192日目 基礎魔法材料学:魔晶面と魔晶方位
192日目
ギルのくしゃみが止まらない。なぜ。
くしゃみをするギルを伴い食堂へ。『ぶえくしょぉぉぉい!』ってあいつがくしゃみするたびに空気が震え、盛りつけられていた料理の山がちょっとずつ崩れていた。後ろでくしゃみされたフィルラドはビビって盛大にミルクを吹いていた。あいつの口の締りの悪さは異常だと思う。
そうそう、グリルとソテーがギルのくしゃみの風圧を利用して空を飛ぶ練習をしていた。ケツをフリフリしまくって羽をパタパタしてたけど、今の段階じゃまだせいぜいが滑空ってところ。アルテアちゃんは頭に二匹を乗せ『風をつかめ』と匠っぽく風に乗るタイミングをアドヴァイスしてあげていた。
なお、マルヤキ、ロースト、ポワレ、ピカタは『うめえうめえぇぇっくしょぉぉぉい!』とジャガイモを食べるギルと一緒にジャガイモの山に頭をつっこんでいた。よく食べるのは健康の証だろうか?
今日の授業はシキラ先生の基礎魔法材料学。『先週の風邪は何とか治したぜ! 迷惑かけてすまなかったな!』と、実に白々しい発言。上級生は慣れたもので、『よかったっすねー』、『わーい、せんせえのじゅぎょうだいすきー』って抑揚のない声を発していた。
さて、今日学んだのは魔晶面と魔晶方位について。前回までに、あらゆる魔法要素はその最小単位である魔素から構成され、魔素はいろんな形で結合し魔晶格子を形作っているってのを学んだわけだけど、この魔晶には面があり、また、その魔晶のどの方向から影響するかに着目することでいろいろと性質が違ってくるらしい。
なんか言葉じゃうまく説明しづらいけど、とりあえず『これだけメモればサルでも単位取れるんじゃね?』ってシキラ先生が言っていたところ写しておく。
『魔素の配列は原則的に規則性、対称性を持っている。その規則的に配列した面を魔晶面、規則的に配列した方向を魔晶方位と呼ぶ。
当然のことながら、これらの面、方位を文章で表現することは非常に手間がかかる。そこで、魔素が規則的に配列されていることを利用し、それらをある一定の指数を用いて表現することが一般的である。これをムロー指数という。
ムロー指数で表される魔晶面は以下の手順で求めることができる。
1.魔晶格子の三軸を座標軸とする。
2.指定の魔晶面と座標軸の交点の位置を、魔素間距離の大きさα、β、γとする単位長さで表す。
3.各値の逆数を取り、これらの値の最小整数比を求める。
4.あとはその数字を()でくくればパーフェクト。例えば立方体の上面の場合、(001)ってかんじ。
また、ムロー指数で表される魔晶方位は以下の手順で求めることができる。
1.↑のやつで逆数にしない。それだけ。あと使うのは()じゃなくて[]。例えば立方体の基準点からの真上方向を示すとしたら、[001]ってなる。
ここで、魔素配列は規則的、対照的であるため、座標軸は任意にとることができ、見かけ上の表示が異なっていたとしても、順序が入れ替わっているだけのことがある。これは魔晶面、魔晶方位ともに同様の性質であり、指数が同じであるならば順序が変わっていても同じ魔晶面、魔晶方位を示す、すなわち等価であると言うことができる』
なんか面倒くさく書いているけど、要は『全く同じものでも視点を変えると表示がかわっちゃうよ!』ってことだ。こんなもん図を描くなりすれば一発でわかると思ったけど、よく考えたらそれをいちいちするのが面倒だからこんなことになっているというわけのわからん事態に。
『面の方向とかそんなに重要なんですか?』って聞いたら、『複合魔法材料の場合、例えば表側は火の魔素に強くし、裏側を氷の魔素に強くすることができるんだよ。こうなるとどっち方向から試験をかけるかでパラメータ変わってきちまうんだよな。自分で材料を作るにしても、面とその方向をきちんと把握できねえと結局適当なもんしかつくれねえんだ』ってシキラ先生が答えてくれた。
なんか小難しいかんじだけど、『ロマンあふれる触媒を作るためには必要なことだ』と言われたので納得することにした。個人的には一つの触媒や魔法材料に複数の性質を持たせるよりも、複数の特化したものを用意したほうがコスト的にも性能的にもお得だと思ったけど、シキラ先生曰く、『それには夢がねえじゃん!』とのことだった。
ちなみに、今回の内容は分析のときにも重要になってくるからよく復習して理解しておくように、とのこと。『魔晶面と魔晶方位の表現の仕方とか特にミスるやつが多いからな!』ってシキラ先生が言ってた。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。授業中にもギルがくしゃみしまくってた以外はすごく平和な日常だった。ロザリィちゃんとあまりしゃべれなかったのが悲しい。入学当初よりかははるかに触れ合う機会が多くなったとはいえ、俺もうロザリィちゃんなしじゃ生きていけない。
ギルはくしゃみしながらイビキをかいている。なかなかに器用なやつ。そしてすさまじくうるさい。
今日はあえて王道に、普通の風邪薬を鼻にたらしてみた。なんか眠いからもう寝る。グッナイ。
α、β、γには例の呪の魔法陣にも使われていた文字が充てられていました。読みがわからず、記号的に扱われていたため、このように書き換えました。
なお、今回は幾何学的な問題について扱っていると推測されるため、三軸はそのままx,y,zで換算できると思います。たぶん。




