185日目 基礎魔法材料学:休講(教室勉強会)
185日目
ドラゴンの遠吠えで目覚める。慌てて杖を構えたらギルのイビキだった。マジ何なのこいつ?
いつも通りギルを起こしてみんなで朝食をとっていたら、朝からステラ先生がやってきた。ひゃっほう。
で、なにやら困惑した様子で『……きょ、今日の基礎魔法材料学の教室は都合により移動になりまし……た?』とのこと。何やら様子がおかしかったものの、『どこでやるんですか?』と聞いたら、『なぜかどの教室もいっぱいになっているんだよね……』との答えが。
どうやらステラ先生自身、職員室でその話を聞いただけで、俺たちと同じように困惑しているらしい。教室もないのにどうやって授業をするのだろうか。
さて、ステラ先生も交えて朝食をとっていたら、なんとシキラ先生までも『おはよう!』と元気よくあいさつしながらやってきた。
てっきり移動教室の連絡をするのかと思いきや、『今日の授業は担当の体調不良により休講な!』と超いい笑顔で言い切られた。俺の目の前には湖まで五往復くらい走れそうな元気のありあまっている人がいるんだけど。
しかも、『しかし、再履の人間は出席数がアブナイ。また、「休講でもいいから場所を提供してくれ!」と熱心な意見も寄せられた。そこで、不躾ではあるが君たちのクラスルームを貸してくれ』とか言い出す始末。
なぜか都合悪くほかの教室が埋まってしまったために、悩んだ末の苦渋の決断だそうだ。
さらに、『もちろん、キミたちは遊んでいても構わない。出席扱いにする。例え勉強しているやつの隣でどんちゃん騒いだり、おやつにお菓子を食べまくっていても文句は言わせない』と、すっげぇ嬉しそうに言い切った。
『当然、俺も万が一のことを考えて、病体に鞭打って監督をする。まぁ、意識が朦朧としているから何があっても気づけないけどな!』と、付け加えるのも忘れない。
さすがにみんなびっくり。ここまで来ればもう誰だってその意図していることがわかる。魔系は手段を選ばないとはよく言われているけど、先生がこれでいいのだろうか?
『じゃ、ステラ先生、そういうことでよろしくおねがいします』と言われたときのステラ先生、ぽかんって口を開けていてすっげぇ可愛かった。あと、ちゃっぴぃと一緒にハイタッチするロザリィちゃんもマジキュートでした。
朝食の後は早速クラスルームの厨房で最後の仕上げに。途中で
『かー、授業やりたかったなー、マジ授業やりたかったなー、でも体調不良じゃしょうがねえなー』
『教室開いてないならしょうがないよねー、申し訳ないけどここでやるしかないよねー』
『勉強したいのに勉強できないってつらいなー、環境整ってないから机の整理しないとなー』
『勉強のお供に飲み物は必須だよねー、あと場所貸してもらってるんだから手土産も必要だよねー、あー、勉強できるって素晴らしいなー』
……とか言いながらシキラ先生と上級生たちが来て、会場のセッティングを始めだした。
テーブルクロスはもちろん、飾りつけや食器の用意まで完璧。さすがに酒こそなかったものの、飲み物やちょっとしたおやつまで(しかも俺たちの分まで)用意するという徹底っぷり。彼らはいったい何の勉強をしに来たのか。
しかも、妙に手馴れている。こっそりキイラムに聞いたら、『魔法材料研究室は月に一回は必ず宴会をするからな』と返された。なんか、昨日の夜から段取りを決め、あとは設置するだけのところまで準備していたとか。
ちなみに、研究室所属の人は基本的に授業はすでに取り終わっているため、この時間でも割と自由に動けるらしい。運悪く取り逃がした授業を取っている人は、再履覚悟でサボるか、血涙を流して呪いの言葉を吐いていたとのこと。
さらに驚くべきことに、準備を進めていたらステラ先生、ピアナ先生、グレイベル先生まで『お、おじゃましまーす……』とやってきた。
明らかな異常事態。シキラ先生ならともかく、この三人が授業をサボるとはとても思えない。
どうしたのかと聞いてみたら、『なんか、いきなり実習室の設備点検が入って休講に……』、『栽培室付近で一瞬強力な異常魔素雰囲気が発生して、調査が入って休講に……』、『病体のシキラ先生の補助をするように学生部から今朝連絡が……』と、三人は思い思いの理由を説明してくれた。
『いやぁ、わざわざすみませんねぇ! ステラ先生もピアナ先生もお疲れ様です!』ってシキラ先生は白々しく言ってた。『……やっぱ持つべきものはコネと伝手と実力だな』とつぶやいたのも俺は聞き逃さない。
いったいどんな伝手とコネを使ったのか。あの人、一番魔系らしくてクレイジーじゃね?
