218日目 決戦アエルノチュッチュ
218日目
ギルのコンディションが限界突破。俺はいまだかつてこれほど素晴らしい筋肉を見たことが無い。とりあえず拝んでおいた。
ギルを起こして食堂へ。すでにみんな決戦の準備は出来ており、まさにマジ狩る殺る気モード。特に言葉を発していないのに気持ちと気持ちが通じ合い、静かに獰猛な笑みを交し合う。誰が言い出したわけでもなく、『うめえうめえ!』と貪るギルのジャガイモの山から一個ずつジャガイモを食べだした。ルマルマの誓いが今ここに爆誕する。
もちろん、ちゃっぴぃやヴィヴィディナ、ヒナたちと言った使い魔も同様にジャガイモを食べる。ふと思ったけど、クラスみんなが一個ずつ食べてなお余るジャガイモってどれだけの量があるんだろうか。あいつの胃袋マジすげえ。
朝食後は決闘場へ。ゼクトを筆頭にティキータ・ティキータの連中が会場整備や運営スタッフとして動いてくれていた。オーディエンスにはバルトラムイスやエルメダノッサ、魔法材料研究室に属性処理研究室といった見知った顔が何人もいる。グレイベル先生やピアナ先生はもちろん、カルブ先生やヨキ、さらには知らない先生もいるし、まるで見たこともない上級生もいた。
そして、当たり前のように『賭けるのなら今のうちだぜ! 互いのコンディションを見てよく考えるんだな!』ってシキラ先生が賭けを仕切っていた。あの先生、ホントぶれないと思う。
しかしまあ、マジでお祭りみたいな大盛況だった。『職員室でも結構話題になってたんだよ』ってステラ先生が教えてくれる。あ、ちなみに公式に……っていうか書類上はシューン先生、シキラ先生が主催になっているらしく、準備やその他もろもろは彼らが責任をもって行ってくれたらしい。
俺たち決闘をする側は決闘だけに集中するための配慮とのこと。スタッフ用のローブを着たゼクトが『終わったらそっちで宴会な。めっちゃ苦労してるんだぞ!?』って言ってきたので快くうなずいておいた。
さて、そんなこんなしているうちにアエルノチュッチュも会場入りをする。互いの空気がピンと張り詰めた。うまく言えないけど、背筋がゾクゾクして、異様な高揚感を覚える。思わず笑ってしまった。昂ぶっているってやつなのだろうか。
『これだよこれこれ! このかんじ!』とシキラ先生は超嬉しそう。『今日は楽しくなりそうだなぁ!』とシューン先生。ラフォイドルを見たら、あいつも同じように笑っていた。
準備ができたところでシューン先生がルール説明をしてくれた。以下にその内容を記す。
・試合は全三試合。相手の降参宣言を審判が認めた瞬間、または審判の判断によってこれ以上の試合の続行は不可能と認められた瞬間に勝敗を決する。重傷までは認めるが、審判の制止を聞かなかった場合は強制的に負けとする。
・両者は互いにクラス内から決闘者を選出する。ただし、一度試合に参加したものは以降の試合に参加できない。
・今回の場合、公平のため各試合に条件を付与する。
・決闘者以外は味方チームに支援をしてはいけない。また、敵チームに攻撃してはいけない。
・組長は必ず一度は試合に参加するものとする。
・決闘に誇りを掲げろ。ルールは絶対。破ったものには制裁を。
基本的には対人戦闘訓練と変わらない。ただ、今回はより安全性が高められているってのと、ルールに背く卑怯な真似は出来ないってことだけ覚えていればいいらしい。あ、オーディエンスには魔導結界が張られているから全力で暴れていいんだって。
準備が整った後はクラス組長&責任者として俺&ステラ先生とラフォイドル&ラオ・ミラジフ(アエルノチュッチュの担任。すんげえ性格の悪そうなジジイ。ゴブリンみたいな顔)で決闘の誓いを上げる。
