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233日目 伝統衣装と踊り子ロザリィちゃんマジプリティ!

233日目


 部屋の中がサウナのようだ。なぜ加減と言うものをしらないのか。


 汗だくのまま食堂へ。『なんかやたら暑くて寝苦しかったな!』と汗でテカる筋肉をポージングで見せつけるギルに苛立ちを隠せない。『昨日の夜なにしてたんだ?』とアルテアちゃんにヘンなものを見るような目で見られたのが超ショック。


 朝食のドリンクにさわやかオレンジジュースをチョイス。最近ちょっとハマっているアルジーロオレンジの搾りたてフレッシュなやつね。喉が渇いていたこともあってついつい三杯も飲んでしまった。


 もちろん、ギルは『うめえうめえ!』とジャガイモを貪る。エッグ婦人とヴィヴィディナが仲良くジャガイモを突いていたのが印象的。だってあいつら的確なコンビネーションでギルの食べ残しのジャガイモ狙い撃ちにするんだもん。


 さて、朝食後になにをしようかとクラスルームで暖炉にあたっていたら、『──くんにお届け物が来たよ!』と女神ステラ先生がやってきた。朝から先生にあえて超ハッピー。


 届いたのはなかなかに大きい小包(?)。差出人はミニリカ。大方こないだ送ったハゲプリンとかの返事だろうと見当をつける。


で、中を開けてみる。どこかで見たようなオリエンタルでミステリアスな衣装が大量に入っていた。ラメラメ&スケスケなヴェールも発見。ついでに、それに埋もれるように手紙も見つけた。


 思った通り、こないだのハゲプリンとアルテアスペシャル美容液のお礼として、クラスの女子にミニリカんとこの魔法舞踊の伝統衣装を送った旨が綴られていた。『本当はすぐに送りたかったんですが、数をそろえるのに時間がかかってしまいました』って書かれてた。


 相変わらずミニリカは手紙の時はババ臭くない。なぜ普段からそうできないのか。


 女子たちの歓声が上がる。『やだぁ、ちょっと過激!』、『一度でいいから着てみたかったのよね!』となかなかの盛り上がりっぷり。地味にいろんなサイズがそろっていて、今すぐにでも着られそう。もともとゆったりしているのを留めていくタイプの服だから、サイズとかそんなに関係ないんだけどね。


 女子は女子で綺麗なおべべをもらえて、ミニリカは自分のとこの伝統衣装を広められてまさにウィンウィンって奴なのだろう。その証拠に、手紙には『出来れば直接踊りを教えたかったのですが、叶いそうにありません。ちょうどそこに踊りのすべてを叩き込んだ都合の良いやつがいるので、好きなようにこき使って聞いてみてください。魔法舞踊は出来なくても、伝統のステップを覚えてもらえればこれほどうれしいことはありません』って書かれてた。


 で、さっそく女子たちは着替えに行った……んだけど、物の数分もしないうちにロザリィちゃんが衣装を片手に戻ってきた。『どうしたの?』と聞くと、俺の耳に手を当て、内緒話の体勢で『……胸のところが合わないの』と教えてくれる。


 そりゃそうだ。ミニリカの貧相な体型でしっくりするような衣装なんだから。あと、ロザリィちゃんが俺の耳に口を近づけたときに髪のいい匂いがして気絶しそうになった。至近距離にある真っ赤な顔もエクセレントキュート。


 さて、せっかくもらったものを着られないのは可哀想なので、軽く手直しすることに。幸か不幸か、ミニリカには衣装の作り方も直し方も全部叩き込まれている。あの野郎、ことあるごとに『このおやつが食べたくないのかえ?』っておやつをえさに俺にどうでもいい裁縫まで教え込んだんだよね。


 ロザリィちゃんの賞賛のまなざしを受けながら作業してたんだけど、クーラスが『おいちょっともっとよく見せろ!』ってガン見してきて非常にウザったかった。伝統的な裁縫技術が使われているからか、裁縫が趣味のあいつにとってはかなり貴重なものらしい。


 幼少の俺は泣きながらこれを覚えたというのに、どうしてあんなに真剣になれるのか理解できない。


 ちなみに、ステラ先生は衣装を着ようとしなかった。『あれを着るには年を取りすぎてるよ』と残念そうに笑うので、『先生はまだ若いです。それに、それを言うならあのババアロリはどうなるんですか』と反論した。


 しかし、『露出多めで寒いかなーって……』と先生は戸惑いがちに呟く。が、直後に薪増量&火魔法が暖炉にぶち込まれた。お部屋のなかめっちゃぬくぬく。


 『サ、サイズが合うかどうか……』とステラ先生は慌てたように発言する。『僕もクーラスも裁縫には自信あります』と言い返した。先生、『あうあう……!』って目をぐるぐる回してめっちゃかわいかった。