さて、なんやかんやで午後には準備が整い、そのままスウィートパーティーを開くことに。
用意したのはバラエティあふれるクッキーと、輝かんばかりの至高のハゲプリン。さらに、どどん! と気合を入れまくった煉獄ケーキが中央に二つ。見た目も完璧。女の子たちは先輩も含めて、みんなうっとりしていた。
当然すぐさま実食。上級生たちの歓喜の声が実に心地よい。『こないだよりもうめえ!』、『想像以上においしい!』、『こんなお菓子食べたの初めて!』、『半年ぶりの甘味だ……!』と、あちこちで称賛の声が上がる。
ハゲプリンをみな舐めとるように食べていて、上級生同士杖を使ってのガチな取り合いが起こるレベル。最初はまだ平和的だったのに、そのうちこないだの宴会みたいな様相になってきた。
ミーシャちゃんはこっそりギルの影に隠れ、キイラムから距離を取る。『さすがにシラフのときはまともなんだけど……』ってキイラムはしょぼんとしてたけど、ノエルノ先輩が『ロリコンかつシスコンはまともとは言わない』って言ってた。
さて、そんなことは置いといてわがクラスメイト達の様子を見てみる。
ミーシャちゃんは両手ハゲプリンで『おいしいおいしい!』とリボンでクッキーを確保しつつ食べていた。
ジオルドはハゲプリンの山を目に、『生きててよかった……!』と感動しながらバクバク食っていた。俺なら胸焼けするレベル。
パレッタちゃんは『こんなに悪意にあふれてるなんて!』ってハゲプリンをポポルからかっさらいながら上級生のナニカをヴィヴィディナに捧げていた。
クーラスは『昨日頑張って体張った甲斐があった……!』って涙を流しながらハゲプリンを食べていた。
ポポルは『今日は好きなだけ食べられるから気にしないもんね!』とか言って上級生のハゲプリンをくすねて食べていた。
アルテアちゃんは『……貴様のハゲプリンをよこせ。そしたらこないだのはチャラにしてやる』ってフィルラドに迫っていた。フィルラド、涙目だったけど『喰いきれないから口開けろ』ってアルテアちゃんにハゲプリンをぶち込められて真っ赤になっていた。
ギルはハゲプリンなんか目を向けず、俺が特別に用意したジャガイモの山を『うめえうめえうめえぇぇぇぇっ!』って貪り食っていた。誰よりも幸せそうだった。
もちろん、先生たちも超嬉しそう。『また腕を上げたな……』とグレイベル先生。『私、このクラスの担当で本当によかったぁ……っ!』と女神ステラ先生。ピアナ先生だけは『じゃむくっきぃ……っ!』ってジャムクッキーをおいしそうに両手でつかんで食べていた。マジエンジェルだった。
俺も自分の作品を食べようとしたら、ロザリィちゃんが『おつかれさま!』って言いながら『あーん♪』ってやってくれて超幸せだった。耳元でこっそり『せ、先生以外の浮気は許さないんだからねっ!』と囁かれる。嫉妬ロザリィちゃんがマジプリティ過ぎて俺もうどうにかしそう。
そうそう、一通りハゲプリンを楽しんだ後は(おかわりもまだまだあったけど)煉獄ケーキの入刀に入る。俺が切り分けようと準備をしていたら、『いや、それには及ばない』とノエルノ先輩の制止が。
いつのまにやら、優しげで柔らかい雰囲気のかわいいおねーさまがケーキをみんなに切り分けていた。すっごい大きい。思わず見とれる。もうね、視覚的にも全体の雰囲気的にも女の子らしい柔らかさでいっぱいなの。で、よく見たら、昨日シキラ先生の作戦で俺のところに来て超恥ずかしがっていた人だった。
んで、俺のところにも『今回はありがとう!』ってケーキをもってきて微笑んでくれた。なぜか上級生男子の何人かに睨まれるも無視(一人すっげぇ睨んできたのでウィンクしておいた)。
『お礼に何かほしいものでも、ある?』とかわいらしくその人が聞いてきたので、『お名前をぜひ』と言ったら『属性処理研究室所属、クラスPelMelimero (ペル・メリメロ)のシエナです♪』との答えが。
しかも、超真っ赤になりながら『こ、これはオマケね!』って投げキッスしてくれたぁぁぁぁぁ! 自分でやってて恥ずかしがるところマジ最高! 予想外の不意打ちもなかなかいいよな!