『ぶっつぶしてやるよ。トイレの準備は出来てるか?』、『ぶちのめしてやるよ。ギルに抱かれて震えてろ』、『よ、よろしくおねがいします』、『……ガキの遊びに付き合う暇なんてないんだがねぇ?』と序盤から絶好調。
さて、誓いを上げた後は早速第一試合に入る。実況&審判のシューン先生とシキラ先生が『第一試合は使い魔同伴のタッグバトルだ!』と宣言した。
が、使い魔同伴はちょっと不利。パレッタちゃん&ヴィヴィディナは確定だけど、いきなり俺&ちゃっぴぃを出すのはちょっと時期尚早。しかし、『私が出る』とアルテアちゃん&エッグ婦人&ヒナたちがケツをフリフリしながら名乗りを上げた。
さすがにみんなビビる。『俺が召還するから!』とフィルラドが制止するも、『あ、召還はノーカンだからそこんとこよろしく!』とシキラ先生に止められた。
なんやかんやで早速試合開始。相手はベイビードラゴンを連れた男子生徒とクリスタルリッチを連れた女子生徒。敵ながらなかなか攻守のバランスが取れた構成だ。
アエルノチュッチュの連中、ケツをフリフリしまくるエッグ婦人とヒナたちを見て超余裕そうだったのに、金切り声を上げながら猛烈なスピードで這いまわるヴィヴィディナを見て悲鳴を上げていた。ベイビードラゴンが炎をはくも、ヴィヴィディナには効果なし。
ヴィヴィディナがドラゴンを引き付けている間にパレッタちゃんが男子に呪をかける。アルテアちゃんは女子を射撃魔法で攻撃。ヒナたちはひたすらケツをフリフリしていた。
が、ここでクリスタルリッチがなんかめっちゃすごい広域結界でこちらの攻撃を防ぐ。『父上に取り寄せてもらった最高級の使い魔を舐めるな!』と得意そう。なお、その間にもベイビードラゴンはヴィヴィディナに浸食されつくされ、倒れていたことを記しておく。男子生徒は『エドモンドぉぉぉぉ!?』って悲鳴を上げていた。
あ、エッグ婦人は倒れたドラゴンの頭を執拗にくちばしで突いていた。超得意げに見えたのは気のせいじゃないはずだ。
いきなりのドラゴンの打倒に会場が湧く。しかし、どうしてなかなかクリスタルリッチの守りが固く、広域結界を壊すことができない。ヴィヴィディナなら結界の一つや二つ壊せそうだったけど、『メインディッシュが控えているのに雑草で腹を満たすやつがどこにいるのか?』ってパレッタちゃんがローブの中にしまってしまった。
一番厄介なのがいなくなったと思ったのか、敵は結界内から魔法を連射しまくる。こっちの攻撃は弾かれまくりんぐ。パレッタちゃんの炎蝕呪とアルテアちゃんの俺に対してやった超弾幕をしのぎ切ったといえばその硬さがわかるだろう。
どうやらあの結界、何らかの方法で相当に強化されているらしい。きっとアエルノチュッチュのことだ、金に物言わせていろんなドーピングを施しているのだろう。パレッタちゃんに『そのしぶとさは認めなくもない』と言わせたほどだし。
しかし、気高きアルテアちゃんはあきらめた様子もない。『そろそろ温まったか?』とケツをフリフリしまくるヒナたちに声をかけた。
直後、会場がどよめく。なんとアルテアちゃん、ヒナたちをむんずとつかみ、射撃魔法陣(概念的な魔法弓に五個連なってるやつ)にセットしてそのまま射抜こうと構えを取った。
しかも、アルテアちゃんの魔力に呼応するようにヒナたちがギルギルしくなる。ケツのフリフリも加速してきた。
さすがにこっちも唖然。フィルラドが『うおぁぁぁぁっ!?』って叫んでいた。
『風をつかめ』とアルテアちゃんがつぶやいた瞬間、それは猛烈な勢いをもって射出された。さっきまでびくともしなかった結界が面白いようにぶっ壊れる。ソテーとローストとマルヤキがクリスタルリッチをそのまま仕留め、ポワレとピカタとグリルが自主的に戻ってきて再び射撃魔法陣に収まった。
よく考えてみれば、ヒナたちも結構ギル要素を取り込んでたんだよね。ギル・コーン印の特製調整餌を生まれたときから食べてたわけだし。