 最終的に、『ごめんなさい、みんなの前で着るのは恥ずかしいです。先生はチキンなんですぅ……!』と涙目になったのであきらめることに。涙目ステラ先生も超ステキ。


 とりあえず衣装だけは渡しといた。いつかぜひとも着てもらいたいものだ。


 さて、ちょっぱやで衣装を直した後はようやくお披露目タイム。どこか恥ずかしそうにクラスルームにやってきた女子たち。スケスケヴェールなうえ、結構大胆に肩とかおなかとか見せているから、いつもと全然印象が違う。ジオルドとクーラスは完全に見とれて鼻の下を伸ばしていた。


 『か、可愛いけど、なんかめっちゃすーすーして恥ずかしい……』と赤くなるアルテアちゃん。『……いい尻だ』とボソッと呟きガッツポーズを取るフィルラド。


 『ヴィヴィディナとともに舞を納めようぞ』とひらりと回るパレッタちゃん。『なんか致命的に似合わない』と真顔で言ってぶん殴られるポポル。


 『かわいい!? ねえ、かわいい!?』とギルの前でくるくるはしゃぐミーシャちゃん。『ビューティフル!? なあ、ビューティフル!?』と負けじとポージングを取るギル。


 そして、『に、似合うかな……?』とはにかむロザリィちゃん。一歩間違えれば痴女になってしまう衣装を見事に着こなし、ロザリィちゃんの素晴らしいところをより素晴らしく仕上げている。きれいな手足が流星のようで、大きく、そして揺れるそれがぎゅっと強調されている。


 もうね、マジで気絶するかと思った。今までミニリカで見慣れていたと思ったけど、破壊力がまるで違う。あの衣装はロザリィちゃんが着るためにあったのだと確信したくらい。つーか、今更ながらにミニリカの貧相さが際立って思えてきた。


 もちろん、『とっても似合っているよ』と褒めちぎる。『えへへ♪』と笑いながらくるりと回るところとか、もう言葉にできない。


 自分の文才の無さがうらめしい。どうやったらあの踊り子ロザリィちゃんの素晴らしさを伝えられるんだろうか。この文章はロザリィちゃんの表現としてクソ過ぎるけど、今の俺にはこれ以上のことができない。


 あまりにもプリティだったんだけど、人間の欲と言うものは際限なく湧き上がるもので、『せっかくだからこの衣装用のお化粧もしてみない?』と誘ってみる。『お化粧までできるの!?』とびっくり顔のロザリィちゃんがいつも以上にプリティだった。


 俺さ、ミニリカに化粧の技術も叩き込まれたんだよね。継承者が数えるほどしかいないから覚えろってあのババアロリはうるさかったんだよ。おかげで人に化粧をすることも自分に化粧をすることもできるようになってしまった。


 俺はあいつに女の子にされそうになったことを絶対に忘れない。


 で、さっそくロザリィちゃんに化粧を施す。ミニリカのとこ特有の顔料と塗り方をテクニカルに駆使し、パーフェクトに仕上げた。目をつぶったロザリィちゃんの顔が超至近距離でもう心臓ドッキドキ。ロザリィちゃんも心なし顔が赤くてマジプリティ。


 人目が無かったらそのまま抱き締めてキスしていたと思う。我ながらよくぞ耐えたものだ。


 もちろん、お化粧ロザリィちゃんはめっちゃエクセレントだった。いつもとはまた違った魅力にあふれている。『何だこの最高のべっぴんさんは!?』って自分で驚いてしまった。惚れ直したのも何度目かわからない。


 なお、『私よりもお化粧上手だね……』ってちょっとしょぼんとするロザリィちゃんが可愛かった。この短時間にどれだけ俺を幸せにしてくれたのだろうか。


 さて、お化粧も終わった後は実際に魔法舞踊(のすんげえ基礎のさわりのケツフリフリダンス)をやってみることに。これまた幸か不幸か、ミニリカには男形も女形も問答無用で叩き込まれたから(教わったのは女形が先)、女子たちにも普通に教えることができた。


 『本当にこれであってるの!?』、『知らないことをいいことに、適当言ってるんじゃないかしら?』、って言われたんだけどどうしてだろうか。マジでケツフリフリダンスが基礎なんだけど。ミニリカだってこないだヒナたちに教えて一緒に踊ってたじゃん。


 しかも、『アブナイくらいに女の服の構造に詳しいわね?』、『女の化粧もできる男って……』、『なんで女の子のダンスをあんなにキレキレに踊れるの……?』と言われる始末。


 女形の衣装を作れるのも、女形の化粧を施せるのも、女形の踊りができるのも、教えたのがあのババアロリなんだからしょうがなくない? むしろ悪意あるババアロリに騙された純粋な俺は被害者じゃね? マジで女の子にされちゃうところだったんだよ?


