236日目 基礎魔法陣製図:複雑な魔法陣のスケッチ
236日目
俺とギルの靴に牙が敷き詰められていた。新手の嫌がらせだろうか?
牙をトイレに流して食堂へ。いまだにちゃっぴぃは不機嫌なままで、俺がリンゴをうさぎさんに剥いてやったのににこりともしない。『きゅ!』って言いながらガツガツ食ってたけど、ロザリィちゃんが口を拭いてやってもまるで当たり前かのようにふんぞり返っていた。
さて、そんなこんなをしていたらフィルラドとアルテアちゃんが『むくれた顔はレディに似合わねえぜ?』、『ふっかふかで気持ちいいのがあるんだけどなぁ? いい子にはあげちゃおうかなぁ?』と、子供をあやすように(実際大差ない)大きなクッションをくれた。
どうやらこれ、エッグ婦人とヒナたちの抜け羽で作った代物らしい。軽くてふわふわ&柔らかくて触り心地がエクセレント。ちゃっぴぃなら全身で抱き付いても問題ないくらいのマーベラスな大きさ。冗談抜きに俺がほしかったくらい。
ちゃっぴぃのやつ、『……きゅん』と受け取り抱き締めたまま動かない。うれしくはあるものの、それとこれとは話が別なのだろう。尾っぽで俺のケツをぺちぺちしてきたため、ちゃっぴぃの代わりに二人に礼を言っておいた。
『まあ、ヒナたちの件で散々世話になったしな!』、『なに、袋に羽を入れて縫っただけだ。そう大して手間はかかってないし気にするな』と二人。
アルテアちゃん超気高い。フィルラドも今日はミルク吹きじゃなくて普通のイケメンに見えた。
そうそう、ギルは『今日はみんな大好き揚げ物にしてみたぜ! ジャガイモをスティック状に切ることで手軽に食べられるようにもしちゃったぞ!』……と、創作ジャガイモ料理(ぶっちゃけただのフライドポテト)をちゃっぴぃに提供していた。
が、ちゃっぴぃのやつは『きゅー!』ってジャガイモ好きな人間をあざ笑うかのように大量のケチャップをぶっかけて食ってしまった。ジャガイモの良さ皆殺し。さすがのギルもこれには苦笑いを隠せない。
ちゃっぴぃのお口周りがヤバいくらいに真っ赤。ギルとともに『うめえうめえ!』とケチャップのフライドポテト添えを喰ってたお子ちゃまポポルの口も真っ赤。せっかくなのでちゃっぴぃのついでに拭いてやったら『子供扱いするんじゃねえッ!』ってケツビンタされた。そういうところが子供だよね。
さて、今日の授業はキート先生の基礎魔法陣製図。いつも通りに課題を提出し、いつも通りに再提出の報せを通達された男子を腹の中で笑い飛ばし、逸る気持ちをどうにか抑えて例の落書きを見た。そこに書いてあったのは──
『わくわく』
『わくわく』
『わくわく』
『わくわく』
『わくわく』
『わくわく』
『わくわく』
『わくわく』
『わくわく』
『わくわく』
『一、女湯に行く。
二、女湯の扉を開ける。
三、女湯に入る。
──な、簡単だろ?』
怒りで前が見えない。冗談抜きにブチ切れそう。ここまで怒りを感じたのはおっさんにテッドの靴下をナターシャの靴下と言われて渡されたとき以来。あの純情をもてあそぶ感じがすごくそっくり。こっそり隠しておいたあの靴下がテッドのものだと知った時の絶望なんて、エルには一生理解できるはずがない。
とりあえず、
『あ?』
……とだけ書いておいた。これは本格的にエルを探して粛清する必要があるかもしれない。
思い出したら無性に腹が立ってきた。こっちがちゃっぴぃ問題で苦労しているのに、なんでエルはこうも図ったかのようなタイミングでイラつかせてくるのだろうか。いつか呪いの一発や二発ぶち込もうと思う。なんだかんだであいつ全然女の子情報提供してないし。マジ何なの?
急激にやる気が失せたので授業風景これでオシマイ。特に面白いことなかったから別にいいよね。今日はより複雑で難しい魔法陣のスケッチをやったってだけ。うん、書いてても面白くないから俺は何も間違っていない。せいぜいギルが勉強好きな指の筋肉を使ってうまく直線を引いていたくらい。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ロザリィちゃんが『思いのほか作業進捗が良くない……』ってぎゅっ! って抱き着いてきて気絶しそうになった。『頑張るためにも元気をください』と上目づかいで甘えてきたので、『いつもそばにいるよ』と頭を撫で、軽くキスをした。
真っ赤になってほおずりしてくるロザリィちゃんがマジプリティ。可愛すぎて何も言えない。あと、ヒナたちと遊ばせてちゃっぴぃの意識をこっちからそらしていたアルテアちゃん&フィルラドが俺だけに舌打ちしてきたんだけど、いったいどうしてだろうか?
ギルは今日も大きなイビキをかいている。ちゃっぴぃはもらったばかりのクッションに全身を埋めてスヤスヤしていた。枕が戻ってきたことが素直にうれしいけど、やつのクッションを使ってみたくもある。機嫌直ったらこっそりすり替えて使ってみよう。
衣装の進捗はいい感じ。これから鬼畜な透かしの飾り縫いのところをやる。もうちょい進めてから寝よう。あ、ギルの鼻には中途半端な長さの糸くずを詰めておいた。おやすみすとれす。