『まだやるか?』とアルテアちゃん。ポカンとしていたアエルノチュッチュが我に返り、一歩、二歩と後退する。しかし、後ろにヴィヴィディナ。どうやらローブを隠れ蓑に地面を掘り、後ろに回ったらしい。
『食べはしないけど、おもちゃで遊ぶのならいいよね』ってパレッタちゃんがにっこり笑っていた。
『さすがルマルマ! クレイジーな結末だぁ!』とアナウンスが響く。当然俺たちの勝利。アエルノチュッチュの奴だけど、『アレはしょうがない』って慰められていた。
喜びを分かち合う間もなく、アエルノチュッチュからクレームが。『使い魔を複数匹参加させるのはルール違反だ!』とのこと。しかし、『ルールとしてそんなことを言った覚えはないぜ! 勘違いはよくないよな!』と超笑顔でシキラ先生が言ったことにより、その訴えは無効となった。
よく考えてみれば、全力ガチでみんな投入すれば楽勝だったんじゃね?
さて、次は第二試合。『第二試合もタッグバトルだ! ただし、一人は魔法を禁止する! ペアのどちらかが倒れた時点で終了だ!』とのアナウンス。
つまり、魔法を使えるほうはいかに魔法を使えない相棒を守るか、また魔法を使えないほうはいかに相手を攻撃するのかが重要になってくるのだろう。
当然のことながら、こっちはギルをチョイス。こいつ以上の適任はいない。『やってやるぜ!』とポージングを決めてた。パートナーとしては『負けない戦いなら任せろ』とクーラスが名乗りを上げたのでそういうことに。
実際、クーラスの罠魔法陣なら信頼できるし、下手に攻撃魔法をばらまかれるよりもギルだって自由に動ける。あと、俺以外にギルを動かせるのはクーラスくらいしかいない。あいつの頭脳ならギルに適切な指示を与えられる。
力と頭脳が合わさってまさに最強。早くも決闘勝利が目前となってしまった。
が、ここでアエルノチュッチュは実に卑怯な真似をしてきた。
なんと、試合開始の挨拶(向き直って杖を交わして握手するアレ)の直後、盛大に両手を上げて『降参します!』と言い出したのだ。
クーラスもギルも困惑していた。アエルノはここで降参したらオシマイなんだから当然ではある。いくら相手がギルとはいえ、少しは粘るとみんな想像していたのに。
しかし、ここで驚愕の事態が。シューン先生が『こうさ──』と声を上げかけた瞬間(たぶん『降参によりルマルマの勝利』とでも言おうとしたのだろう)、アエルノの魔法を使えるほうが雷魔法を極点的に宿した杖をクーラスに撃ちつけ、魔法を使えないほうがクーラスに腹パン&うずくまったところを腹キックしたのだ。
一瞬の出来事に会場が静まり返る。あまりの不意打ちにクーラスは倒れて動けない。とっさのことだったので、ギルでさえ魔法を使えないほうをぶん殴って壁にめり込ませることくらいしかできなかった。
魔法を使えるほうが、『倒したのはこっちが先ですし、僕たちの勝利ですよね?』って笑いながらシューン先生に問いかける。壁にめり込んだ方も、事前に多重魔法結界を体に展開していたのか、あるいはとっさのことでギルも力を入れ切れていなかったのか、フラフラしながらも根性で立ち上がった。
シューン先生も唖然としてたけど、『ルール上は全く問題ないぜ!』ってシキラ先生に言われ、『降参宣言を審判が認める前に勝利条件を満たしたため、アエルノチュッチュの勝利!』と宣言した。
いくらなんでもひどすぎる。アエルノチュッチュのやり方に怒りを隠せない。
なお、一年生はドン引きしており、上級生は『油断する方が悪いな』、『まだ低学年だししょうがないよ』、『あの洗礼をまだ受けてなかったのか』って意見が大半を占めていた。
