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193日目 発展魔法生物学:握手花の栽培について

193日目


 俺のくしゃみが止まらない。どういうことなの。


 くしゃみをしながら食堂へ。容赦なく続くくしゃみのせいでせっかくのスクランブルエッグが酷く食べづらい。ちゃっぴぃのやつ、そんなのお構いなしに俺の膝の上で『きゃーっ♪』って笑いながらスクランブルエッグをケチャップまみれにしやがった。


 ちょっとイラッとしたのでくしゃみをちゃっぴぃの後頭部にぶっかけてやろうと思っていたら、今日もプリティなロザリィちゃんが『あんまり無理しないでね?』って後ろからぎゅってしてくれた。


 めっちゃぬくやわこい。超幸せ。しかも、『元気になるおまじない!』って言ってほっぺにちゅっ! ってしてくれた。幸せすぎてマジで一瞬意識が飛んだ。ちょっと赤くなって恥ずかしがるロザリィちゃんが最高にかわいかったです。


 なお、ギルは『ジャガイモ食べれば一発で治るぜ!』ってジャガイモをくれた。『気持ちだけ受け取っておく』と答えたその瞬間に、『うめえうめえ!』とペロッとジャガイモの山を平らげた。食べるのを我慢していたのだろうか?


 そうそう、パレッタちゃんが『その風邪、ヴィヴィディナに捧げます?』と人形形態のヴィヴィディナを差し出してきたけど、丁重に断っておいた。だってヴィヴィディナ、足をカサカサさせながらケタケタ笑ってるんだもん。超怖い。


 でも、ロザリィちゃんがプルプル震えながらぎゅ──っ! って抱き着いてきて超うれしかった。今度からヴィヴィディナとも仲良くしておくべきかもしれない。


 今日の授業はグレイベル先生、ピアナ先生の発展魔法生物学。二人とも、パレッタちゃんの背中を這いずるヴィヴィディナ(ナメクジ形態)を見て一瞬で杖、大地のスコップを準備するも、『そういえば今日はルマルマだったか』って勝手に納得していた。ちょっと意味が分からない。


 内容は握手花について。こいつ、その名の通り手のひらっぽい形の赤い花で、何か物が近づくと優しくそれを閉じて『握手』してくるらしい。


 好奇心旺盛な生き物なんかは面白がって何度も握手するらしいんだけど、当然のことながらこの植物もかなり危険なやつ。なんと、握手と同時に獲物に魔力マーキングを施し、その夜に再び握手しに根を動かして獲物の元へと赴くのだそうだ。


 二度目の握手は一度目のそれとは異なり、文字通り手がもげるほど強力なやつ。獲物の住処にいる生き物全員に『握手』を施し、腹いっぱいになると同時に『俺のほうが格上だぞコラァ!』と顕示するとのこと。


 いつも通り、栽培メモをここに記す。ふと思ったけど、この日記って参考書的な意味でけっこう有効性があるんじゃね?



・握手花は触れさえしなければ大人しい花である。日当たりのよいところに生息し、赤く鮮やかな花を咲かせ、ちょっぴりの甘い香りを放つ。その花びらに触れると、おずおずと花弁を閉じて『握手』をしてくる。気のいい奴だと情熱的な握手をしてくる。


・握手花は握手の際に強力な魔力マーキングを施す。日が沈むとその魔力マーキングを伝って獲物の元に行き、エサとしてその手を『握手』によって貪る。その力は非常に強力であり、普通の生物の場合まず間違いなく手首すべてが持っていかれる。気に入ったやつだと情熱的な握手をしてくる。


・栽培する際は周りに何もない場所に植える。基本的には普通の植物と同じように育てることができるが、花弁に触れた物すべてに『握手』を施すため注意が必要である。気分がノっていると情熱的な握手をしてくる。


・握手花にゴブリンモールドを肥料として与えると、握手の威力がいくらか弱まることが知られている。逆に妖精の涙の類を与えると魔力マーキングが強力になることが知られている。元気がいいと情熱的な握手をしてくる。


・握手花の元気がない場合、適当な生き物を捕まえ、強制的に『握手』させることで栄養を効率よく与えることができる。好物を与えると情熱的な握手をしてくる。


・まごころを込めて育てる。まごころを込めると情熱的な握手をしてくる。


・収穫は愛情をこめて行う。



 実際に握手をするのを見たけど、たしかに最初の握手はすっげぇ可愛らしい感じのやつだった。もし俺が子供だったら面白がって何度もしていただろって確信するくらい。


 が、ピアナ先生が『ちょっと変則的だけどね……』って魔法を使って握手花を活性化させると、途端に凶暴化し、根で立ち上がって握手したゴブリンの手首をバクッてかみちぎっていた。超怖い。


