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163日目 幸せのジャムクッキー

163日目


 硬化したトカゲのしっぽが壁に突き刺さっている。大きさが手頃だったので、それを使って寝ているギルの耳掃除をしてやったら、でっけぇ耳垢がボロッと取れた。ばっちぃ。


 しっぽを窓からぶん投げ、ギルを起こして食堂へ。エレガントにハニークロワッサンを食べていたら、どこかで聞きつけてきたのかティキータ・ティキータのゼクトが『ゴールデンアントを取ったんだって? 帰省してたやつがお土産でクリスタルシュガーをもってきたんだけど交換しないか?』と持ち掛けてきた。


 クリスタルシュガーっていうと割と地方の限定品。文字通り水晶みたいな見た目と透き通った甘さが特徴的な逸品。


 めちゃくちゃ貴重ってほどではないけど、こっちにはあんまり出回ってなくて結構な割高。マデラさんもよほどのことがない限りは使わせてくれなかったやつ。


 一応はクラス財産なので今いるメンツに聞いたところ、快く了承をもらえたので交換することに。ゴールデンアント三匹で中袋三つ分ももらえた。なんか、『学校のお友達にいっぱい持ってけ!』とお隣さんの主人(業者の人)にいっぱい持たされ余りまくってたそうな。


 そうそう、ギルは『砂糖よりもコショウのほうがジャガイモにはあうんだぜ!』とか言いながら『うめえうめえ!』とジャガイモを貪っていた。ちょろっとクリスタルシュガーを振りかけたのに全然気づいていなかった。


 さて、食事も終わりクラスルームに戻ったところ、若干の寝癖のついたロザリィちゃんと遭遇。そんな姿もめっちゃプリティで心臓ドッキドキ。


 『なんか珍しいね』と声をかけたら、『一晩で終わると思ったのに宿題終わらなかった……』とナーバスな声。で、『今日一日ちゃっぴぃの様子、見ててくれる?』とロザリィちゃんは腕の中でスヤスヤしているちゃっぴぃを俺に渡してきた。


 てなわけで、ちゃっぴぃを膝に抱いたまま俺はロッキングチェアでゆらゆらする。クラスルームでは製陣の課題に追われたやつらが必至こいて線を引きまくっていた。


 ポポルとフィルラドもこの時になってようやく課題のヤバさに気づいたらしく、涙目で進めていた。ギルはそんなみんなの真ん中で嬉しそうにポージングをしていた。俺、いまだにあいつが何考えているかよくわからない。


 いつもは部屋を動き回っているヒナたちも、このときばかりは邪魔になるからアルテアちゃんが『こっちゃこい、こっちゃこい』と呼び寄せてまとめて抱きかかえる。なんかもうだいぶ大きくなっていて、成鳥ってほどじゃないけどヒナって言うにはちょっと疑問が残るかんじけど、面倒くさいからそのままヒナって呼ぶことにした。


 さすがに午後もゆらゆらするのは暇すぎたので、昨日のリンゴをジャムにすることに。リンゴを切ってレモン入れて、ちょっと贅沢にもらったばかりのクリスタルシュガーをぶち込み煮詰めていくだけの簡単なお仕事。


 甘いにおいに誘われたのか、途中でちゃっぴぃが起きたのでちょびっとだけ味見させてやった。『きゅーっ♪』と超嬉しそうで、尾っぽで俺のケツをピシパシ叩いてきた。普段からこれくらいかわいげがあればいいのにと思わずにいられない。


 で、さすがにここまま出すのは芸がないし、時間もちょっとあったのでジャムクッキーを作ることに。もう何度も作ったことのあるものだから手こずることなくそれなりの量を作ることに成功する。


 ここで俺的一工夫として、普通のクッキーの上にジャムを乗せたやつと、生地の中にジャムを練りこんだやつの二種類を用意した。こういう細かい気配りや工夫ができないとマデラさんにケツビンタされるんだよね。


 時間もちょうどころあいになったため、焼きたてほやほやのそれをクラスルームにもっていく。すでに匂いが漏れていたのか、みんながこっちをガン見していてちょっとビビった。明らかに手が止まっている。クラスメイトの集中力のなさに悲しみを隠せない。


 『がんばってるやつらに、おやつを作ってやったぞ』って声をかけたら一番頑張っていなかったフィルラドとポポルが『これ喰ったら超頑張る!』と真っ先に食いやがった。あいつらマジ何なの?