これで一勝一敗。幸いクーラスは目立った外傷がなかったため、その場で応急処置をすることに。意識こそまだ戻ってなかったけど、『すぐ目を覚ますと思う』ってステラ先生が膝枕してあげていた。
最後の一戦を前にみんなの殺る気が凄まじい。あの温厚なギルでさえ、『ルールがなければ今すぐぶちのめしたい』って怒りをあらわにしていた。
会場のテンションもすさまじくなったところで最終試合。『今回もタッグバトル! ただし男女ペアで、組長の生存が勝利条件だ!』とアナウンスが。さっきからタッグばかりだけど、なるべく多くの人が参加できるようにとの配慮らしい。
当然俺は出場。パートナーはロザリィちゃん。試合開始前に、『必ず勝とう。そしてクーラスの仇を討つんだ』と熱い抱擁&キスを交わした。
さて、相手はラフォイドルと気の強そうな女の子。『ようやく合法的にぶちのめすことができるな』と互いに握手をする。周りは『不意打ちに気を付けろ!』って(俺にもラフォイドルにも)声をかけたけど、『そんなつまらねえ真似するわけないだろ』とこういうところだけは心が通じ合っていた。
で、『ルマルマ組長、【クレバークレイジー】──! ルマルマパートナー、【魔狂の恋人】ロザリィ! 対するはアエルノチュッチュ組長、【ダークネスラース】ラフォイドル! アエルノチュッチュパートナー、【黒薔薇の女王】ロベリア!』ってシューン先生の実況後に試合開始。
『タイマン張りたい。頼むぞ』とラフォイドルが相棒の女の子に声をかけた瞬間、ロザリィちゃんとアエルノの女が空中に現れた黒い茨の巨大な鳥かご(×2)に囚われていた。
どうやらあの鳥かご、自分も一切攻撃できなくなる代わりに、対象も身動き取れなくする魔法らしい。『私はこんなバカらしいのに付き合ってられないわ。貴方もゆっくり観戦したらどうかしら?』ってアエルノの女がロザリィちゃんに語り掛けていた。
ロザリィちゃんも俺も鳥かごを攻撃したけど、条件付きの魔法だけあってぶっ壊せない。『私はいいから!』とロザリィちゃんが言うので、先にラフォイドルをぶちのめすことに。
認めたくはないけど、ラフォイドルは強かった。暗黒の翼とか暗黒の渦とか、ネクラなあいつらしくレパートリー豊富な暗黒魔法で攻撃してくる。こっちも火炎魔法や水魔法で攻めるんだけど、互いに威力を相殺しあって決定打を放てない。
土魔法で地割れを起こすも、闇の翼と奔流で空に逃げる。風魔法でカマイタチを放っても、闇の繭で防ぎ切った。
逆にあいつが暗黒の剣を投射しても、俺は神聖結界でかき消す。暗黒の鎖は精霊憑依で風精の衣をまとうことで難を逃れた。
『いい加減倒れろよオラァ!』、『バカみたいに暗黒ばっか使ってんじゃねえぞコラァ!』と舌戦もバリバリ。たぶん、対等な魔法使いとして俺に立ちはだかったのはラフォイドルが初めてかもしれない。
正直どんなふうに戦っていたのかなんて覚えていないんだけど、俺もラフォイドルもだんだんガチになってきて魔法の威力と規模が凄まじくなってきていた。もうフィールドがぼっこぼこ。オーディエンスも結界がなければたぶん消し飛んでたと思う。
試合運びがいくらか単調になってきた隙を見計らい、こっそり仕込んでいた魔法舞踊を発動する。炎の魔狼が俺と一緒にステップし、ラフォイドルに襲い掛かった。小規模な魔法舞踊とはいえ、発動が難しいだけになかなかの威力。
ラフォイドル、これを暗黒の鏡で受け流す。炎の魔狼は傍観を決め込んでいたミラジフに直撃。観客席からどよめきが。
『もっと撃ちこんで来いよ!』となぜかうれしそうなラフォイドル。『お前の担任にあたったんだぞ?』と声をかけたら、『俺もあいつ嫌いなんだよ。決闘中の事故ならしょうがないだろ?』って超笑顔で言われた。
アエルノチュッチュの陰険さに驚きを隠せない。なんなのあいつら、ギスギスしすぎじゃない?
