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176日目 お菓子の商談

176日目


 肥大化した卵をギルの鼻に確認。なんかヤバそげだったのでヴィヴィディナに捧げておいた。


 いつも通り、ギルを起こして食堂へ。相変わらず休みの日は人が少なく、ゆったりとスペースをつかえて気分がいい。贅沢に椅子三つを占拠し、朝からガッツリホットドックを食した。焼き加減がマジ最高で素晴らしかった。


 ギルは当然のようにジャガイモを『うめえうめえ!』と食べていた。何を思ったか、パレッタちゃんがジャガイモの一つに激辛の呪をかけたんだけど、あいつは普通に貪っていた。マジで味わかってないんじゃねーか?


 さて、午前中はゆったりと……したいところだったけど製図の課題を進めていく。最近マジで休日がこれに潰されて超悲しい。とはいえ、俺はコツコツ進めているからまだ楽なほう。現実逃避してロフトでエッグ婦人と戯れるフィルラドは地獄のデスマーチが確定している。


 じゃれつくちゃっぴぃを適当にいなしつつ課題を進め、お昼の時間に。がんばった自分へのご褒美(と、ちゃっぴぃが食わせろと執拗に俺のケツを尾っぽで叩いてきたため)に保冷庫のハゲプリンを用意していたら『邪魔するぜ!』とキイラムがやってきた。


 手紙の返事書いたのって昨日の夜だよな? 来るにしたって早くない? つーか、普通は連絡の一つくらいよこすだろうに何考えているんだろうか。


 キイラムの登場にルマルマ女子の全員が身構える。冷たいまなざしは全員の標準装備として、中にはギルの後ろに隠れる子や杖を抜く子も現れた。


 『い、一応上級生の先輩だからね?』と苦笑いするステラ先生と、『お前かんっぺき嫌われてんな!』と腹を抱えてゲラゲラ笑うシキラ先生が登場したおかげでなんとかその場は平穏を取り戻したけど、もし先生がいなかったらキイラムは呪の一つや二つ撃ち込まれていたと思う。


 当然のことながら、キイラムがやってきたのは昨日の発注について。なんでも、ステラ先生は今朝職員室でシキラ先生に返事を渡したらしいんだけど、『今日時間空いてるなら行ってもいいでしょうかね?』と聞かれ、じゃあ午後にでも、という話になったらしい。


 で、早速商談に入る。昨日日記を付けた後、念のため作っておいた見積書が役に立つとは思わなかった。『こちらで全部用意する場合はこれくらいかかります』と二人に見せたら、二人ともが『たっけぇ!?』ってでっかい声を出してビビった。


 まぁ、まともに作ったらどんなにオマケしても普通のプリンの十倍近くするからしょうがないよね、うん。 


 『こ、こんなに高かったの……?』っておどおどしながら聞いてくるステラ先生がマジプリティ。もちろん、『クラスで食べる分はタダですよ』と紳士なスマイルを返しておく。シキラ先生は『予算じゃ無理そうだな……』と残念そうな顔をしていた。


 しかし、あきらめの悪いキイラムは『なんでプリンでこんなにするんだよ!?』としつこかったので、純正ハゲプリンの材料である夢魔の乳、エレメンタルエッセンスを伝えたら『そりゃ高ぇよ……』と納得してくれた。触媒としての活用でも、エレメンタルエッセンスは高すぎるからなかなか研究費はおりないらしい。


 もちろん、代案として『以前提供した所謂庶民派ハゲプリンならこれの半分以下に抑え込めます。逆に、もっと素晴らしい材料を用意していただけるなら、より素晴らしいハゲプリンも提供できます』と伝える。


 そう、キイラムたち(俺もだけど)が食ったハゲプリンは一番初めのハゲプリン騒動で作ったガチのハゲプリンじゃない。通常材料だけで作った、いわば俺のテクだけで成り立っているハゲプリンなのだ。それでもお値段は普通のプリンの五倍(主に技術料)するけど。


 シキラ先生もキイラムも、それを聞いてしばらく腕を組んで考え込む。『量を減らすか?』、『いや、女子どもがうるさいですよ』、『だけど全力ガチなやつじゃないって知られたらもっとうるさくねえ?』、『そのこと知られなきゃいいんですよ。あいつら一種しかないって思ってるはずですし』……と、なかなか赤裸々なトークを展開してくれた。


 そもそもなんでこんなに多く注文するのかと思ったら、属性処理研究室の人と共同でお金を出すかららしい。なんか研究室単位で仲がいいらしく、打ち上げでハゲプリンと煉獄ケーキを食べたことを話したら『じゃあお金出すから注文頼む』と言われてしまったそうな。


 ふと、気になったので『ジャムクッキーはどこで知った?』と聞いたら、『ステラ先生が職員室で自慢しまくってたぜ?』とシキラ先生が教えてくれた。へたっぴな口笛吹きながら目を泳がせるステラ先生がマジキュートだった。


 話はかなり長く続いたんだけど、『ここまでやっておいて引き下がれるか!』とのシキラ先生の決断により、最初のスペシャルなハゲプリンの価格で発注を受け付けることに。


 まさかガチであんだけの金を出すのかと思いきや、『一週間で材料をできるだけ用意する。そっちも準備できるだけは頼む。金は全部俺のポケットマネーを使うから』となかなか太っ腹な発言が。要は、浮かしきれなかった分はシキラ先生が払うってわけだ。


