243日目 基礎魔法陣製図:立体魔法陣の立体分解組立図
243日目
ドアが凍り付いて開かない。今日もう休んでよくない? ……ん?
ギルを起こし、ドアをぶち破って食堂へ。隙間風がかなり気になるけど無理やり気にしないことに。が、食堂に入った瞬間にそこはかとない既視感が襲う。
やっぱり今日は一段と寒く、思った通りみんなも暖炉よりの席にいた。ちゃっぴぃほか数匹の使い魔どもが暖炉の温かいところを占領せんと小競り合いする予感がしたので、事前に寝そべって占拠したら『きゅーっ!』って全力で追い出された。
……追い出された後の光景はどこかで見たことあるモノだった。
朝食はコンソメスープをチョイス。進んでチョイスしたんじゃなくて、日替わりのスープがなぜが偶然にもコンソメだったってだけ。飲む前に『健康志向にした?』とおばちゃんに聞いたところ、『見ただけで分かるのかい!?』と驚かれた。
驚きたいのは俺のほうだ。
あと、ふうふうしながら慎重にコンソメスープを飲むロザリィちゃんに『気を付けて』と声をかける。ロザリィちゃん、より慎重にふうふうして飲み干した。『底の方が思った以上に熱かったぁ……』って安心する様子がめっちゃかわいかったです。
ギルは当然のように『うめえうめえ!』とジャガイモを貪っていた。これについてはいつも通り過ぎて何とも言えない。
そうそう、やっぱりパレッタちゃんは指先が冷えたらしく、『ぬくいのう……!』とかいってポポルの背筋に手を突っ込んでいた。ポポルは『ふぎゃああああっ!?』って叫び、涙目に。しかしポポル、成長したのか『たまにはやられる側になってみろ!』ってパレッタちゃんの背筋に手を突っ込み返す。
『ひやぁぁぁぁっ!?』とちょっと甲高いパレッタちゃんの悲鳴……が聞こえる前に俺とちゃっぴぃの耳をふさいでおく。ちゃっぴぃのやつ、『きゅぅ!?』ってすんげえ驚いた顔をしていた。フィルラドにも『よくわかったな?』って不思議がられる。
不思議なのは俺のほうだ。
今日の授業はキート先生の基礎魔法陣製図。『ここ数日で一気に冷えましたね……』ってキート先生は手をさすさすしていた。手よりも体調のことを気遣ったほうが良いと思ったのは俺だけじゃないはずだ。
さて、いつも通りに課題を提出し、多少の期待と不安を込めて例の落書きを確認すると──
『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『今まで見て見ぬふりをしてきましたが、そうも言ってられない事態ですね? 先生に頼んで課題増やしてもらいましょうか?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『お?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『再履にすんぞコラ』『あ?』『あ?』『あ?』『てめえだけいい思いさせるわけねえだろ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』』『教務会議に取り上げてもいいよな? さもなくば俺の魔銃が火を噴くぜ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『さすがの俺もブチ切れそうですよ、エル。こっちには味方がたくさんいるんだ。賢いあなたなら、どうするのが正解かわかると思うのですが』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『ちょっと最近鬱憤たまってるんだわ。最高の一撃ぶっ放してやろうか?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『クラスと研究室と後輩の全勢力をもってエルを見つけ粛清する。必ず見つける。余談だが、俺はメルティの失せ物を見つけられなかったことが無いことを記す』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』『あ?』
……と、ひたすらに『あ?』が続いていた。しかもこれ全部別の……いや、ある意味で【同じ】筆跡ね。マジで怨念じみていてちょっと引くレベル。何から何まであの時と全く同じ。もうなんか狂いそう。
そして、俺はエルの返答を見た。まだ確定したわけじゃないけど、一縷の望みを込めて。
『──ここからちょっと独り言。お前らの行動によっては独り言が多くなるかもな?
クゼ:決闘会場の裏手。スタッフ専用口の近く。第二試合終了直後。小道具にバラを使うのはちょっとクサいぜ? まあ、結果オーライでよかったな?
ラド:決闘翌日。アエルノチュッチュ寮裏手。昼過ぎ。気の強い女の子からの膝枕は楽しかったか? お前、尻に敷かれるのが好きなタイプなんだな。ロベリアちゃん、いい表情してたじゃねーの。
ロリコン:土下座。これだけでいいか?
