175日目 魔法造成実習:測定器具の使用法【マギクロメータ】
175日目
ギルのヨダレがはちみつになっている。禁断に手を染めてしまう俺を許してほしい。
はちみつ(ギル・ハニーと命名。めっちゃ上質)をしっかり回収してからギルを起こして食堂へ。なんとも都合よく焼き立てパンがあったので、ジオルドとクーラスに『はちみつもらったんだけどどうだ?』とすすめた。
が、なぜかあいつら、『それ、本当にはちみつか?』とめちゃくちゃ疑ってくる。はちみつのついたジャガイモを『うめえうめえ!』と食べるギルを見せるも、『ギルじゃ証明にならん』と冷たいまなざし。クラスメイトからの信頼のなさに泣けてくる。
しかも、ここで急展開が。なんと、ミーシャちゃんが『……なんかいつもと違うの!』とギルの口内の異変に気付く。そして、勇敢なことにギルの口に手を突っ込み、その正体を確かめた。
さらに恐ろしいことに、突っ込んだその指を舐めて、『……はちみつ出してるの?』とつぶやいたのだ。
これにはマジでびっくり。クーラスもジオルドも唖然としてその様子を見ていた。ミーシャちゃん、『もう今更のことだしどうでもいいの……』と乾いた笑みを浮かべていた。開き直った……ということでいいのだろうか?
なお、呆然としている間にクーラスとジオルドの口にはギル・ハニーをぶち込んでおいた。直後に激しいケツビンタの嵐に襲われる。『うまくなかったのか?』と聞いたら、『普通にうますぎるのが逆にイラつくんだよ!』と逆切れされた。解せぬ。
今日の授業は女神ステラ先生による魔法造成実習。杖をコンコンしながら出席を取る姿がマジプリティ。ふとこないだのことを思い出したので、レポートを提出するときに手をぎゅってしたら、超真っ赤になって『お、大人をからかっちゃダメですっ!』ってデコピンされた。もっとしてほしかった。
なお、直後にクラスメイトからケツビンタが飛んできた。『てめえマジでぶっ飛ばすぞ』と男子連中からの殺気と『女の敵に人権はない』と女子の冷たすぎるまなざしにチビりそうになる。
ロザリィちゃんだけは『他の人に浮気さえしなければ、ある程度はしょうがないけど……ね?』って俺のほっぺを軽くペシッてたたいた。そんな様子もマジプリティ。
さて、今日は前回の続き……ってわけじゃないけど、マギクロメータっていう測定器具の扱いについて学んだ。
こいつ、マギスよりもさらに分解能がよく、マギスの十倍以上も細かい数値まで測定することができる。扱いもそれなりに簡単で、マギスみたいに対象物を挟み込み、ダイヤル的なものをキリキリ締めてその時の目盛りを読み取るだけ。
ただし、物事そう簡単にうまくはいかない。精度が高すぎる故に、マギクロメータは誤差が乗りやすい。なんかダイヤルもずっとキリキリ締められちゃうし、しっかり締めてもう動かないと思っても、ちょっと力を加えたり、反動をつけてダイヤルを回したらさらに回ってしまう。
うまく測るには大きなダイヤルで軽く締めた後、小さなダイヤルで締め付けて一応の固定をし、さらにキリキリって二回音が出るまでゆっくり回すといいらしい。マギスに比べて測定者の実力が如実に表れるっぽい。
そして例によって例のごとく、同じ場所でも測るたびに測定結果が違う。値のブレ幅はマギスの時よりもはるかにデカい。対象となる数値が小さくなっただけに、誤差の値そのものは小さくても、相対的な誤差の割合がとんでもないことになっていた。
で、なかなかステラ先生が用意した魔法陣の魔深の正解値と合わなかったので、どこがいけないのか聞いてみたら、『あっ、これ壊れてる……』とのステキな答えが。
これ、精密に測れる分繊細なつくりをしているらしく、ダイヤルを締めっぱなしで片づけたり、ちょっと机の角に当てるだけでも簡単にぶっ壊れるそうな。
ぶっちゃけ使う必要はないようにも感じたけど、『大型の儀式魔法陣だと小さなズレが全体に響いてくるからね……』ってステラ先生が遠くを見ながら語ってくれた。なにか嫌な思い出でもあるのだろうか。
結局、前回と同じくらいの時間をかけて実習は終了。さすがにこれからの展開に不安を感じざるを得ない。あと、ギルはマギクロメータを二つも壊してしまった。あいつの筋肉って繊細すぎる動きには向いていないみたいだ。
夕飯食って風呂入って雑談していたら、湯上りステラ先生がやってきた。ひゃっほう。
せっかくなのでカードゲームに誘おうとしたら、『これ、──くんにお手紙だよ!』と封筒を渡される。ラブレターじゃなくて超がっかり。
とりあえず、内容をそのまま記しておく。
WilruaRontica魔法学園 クラスRumaRuma ──様
・商品の発注について
お忙しいところ失礼します。いつもお世話になっておりますWilruaRontica魔法学園魔法材料研究室所属、クラスElmedanothaのキイラム・レイングスと申します。先日は大変ご迷惑をおかけしました。
さて、早速ですが、下記の材料を注文させていただきたくご連絡いたしました。お手数おかけしますが、よろしくお願いします。
1.ハゲプリン×2グロス
2.ジャムクッキーのセット×4ダース
3.煉獄ケーキ×2
また、材料をこちらで用意し、そちらで調理だけしていただくことは可能でしょうか? 何かとご多忙の中恐縮ですが、よろしければ一度話し合いのためのお時間を頂けると幸いです。
割とガチっぽい注文書にビビる。マデラさんところで受け取ったものと遜色ない。キイラムのクセになかなかやりおる……と思ったら、後ろから手紙を覗き込んだステラ先生が『材料発注のテンプレそのまま使ってるみたいだねー……途中のところ、”材料”のままになってる』と耳元でささやいてくれた。くすぐったくてシャンプーの甘いにおいがして気絶しそうになった。
どうやら、こないだシキラ先生が言ってたことが現実になったらしい。しかも、ハゲプリンだけじゃないうえ、量が凄まじい。2グロスも注文されるとか初めてなんだけど。あいつら、本気で食べきるつもりなのだろうか?
とりあえず、パパッと手紙を書いてステラ先生にシキラ先生に渡してもらうように頼む。手紙には『とりあえず話だけ聞くからうちに来い(意訳)』とだけ書いておいた。さすがにこれだけの量となるとすぐには用意できないし、俺の物理的な拘束時間が長すぎるからね。
あと、ロザリィちゃんが『ほかのクラスから発注が来るってすごい!』って自分のことのように喜んで抱き付いてくれた。めっちゃぬくやわこくてふっかふか。俺、発注来たことよりもこっちのほうがうれしいや。
微妙に遅い時間になった。ギルは今日ものんきにイビキをかいている。水槽の中にあったコメットテールの卵を鼻に入れておいた。おやすみらくる。
※WilruaRonticaはウィルアロンティカと発音するようです。




