245日目 魔法造成実習:対人戦闘訓練【VS.ロザリィちゃん!】
245日目
ギルの鼻毛が王様ヒゲ。この言葉に嘘偽りがないから恐ろしいものである。
ギルを起こして食堂へ。もはやあいつの鼻毛が王様ヒゲでも誰も気にしない。『余は空腹であるぞ』ってギルが鼻毛を扱きながらスクワットを始めても、ミーシャちゃんが『ばっちぃからご飯の前に手を洗うの』って注意を促しただけ。
もちろん、『うめえであるぞ! うめえであるぞ!』ってギルはジャガイモを貪っていた。ジャガイモ程度で満足する王様とか、実にチープである。ウチのワガママお姫様は『きゅーっ!』とか言ってグリフィンさんにしたリンゴを所望してきたのに。
今日の授業は女神ステラ先生の魔法造成実習……と言う名の対人戦闘訓練。さりげなく対人訓練は四か月とちょいぶり。こないだ決闘があったからそんな気はしないけど。もちろん、『今日から対人訓練だから気合入れていくよっ!』って杖をコンコンしながら出欠を取るステラ先生がめっちゃプリティだった。
で、肝心の対戦相手は……ロザリィちゃん! 『今日はよろしくね!』って微笑むところがマジキュートだった!
早速二人で向かい合って杖を向ける。きりっ! とした表情のロザリィちゃんはまた別の魅力があって最高。思わず見とれてしまったのはしょうがない。むしろ見とれないやつは俺が粛清する。
でもさ、ロザリィちゃんの可愛さも時にすごく残酷だよね。俺、始まりの合図の瞬間に魔法を放とうとしたんだけど、ロザリィちゃんがプリティすぎて攻撃できなかったの。火炎魔法はロザリィちゃんの肌を痛めちゃうし、風魔法はロザリィちゃんのセットを乱しちゃうし、雷魔法なんて危ない魔法をロザリィちゃんに使えないし、土魔法とかロザリィちゃん汚れちゃうし。
いったいどんな魔法を使えばよかったのか? 周りから『真面目にやれよコラァ!』、『ふざけんのも大概にしろにしろよオラァ!』って言われたけど、あいつらちょっとおかしくない?
もちろん、ロザリィちゃんは『いっくよー!』って容赦なく俺を攻めたてる。火とか水とか風とか、割とまんべんなくそつなくこなす感じ。その道の専門の人に比べたら熟練度は劣るけど、平均よりかはだいぶ上って感じの、まさに俺とそっくりなスタイル。こんなとこにも愛と運命を感じちゃう。
が、心苦しいけど、魔法は全部吸収魔法で吸収した。愛の杖でロザリィちゃんの魔法を無効化させるとか、これは一種の愛の試練だろうか? 『ぷーっ!』って口を膨らませるロザリィちゃんが超プリティだった。
あ、でもロザリィちゃんの愛を吸収したって考えると結構イイかも。愛のたっぷりつまった魔力、よく考えればめっちゃおいしかった。隅々までロザリィちゃんの愛が染み渡った気がする。
で、俺は攻撃できないし、ロザリィちゃんの攻撃は通用しないしで膠着状態に陥ったんだけど、ここでロザリィちゃんが『本気出しちゃうよっ!』と杖を構えなおす。ロザリィちゃんの本気にワクワクを隠せないでいたら、次の瞬間、衝撃の事態が。
なんと、いつのまにやらロザリィちゃんが俺の腕の中にいた。顔が赤く、とろんとしたイイ表情。『つーかまえた♪』って俺の首に杖をツンツンし、グシグシと頭を押し付けてきた。
何このかわいい生き物。あ、ロザリィちゃんか。思わず抱きしめてしまったのは許されることだよね?
当然、勝負は俺の負け。首に杖を突きつけられたから完全敗北。ロザリィちゃん、【愛する人の腕の中に行く】愛魔法を使ったらしい。そりゃ一瞬で詰められるわけだ。
ちょっと悔しかったので、『おしおきしなきゃね』と思いっきり抱き締め、そのまま吸収魔法を込めてちゅっ! ってやる。ロザリィちゃん、真っ赤になって『負けないんだから!』と愛魔法を込めてちゅっ! ってやり返してきた。
幸せすぎて鼻血でそう。周りからの『イチャイチャしてんじゃねえええ!』、『さすがに許されるわよね!?』という声とともに放たれた呪や魔法の類は全部【二人の邪魔をしない】愛魔法の結界に弾かれていた。
なお、ステラ先生は『う、あ……!?』ってすんげえ真っ赤になって目をぐるぐるさせていた。ウブな先生にはちょっと刺激が強すぎたのかもしれない。そんなところもマジ女神。
授業の最後に総評が。さりげなく俺は対人戦で初の負け。愛の力じゃしょうがない。ロザリィちゃんはステラ先生に『──くんにしか使えない戦法だから、もっと決定力を持つようにしようね』って言われてた。俺は『──くんはもう、そのまま突き進めばいいんじゃないかな』って微笑まれた。そういわれると照れる。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。ギルは今日、ミーシャちゃんと戦ったらしく、戦闘中にクレイジーリボンを引き裂いてしまったことを『またやっちまったぁ……!』ってすごく後悔していた。直後に再生してたから何の問題もなかったけど。
ちなみに、ミーシャちゃんは変化魔法(部分変化から完全変化もできるようになったらしい)でナイスバディに変身し、ギルに急接近して抱き付いたらしい。で、ギルがギルにしては珍しく真っ赤になってカチコチになったところで『どうするの?』と妖艶にほほ笑み杖を突きつけたそうな。
が、杖を突きつけたところでギルにとっては特に意味はない。軽めの魔法をミーシャちゃんが放つも、奴の筋肉は全てを弾く。で、筋肉の導きに従ったギルが『うおおお!』って叫びながら抱き付き、ミーシャちゃんが『みぎゃーっ!?』って叫んだところで決着がついたんだって。
もちろん、決まり手はベアハッグ。ギルの理性が完全に吹っ飛んでたら今頃ミーシャちゃんの背骨は真っ二つだったと思う。危険な目にあった割にはすっげえ幸せそうな表情していたけど。
ギルは今日も幸せそうにクソうるさいイビキをかいている。ときおり何かを抱きしめるように腕を動かすのが超怖い。今日はちょっと発想を変え、【ひねくれ者に効く薬】を鼻にたらしてみた。これ、前にテッドからもらったんだけど、結局使い道がなくてほったらかしてたんだよね。なんでこんなのくれたのか、未だにわからない。