優しくて紳士的でイケメンな俺は、敵とはいえミラジフを攻撃するのをためらったんだけど、ラフォイドルが『あの野郎、たしかこないだステラ先生にネチネチ嫌味言ってたぞ』と情報をくれた。おそるおそる振り返って先生を見たら、ステラ先生、小さくコクコクとうなずいた。
一瞬で視界が真っ赤に染まる。ありとあらゆる魔法を(微妙に加減して)ラフォイドルに撃ちこみまくった。『おーっと、ルマルマの猛攻にアエルノは耐えることしかできない!』と実況。反射した魔法はなぜか偶然にも全部ミラジフの元へ。
俺もラフォイドルも、このときばかりは心が通じ合った。あいつ、ちゃんと鏡の角度を調整して受けてくれたし、俺もタイミングを絶妙に調整してラッシュの中に鏡の補強の時間を作り上げた。もちろん、時折派手に爆炎(見かけだけ)を挙げて周りにバレないように工作するのも忘れない。
たかが決闘相手のラフォイドルより、ステラ先生を害なすクソ野郎のほうが殲滅優先度ははるかに上だ。
さて、いくら先生とはいえ、これだけ撃ちこんだのならくたばったろうと思ったんだけど、次の瞬間背中に尋常じゃない衝撃を受ける。
倒れながら聞いたのは『ガキの遊びに付き合っとるヒマはないと言ったはずだがね』というミラジフの声。煙の向こうのそいつは傷一つなくぴんぴんしてた。
『ちっ、やっぱダメか』とラフォイドル。どういうことかと視線で聞いたら、『あの野郎、流魔法の達人なんだよ』とのこと。
どうやら俺の魔法を流魔法で全部受け流し、わざわざ曲射(でいいのか?)して俺にぶち当てたらしい。しかも、すべての魔法を一度ため込んでからまとめて撃ちこむという離れ技。
いくら俺でも、俺クラスの魔法をまとめて無防備に喰らったらどうしようもない。即座にルマルマのみんなが『反則だ!』と声を上げるも、『私は自分の身を守っただけだ。受け流した方向は単なる事故だ』とミラジフ。
シキラ先生も、『積極的攻撃性は認められないため、ルール上は全く問題なし!』と超笑顔。あのひとホントなんなの?
『あの野郎が倒れればそれでよし、倒れなくてもあいつなら魔法をお前に跳ね返すってわかりきっていた。どっちにしろ俺にはメリットしかなかったんだよ』と、ラフォイドルが俺に杖を向ける。さすがに絶体絶命。
『まあ、ここまで粘っただけすげえよ。実力じゃ互角だったって』とラフォイドルがご丁寧にも暗黒極大魔法陣を組む。倒れて動けない俺に対し、『念には念を、な』と触媒まで使うガチっぷり。あいつらの卑劣っぷりに驚きを隠せない。
そして、『あばよ』と魔法が放たれた次の瞬間。
『──させないんだから』と超強力な結界を俺を包んだ。放たれた暗黒の龍がチリのようにかき消えていく。
何事かと思ったら、当たり前のように俺の隣にロザリィちゃんがいて、なんかわけわからん結界魔法を放っていた。
『なんだと!?』とラフォイドルが鳥かごを見る。『ロベリア! 転移魔法も封じてるんじゃなかったのか!?』と声を上げるも、『……転移魔法なら、封じてるわよ』と未だ鳥かごの中の女が答える。
『結界壊せばこっちの勝ちだろ!』とラフォイドルは暗黒魔法を連発。さっきよりもすさまじい攻撃。しかし、ほのピンクな結界は健在。文字通りびくともしなかった。これ、ひょっとしてナターシャの結界超えてるんじゃね?
