166日目 基礎魔法陣製図:線の引き方について
166日目
ギルの胸毛がもっさもさ。キモチワルイ。
ギルを杖で突いて起こし、食堂へ。いつもと同じ肉体のはずなのに、胸毛がもさもさなだけでみんながビビって杖を引き抜いていた。
ギルはいつも通り、専用に用意されたジャガイモの大皿を持っていこうとしたんだけど、『持ってってやるから皿に近づくな!』っておばちゃんに怒られていた。抜け毛も激しかったから衛生的にだいぶ問題があったんだよね。そんなの構わず『うめえうめえ!』って食ってたけど。
あと、ギルの胸毛を見たロザリィちゃんに、『──くん、その、お手入れはしっかりおねがい……ね?』と若干ひきつった顔で微笑まれた。ロザリィちゃんは胸毛の男は苦手らしい。
もちろん、俺はとぅるとぅるなので『大丈夫だよ?』とその場で服を脱いで見せてあげたら、『~~っ!?』って真っ赤になってぺしぺし叩いてくれた。めっちゃかわいい。せっかくなのでギルリスペクトしてポーズもとっといた。
ロザリィちゃん、手で顔を隠す割にはチラチラ見てくる。そんなところがマーベラスキュートなんだけど。
そうそう、ミーシャちゃんはギルの胸毛をぶちぶち抜いてケラケラ笑っていた。ちゃっぴぃはギルの胸毛を見てなぜか泣き出して俺に抱き付いてきた。女の子的に、どっちが正しい反応なのだろうか?
今日の授業はキート先生の基礎魔法陣製図。食堂でポポルもフィルラドも見かけないと思ったら、ギリギリまで製図の確認を行っていたらしい。『最後に矢印がちょっとズレてるの発見してめっちゃ焦った……』ってポポルが疲れた顔をしてつぶやいていた。
で、早速みんな課題を提出するも、キート先生は『お、おお……』とどこか狼狽えたような様子。『まぁ、最初はこんなもんか……』と不穏な一言も追加された。
何かありましたかと聞いてみたら、穏やかに笑いつつ、『──さて、今日の授業を始めます』とはぐらかされた。これ、もしかして結構ヤバいパターンじゃね?
あと、前回の落書きが気になったのでちょろっと確認してみたところ、
『自分にもぜひ教えてください。ちなみに自分のイチオシはライラちゃんです』
『俺もシエナってのはしらね。でも今まで見た中で一番よかったのはナターシャさん。知ってるか? こないだ外部講師にきてたんだぜ!』
『誰が何と言おうとウチのメルティが最高。これだけは譲れん。この学校に限定するなら一年にいるリボンの子を勧める。ウチのに雰囲気が似てるし、小さくてすっげぇ可愛いんだぜ? 迷惑かかると嫌だから名前は伏せるけど』
『シエナちゃん知らないとかお前らどこのクラスよ? ロリコンは黙ってろ。無駄に書き過ぎ。ナターシャさん来てたってマジだったの? あとライラちゃんについて詳しく』
……と書かれていた。意外な盛り上がりに驚きを隠せない。とりあえず、もう書くスペースがなかったので、上から紙を張り付け、
『最初に質問したものです。今度からここに書きましょう。二週分たまったら過去のものから張り替えます。あと一番なのはロザリィちゃんです』
とだけ書いておいた。来週がちょっと楽しみ。いや、楽しみなのはデイビーのことについてなんだけどね。いや、マジで。
さて、今日は道具を使った線の引き方について学んだ。前回の授業で線の種類を学んだわけだけど、実際の製図では単純な直線ばかりを使うわけじゃないから、これは知っていないと話にならないってこと。
ファンクションパターンの中では円弧同士が接した形を持つものはザラだし、なんかよくわからん複雑な線を書くことがめちゃくちゃある。『魔法陣を綺麗に製図するには、まず基本の線とその発展形である形の線をきちんと引ける基礎力が大事なのです』ってキート先生が言っていた。
で、本日の課題(終わらなかったら全部宿題)が出された。とりあえず出されたものをここに全部書いておく。
Ⅰ
・定直線の垂直二等分線
・定点から定直線に垂線を立てる
・定直線の一端に垂線を立てる
・任意の角の二等分線
・直角の三等分線
・任意の角の近似的三等分
・任意の角の任意移動
・定直線の任意等分
・円中心の決定
・三点を通る円の決定
・定点から与えられた円に接線を引く
・与えられた二つの円の共通接線
・指定された半径で直交する直線に接する円弧
・指定された半径で定直線・定円弧に接する円弧(1)
・指定された半径で定直線・定円弧に接する円弧(2)