 ちなみに、魔力マーキングで獲物を見つけるため、握手したとしても魔力水か何かで浄化すれば問題ないらしい。ただし、逆を言うと魔力水とかで浄化しない限りどうがんばったってマーキングを落とせないってことだけど。


 せっかくなので握手してみたら、思いのほかやわらかい感触でなかなかにグッドだった。花のくせにご丁寧にもほのかなぬくもりまである。しかも微妙にぷにぷにでいい感じ。ちょっとクセになりそう。


 ポポルとフィルラド、あとちゃっぴぃも面白がって握手していたら、『……あっ、魔力水持ってくるの忘れちゃった』とピアナ先生がポツリと漏らす。その瞬間の二人と一匹の顔はとても言葉で表せるものじゃなかった。


 ガチ泣き一歩手前で二人と一匹ともが『お前ならなんとかできるだろ!? なんとかしてくれよ!』、『大丈夫! こいつだってお前喰ったら食あたりするって本能でわかるって!』、『きゅぅぅ!』って俺のローブに手をこすりつけてきやがった。マジ何なの?


 で、それを見たパレッタちゃんが『ヴィヴィディナが全部喰らうてやろうぞ』って問答無用で奴らの手をヴィヴィディナの中に突っ込んでいた。直後に尋常じゃない悲鳴。『もじゃもじゃちくちくする!?』、『ぬめぬめぺたぺたする!?』、『きゃーっ!?』とみんな違う感想。ただし、手はしっかりと浄化されつくされていた。ヴィヴィディナマジすげぇ。


 そうそう、その握手花は『筋肉握手しようぜ!』と笑顔でポージングを決めたギルとタイマンバトルを行い、見事にぐしゃぐしゃにされてしまっていた。『弱え弱え!』ってあいつは言ってたけど、グレイベル先生は『…鋼鉄すら粉々に砕くはずなんだが』って半ばあきらめたように呟いていた。


 なお、それを聞いたミーシャちゃんは『鋼鉄程度しか砕けないんじゃ負けるのも当然なの』ってなぜか超自慢げだった。女の子ってわからない。


 ちなみに、握手花は固定剤や属性分離剤、さらには筋肉増加薬(!)に使われるらしい。この手の魔法植物としては比較的安全に栽培できるから、うちの学校で使われている薬剤にも多く使用されているそうな。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ポポルが『よく考えたらヴィヴィディナに手を突っ込む必要なかったじゃん!』ってパレッタちゃんに文句を言っていたけど、パレッタちゃん、『なに? ヴィヴィディナじゃなくて私に舐めとってほしかったの?』と逆にポポルを挑発。


 ポポルのやつが『おーおー、やれるもんならやってみろ!』と意地を張ると、直後に『みぎゃあああ!?』という悲鳴が響き渡る。


 なんと、パレッタちゃん、ポポルの手を舐め、首を舐め、耳を舐め、そして首筋に吸血鬼のように噛みついていた。さすがにちょっとびっくり。


 『やはり……極上……!』って恍惚の表情を浮かべていたけど、ポポルは涙目でぐすぐす鼻を鳴らしていた。役得のはずなのに、なぜかそう思えないのが不思議。


 クーラスとジオルドは『おーおー、やっぱりポポルさんは我々と格が違いますなぁ』、『俺もナチュラルに誰かとイチャイチャしたいものだ』って涙目ポポルを見て笑っていた。あいつら、最近性格がゆがんできたと思う。超怖い。


 ギルは今日も大きなイビキをかいて寝ている。俺がくしゃみをしていてもまるで起きる気配がない。こいつの寝付きのよさって才能だと思う。


 今日はなぜか俺のローブに入っていたヴィヴィディナの触角をギルの鼻に詰めた。この触角、なんかカタカタ音がするんだけどなんでだろうか。超不思議。


 就寝前に嫌なものを見てしまったので、こないだのステラ先生のせくしーえきぞちっくダンスを見ながら寝ようと思う。なんだかドキドキが止まらない。この胸の高鳴りを、どう表現すればいいのか。みすやお。

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