さて、そんなこんなしている間にロザリィちゃん、倒れた俺をぎゅっとだきしめる。んで、頭をつかんで、『元気のおまじない♪』とかいって……
……ちゅっ♪ ってしてくれたぁぁぁぁ! しかも、ちょっとだけ舌が入ってきたの! いわゆる大人なキス! もううれしすぎてテンションマックス!
ロザリィちゃん超真っ赤。会場中から舌打ちと『うぉぉぉっ!?』と盛り上がる声。後ろで暗黒魔法が連発されてる危険な状況なのに、なんでこんなにも幸せなのだろう。
しかも、どういうわけかガチで体が軽い。動かなかったはずの体が普通に動く。よく見たらケガが全快しているうえ、体中に魔力がみなぎっていた。
さすがにびっくり。【浮気デストロイ】を使った時よりも明らかに強化されている。今ならステラ先生とタイマンできるだろうって思えたくらい。
どういうことかとロザリィちゃんを見たら、『これが私の得意魔法だよ♪』と答えてくれた。
ロザリィちゃん、愛魔法の使い手だった。『愛する人の元へ行くのも、愛する人を守るのも、愛する人を癒すのも、愛する人に祝福を授けることもできるの』とのこと。
ただし、相手と相思相愛でなくてはならず、愛魔法そのものに攻撃性能はほとんどない。ついでに言うと愛が裏切られると自身に尋常じゃないダメージを負ううえ、そもそも愛がないと魔法が発動しない。ついでに、愛魔法の相手として認定できるのは一人だけ。
すんげえピーキーな魔法だけど、その分効果は凄まじい。愛が深ければ深いほど強力になるらしく、愛さえあれば大抵のことはできるんだって。
そりゃ、無敵の力を得られるわけだ。だって俺とロザリィちゃんラブラブだし?
とりあえず、手始めに鳥かごの女を鳥かごごと魔法弾でぶっ飛ばす。『ふざけないでよ!』って捨て台詞とともに場外にとんでいった。あ、もちろん鳥かごはバラバラね。観客席の結界までひびが入ってびっくりしたよ。
で、ラフォイドルと相対。俺の愛の杖も絶好調で、単純な風魔法狙撃でさえギルのパンチ以上の威力がある。ラフォイドル、全力で暗黒の鏡で受け流すも、鏡は砕けたうえに攻撃の余波を喰らって吹っ飛んだ。
ついでに、俺も憎きミラジフに【浮気デストロイ:ピュアハート】を叩き込む。これ、ロザリィちゃんの愛のおかげで面倒な手順をすっ飛ばした優れもの。一応は射線上にラフォイドルがいたから、あくまで【外しただけ】。
もちろん、『外しただけだから問題なし! 未熟なうちはよくあるよくある!』とシキラ先生は超いい声でアナウンスしていた。
『こざかしいガキが……!』とミラジフは魔法を受け流そうと杖を構える。かなりガチな攻撃魔法なのに、さすがに先生だけあって、ちょっとずつ魔法の向きを変えていた。
が、ここでアエルノから悲鳴。なんと奴らの足元が凍り付き、さっきクーラスを腹パンしたやつの拳から無差別に雷魔法が打ち出されていた。
