198日目 震撼のトイレ戦争
198日目
おなかイタイおなかイタイおなかイタイおなかイタイ。
猛烈な腹痛で飛び起きる。ギルの奴も『ぐぉぉぉ……!』と腹を抱えて呻いていた。二人の中で何かが通じ合い、ドアをぶち破ってトイレにダッシュする。
が、すでにそこは戦場と化していた。男子トイレにはヤバそげな表情をしてお腹を押さえる男子がひしめき合い、なぜか男子トイレの前で真っ青な顔して杖を構えるアルテアちゃんやパレッタちゃん他数名の女子を取り囲んでいる。
『ちょっとシャレにならないからどいてくれないかな?』となるべく笑顔で問いかけるも、『たった今男子トイレは女子が占拠した』と絶望の宣言がなされた。
なんでも、女子トイレも人がいっぱいなため、細かいことを気にしている場合じゃなくなってしまったらしい。
『男子が男子トイレ使わずにどこ使えってんだよ!』とフィルラド。アルテアちゃん、冷や汗をかきつつもいい笑顔でくいっと親指で外を指す。
鬼だ。悪魔だ。外道がいる。男子みんな愕然。パレッタちゃんならともかく、普段のアルテアちゃんなら絶対しない鬼畜の仕打ち。
『男子は外でよくやるって話じゃないか。レディはそういうわけにもいかなくて、な』ってアルテアちゃんは言い、超すっきりした表情で出てきたちゃっぴぃとバトンタッチして全力でトイレにダッシュしていった。
トイレ入り口に展開される魔導結界。いつも以上にガチに杖を構える女子たち。男子の団結力もすさまじかったけど、女子たちのはそれ以上。一人が帰ってくるたびに防衛にあたっていた一人と入れ替わり、常にトイレをフル使用&防衛を充実させている。
『空いたならどいてくれ!』と男子が懇願するも、『デリカシーないの?』、『女の子のほうが大事でしょ?』、『安心して! 大切なクラスメイトだもの! 何があっても軽蔑しないわ!』と冷ややかな笑顔を向けてくる。奴らに慈悲はない。
これはもうギルによる強行突破をするしかないと男子一同腹を決める。さすがにケツが限界。
が、ここで何処からともなく現れたエンジェルロザリィちゃんが『──くぅん♪』って俺をぎゅっと抱きしめ、ほっぺにちゅっ! ってしてくれた。さらに、『お・ね・が・い・♪』と耳元でささやかれる。
こんなにプリティなんだもの、ついつい男子全員に不可侵の呪をかけちゃってもしょうがないよね。あ、その瞬間の絶望の悲鳴は天井をカサカサ這いまわっていたヴィヴィディナがおいしくいただいていた。
『てめえマジふざけんな!』、『今日という今日はぶっ飛ばす!』、『よくやったわ! あとでロザリィが膝枕してあげるって!』、『バカップルもたまには役立つわね……!』と様々な声がクラスルームに響く。いつもより微妙に声が小さかったのはしょうがないことだろう。後いつの間にかロザリィちゃんが消えていた。いったいどこにいったんだろうか?
幸いなことに、いつもなら飛んでくるはずのケツビンタは飛んでこなかった。今この状態でそんなことをしたらタダじゃ済まないからだ。超えちゃいけないラインはみんな守るらしい。
もちろん、俺だって何の策もなしにロザリィちゃんのお願いを聞いたわけじゃない。『魔材研とエルメダノッサに行くぞ!』と先導して突っ走る。扉を開けるのも面倒だったので、立ちふさがるものはみなギルの筋肉と俺の魔法で吹っ飛ばした。何人か上級生も吹っ飛ばした気もするけど気にしない。
そして目に入る天国へのゲート。限界まで研ぎ澄まされた心が互いの意思を伝播さえ、誰も争うことなく揺りかごに収まる。ギルは今まさにトイレに入ろうとしていた上級生を神速の筋肉で阻止するというファインプレーを見せてくれた。
結局、男子全員なんとか窮地を脱することに成功する。ちょうすっきり。あれだけの安心感を味わえることもそうそうないだろう。
その後はみんなクラスルームでゆっくりしていた。『ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって……!』、『あーら、おほめに預かり光栄ですぅ』と、男子と女子とで若干の溝ができているものの、俺とロザリィちゃんはラブラブのまま。
あと、ロザリィちゃんが約束通り(?)膝枕をしてくれて超幸せ。ふかふか。あと、素晴らしいそれが目の前にある。頭もポンポンしてくれた。『あの後どこ行ってたの?』と聞くも、『女の子には秘密がいっぱいあるの!』とはぐらかされる。そんな姿もマジプリティ。
夕方ごろ、俺たちが死にそうな顔でトイレに駆け込むのを腹抱えてゲラゲラ笑いながら見ていたシキラ先生が、『今日おまえらんところで異常魔素雰囲気が発生していたっぽいぜ!』と教えてくれた。
さらに、『アエルノチュッチュの連中がバルト、ティキータの前の廊下に魔法陣を仕込みまくっているのも見ちゃったぜ! そっち行ってたら超面白いことになってただろうな!』とステキな情報も提供してくれた。
腹痛の原因が意外な形で判明。やっぱりアエルノチュッチュの卑劣な罠だった。あまりにもえげつないやり方に怒りを隠せない。奴らには人の心というものがないのだろうか。あまりにもクソすぎて言葉が浮かばない。
ちなみに、『なんでそんなことを教えてくれるんですか?』ってシキラ先生に聞いたら、『俺他人が争うの見るの超好きなんだよね!』といい笑顔で返される。やっぱこの人クレイジーだ。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。休日なのに全体的に疲れた。ベッドの中で復讐の方法を考えようと思う。
とりあえず、ギルの鼻には復讐の刃(の欠片)を入れておいた。おやすみ。
※燃えるゴミも魔法廃棄物もすべてトイレに流してしまえ。




