19日目 魔法演算学:魔傾と微解
19日目
ギルの髪がつややか。俺はどう反応すればいいんだ。
朝食はなんとなくジャガイモとウィンナーをチョイス。ジャガイモは決してうまくはないが悲しいことに食べてて安心する。ギルもこの安心感を味わっているのかもしれない。今日も『うめえうめえ!』って言いながら貪ってた。
最近マシになったとはいえ、普段はヤバいやつを見る目で見られていたギルだけど、今日は女子の羨望の眼差しに晒されていた。女子もうらやむほどの美髪ってことなんだと思う。あの気高いアルテアちゃんがあんな表情を見せるなんて思わなかった。アエルノチュッチュのいけ好かない女どもも今日はギルのことを真剣に見ていた。女ってわからない。
ギルの野郎、自慢げに髪を見せびらかし、『親友にやってもらったんだぜ!』などと言うものだから女子に殺到された。実験途中でたまたまできたもので作れないと言ったらなんとか納得してもらったけど、勢いが怖かった。
でもシュンとするロザリィちゃんがマジプリティだった。早いところ美容液を完成させなくては。
本日の授業は魔法演算学。カルブの『~ね!』は最初の数分で20回。前回よりもペースが悪い。
肝心の内容は術式の分解についてだった。連続性のある(そもそも連続性がないと普通は発動しない)術式はその場所ごとに偏りと言うか勾配と言うか傾向と言うか、そんな感じのパラメータが設定されているらしい。こいつを魔傾と言って、術式を構成するパラメータの一つになるそうだ。
この魔傾がなかなかやっかいで、術式の威力や挙動に大きくかかわってくるくせにどんな性質の、どれだけの大きさの魔力を流したかでガラリと結果が変わってしまう。特に術式の魔深のどこからどこまでに魔力を流したかが重要で、同じ量でも場所によって結果が違う術式があったり、逆にどの場所でも結果が同じ術式がある。
で、魔傾を様々なパターンで検証して割り出すことで術式全体の構成を判別することが可能らしい。尤も、それ以外の要素も必要だしより複雑な術式だと高次、別次の魔傾も出てきて大変なことになるらしいが、今の段階では単純なものを扱うとのこと。こいつが分かれば大まかな術式の挙動がわかるってカルブ先生が言ってた。
その性質上、魔傾ってのは術式の魔深の二点が決定されなければ定義できないんだけど、概念上で術式の魔深のある一点の魔傾を算出することを微解といい、術式の分解に当たる重要な操作だそうだ。
前半は講義をやって後半は演習時間。微解には公式があってパターン通りの型に落とし込めれば一発で片が付く。その型に落とし込めるように等価を維持しながら変形するのが面倒くさいんだけどね。
カルブの『~ね!』は127回。今日は体調でも悪かったんだろうか。
午後のフリータイムは薬品調合で時間を潰した。ヤカツやコケウスと言ったいつものやつでいくつか風邪薬を作って学生部に売りに出した。ちょっとだけおこずかいが増えた。ついでにリシオを植えておいた。俺のスペースだけにぎやかでなんかうれしい。
美容液はまだまだ改良の余地がある。なるべく早く満足のいくものを作りたい。そしてロザリィちゃんの笑顔を独り占めにしたい。
ギルのイビキがうるさいのは相変わらず。今日はリシオの花びらを丸めたものを鼻に詰める。毎回思うけど、こいつは気づかないのだろうか?




