178日目 基礎魔法材料学:魔晶格子の種類とその特徴
178日目
ギルが白髪に。いったい何があったというのか。
ギルを起こして食堂へ。さすがにみんな慣れたもので、ギルが白髪であっても特に驚いたりするやつはいなかった。ミーシャちゃんはいつも通りギルによじ登ってケラケラ笑ってたし、パレッタちゃんは白髪をぶちぶち引っこ抜いて『ヴィヴィディナに捧げるの!』とか言ってた。エッグ婦人と六匹のヒナは日課とばかりにギルにケツを執拗につついていたし、ちゃっぴぃは相変わらず俺の朝飯を横からかっさらう。
クーラスとジオルドが『今日も実に平和だな』とか言ってたので、日常のスパイスとして『あいつらのデザート、好きなだけ食ってこい』とちゃっぴぃをけしかける。が、『ほれ、好きなだけ食えよ』、『足りないならもっととってきてやるぞ』と、二人して普通にちゃっぴぃの世話をしてやがった。
『悔しくないのか?』と二人に聞いたら、『お前と違って俺たちは大人だからな』と鼻で笑われた。解せぬ。
授業はシキラ先生の基礎魔法材料学……はよかったんだけど、教室に行ったら明らかに人が少ない。いつもの半分くらいしかいない。ぶっちゃけると、再履の上級生が一人もない。超すっきりなスペースに逆に不安を感じる。
が、シキラ先生は普通に出席を取り始める。しかも、再履の人たちの出席になると『はい、います!』、『よし、今日も元気だな』と一人芝居して出席扱いにしていた。
とうとう頭がギル要素に浸食されつくされたのかと不安に思い、『先生、そこに誰もいませんよ』と声をかけたら、『いや、いる。いるんだよ。俺がいるって言ってるんだからいるんだ。いいな?』と笑顔で諭された。
なんでも、再履の上級生は例の材料集めに駆り出されているらしい。『どうせ授業受けたって大して変わんねえんだから、こうでもしないと直接的な評価項目ができないだろ?』とはシキラ先生の談。要は、単位について少し考慮してやるから役に立てってことらしい。
それでいいのかとも思ったけど、『使えるものは使うのが魔系だ』と言われては反論できない。まぁ、シキラ先生自身がそれを望んでいるなら別に問題ないんだろう。上級生のほうもかったるい授業よりかは材料集めのほうが楽しいと思うし。
さて、今日は魔晶格子について学んだ。魔素ってのは様々な形で結合しているってのが前回の内容だけど、この結合して形作られたもの、すなわちどういった構造で結合しているのかってのもいろいろ重要らしい。
たとえ同じ魔素でもこの構造状態が違えば性質が変わってくるらしく、構造状態を把握することで魔法材料の定量的な評価ができるのだとか。
で、この構造のことを魔晶格子という。例によって例のごとく、重要っぽいところをメモしておく。
・体心立方魔晶
立方単位魔晶の真ん中に魔素が一つあり、立方の八角を埋めるようににして中央魔素に八分の一分割された魔素が接した構造(体心形)。魔素一つに八つの魔素が接しており、単位格子あたりに二つの魔素が存在する。充填率は0.68。
・面心立方魔晶
立方単位魔晶の各面に魔素の断面をあて、その隙間を縫うように立方の八角に八分の一分割された魔素が接した構造(面心形)。魔素一つに十二の魔素が接しており、単位格子あたりに三つの魔素が存在する。充填率は0.74。
・最密六方魔晶
これ言葉で説明は無理。単位格子がよくわからん形でがーってびーってぶわっ! ってなってる。魔素一つに十二の魔素が接しており、単位格子あたりに二つの魔素が存在する。充填率は0.74。
・単純立方魔晶
いわゆる普通のブロック型のアレ。普通に立方形を書いてその各点を魔素に置き換えたやつ。魔素一つに六つの魔素が接しており、単位格子あたりに一つの魔素が存在する。充填率は0.52。
ぶっちゃけ言葉で説明するより図で説明したほうが楽。ノートにはちゃんと図を描いたので気になったらそっちを参照すること。
一応ここには四つ書いたけど、実際はもっと種類があるらしい。とはいえ、現段階ではこれだけ覚えておけば十分なのだとか。
なお、魔素一つ当たりにいくつの魔素が接してるかってのを配位数という。充填率ってのは単位格子にどれだけ魔素が入っているかって割合。こいつが高ければ高いほどみっしり詰まっているってこと。
この充填率と配位数は幾何学的関係から計算で出せるんだけど、いかんせん立体のものを平面に落とし込んで学んでいる都合上、それを頭の中に明確にイメージできていないと途中でこんがらがる。『単位格子の一辺と魔素の呑深の関係を正確に割り出せなきゃ再履一直線な』ってシキラ先生は言ってた。
幾何学的関係を使ってるんだから呑深じゃなくて直径って言えばいいのにって思ったけど、あくまで魔法的要素だから呑深のほうが正しいらしい。魔系のこういうわけわからんルールや決まり事って本当にやーね。
そうそう、ポポルは絵心がないから図がぐちゃぐちゃでなに描いてあるのかわからなかった。逆にギルはそこそこうまい。なぜか単位格子がすごく筋肉質に描かれていたのが気になったけど。
ロザリィちゃんは魔素断面にハートを描いていた。おちゃめなところがマジプリティ。そういうところに惚れ直す。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。授業の帰り際、シキラ先生が『すげぇ材料持っていくからそっちも手ェ抜くんじゃないぞ?』と挑発的に声をかけてきた。『ずいぶん自信があるんですね』と返したら、『ああ、だってヘボいの持ってきたら連帯責任で再履全員単位なしって言ったから』ってすげえ笑顔で言われた。
やっぱ一番クレイジーなのってシキラ先生じゃね? 再履の上級生の苦労が目に浮かぶ。きっと授業中も必死こいて材料を探していたのだろう。
ギルは心配の一つもない安らかな顔でクソうるさいイビキをかいている。たまたまシキラ先生のローブのポケットに入っていたとかいうルンルンの欠片(詳細不明)を鼻に詰めてみた。グッナイ。