恥ずかしがるあまり、シエナ先輩はノエルノ先輩に抱き付いてうーうー唸りながら固まってしまった。ノエルノ先輩によると、『シエナ、作戦を聞かされた時も恥ずかしがって、結局投げキッスで妥協してもらうことになってたんだよ。まさかここで義務を果たすとか……』とのこと。ちなみにノエルノ先輩と同室らしい。
さて、だいぶ長くなったがここからが今日のハイライト。俺がノエルノ先輩たちと話していたら、突然後ろをくいくいと引っ張られる。誰かと思ったらロザリィちゃん。すっげぇ微笑んできて超プリティ。
『お菓子、おいしかった?』って聞いたら、『うん、とっても!』と満開の笑顔。『どれくらいおいしかった?』って聞いてみると、ロザリィちゃん、いきなり小規模爆発魔法を打ち上げて、『はい、ちゅうもーく!』って大きな声を出した。
当然、何事かとみんながこっちをみる。ロザリィちゃんは俺に向き直って、『どれだけおいしかったって──?』とにっこり微笑みつつ、俺の頭をがしってつかんで──
そのままみんなの前でちゅっ! ってやってくれたぁぁぁぁぁ! しかも一瞬じゃなくて、ぎゅーって抱きしめながらかなり長い時間! めっちゃぷるぷる! めっちゃ甘い! あと、ロザリィちゃんの赤い顔が目の前にあってすっげぇドキドキ! ぎゅって押し付けられた体もすんげえやわらか!
いやね、マジで目の前真っ白になったよ。何が起こったのかわからなかったくらい。ただただ、幸せだったとしか書けない。それ以外の言葉じゃあれを汚すことになる。
『きゃっ!』ってシエナ先輩は顔を押さえる。『うぉぉぉっ!?』っと上級生女子は盛り上がる。男子はシキラ先生含めて盛大な舌打ちをしていたけど、なんでだろうね?
で、ロザリィちゃん、『──こんなに甘かったんだから♪』って小悪魔的に唇をぬぐう。俺の口にはお菓子の甘さと幸せが残っていた。
ロマンティック過ぎて気絶しそう。俺、こんなに幸せでいいのだろうか。
最後に、ロザリィちゃんは『──くんは私のですから!』ってびっ! って上級生の前で宣言した。ステラ先生は『だ、だいたん……!』ってすっごく真っ赤になってわたわたしていた。
その後は嫉妬の嵐が吹き荒ぶもつつがなく終了。上級生たちは会場の片づけをしっかり行い、
『ゴホッゴホッ。あー、早く風邪治さなきゃなー。意識が朦朧としていて何やってたのかイマイチ覚えてないなー……クソが』
『有意義な勉強会だったなー……クソが』
『来週こそちゃんと授業受けたいなー……クソが』
『ルマルマのみなさん、今日はありがとうございましたー……クソが』
……って言って帰って行った。有意義な勉強会ができて実に有益な時間だったと言える。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る……はず。正直幸せすぎてここまでの記憶があやふや。まぁ、ロザリィちゃんのキスだからしょうがないよね。
今日も無駄に長くなりすぎた。そろそろ短くまとめる練習をするべきだろうか。この日記のせいで寝不足になったらマデラさんに地獄の百連ケツビンタされるしね。
ギルは腹をさすりながら大きなイビキをかいている。こいつ、マジでずっとジャガイモ食いまくってたけど、飽きないのだろうか。
とりあえず名も知らぬ上級生男子からもらった明らかヤバそげな試験片をギルの鼻に詰めた。『必ず肌身離さずもっていろッ! これは先輩命令だッ!』って言ってたけど別にいいよね。




