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172日目 発展魔法生物学:怠惰の芝の栽培について

172日目


 ギルの目がうるうるしている。なぜ。


 ギルを起こして食堂へ。さすがにもう慣れたのか、ギルが今にも泣きだしそうにうるうるしていてもみんな普通に朝飯を食っていた。ギルも『うめえうめえ!』とジャガイモを喰っていた。


 ミーシャちゃんだけが『いいこいいこしてあげるの♪』ってギルによじ登って頭を撫でていたけど、そんなにギルの背中が気に入ったのだろうか。あいつの背中、確かに頼りがいはありそうだけど、めちゃくちゃ硬いから座り心地(?)は最悪のはずなんだよね。


 そうそう、『俺もなんかすっごくうるうるしてきちゃったな』ってロザリィちゃんに話を振ったら、『今日だけの特別なんだからねっ!』って朝からぎゅってしてくれた。もう幸せすぎて気絶しそう。すごくいいにおいがする。途中でちゃっぴぃが間に入ってこなければ最高だったのに。


 今日の授業はグレイベル先生、ピアナ先生による発展魔法生物学。グレイベル先生、うるうるしているギルを見て『これでも食って落ち着け』ってジャガイモの中袋を渡していた。『いやっほぉぉぉ!』って狂喜乱舞するギルがすっげぇ怖かった。


 内容は怠惰の芝について。これ、一見するとちょっと貧相な芝生にしか見えないんだけど、その上に乗って歩くたびに体の力が抜けていき、最終的にその場で寝転がる以外出来なくなっちゃうってやつ。


 本来は人里離れたところに群生しているそうだけど、天然の防犯装置ってことで大きなお屋敷に植えられることがあるとかないとか。とりあえず、いつも通りにメモを写しておくことにする。



・怠惰の芝はその上を歩いたものの生命力、および魔力を糧に成長する。その吸収能力はそこまで高くないが、逆にそのせいで吸収されていることに気づかず、手遅れになることも少なくない。


・怠惰の芝に特殊な魔法水を与えることでその吸収能力を活性化させることができる。この魔法水にはある魔法花の花粉に由来する成分が含まれていることが必須であり、自然環境下にてその魔法花付近に怠惰の芝が群生していた場合、想像以上の被害にあうことがあるので注意すること。活性化しすぎていると異常発生する。


・自然環境下では、怠惰の芝の付近には動物の通り道や巣穴が存在しないことが多い。このため、怠惰の芝はときおり餌場を求め、文字通り動いて群生地を広げていく。移動前後は吸収能力が高まるため、より一層の注意が必要となる。気分がハイになってるらしく、異常発生することも。


・怠惰の芝はその性質から、防犯として庭に植えられることもある。普通の芝生に比べて見た目が貧相なため、荒れ放題の芝生を演出したり、元気な芝生に巧妙に紛れ込ませるなどといった工夫が必要となる。環境が気に食わないと異常発生して抗議する。


・庭で管理する場合、前述の移動を防ぐため定期的に家畜などを放牧しないとならない。しかし、あまりに食欲が旺盛な家畜であると食い荒らしてしまう。周囲を火で囲むことでこの移動は防げるが現実的ではない。特殊な魔法火を中央に灯すとそれにひきつけられ移動しないが、怠惰の芝があることがばれてしまうのでこちらも現実的でない。ストレスを与えすぎると異常発生する。


・まごころを込めて育てる。込めないと異常発生する。


・収穫は愛情をこめて行う。



 実際に物を見せてくれたけど、たしかにパッと見は質の悪そうな芝生って感じだった。ただ、実は芝生に見せかけて下のほうで全部繋がっているらしく、どこか一か所に除草剤を使えばたちまち全体をダメにすることができるってピアナ先生が言ってた。


 んで、実際にこの怠惰の芝の上を歩いてみた。最初は全然気にならなかったけど、だんだん息切れみたいのが激しくなってきて、なんとなく高い山を登っているかのような気分になった。あのまま続けていたらそう遠くないうちに倒れていたと思う。


 もちろん、ギルは『俺こんなの楽勝だぜ!』って怠惰の芝の上でスクワットをしていた。あいつの汗がしみこんだところだけ、怠惰の芝が変色していた。超怖い。


 あと、『昔、自分はしっかり対策をしたうえで意中の男を怠惰の芝の上に呼び出し、動けなくなった男を……まぁ、好きなようにする女が出てくる小説がはやったことがあってな』ってグレイベル先生がちょっとした雑談をしてくれた。


 なんとも驚くべきことに、ロザリィちゃん、アルテアちゃんはその小説を知っていたらしく、二人して顔を赤くしてうつむいてしまっていた。小説の中でいったい何があったのか、興味を隠せない。


 ちなみに、参考までにその対策とやらを聞いたら、『ゲロマズ料理を靴に塗り込んだんだったかな?』とグレイベル先生が教えてくれた。実際は激苦な何かだったら何でもいいらしい。


 ピアナ先生が『……炎蛾の蛹をすり潰したものとか、抜群だったよ』って女子たちにボソッて教えてたけど、まさか、な?


 なお、怠惰の芝は麻痺薬、昏睡薬なんかの材料に使われるらしい。成分を希釈して煙を焚けば睡眠薬にもなるとか。どんな香草と合わせるかでその人の個性が出るとのこと。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。後期になったからか、メモの内容がすごく多くなった気がする。あと、やっぱり小説の中身とピアナ先生の発言が気になって眠れない。


 そんな俺とは裏腹に、ギルは今日もクソうるさいイビキをかいている。今日はちょっと贅沢に喜びの欠片を詰めてみた。おやすみなさい。

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