 さてさて、なんだかんだでロザリィちゃんといちゃいちゃしながらみんなに踊りを教えていたんだけど(しょうがないから男子にも踊りを教えてやった)、ここでいきなり『きゅぅぅぅ!』とちゃっぴぃの泣き声が響き渡った。


 何事かと思ってみれば、あの野郎、開けっ放しだった小包を『きゅ! きゅぅ!』とひっくり返して床にたたきつけている。しかもそこらじゅうの物にまで当たりだす始末。ヴィヴィディナがとっさに広がってガードしてくれなければ、今頃コメットテールの数匹があの世に行ってたことだろう。


 つーか、マジで泣き叫び方がすさまじかった。絶望と八つ当たりの感情がダイレクトに伝わってくるレベル。


 『なにをしている!?』ってちょっと強めに怒鳴ったら、『きゅ! きゅ!』とか言ってぐすぐす泣きながら箱を指さし、俺に抱き付いてきた。


 そして、衣装を着ているみんなといつも通りの自分を見て、目に涙をいっぱいに貯め、『きゅぅぅぅぅぅ!』とわんわん泣き出した。


 どうやら、自分の衣装がなかったことを嘆いているらしかった。普段から全裸の癖に何を考えているんだろうか。


 そこからはすごかった。俺が『エッグ婦人も全裸じゃないか』って慰めても聞かないし、ロザリィちゃんが俺の部屋から『ほら、こないだの水着あるよ!』ってちゃっぴぃの水着を持ってきてもダメ。


 困り果てた俺たちを見かねて、ちゃっぴぃと一番サイズの近い(それでもかなり大きいけど)ミーシャちゃんがその場でギルのローブにくるまって衣装を脱ぎ、『あたしのあげるの!』ってちゃっぴぃに衣装を渡してくれた。が、ちゃっぴぃは『きゅん!』とか言ってそれをはたき落として泣きながら暴れる始末。


 衣装を着たいんじゃなくて、自分の衣装『だけ』用意されていなかったのが悲しいらしい。あんだけガチ泣きしているの、俺、初めて見たかもしれない。


 場合が場合なだけに、ちゃっぴぃを強くしかるわけにもいかず、クラスのみんなもだいぶ困惑。とりあえずそそくさと着替えてくれたけど、それはそれで同情されているみたいで気に食わないらしく、ちゃっぴぃはわんわんと泣きながら物にあたりだした。


 泣き声と暴れる音でグレイベル先生がやってきたといえば、どれだけすさまじかったか伝わると思う。『…これで我慢できないか?』ってグレイベル先生がお気にの麦わら帽子をかぶせてくれたんだけど、やっぱり効果なし。一緒に渡されたクッキーも手を付けなかった。こいつぁ本格的にまずい。


 夕飯食って風呂入って今に至る。結局最後までちゃっぴぃの機嫌を戻すことはかなわず。ステラ先生が『先生があのとき一着受け取らなければ……』ってしゅんとしてたので、『子供のワガママですから、気にしないでください』と伝えておいた。

 

 なお、ちゃっぴぃは泣き疲れて眠ってしまった。迷惑をかけるわけにもいかないので今日は一緒に寝ることに。泣いたせいかまぶたがちょっと厚ぼったく、目元が涙でぬれたまま……というか、未だに時折ぽろぽろと雫が流れている。よほどショックだったのだろうか。


 ……なんかすっげぇ心がちくちくするんだけど。なんなのこの罪悪感ちっくな気持ちは? これだからガキの面倒を見るのは苦手なんだ。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。暴れるちゃっぴぃを止めようとしてひっかかれてたけど、やつには傷一つついていない。こいつと親友で本当に良かった。


 もしちゃっぴぃがロザリィちゃんやステラ先生を傷つけていたら、俺はちゃっぴぃに手を挙げていたかもしれない。


 場合が場合だし、ちゃっぴぃの年を考えれば暴れるのはしょうがないのかもしれないけど、少なくとも俺はそれがまかり通る様な幼少時代を送ってない。だから、他のところで存分に甘えさせても、そういった所でちゃっぴぃを甘えさせるつもりは一切ない。


 俺の考えはおかしいのだろうか。やはり子供に対して厳しいのだろうか。自分で感情の制御ができているのかどうかたまにすごく不安になる。


 俺は、ちゃっぴぃの保護者として十分にやっていけるのだろうか?


 日記書いてたらなんかすごくナイーブな気分になった。俺もすっげぇ泣きたい。なんでちゃっぴぃの泣き顔見ただけでこんなに悲しくなってくるんだろう。こんなに心が痛くなるんだろう。


 罰として、ちゃっぴぃは一晩俺の抱き枕になってもらうことにする。涙をぬぐい、ぎゅって抱きしめてやった。


 俺も、昔こういう時にナターシャが抱きしめて寝てくれてすっごくうれしかった。俺はちゃっぴぃの手本としてまだまだ未熟だろうけど、俺がもらった幸せを同じようにちゃっぴぃに分け与えられたらと思う。


 ギルの鼻にはメロディストーンを詰めてみた。ちょっとでもリラックス効果が出ればいいんだけど。


※燃えるごみは涙に流せ。魔法廃棄物は流せぬ。

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