186日目 発展魔法生物学:ベイビーウェポンの栽培について
186日目
ギルが爽やか。どうなってんのマジで。
朝食はシーザーサラダをチョイス。久しぶりに食べてみたけど、新鮮な野菜の感覚がなかなかにグッド。俺の膝に乗ったちゃっぴぃもうまそうに食っていた。あ、今日は汚される前に俺のほうから『あーん』ってしてやった。
なお、いつも通りギルは『うめえうめえ!』とジャガイモを貪っていた。栄養バランスを考えてシーザーサラダをどかっと大皿に盛りつけてやったけど、まるで気づいちゃいなかった。
今日の授業はグレイベル先生、ピアナ先生による発展魔法生物学。『昨日はありがとねっ!』、『今度なにかお礼をしないとな……』って先生たちが言うので、『じゃあ、ぎゅってしてください』って答えたら、『…ピアナ先生は彼氏持ちだから、俺がしてやろう』と無表情でグレイベル先生が迫ってきて泣きそうになった。
が、『今回だけの特別、だから!』って赤くなったピアナ先生が軽くだけどぎゅってしてくれて超幸せ。ピアナ先生の匂いがしてすっごい気持ちいい。
なお、『彼氏持ちなのにいいんですか?』とのアルテアちゃんの質問には、『子供はノーカンでしょ?』と笑って答えていた。なんか地味にショック。後グレイベル先生、『冗談だったのに、まさか涙目になるとは……』ってちょっとしょぼんとしてた。
ポポルとフィルラドがゲラゲラ笑っていたので、いつか呪いをかけておこうと思う。
さて、今日のテーマはベイビーウェポンっていう小さな一輪の白い花。パッと見は普通の花で、特に変わった様子はなし。ロザリィちゃんやステラ先生にすっごく似合いそうな感じで、思わず守ってあげたくなっちゃうくらい。
が、『そう思わせるのがこの花の特徴なんだよっ!』とピアナ先生。なんでも、花そのものにはこれと言って有害なところはないけれど、こいつはその可愛らしさを利用(?)して、付近の生物を悉く凶暴化させるそうだ。
とりあえず、メモを写しておく。やっぱこの日記をノートにしたほうが二度手間省けるんじゃね?
・ベイビーウェポンは可愛らしい花である。そのあまりの可憐さは付近の生物の理性を狂わせるほか、自身に対するある種の依存性を植え込ませたりもする。
・ベイビーウェポンに魅せられた生物はその花に近づこうとするものを排除しようとする。魅せられた物同士ならある程度の融通が効くが、近づきすぎるやつは味方でも襲う。
・栽培そのものには特別な手間はいらない。が、雑草を含めてありとあらゆる生物を付近から排除する必要がある。
・まごころを込めて育てる。
・収穫は愛情をこめて行う。
かなり短いけどこんなもん。マジで性質そのものは普通の花とおんなじで、厄介なのはそれによって凶暴化する生き物だけなんだよね。
ここがちょっとポイントで、凶暴化するのは何も動物だけじゃない。植物も凶暴化する。普通の雑草も魔法的性質を得て食獣植物顔負けの凶暴性を示しだしたりしてくる。大抵はベースの生き物の特性を強化する感じで凶暴化するから、毒草なんかがベイビーウェポンの近くに生えていると悲惨なことになるとか。
実際にベイビーウェポンの近くにピクシーと雑草とゴブリンが放たれたんだけど、物の数秒もしないうちにすっかり凶暴化し、ベイビーウェポンに近づこうとしただけで異常な攻撃性を示してきた。
ピクシーは容赦なく顔面をひっかいてくるし、雑草は巨大化して頭からパックンチョしてこようとするし、ゴブリンは全力ガチなタックルをかましてきた。全部ギルの筋肉に弾かれていたけど。
『花そのものは安全なだけに、扱いに困ることが多い』とはグレイベル先生の談。法規制の観点で見るとこいつは安全な魔法植物に分類されちゃうから、そのへんのゴタゴタがちょくちょく起こるとか。
昔、『危険物の輸送なのに安全と騙られてひどい目にあった!』、『いや、定義的には安全だし!』、『定義もクソもあるかコラァ!』って事件があって、それ以来この花の輸送は結構なグレーゾーンになっているらしい。税のかけ方も町によって違うとのこと。
なお、ベイビーウェポンは精神安定剤、魔物調教薬、惚れ薬(!)の材料に使われるらしい。花弁を特殊加工して赤ん坊に持たせると、健康に育つというおまじないもあるとかないとか。
『とある地方では、生まれた赤ちゃんにベイビーウェポンのお守りを送る風習があるんだよ! 両親が愛を込めて贈る、二番目のプレゼントなんだ!』ってピアナ先生が言っていた。嘘かホントか、その地方の子供たちは病気することもなく、生き物に襲われることもなく、つーかむしろ生き物にちょくちょく助けてもらえるくらいに健やかに育っているんだって。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。ふと思ったけど、ベイビーウェポンって要は『赤ん坊特有の守ってあげたくなる雰囲気』を極端にしているってことでいいのだろうか。名前的に間違いないと思うけど。
俺もベイビーウェポンのお守りを持っていればよかったのかとちょっとだけ思う。いや、持ってたら持ってたでマデラさんには会えなかっただろう。それに、今の俺にはロザリィちゃんにステラ先生もいる。寂しくなんてない。
夜だからか、なんかちょっとセンチな気分。さすがに今更親が恋しいとは思わないけど、みんなはこんなときどうしているんだろうか。マデラさんはいい人だし、俺の保護者であるけれど、母親……ってかんじじゃないし。
親の話をしている人を見るとたまに羨ましくなることがある。俺にも普通の親がほしかった。なんだか無性に人肌が恋しい気分。誰でもいいからぎゅってしてほしい。
ギルは今日も腹立つくらいに健やかにイビキをかいている。拾っておいたピクシーの羽を詰めておいた。
明日はロザリィちゃんにぎゅって慰めてもらおう。おやすみ。




