!
ピアナ先生、マジで激おこだった。まあ、危うく自分の胸がさらけ出されるところだったんだから怒るのもわかる。そんなピアナ先生もマジプリティで超かわいかったけど。
さて、真面目な話、鏡魔は魔物や人に化け、その能力を駆使して襲ってくるらしい。自分に化けられると全く同じ強さの自分と戦う羽目になるし、さっきのピアナ先生みたいに実力者に化けられたりしたら、それはもう被害が甚大になってしまうそうな。
ただ、こいつの真の恐ろしさは強者に化けることではなく、【オリジナルと見分けがつかない】ことなんだそうだ。人格こそコピーできないものの、姿形で見分けることはほぼ不可能なため、不意打ちで手痛い傷を受ける可能性が非常に高いそうな。
特に上級鏡魔ともなると、殺した人間に化け、周囲の反応や環境から見事にその人物を演じ切り、油断しきったところで周りの人間を殺し、都合が悪くなるとまた別の人間に化けて……ってのを繰り返すから始末に負えないのだとか。
『…ピアナ先生がいきなり襲ってきて、対処できなかったものがほとんどだろう?』とグレイベル先生がしみじみとつぶやいていた。『次からは絶対、ぜぇったい私じゃなくてグレイベル先生にしてもらいますからね!』ってピアナ先生はグレイベル先生の足をゲシゲシ蹴っていた。
なんでも、昔グレイベル先生を化けさせて同じように授業をしたらしいんだけど、グレイベル先生に化けた鏡魔があまりにもガチに生徒を襲ったものだから、トラウマ持ちが結構できてしまったらしい。『…喋りかけると今でもビクッと震えるんだよな』ってグレイベル先生が悲しそうにつぶやいていた。
ちなみに、そうでなくともグレイベル先生に化けさせるとその後の処理が面倒らしいから、確実に処理できるピアナ先生がこれまで化けられる担当をしていたそうな。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、悪夢椅子に座ってきたロザリィちゃんが『……見たの?』と聞いてきたので、『そんなわけないじゃないか』と紳士的にほほ笑んでおいた。
が、それでなお『……ホントに?』ってぎゅって抱き付いて頭をグシグシしてきたため、『これが答えだよ』ってちゅっ! って熱いベーゼを贈る。『んふふ♪』って顔を蕩けさせるロザリィちゃんが可愛すぎて全俺が幸せに包まれた。
ギルは今日も大きなイビキをかいている。この日記書いていて思ったけど、鏡魔とはいえピアナ先生におもっくそ顔面を蹴られたことに今更ながらすごく泣きたくなってきた。明日はもっとロザリィちゃんとイチャイチャして慰めてもらおうと思う。
とりあえず、メタメタにするついでにちょろまかしてきた鏡魔の毛をギルの鼻に詰めておいた。おやすみんく。
20151209 誤字修正




