238日目 魔法造成実習:手仕上げの実践
238日目
ギルの目が理知的。賢者のオーラを幻視した。
ちゃっぴぃをお姫様抱っこして食堂へ。もう普通に機嫌は戻っているみたいだけど、どこか譲れないところがあるのか、あいつは人前に出るとむすっとした表情になる。無駄に腕の中で羽をパタパタさせるもんだから運びづらいったらない。
さて、今日は何があるのかな……なんて思いつつちゃっぴぃにイチゴミルクを貢いでいたら、賢者のごとき佇まいのギルが『これが答えだ。これこそが、究極のジャガイモだ』っていつもと同じジャガイモをちゃっぴぃに差し出した。
どういうこっちゃと思って話を聞くと、『ジャガイモはジャガイモだ。それ以上でもそれ以下でもない。俺たちが求めているのはなんだ? マッシュ? ちがう。フライ? ちがう。焼く? それも違う。そう、俺たちが求めてるのはジャガイモなんだ。小細工なんて必要ない。原点こそ真理……本当の答えはすぐそこに、最初からあったんだよ。俺たちはそれに気づかなかっただけなんだ』……ってめっちゃ熱く語ってくれた。
もちろん、ちゃっぴぃは一口も口にせず。それをみたギルは『ふ、お子様には早すぎたか……』って呟いたのち、『うめえうめえ!』って残らず食いつくしていた。
さて、今日の授業は愛の女神ステラ先生による魔法造成実習。『みんなちゃんといるかな?』って杖をコンコンしながら出欠を取る姿がエクセレントキュート。思わず抱き締めそうになるのを堪えた俺ってめっちゃすごくね?
内容は手仕上げの実践について。何を言ってるかわからないだろうが、俺にもわからない。
実は、前回習った手仕上げはテクニックもクソもない原始的な方法で、魔系としてのきちんとした手仕上げにはそれ相応の技術が伴うらしい。前回で本来の手仕上げの大変さはわかっただろうから、今回はちゃんとした方法を学びましょうって話だった。
『いったい何をするんですか?』とステラ先生に聞いたら、『こう……魔法陣垂直に削っていくのが直進法で、斜めに削っていくのが斜進法で、横に削っていくのが併進法……みたいな?』と困った様に微笑んでくれた。そんな姿がマジ女神。
さて、真面目に書くと、直進法ってのが最も基本的な仕上げ方で、加工面がとぅるとぅるになるやり方。一回あたりに対する裂造量は普通。特徴がないのが特徴って感じのやつ。
斜進法ってのはほかのやり方に比べて一回当たりの裂造量が多く、最初に全体を大まかに仕上げるときに使うと効果的。逆を言うと最後の仕上げには使えないんだけど。仕上げ面めっちゃ粗いしね。
併進法ってのは裂造量が一番少なく、一番最後の仕上げに適している。全体を馴染ませる時にもこいつを使うんだけど、調子こいてやりまくっているとその部分だけくぼんだりするから油断は禁物。
とはいうものの、やっぱりやることはひたすら魔法陣を手作業で仕上げていくだけ。作業場はクソ寒いのにみんな汗だく。ぶっちゃけ前と変わったところは特になし……っていうか、むしろこれらの方法以外の削り方ってあるのだろうか?
授業終了後、『今日はおつかれさま!』ってステラ先生がオレンジジュースをみんなに奢ってくれた。その優しさに泣きそうになる。あと、『レポートは来週までだからねっ!』って微笑む姿も最高。ラブレターも一緒に受け取ってくれないだろうか。
あと、今回でカリキュラムにあるすべての陣造法を終わらせたため、来週からは実戦訓練に入るらしい。授業内容と全然関係ないと思ったら、実習科目の最後に実戦を取り入れるのが通例なのだそうだ。時間の都合で枠がちょっと余るから都合がいいんだって。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。今日は雑談中にステラ先生は来なかった。密かに楽しみにしていたのに超ショック。週末の楽しさを奪われた俺を誰か慰めてほしい。
ロザリィちゃんも『明日までには間に合わせたいの……!』って心苦しそうな顔して部屋に戻ってしまった。別れ際にぎゅってしてくれたけど、もっとイチャイチャしたかった。
しょうがないので俺も例の衣装の最終仕上げをしに部屋に戻った。途中、エッグ婦人&ヒナたち&ヴィヴィディナと遊んでいたちゃっぴぃが戻ってきてちょっと焦る。ちゃっぴぃから香るヴィヴィディナの邪気を感知していなかったら、作っているところをみられるところだった。
ギルは今日も大きなイビキをかいている。ジャガイモの真理に到達できたからか、その寝顔は実に安らかだ。あと、ちゃっぴぃが腹出してヨダレ垂らして寝こけていたため、きちんと毛布を掛けてやった。
この部屋にも暖炉がほしい。どうせ明日は休みだし今日は夜更かしして最後までやり切ってしまおうと思う。ギルの鼻にはうっかり床に落としてしまったキャンディ(夜食。ふつうのやつ)を詰めてみた。おやすみなさい。