『なにしやがる!』って悲鳴と、『俺じゃねえ!』って罵声。アエルノチュッチュの何人かはこの時点で倒れる。しかしミラジフは、完全に足元が凍り付き動けないながらも器用に雷魔法を流魔法で受け流していた。
『どういうことだ──?』とミラジフも会場のみんなも、俺やラフォイドルさえぽかんとした瞬間。
アエルノの席が尋常じゃない爆炎に包まれた。
もうね、マジでびっくり。轟音ってレベルじゃない音と黒い煙が高々と上がり、こっちまで爆風が届いたくらい。
『ざまあみろ……』と誰かのつぶやき。意識を取り戻したクーラスが、子供にみせちゃいけない笑みを浮かべていた。
どうやらクーラス、さっき攻撃を喰らう瞬間に極点的な罠魔法陣を相手に仕込んだらしい。杖を突きつけられた時に爆破罠魔法陣を、腹パンされたときに無差別雷矢魔法陣を、腹キックの時に範囲氷結罠魔法陣を。それも全部隠蔽魔法を施すという徹底っぷり。
で、それらがアエルノの連中の魔力をちょっとずつ吸い上げ、臨界を超えて発動したそうな。
クーラス、『お前の吸収魔法と魔喰の触種、あとキート先生の話が役に立ったぜ……』と笑ってた。『ケガは大丈夫だったのか?』との問いには『実はローブは完成してたんだぜ?』と得意げ。
いくらなんでも離れ業過ぎると思ったら、夏休みのローブが完成していたらしい。耐久性はもちろんのこと、罠魔法の補助になる魔法陣を組み込みまくってるのだとか。
さて、煙がはれるとほとんどのアエルノが倒れていた。ミラジフも立っているとはいえボロボロ。そりゃそうだ、俺の【浮気デストロイ:ピュアハート】も喰らってるんだし。
当然、『決闘者以外が攻撃するのはルール違反だ!』と声が上がる、しかし、クーラスは『俺が魔法を仕掛けたのは決闘者の時だ! ついでに言えば、俺は仕掛けただけで発動させたのはお前らだろうが! それに敵が敵チームを攻撃しちゃいけないなんてルールはねえッ!』ってキレ気味に言い返す。
もちろん、『ルールは破ってないから問題なし! 仕掛けられたのに気づかなかった方が悪いよな!』ってシキラ先生が超笑顔で言い切っていた。
戦っている立場であれだけど、魔系ってホントクレイジーだと思う。
さて、あとはもうラフォイドルにとどめを刺すだけ。この時点で場外では【ルールに抵触しない】範囲でアエルノとルマルマが乱戦をしており、魔法が飛び交っている。シューン先生もシキラ先生も『これだよこれこれ! ようやく面白くなってきたぁ!』とテンションアゲアゲ。
オーディエンスの上級生のテンションもすさまじいことになっていた。『ようやく魔系の決闘らしくなってきたじゃないか!』、『今までお行儀良すぎたんだよ!』との声も。
ここでようやく、結界が観客席にしか張られていなかった理由を知る。もしかして、魔系の決闘ってこういうのが普通なのか?
