181日目 魔法構築学:母性原理と浮動原理
181日目
どきどきが止まらず若干寝不足気味……だと思ったら、枕がヤバめのミルクスメルを放っていた。まさか自分の枕カバーを洗う羽目になるとは……。
ギルを起こして食堂に……行く前にクラスルームへ。昨日の方法でうまくいくことが分かった以上、朝の搾乳を逃す道理はない。幸いにも今日はちゃっぴぃはエッグ婦人とともにロフトでスヤスヤしており、目覚める気配はない。あと、こいつも地味に口の締りが悪かった。
が、ロザリィちゃんがいないことにここで気づく。しょうがないので起こさないようにこっそり搾乳していたら、『こんの、不埒ものがッ!』とすさまじい勢いで後頭部をはたかれた。
とっさに杖を構えたら、女の子がしちゃいけない顔したアルテアちゃんがブチ切れ一歩手前で睨んでいた。超怖い。ギルがその後ろで笑顔でポージングを決めていたのが地味にムカつく。
どうやらアルテアちゃん、ヒナたちの世話をしに来たらしい。で、一見アレっぽいことをしている俺を見て思わず手が出たそうな。
『主が搾乳することに何の問題があるのか』と聞いたら、『問題がないと思っているそれ自体が問題だ。ロザリィに言いつけるぞ?』と言われる。さすがにチビりそうになった。今後一切寝ているちゃっぴぃから勝手に搾乳しないことをその場で誓う。
誓っている最中にちゃっぴぃに『ふーッ!』と容赦なく顔面をひっかかれ、エッグ婦人とヒナたちに容赦なくケツを突かれた。解せぬ。
そうそう、ギルには『こいつをくれてやる。だからお前は何も見なかった。いいな?』とジャガイモの袋をやる。あの野郎、『……ちっ、親友とあろうものが、俺を安く見たな。この程度のジャガイモで満足すると本気で思ってるのか?』とか言いつつも袋をすっげぇ大事そうにぎゅって抱きしめていた。
当然のことながら、ジャガイモはぐしゃぐしゃ。でも、ギルは『うめえうめえ!』ってそのまま食ってた。
授業はシューン先生の魔法構築学。相変わらずローブはズボンにイン。よくみたらローブに結構な皺ができている。明らかにしばらくアイロンがけされていないかんじ。
なんでも、奥さんが『最近ようやくあなたも空気を読めるようになってきたのね!』ってほめてくれたらしいんだけど、うっかり『ああ、マニュアルもらったから完璧だ』って答えてしまい、それ以来口をきいてもらえていないそうな。
『何がいけなかったんだ……』ってぼやいていたけど、それがわからないからダメなんだと思う。あと、ただでさえ出席取るの遅いのに、ぼやいていたせいでさらに始まるのが遅くなっていた。
内容は母性原理、浮動原理について。この手の魔法構築ってのはただ形を作ればいいってわけじゃなくって、魔法陣自体の精度も重要になってくるんだけど、じゃあその精度はどうやって保障されるんですかってお話。より高質な魔法陣を作るのには高精度の保証が必須だから、その原理を理解しましょうってこと。
例によって例のごとく、メモを書いておく。
・母性原理
魔道具を用いた多くの陣造、および魔法構築において、その際に利用した魔道具の精度がそのまま対象に転写されるという原理。また、このとき魔道具以上の精度を創作物が持つことはあり得ない。強制魔導加工はすべてこの原理に則る。
・浮動原理
浸圧魔導加工は魔法刃と魔力塊を干渉させて加工を行う方法であるが、このとき使用している魔法刃は浮動状態であり、魔法的相対運動により加工面自体に案内されることで、干渉部が選択的に除去される。したがって加工面の精度は加工の進行に従いスパイラルアップ的に向上する。これを浮動原理という。これを用いることで、対象は加工に使用した魔道具(あるいは魔法要素)を超えた精度を持つことができる。
母性原理のほうはすんなりイメージできた。要はポンコツな道具じゃポンコツなものしかできないってことだろう。あるいは、腐った食材から俺レベルの料理は出来ないといったほうがわかりやすいか。
で、肝心なのは浮動原理のほう。前々からそもそもの起源というか、一番最初はどうやって高精度のものを確立したのか気になっていたけど、どうもこれを使ったらしい。侵圧魔導加工って分類する意味ないと思ってたけど、意外と重要な意味を持っていたというわけだ。
詳しい原理は置いとくとして、今まで以上の精度を保証できるって結構すごいことだと思う。先人たちの知恵に驚きを隠せない。
なお、『浮動原理はその特徴から、進化の原理とも言われてる。実際にこれを利用する機会はほとんどないだろうが、これのおかげで今日の魔法学界が成り立っている大事なことなんだぞ』ってシューン先生が言ってた。
もちろん、大半の人はザントマンの砂にやられて寝こけて聞いちゃいなかった。パレッタちゃんはポポルのローブをひっぺがして枕にしていたし。なんでシューン先生はこれだけのことを言うのにあんなに時間をかけるのか。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ロザリィちゃんから『ちゃっぴぃも女の子なんだから、乳しぼりするときは絶対一緒じゃなきゃダメなんだからねっ!』って頭をぺしってされた。
そんな仕草がマジプリティ。もっと叩いてほしかった。あと、幸せすぎて夜の搾乳をするのを忘れた。
今日もギルは大きなイビキをかいて眠っている。いつみても幸せそうな寝顔に若干イラッとした。風の歌声を鼻に詰めておく。みすやお。




