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207日目 発展魔法生物学:フィーリングフルーツの栽培について

207日目


 ギルの爪が鱗に。この程度なら割と普通……なのか?


 ギルを起こして食堂へ。今日は無難にベーコンエッグをチョイス。カリカリなベーコンと半熟の卵、そして程よく効かせた塩コショウがなかなにグッド。半熟具合とカリカリ具合をこうも両立させられるとか、おばちゃんもなかなかやりおる。


 もちろん、白身の部分は膝に乗ったちゃっぴぃに食わせてやろうとしたんだけど、『きゃーっ♪』とか言ってあいつはトロトロ半熟とカリカリベーコンだけを喰っていってしまった。鬼畜の所業に涙を隠せない。


 でも、ロザリィちゃんが『好き嫌いしないで白身も食べるようにっ!』って『あーん♪』ってやってくれて超幸せ。しかも、『私のとはんぶんこしよ!』ってカリカリベーコンも『あーん♪』ってしてもらえた。幸せすぎてついついベーコンエッグをお替りしてしまう。ロザリィちゃんの可愛さは犯罪的だ。


 なお、ギルはいつも通り『うめえうめえ!』とジャガイモを喰っていた。ヒナもケツをふりふりしながらジャガイモの山に頭を突っ込んでいた。爪が鱗になってることなんて気にもしていないらしい。


 さて、今日の授業はピアナ先生、グレイベル先生による発展魔法生物学。『…シキラ先生のテストは大丈夫だったか?』と聞かれたので、『ジャスティスを語るのに時間がかかりました』と答えたら、『先生のジャスティスはジャムクッキーだよ!』ってピアナ先生が蕩ける笑顔を浮かべてくれた。超かわいい。心が癒されまくる。


 ちなみに、グレイベル先生のジャスティスは『平穏な日常とウマい飯』だそうな。『グレイベル先生はジジ臭いって思うひと手ぇあげてっ!』ってからかうピアナ先生がお茶目キュートでステキだった。なお、クラスの半数以上(主に男子)がピアナ先生のスマイルにより無意識に手を挙げてしまっていた。


 肝心の授業内容はフィーリングフルーツについて。こいつ、見た目はさくらんぼ程度の大きさで、くすんだ茶色をしている地味な実なんだけど、隠されし特徴があるとかないとか。とりあえず、そのメモをまとめておく。



・フィーリングフルーツは非常に感受性の高い果実である。何らかの方法を用いて気持ちを込めることにより、果実に色が宿り、また味も変化する。気持ちのこもっていないフィーリングフルーツは無味無臭である。


・フィーリングフルーツは込められた感情によりその形態や性質を変える。例えば、怒りの感情を込められた場合、主として赤くなる傾向があり、刺激的、かつぴりぴりした味わいになる。また、形もいくらか刺々しさをもつようになる。逆に、優しさを込めた場合、主としてピンクやオレンジといった柔らかい色合いを持つ傾向があり、包容的、かつ穏やかな味わいになる。また、形はハートを模擬したようになり、触り心地も柔らかくなる。変な気持ちを込めるとショックを受けて触れたところから爛れていく。


・込められた感情によっては、フィーリングフルーツは劇薬にもなりうる。過去にドス黒く、悍ましい形をし、明らかに食べてはいけない気配のするフィーリングフルーツが発見されたことがあったが、これを食した勇気ある研究者は、一週間生死の境をさまよった。なお、フィーリングフルーツ自身にそんなつもりはなかったらしく、ショックを受けて爛れたらしい。


・栽培する際は、人の意思に触れさせない必要があるため、無機的な使い魔、およびゴーレムを用いることが推奨される。育て方そのものは普通の植物と変わらないが、苗木の段階でも敏感に感情を受け取ってしまうため、迂闊に人が育てるとどんな性質を持つか予想ができない。が、あまりに感情に触れないでいるとショックを受けて全体が爛れていく。