ルギ:お前は一番難しかった。正直今も確信はない。だからあえて一言。【今回は特別にクッキーのセットをオマケとしてお付けします。今後ともどうぞよろしくお願いします!】……ちなみにクッキーは三日とかからずみんな食った。
あと、よく見ろお前ら。お前らが書いたそれ、ルギが用意した紙じゃないぞ?』
戦慄した。書いてあったの、やっぱり俺が魔材研と属性研に送った請求書の結びの文だ。スウィートパーティが終わった後の収支清算のとき、今後の付き合いも考えて中途半端に余ったクッキー(ギル要素材料使用)を適当に包装して請求書とともに送ったんだけど、なぜ奴はそれを知っているのか。
おまけに、まったくもってあの時と同じ文章。内容も紙も全部一緒。むしろ、違うところを探す方が難しい。ちょう怖いんだけど。
というか、なぜこの『ルギ』という人物に対してエルはこの文章を出したのか。
クゼやラド宛の文章からも、導かれる結論はただ一つ。
エルは、俺たちの正体を知っている。
しかもそれだけじゃない。エルが用意した紙、当然のように魔法紙だった。書いた人の魔力を写し取り、あとで本人と照合できるってやつ。本当なら本人証明とか、なんか大事な書類とかで使われるアレ。
つまり、あそこに書いた人間、エルに会ったら正体がバレてしまう。もちろん複写式のそれはしっかり回収されている。内容を考えると、おそらく昨日のうちにはすべてが終わっていたのだろう。
なぜ昨日の段階で俺は行動しなかったのだろう。まあ、こんなバカげた夢(現実か? もうよくわからない)を信じることはなかっただろうけどさ。
最悪だ。俺たちはエルを見つける術がないのに、エルは俺たちを簡単に見つけることができる。つーかいつもの四人は多分全部バレている。
幸いなことに、あの時と同じように俺に関してはエルは確信に至っていない。俺はまだ誤魔化せる。エルが俺の正体に感づいたきっかけはあくまで【請求書の筆跡とメモの筆跡が似ている】だけで、断定はできないのだから。ここは全力で俺の正体が露見しないことに力を注がなくてはならない。
とりあえず、
『──ごめんなさい、と言っておきましょう。僕も熱くなりすぎました。覗きなんてこと、エルがするはずないですもんね。ちなみに、僕は両利きですし、筆跡のコピーもできますから、筆跡から正体を探るのは無理だと思いますよ? さすがにそこら辺は普段から注意していましたから』
……と、エル、ラド、クゼ、ロリコンの筆跡を交えて書いておいた。吸収魔法で奴らの書き方を吸収したわけだけど、さすがにこれからバレる……ってことはないよね? こんな風に吸収魔法を使う人って俺以外に見たことないし。一番知りたいところがわからないのがすごくモヤモヤする。
さて、肝心の授業内容だけど、今日【も】立体魔法陣の立体分解組立図について学んだ。書く必要ないと思うけど、これ、要は複数個のファンクションパーツからなる魔法陣がどのような構造をしているのか視覚的に把握するためのもの。合体直前のゴーレムっぽい感じって言えば伝わるだろうか。いや、これを読んでいる俺ならわからないはずがない。
ともかくまあ、立体&部品となるファンクションパターンを製図法に則ったうえで描いていかなきゃいけないわけだから作業量はいつもの倍以上。出された瞬間にみんなの顔から血の気が引く。俺だけは大丈夫だったけど。
『物理的に無理です』ってみんなが声を上げたんだけど、『なんとかしなさい』とキート先生に笑顔で言われては従うほかない。『魔系の宿命だ。こうなる運命だったんだ』と声をかけたら、『熱でもあるのか?』、『なんか今日のお前変だぞ?』、『ロザリィ、あなたちゃんと面倒見てたの?』とクラスから声が。
変なのはお前たちのほうだと何度言いそうになったことか。いろんな意味で。
幸いだったのは、『これから数週間かけて行うので、最後に完成してさえいればそれでいいですよ』と同じように言われたことだろう。やはり後期のテスト週間の一週前にこいつを提出すれば授業終了だそうだ。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。予想してたけど、キイラムの資料はこれに関しては役に立たなかった。どうせわかりきってたことだし、ショックはない。二度目だしね。
ちょっとバランスが悪いがもう寝ることにする。ギルは相変わらず安らかに大イビキ。奇妙な体験をしたというのになんて呑気なのだろう。
魔系がクレイジーとは聞いてたが、まさかここまでクレイジーとは。特に意識したわけでもないのに、日記の文章もすごく似ている。些細な部分で違うのは実際の行動が未来が分かっていたたぶん変わったためだろうか。頑張れば論文一本書けるんじゃね?
とりあえず、夢と同じ通りに星の光砂を詰めてみた。明日がちょっと楽しみ。おやすみーてぃんぐ。




