231日目 魔法造成実習:手仕上げによる陣造の基礎
231日目
頭がクソ痛ぇ。なんで昨日の俺はあんなバカなことをしたのか。
痛む頭を押さえながら食堂へ。こっちがこんなに苦しんでいるというのに、わがクラスメイトは『元に戻った!』、『そのギラついた眼、お前らしいぜ!』、『今日もヴィヴィディナの糧をごちそうさまです』と超嬉しそう。いったいどうなってるのか。
でも、『痛いの痛いの飛んでけーっ♪』ってロザリィちゃんが頭を撫でてくれて最高にうれしかった。もうね、マジでね、一瞬で痛みが飛んでなんかほわほわした気持ちのなってくるの。たぶん愛魔法も込めてくれたんだろう。ロザリィちゃんの愛に全俺が癒されまくった。
そうそう、ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモを喰いまくっていた。入学してからもう半年以上毎日ジャガイモを喰ってるわけだけど、どうしてあいつはあんなにもうまそうに食えるのか。
さて、今日の授業はわが女神ステラ先生による魔法造成実習。杖をコンコンしながら出欠を取る姿がエクセレントプリティ。『頭が痛いので撫でてくれませんか?』って声をかけたら、『そういうのはロザリィちゃんにやってもらおうね?』ってイタズラっぽく微笑まれデコピンされた。
なんでステラ先生のデコピンでこうもステキな気分になるのだろうか。あの人やっぱ女神だろ?
さて、今日は何をやるのか……と思っていたら、ステラ先生はおもむろに魔力塊をどんと取り出し、『今日はこれを陣造してもらいます!』と宣った。
しかし、いつも使うような大型な魔道具は一切なし。みんなしてあっけにとられていたら、『今日は原点に立ち返って手仕上げをしてもらうよ!』と仰られる。
そう、これぞ最古にして原点、最も原始的な陣造方法である手仕上げ。仕組みもやり方もいたって単純。ひたすら人力で魔力塊を削って形を整えるだけ。イメージ的にはヤスリ掛けするのと大して変わんない。
が、これがなかなか面倒。ずっと手を動かさなきゃいけないもんだからすごく疲れる。もうかなり涼しい季節なのに作業開始早々に汗だくになった。女の子たちはみんな髪をアップにまとめていつもと違う印象。ロザリィちゃんのうなじが超セクシー。
クーラスが『髪留めくわえて髪まとめる姿ってよくね?』と言ってきたので深く同意する。ジオルドは『後ろで結ぼうと顔を下げたときに上目遣いになるところが最高だ』って言ってた。こいつらなかなか分かっていると思う。
あと、手作業でやるもんだからなかなか所定の表面精度&寸法に仕上げることができない。分解能的にはそれなりかもしれないけど、その管理が完全にカンになるから実力の差がめっちゃ響いてくる。
なんだかんだで終わったころにはみんな疲れ切ってしまっていた。さりげなくこの授業で一番疲れたテーマかもしれない。
夕飯食って風呂入って雑談中、ステラ先生がクラスルームに遊びに来てくれた。ひゃっほう。
せっかくなので今日も先生をカードゲームに誘う。ジオルドとクーラスが『今日は負けませんよ』と超自信満々。あまりに自信満々だったもんだから、ステラ先生は『じゃあ、もしも勝てたらなんでも一つだけ言うことを聞いてあげる!』と衝撃的な発言をしてくれた。
『ぎゅってしてくれますか……!?』というジオルドの問いに『もちろん!』、『膝枕とかそういうのは……!?』というクーラスの問いに『好きなだけどうぞ!』、『ジャガイモ大袋一か月分とかは……!?』というギルの問いには『それはおばちゃんに頼んでくれるかな?』とステキすぎる笑みを浮かべながら答えてくれる。
もうね、みんなテンションが上がったね。『勝てれば、だけどね♪』って微笑む姿が小悪魔的でマジ可愛かった。
で、早速勝負。いったいどんな秘策があるのかとジオルドとクーラスの手札を覗き込んでみたんだけど、なんとあいつら、驚きのイカサマを仕掛けていやがった。
そう、手札がすでに最強カード……っていうか、明らかに正規のカードじゃない。ジョーカーもエースも複数枚存在している。テクニックのサマじゃなくて、カードそのものにサマを仕掛けてきやがった。
『これなら負けようがないだろ?』、『俺たち凡人は凡人なりの戦略があるってことさ』と二人が笑う。器用な二人はここ数日かけてイカサマトランプを作っていたらしい。なんかこいつら、だんだん性格悪くなってきてね?
『さすがに汚い』、『男ってこれだから……』と女子からの非難。が、『勝ちゃあいいんだよ! それとも何か!? お前らが膝枕してくれるのか!?』、『そもそも、俺たちよりもよっぽどタチ悪いのがいるだろう?』と開き直る二人。ジオルドは今度おやつ抜きの刑にしようと思う。
で、勝負。今回ばかりはさすがにステラ先生に勝ち目はない。先生を二人に盗られるくらいなら、いっそ俺のほうから先生をかっさらおうかと覚悟を決める。
が、結果はステラ先生の勝ち。なんと、いつの間にかクーラスの手札とステラ先生の手札が入れ替わり、ジオルドの手札がクズカードのごみ溜めに変わっていた。
『口ほどにもないね!』とキリッ! と自慢げな先生。『……はい?』とポカンとするクーラス。『……えっ?』と自分の手札を見つめるジオルド。
ちょっとマジでどうやったのか見当がつかない。魔法を使った形跡はなかったから純粋に技術のイカサマのはず。だけど、ステラ先生はあの二人の手札には触れてすらいなかった。
結局、今日もステラ先生は二人をケツの毛までむしりとって行った。『うふふっ♪』ってジオルドのおやつの俺特製ガチハゲプリン、クーラスの秘蔵のオリジナルハーブティーを手にして超嬉しそう。そんな姿もマジ素敵。
『僕とも同じ条件で勝負してくれますか?』って俺も勝負を挑んだんだけど、『ちゅうでもぎゅっ! でも膝枕でも、なんでも言うこと聞いてあげるよ? なんならデートもつけてあげよっか?』って小悪魔的にほほ笑む姿に見とれてしまい、やっぱりケツの毛までむしりとられてしまった。しょうがないよね、うん。
ちなみに、ステラ先生の後ろでそのイカサマを見ていたアルテアちゃんは『混沌の調和を見た』って言ってた。先生がいったい何をしていたのか興味を隠せない。
ジャガイモ片手に盛り上がっていたギルは大きなイビキをかいている。あいつ、ステラ先生が勝つ方にジャガイモ賭けたらしいんだけど、誰も乗ってくれなくてジャガイモもらい損ねたってボヤいてた。
なんで俺にかけてくれなかったのだろう。超ショック。
なんとなく、ギルの鼻には宵闇の風香玉を詰めてみた。地味に使い道に困ってたものを処分できるのは大きなメリットだと思う。みすやお。




