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203日目 魔法造成実習:星筒蝕造盤を用いた陣造の基礎

203日目


 ギルの目が虚ろ。俺、何にもしーらないっと。


 ギルの手を引き食堂へ。あの野郎、目の前に大好きなジャガイモの山があるのにぼけーっと座ったまま手を付けようともしなかった。


 あまりの異常事態にルマルマのみんなが心配して駆け寄ってくる。『ジャガイモこんなにあるんだぞ!?』ってポポルがジャガイモを目の前でプラプラさせても『おう……』と覇気のない返事をするだけ。ヴィヴィディナが全身を這いずりまわっても眉一つ動かさない。こいつぁ本格的にまずい。


 が、ここにきてミーシャちゃんが『ジャガイモ食べないと嫌いになっちゃうの!』って涙目でギルにジャガイモを突きつける。ギルのやつ、一瞬ぴくりと表情を動かし、ゆったりとジャガイモを手に取った。


 しかし、『はあ……』と手に取ったそれを皿に戻してしまう。ジャガイモ大好き人間のこの奇行に、さすがの俺も開いた口が塞がらなかった。


 もはやルマルマの全力でジャガイモを食わせるしかない……と思ったところで衝撃展開。なんと、ミーシャちゃんが『お願いだから食べてっ!』って大きな大きなジャガイモにかじりつき、それをくわえてギルの口に押し付けたのだ。


 ちょっと不格好だけど、俗にいう口移し。ミーシャちゃん、今にも泣きそうな顔で『食べて! 食べて! 食べてってばぁ!』って何度もギルの口にジャガイモを押し込んでいた。あまりのその迫力に、ついつい俺もギルの口を横からグイッて引っ張って口移しさせやすくしちゃったくらい。


 さて、何度かミーシャちゃんがギルにジャガイモを食べさせてると、『う……お……?』と、ギルの瞳に力が戻ってきた。ミーシャちゃんのキスが加速する。ジャガイモを送り込む様も情熱的になってきた。


 そしてとうとう、ミーシャちゃんがジャガイモの最後のひとかけを舌で押し込んだ瞬間、『うめえうめえうめえぇぇぇぇぇっ!』ってギルが雄叫びを上げる。あと、ミーシャちゃんとギルが勢いあまってぶっちゅう! ってしてた。


 ロマンもへったくれもクソもないが、まあギルが元気になっただけよかっただろう。こいつには毎回苦労を掛けさせられるが、健康であるのはいいことだ。今後二度とこんなことにならないよう体調管理をしっかりしてほしいものである。


 クラスみんなで喜びの歓声をあげ、ギルの背中をバンバンと叩く。ギルもすっかりいつも通りで、さっきまでミーシャちゃんがぶっちゅうしていたこともすっかり気づいていないみたいだった。ミーシャちゃんは『本当に良かったの……!』って泣いて喜んでいた。


 今日の授業は女神ステラ先生の魔法造成実習。ステラ先生、出席を取るときにみんながやたら晴れやかな顔をしているのを見て、こてんって首をかしげて不思議がっていた。そんな姿がマジプリティで最高。


 内容は星筒蝕造盤を用いた蝕造について。この星筒蝕造盤ってのは文字通り蝕造をするための魔道具で、任意の星の軌跡を模した運動軌跡を取る砥魔石に対象物を作用させることで蝕造を行うものなのだそうだ。


 この星の軌跡ってのは主に円運動(回転)なんだけど、どの星の軌跡を選択するかで完成品にある程度の属性を付与することができるらしい。『ほとんど同じ軌跡にしかみえないけど、完成品は驚くほど別の性質をもつものになるんだよ!』ってステラ先生が言ってた。


 で、今日はこいつの操作方法について学ぶ。蝕造も裂造の仲間だからか、基本的なポイントとしてはこないだのフラウルとそこまで変わりはない。ただ、こっちの場合は魔法陣の外周方向のファンクションパターンの陣造がメインだから、使い勝手というか、やってる感覚がだいぶ違う。結果だけ見れば同じようなもんだけど、その辺はきちんと注意して取り組んだ方がいいっぽい。


 つーか、魔力塊のほうも回転させてるから必然的に外周全体への陣造ってことになるんだけどね。むしろ、そのために作られた感が半端ない。


 あと、砥魔石の回転が思いのほか高速でビビった。星の軌跡で回転してるとかいってたけどあまりにも早すぎて普通に回転しているようにしか見えなかった。言われても気づかないレベル。


 そうそう、星筒蝕造盤に砥魔石を取り付けたのはステラ先生なんだけど、実はあれって特定の資格を持った人間しか取り付けちゃいけないらしい。


 『どうしてそんな決まりがあるんですか?』って聞いたら、『もし砥魔石にひびが入っていたり、取り付けの仕方が悪かったりすると、蝕造中に砥魔石が砕けて飛散することがあるから……』ってステラ先生が悲しそうに答えてくれた。


 砥魔石ってもともとちょっと割れやすいうえ、高速回転させるものだから、ちょっとしたことでも砕けて大惨事になるらしい。鋭い破片一つ一つがアルテアちゃんの弾幕以上、ポポルの連射速度よりもすさまじい勢いでその場に飛び散り、使用者及び付近にいる人を蜂の巣にしてしまうそうな。


 ちなみにもしこの事故が起こったら、あらゆる角度から目にもとまらぬスピードで飛んでくる無数の破片を避けるくらいしか助かる方法はないらしい。蝕造に魔力を使っている分、結界なんかを張る余裕はないそうだ。時間的にも一瞬のことだしね。


 なお、室内での蝕造を前提としているから、たとえそれをよけきれたとしても、床や壁、天井に跳ね返ってさらに無茶苦茶な軌道をとる破片の対処もしなくちゃいけないとのこと。


 『もうどうしようもないじゃないですか』って言ったら、『うん。先生でも、十回事故起こしたら三回は死んじゃうと思う。だから事故を起こさないように最善の注意を払うの』と困ったように笑ったステラ先生に返される。


 ステラ先生、そんなヤバそげな事故が起きても十回中七回も生き残れる実力があるわけだ。グランウィザードマジすげえ。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。今日も本格的な作業はしなかったからレポートは来週まとめてだって。あと、これも中間テストはないとのこと。


 そうそう、今日は珍しくギルが遅くまで起きていた。『眠れないのか?』と聞くと、『親友にだけ打ち明けるが……』と、なにやら重大なことを話そうとしてくる。


 ワクワクしながら耳を傾けたら、『……俺、ジャガイモと同じくらい好きなものができたかもしれない』って初めて見る深刻な表情で告げてきた。


 『どうすりゃいいんだ……!?』とアドヴァイスを求めてきたので、『筋肉の導きに従え』とだけ告げておく。


 こいつにジャガイモと筋肉以外を考える脳みそがあったことに驚きを隠せない。ミーシャちゃんにとってはうれしいお知らせなのだろうか。


 とりあえず、人前でイチャイチャさえしなければ、俺にとってはどうでもいい話だ。もちろん、クラスメイト……特に親友の幸せは素直に祝福したいけどね。これぞ青春って奴だろう。


 『やっぱ筋肉最高だな!』と満足したギルは今日も安らかに大きなイビキをかいている。気分が乗ったので、今日は秘蔵のムーンフェアリーの涙を俺ワンダフル三号でガチガチに固めたものを鼻に詰めてみた。グッナイ。

20151024 誤字修正

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