・まごころを込めて育てる。込めないとショックを受けて爛れていく。


・収穫は愛情をこめて行う。



 先生たちが用意してくれたのはフィーリングフルーツの大きな株。実が鈴なりで、どれもまだ変化前。『ここまでくるとだいぶ安定し、収穫した直後の感情に反応しやすくなっている』ってグレイベル先生が言ってた。


 で、早速適当にもぎ取り、気持ちを込めてみる。特に何も意識してなかったのに、紫と緑とオレンジが混じったおどろおどろしい色合いの、トゲトゲしてるのに優しい感じの丸みのある……と見せかけて極点的に触り心地がヤスリみたいになってる実になった。いったいどういうことだろうか。


 先生にみせたら、『たぶん食べても大丈夫……かも?』とのこと。一口だけかじってみたけど、エグさと爽やかさと甘さと苦さと性格の悪さがみっしり詰まった奇妙な一品だった。しかもやたらと種が多くて食べにくい。


 なお、フィーリングフルーツはその性質上、言ってることがホントかどうか確かめるための尋問道具に使われることがあるんだって。こいつを手に持たせた状態で質問をし、どう変化するかを見ることでその真意を探るそうな。


 が、『割と昔の話だけどね!』とはピアナ先生の談。今はもっと便利なものもあるし、特殊なケースを除いて使うことはないらしい。


 また、気持ちを込め合ったフィーリングフルーツを送りあう遊びがあるらしい。互いに気持ちを込め合い、それを相手に送ることで言葉にできないそれを伝えるのだそうだ。『特に恋人たちの間で流行っているんだ!』ってピアナ先生は言ってた。


 さっそくありったけのロザリィちゃんへの愛を込めてみる。情熱的で赤く、燃えるようにきらめきながらも蕩けるような触り心地のフィーリングフルーツになった。これが俺の心かと思うとなんかちょっと照れくさい。


 『どうぞ♪』ってロザリィちゃんがくれたのは完璧ピンクのハート……なうえでなんか形容しがたい星空のようなきらめきとグラデーションがあるやつ。もう見るからに愛にあふれる一品。


 味? 書くまでもないだろ? 最高にエクセレントに決まってるじゃないか。


 なんか、この遊びが恋人の間で流行っている理由がわかる気がする。気持ちのこもった果実を食べると言葉にできない幸福感というか、満たされる感じがする。なんかクセになりそう。ロザリィちゃんも『……♪』ってすっごくうれしそうに食べていた。


 なお、ミーシャちゃんは『なんかジャガイモの味がするの……』って呟いていた。ギルは『見た目の割に食い応えあってうめえ!』って言ってた。アルテアちゃんは『……なぜに桃の形?』って首をかしげていた。フィルラドは『なんか頬がじんじんしてくるんだけど』ってほっぺを押さえていた。パレッタちゃんは『恐怖……の中にあるこれは……?』って恍惚の表情を浮かべていた。ポポルは『なんかヤバいほうの中毒性がある……!?』って涙目になってた。


 誰が誰のフィーリングフルーツを食べたのかはあえて書かないでおく。あ、ジオルドとクーラスはどっちも『……殺意の味だ』って呟いていた。物騒な人ってやーね。


 あ、ちなみにこのフィーリングフルーツは変身薬や試験薬(魔法的物質の性質を調べるアレ)、転写触媒などに幅広く扱われるらしい。変質前のものはもちろんのこと、変質後のものも性質ごとに用途があるから、魔法材料の中でも特に運用範囲が広く、また栽培に人の手が使えないこともあって、慢性的に品薄状態なんだそうだ。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。今日はあまり危険な植物じゃないし結構のんびりと楽しめたと思ったけど、たぶんテスト週間だから先生が気を効かせてくれたのだろう。そんなところにマジ惚れる。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。さすがにフィーリングフルーツはもらえなかったので、無難にウォルターの羽をもいで鼻に詰めておいた。羽の鱗粉を瓶詰してから寝ようっと。

20151027 誤字修正

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