・指定された半径で定直線・定円弧に接する円弧(3)
・指定された半径で二つの円に接する円弧
・二つの直線に接する逆向きの曲線
Ⅱ
・円に内接・外接する正三角形
・円に内接・外接する正四角形
・円に内接・外接する正五角形
・円に内接・外接する正六角形
・円に内接・外接する正七角形
・円に内接・外接する正八角形
・円に内接・外接する五芒星
・円に内接・外接する六芒星
・円に内接・外接する七芒星
・円に内接・外接する八芒星
・円に内接・外接する九芒星
Ⅲ
・渦巻き線
・サークリア曲線
・マギカ・リュート曲線
Ⅳ
・Ⅰの項目を五つ以上、Ⅱの項目を一つ、Ⅲの項目を一つ使ったオリジナルの魔法陣を二つ(強度計算等はしないでもよく、現実的にありえない魔法陣でも構わない。ただし、少なくとも魔法陣とわかる程度のデザイン性は持たせること。その他のファンクションパターンなども組み込んでもよいが、製図法に則っていない場合は減点対象とする)
※なお、すべての項目において、製図するにあたって使用した作図線はそのままにしておくこと。作図線が見られない場合、この課題の意図をつかめていないものとし、評価をしない場合があるので注意すること。
いやもう、みんな唖然としてたね。ポカンと口を開けたロザリィちゃんがマジプリティで一瞬何もかも忘れちゃったくらい。こんなにたくさん書くだけでも大変なのに、そのうえ最後にそれらを使ったオリジナルの魔法陣を二つも書くとか、どうなってんだろうか。
あまりの量の多さに『いくらなんでも無茶です!』という声がクラス中から上がるも、『普通に魔法陣を書くよりも少ないくらいですし、特に意識しなくても条件は満たした魔法陣はかけると思います。むしろ、あの条件を満たさない魔法陣を書くほうが難しいでしょう』と目が死んだキート先生にやんわりと窘められた。
逆を言えば、それだけやっていないと魔法陣としてカス……っていうか魔法陣として認められたものじゃないということなのだろう。言われてみれば、今まで見て来た魔法陣は全部Ⅳの条件を満たしている気がする。
また、『魔系に無茶という言葉はありません。できるできないじゃなくてやるんです。つらいでしょうが死にはしません。先輩たちも通った道ですから頑張ってください』とげっそりとやつれた笑顔のキート先生にエールを送られた。
『……無事に、ではないですけどね』ってボソッとつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった。魔系ってクレイジーすぎる。
一応先生が書き方のヒントやコツなんかを教えてはくれたけど、それでもⅠの項目とⅢの項目は書き方がよくわからないのが結構残っている。『自分で考えると問題解決能力が培われますし、製図にあたって様々なアプローチを考案できるようになれますから』ってキート先生は言っていた。
当然のことながら、授業中に全部終わるはずもない。たぶん、一番進んでいたクーラスで全体の二割ってところか?
あいつ、普段から罠魔法陣や裁縫のために型紙だの魔法陣だののモデルを書きまくっているから得意っぽい。性格が几帳面ってのもあるだろうけど。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。午後のフリータイムは宿題する奴と現実逃避して遊ぶ奴の二つに分かれた。まぁお察しの通りのメンバーではある。夕方になるにつれてナーバスになってたのは書くまでもない。書いたけど。
夕飯の間もずっとルマルマのみんなは気分が沈んだままだった。風呂の時なんて『……おまえらどうした?』ってティキータのゼクトに心配された。『頼むから巻き込んでくれるな』とアエルノのラフォイドルにも懇願される。
どうせ道連れになるので『みんなギルの胸毛で気分が悪いんだ』とごまかしておいた。あいつら、疑うことなく納得していた。当のギルは『胸毛があると筋肉の輝きがわるい……』ってぼやいてた。
ちょっと夜更かしして少しでも課題を片づけようと思う。風呂場にて、珍しくラフォイドルが『余りまくったからこれやる。だから関わるな』と流星水晶の欠片(帰省したやつのお土産らしい)をくれたので、とりあえずギルの鼻に詰めてみた。
なんかいい感じに妖しく美しくキラキラ輝いている。リラックス効果があるとかないとか。みすやお。