 ともあれ、俺のクッキーはなかなか好評。みんな超おいしそうに食っていた。宿屋の息子としての喜びをかみしめる瞬間だ。


 アルテアちゃんもミーシャちゃんも『おいしいっ!』と目を輝かせていた。パレッタちゃんは『おいしすぎて呪っちゃいそう!』と目がトリップしてた。ロザリィちゃんも『おいしーっ!』ってニコニコしながら食べてた。ちゃっぴぃは『きゃーっ♪』ってバクバク食ってた。今度からリンゴは全部ジャムにしてしまってもいいかもしれない。


 あと、ロザリィちゃんに『──くんの女子力が高すぎるのは反則です!』って言われてしまった。『これじゃ、いつまでたっても追いつけないよぉ……!』と幸せそうにクッキーを頬張りながら泣きまねをされる。


 『俺が一生作るから大丈夫だよ』と囁いたら、『そんな恥ずかしいことを言うのはこの口かなっ!』ってクッキーを『あーん♪』ってぶちこまれた。


 もう超幸せ。めっちゃ甘い。甘すぎる。一連の流れ全部がかわいすぎて直視できない。なんでロザリィちゃんはこんなにかわいいの? あ、ロザリィちゃんだからか。


 なお、俺とロザリィちゃんがイチャイチャしていたら、なぜかクラスメイトの連中が盛大な舌打ちをした。ジオルドなんて、大好きな甘いものを食べているはずなのに、親の仇のオーガをぶっ殺しに行くかのようなヤバい表情になっていた。


 さて、いくらか落ち着いてきたところで『なんかおいしそうなにおいがするねー?』と私服姿のステラ先生がやってきた。私服姿もキュート過ぎて鼻血が出そうになったんだけど、なぜかその瞬間にちゃっぴぃに顔面をひっかかれた。解せぬ。


 ステラ先生、ジャムクッキーを見るなり目の色が変わる。『あ、そ、それ……!』と明らか物欲しそうにモジモジするところが超かわいい。もちろん、断る理由もないので『お好きなだけどうぞ!』と皿ごと進めた。


 『はぅん……っ♪』と幸せそうな表情。ステラ先生、ジャムクッキーに目がないらしい。お菓子は全部好きだけど、ジャムクッキーだけは別格で好きなんだとか。


 『どうしてそんなに好きなんですか?』と聞いたら、『叔母さんが……ええと、ピアナ先生のお母さんが作るジャムクッキーがすごくおいしくて、好きになっちゃったの!』とのこと。


 そういえば、ピアナ先生もジャムクッキーが好きって言っていた。小さい頃同じものを食べると好みが似るのだろうか?


 ただ、最近は仕事で忙しいのと、その叔母さんも体力が衰えつつあることから、年に一回か二回くらいしかそのジャムクッキーを食べられなかったらしい。町のお店でいろんなクッキーを試してみてはいるものの、そのジャムクッキーと同じくらいおいしいのは俺のジャムクッキーが初めてだったとか。


 『これからは──くんに頼んじゃってもいい?』と聞かれたので快くうなずいたら、『やったぁっ!』って抱き着かれた。大きくて柔らかいものが当たって超幸せ。そして、思わずハッとして恥ずかしがるステラ先生が超ステキ。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。寝る前、ちょっと頬を膨らませたロザリィちゃんが『先生となら浮気は許すけど、恋人をないがしろにしないように!』って言って……


 ちゅっ! ってしてくれた! もちろんくちびる! ちょうぷるぷるでマーベラス! 微妙にクッキーとリンゴの香りもしてマジ最高! あと嫉妬ロザリィちゃんマジプリティ!


 なんかもう幸せすぎて眠れそうにない。これで来週一週間頑張れる。ロザリィちゃんがいれば、俺もうあとはステラ先生だけでほかは何もいらないや。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。こんなギルにも俺の幸せを分け与えたい気分だったので、ジャムクッキーのかけらを鼻に詰め込んだ。いい夢見ろよ。


※明日はめらめらゴミ。魔法廃棄物の審判は次なる時代に。

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