あ、ちなみに倒れているクーラスはミーシャちゃんのリボン、あとギルの筋肉が守っていた。ミラジフに対しては目の色がヤバい感じになったステラ先生がにらみを利かせていた。俺も存分に暴れられるようにという配慮だろう。
さて、憎きアエルノチュッチュとはいえ、俺も倒れた敵をいたぶる趣味はない。ついでに言えば、今のラフォイドルにラブパワーマックスな魔法を撃ったら命にかかわる。
ので、優しくラフォイドルに肩ポンして、地面からヴィヴィディナを引き抜きあいつの口の中にぶちこんだ。
実はさ、最初の試合の時、ヴィヴィディナは群体を作って土の中に潜んでいたんだよね。今はもうフィールド全てがヴィヴィディナで満ちているって感覚で分かったんだよ。つまり、いつでも倒そうと思えば倒せたけど、騎士道精神あふれて紳士な俺はちゃんとあいつにあわせて決闘をしていたってわけ。
『がぁぁぁぁぁぁッ!?』と、ラフォイドルは尋常じゃない悲鳴を上げる。ヴィヴィディナを口に突っ込んでいるんだから当然だろう。俺も勝利を確信した。正直なことを言えば、ちょっとやりすぎたとすら思っている。
が、俺はまだまだあいつを舐めていた。アエルノチュッチュを、ラフォイドルを舐めていた。あいつも魔系で、あいつもクレイジーだってことを忘れていた。
審判をチラ見して、勝利宣言を上げてもらおうとした瞬間、尋常じゃない不快感と激痛が体を襲った。
朦朧とした意識であたりを確認したら、俺とラフォイドルの心臓がヤバそげな鎖でつながれている。
一回だけ見たことある。あれ、【道連れの怨念鎖】っていう自分のダメージをそのまま相手に反映させるヤバい魔術だ。
当然、そんな魔術をホイホイ使えるはずがない……というか、あの満身創痍で使えるはずがないんだけど、あいつはやり切った。根性で魔力を制御し、自らの肉体を触媒として使ってまで。
あいつの執念に驚きを隠せない。つーかさ、ありえなくない? 普通自分の体を触媒に使ったりする? しかもあの激痛と不快感の中でだぞ?
もうね、余裕だったのに一気にピンチになった。俺もラフォイドルも致命傷一歩手前。魔力を練る余裕なんてなかった。
ただ、いくらダメージ共有しているとはいえ、実際にヴィヴィディナにつかれているのはラフォイドルだから、あいつが先に倒れると思ったんだけど、なんとあいつ、恐ろしいことに『しゃらくせぇッ!』って……
口内のヴィヴィディナを全部噛み潰した。緑色のヤバそげな液体が奴の口からあふれていたことをここに記しておく。
そこからはもうひどかったね。新しいヴィヴィディナはもう来ないけど、体内の激痛と不快感はいまだ続く。だけど、互いに倒れない。魔法も使えない。
だから、俺もラフォイドルもフラフラしながら無言で殴り合った。自分でいうのもなんだけど、鬼気迫る表情だったと思う。互いにダメージを共有してるため、攻撃が決まるたびに悲惨なことに。お互い血へドを吐きまくっていたと思う。
そしてとうとう、限界が訪れる。クロスカウンターが互いに決まり、二人して力尽き、二人して倒れる。
最後の瞬間、俺は残りの力を振り絞ってあいつのズボンをずりおろした。
記憶に残っているのはここまで。次に目覚めたのは医務室。ドクター・チートフルがすごくすごく疲れた顔しており、目覚めた俺に気づいて『ルマルマの組長が目覚めたぞ』って外に声をかけてくれた。
途端にみんながやってきて『よくやった!』と声をかけてくれた。ロザリィちゃんとステラ先生は涙目になりながら抱きしめてくれた。ちょっと傷に響いたけど、めっちゃ幸せ。
あ、隣ではクーラスが『無茶しやがって……』って横になってたよ。『お前もな』って言っといたけど。
肝心の結果だけど、俺とラフォイドルが倒れたのは同時で引き分けってことになったらしい。会場も半壊しており(一年生の決闘では初めてとのこと)、サドンデスによる続行も不可能なため決闘そのものも引き分けになったとか。
ただ、『決闘は引き分けだけど勝負は勝ちだぜ!』とポポルやフィルラドが超嬉しそうに教えてくれた。ラフォイドルは大勢の観客の前で……まあ、かなりアレな……ねえ? 俺、上品だから全部は書かないけど。
あ、ロベリアって例の女が『粗末なもん見せないでくれる? 目が腐るんだけど』って黒薔薇で隠したらしいよ? 当然隠すまでは全部さらけ出していたわけだけど。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。めっちゃ日記が長くなった。昼間に寝たためちょっと目がさえてたんだよね。決闘の終わりで興奮してたってのもあるだろうけど。
さすがにそろそろ寝よう。ギルの鼻にはなぜか俺のフードに入っていた決闘場の石を詰めておいた。おやすみ。




