220日目 基礎魔法材料学:固溶魔強化について
220日目
違和感を覚えて起きる。俺とギルの耳にエビの尾っぽが耳栓のように詰められていた。人を馬鹿にしているのだろうか。
尾っぽをトイレに流して食堂へ。昨日宴会をやっただけに、みんなわりとグロッキー。よく考えてみれば決闘してからまともに休んでいない。ちゃっぴぃとかヒナはすごく元気に俺とフィルラドのデザートのグレープゼリーを突いていたけど。
ギル? 言うまでもなく『うめえうめえ!』ってジャガイモを喰ってたよ。ミーシャちゃんは食べきれなかった朝食を『特別に上げるの!』ってギルの大皿に混ぜて処理してた。なかなか賢いやり方だと思う。
授業はシキラ先生の基礎魔法材料学。上級生も宴会をしていたからか割とグロッキー。出欠の返事の声も元気がない。『おめえらみんなだらしねえなあ!』ってシキラ先生は超ぴんぴんしてたけど。
内容は魔法材料の強化について。魔法材料ってのはそのまま使うこともできるんだけど、何かしらの処理をすることで強度が上がったり、特性が与えられたりしてより有用に扱うことができる。
今回はその中の強化に着目し、魔晶構造の観点からその仕組みを種類を覚えましょうってやつ。以下にその内容を記す。
・固溶魔強化
ある魔晶に異種魔素または魔化合物が単独で(離散して)含まれている場合、それを固溶魔体と呼ぶ。
このとき、魔晶の隙間に異種魔素が存在することによる固溶魔体を侵入型固溶魔体、元の魔晶を構成する魔素と異種魔素が部分的に入れ替わることによる固溶魔体を置換型固溶魔体と呼ぶ。
これら固溶魔体において、異種魔素の部分では、材料中に発生した魔法的負荷や変形が通過しにくくなることが知られている。これによる魔強度等の上昇を固溶魔強化と言う。
すんげえ短いけど今日はこれだけ。というのも、未だ熱の冷めないシキラ先生が『みんなグロッキーだし、今日もうグダグダでよくねえ?』と一昨日の決闘について語りだしてしまったからだ。
『みんな引き分けは想定してなくて賭けは荒れに荒れたぜ!』とやたら嬉しそう。詳しく聞くと、シキラ先生をはじめとしたごく一部の人間だけが引き分けに賭けていたらしく、大儲けできたとか。胴元が賭けに参加していいのかちょっと疑問だけど。
『一年にしてはすげえ魔系らしい決闘だったよな! ミラジフ先生に魔法を反射して攻撃したところとか超興奮した!』と試合のほうもなかなか楽しんでいた様子。あと、『最後のズボン降し! あれ! アレ最高! いくらなんでもクレイジーすぎるだろ!』と腹を抱えてゲラゲラ笑ってた。
あの人だけには言われたくないと思ったのは、決して俺だけじゃないはずだ。
さて、ふと思ったので、話が盛り上がったところで『先生たちの中で一番強い人って誰なんですか?』と聞いてみる。『そらもうダントツでステラ先生よ!』ときっぱりと言われた。さすがルマルマの聖母。ステラ先生マジ最強。
んで、『シキラ先生もグランウィザードだってキート先生が教えてくれましたよ』と伝えると、『勝手に人の秘密バラすとか、あとで締めとかなきゃ!』と超笑顔だった。遊ぶ口実ができて楽しいのだろう。
なお、腹いせのつもりなのか、『たぶんお前ら聞いてないだろうけど、キート先生もいいところの学校を飛び級して先生になったんだぜ? ステラ先生がそれ以上の飛び級してるから目立ってないけど、あの若さであの地位ってすげえだろ? 実際めっちゃ強い』とキート先生の秘密も教えてくれた。
言われてみれば、戦っているところこそ見たことないものの、キート先生はギルの腹パンにバッドコンディションで対応してみせるなど、実力者の片鱗を見せている。過労じゃなければすごかったりするのだろうか。
あと、シキラ先生もジジイばかりしかいないはずのグランウィザードの中では十分に若いと思う。ヨキやシューン先生よりもちょっと若いって言ってたし、たぶん四十代前半くらいだろうか。
で、『真面目な話、先生方の実力ってどんな感じですか?』と聞いたところ、『ステラ先生がドラゴンならキート先生はオーガ。ほかの先生はゴブリン。俺? ミジンコだよ!』と教えてくれた。
本当なのかどうかはわからない。また別の先生にも聞いてみようと思う。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。今日はそんなにロザリィちゃんとイチャイチャできなくて残念。せいぜい寄り添っておしゃべりしたくらい。最近ちょっと寒くなってきただけに、あのぽかぽかのぬくもりが本当に愛おしい。あの時間が一生続けばよかったのに。
ギルは今日も腹出して大きなイビキをかいている。疲れているのか、微妙に日記の文章もおかしい気がする。なんかこれ、いつも言ってる気がした。
とりあえず、近くにあった夢の氷を詰めてみた。グッナイ。