 で、そこで発注についての相談は終了。上級生は総がかりで材料を集め、ウチのクラスでもみんなに頼んで材料をかき集めてもらうってことになった。上級生の本気を見れるってちょっとラッキーかもしれない。いったいどれだけグレートな材料を集めてくれるのだろうか。


 しょうがないからこっちもクリスタルシュガーを提供してやろうと思う。足りない分はギル・シュガーを使うつもりだ。もちろん、ギル・シュガー使用のものは優先的に上級生に回す。夢魔の乳に関してはちゃっぴぃに頑張ってもらうほかない。


 キイラムのやつ、ちゃっぴぃを見て『あの子……いい!』とかほざいていたので全力でケツビンタしておいた。ここら辺はきっちりしとかないとね。


 さて、材料やお金のごたごたについてはひと段落ってことになり、キイラムとシキラ先生は帰ろうとした。が、俺的にまだ用事が終わっていない。


 『材料費については終わりましたけど、僕個人への報酬についてはまだ話してませんよ?』ってやさしく声をかけたら二人ともが目玉を飛び出さんばかりにこちらを見つめてきた。


 なぜ、俺個人の時間を拘束することに対する報酬を考えていなかったのだろうか。ちょっと理解に苦しむ。材料費だけ用意してハイ終わり、ってわけじゃないだろうに。


 『さ、さすがにこれ以上ぼったくるのはちょっと……』ってステラ先生が頭をポンポンしてくれたけど、それだけじゃちょっと足りない。『この発注を受けると確実に宿題を進める時間がなくなるんですけど、それはどうするんですか?』って聞いたら、『うっ……』って言葉を詰まらせる。そんなお顔も超ステキ。


 で、キイラムとシキラ先生に


 『今回の発注は明らかに個人、それもただの一学生の仕事の範疇を超えています。普通の商店であってもこれだけ用意するのに相当な労力が割かれることは明白です。一度にこれだけ注文したら、手元に来るのに数日はかかるでしょう。そう、あなた方の一時の快楽のために僕は尋常じゃない時間、およびそれに付随する一切の活動の制限を強いられるんです。


 製図やレポートのつらさはよくご存知ですよね? 技術料は商品代に入るにしても、それはあくまでハゲプリンやケーキといった商品に伴う対価というだけで、商品というくくりの中で完結しているんです。商品そのものは提示された対価で賄うことができますが、多大な時間の浪費、いや、犠牲を伴ってまでその商品を用意する、僕に対しての対価がここにはないんですよ。時間まではさすがにオマケできません。僕だって本当はこんなこといいたくないですが、今回は常識の範囲のレベルをはるかに超えています。これがちょっとしたおやつ用に、程度の量なら商品代だけで受けることもやぶさかではなかったのですが、時間はお金じゃ買えませんし、最低でも僕の単位と成績を保証してくれる案がないと今回の件は……』


 ……と、にっこりとほほ笑む。


 『……こいつやっぱクレイジーだったわ』ってシキラ先生が唖然とつぶやいたけど、その直後に『……こいつら、の間違いだったか?』とひきつった笑いを浮かべる。いつのまにやらほぼ全員のクラスメイトが近くに集まっており、みんながヤバい金利の悪徳業者みたいな歪んだ笑顔を浮かべていた。


 『そういや、俺たちも材料集めに駆り出されるんだよな』とクーラス。『相応の報酬はほしいな』とジオルド。『金じゃなくて誠意だよね』と超笑顔のポポル。『エッグ婦人の卵は安くはないぜ?』とフィルラド。


 『もちろんその材料で私たちも食べていいんだよな?』とアルテアちゃん。『集めさせるだけ集めさせてお預けなんてひどすぎるの』とミーシャちゃん。『お金はいっぱいあるからそれ以外で。じゃなきゃ呪う』とパレッタちゃん。『私の──くんとの時間を取るんだから……ねぇ?』とにこにこガチ笑顔(目は笑っていない)のロザリィちゃん。


 なんとなくノリで全力で威嚇するちゃっぴぃとエッグ婦人たち。さらに杖を取り出すその他クラスメイト。逃げられないようにみんなで座っている二人を囲み、出口をすべて魔法陣でふさぐ。


 極め付けに、ギルが半裸&無言&笑顔でポージングを決め、じりじりと二人に迫っていく。ルマルマのみんなの心が一つになった瞬間だった。


 シキラ先生、俺たちの言いたいことがわかってくれたらしい。『……テストの過去問と製図と実習のレポートの資料だ。あと助っ人を何人か派遣。これ以上はヤバい』と約束をしてくれた。話の分かってくれる大人ってステキだ。みんなの歓声が響いたことは言うまでもない。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。商談を一つしただけだというのに無駄に長くなった。が、製図の課題が格段に楽になったのは大きな収穫と言える。ぶっちゃけ書き方さえわかってしまえばあとは作業だから、フリータイムだけで終わらせられるんじゃね?


 筋肉を存分にキイラムに見せつけたギルは今日も鼓膜が破れそうなイビキをかいている。『こ、これでも飲んで落ち着こうぜ?』とキイラムがくれた善人茶を鼻に詰めておいた。パッケージには『効能:どんなに怒っている人でもたちまちリラックスして善人になります。ただし、無性にケツがかゆくなる』と書かれている。みすやお。

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