159日目 基礎魔法陣製図:基本的な線の意味
159日目
ギルの手が真っ黄色。ちょっと予想外。
食堂にて、ギルはいつも通りジャガイモを食べようとしたんだけど、なぜか持った瞬間にジャガイモがずたずたになっていた。しかも、別のやつをつかもうとしたら今度は軽く触れただけで超圧縮されていた。
挙句の果てに、一瞬ですり潰されたりドロドロに溶けるやつが出てくる始末。どうやらジャガイモに触れるたびにランダムで効果が表れているらしい。あいつマジヤバい。
『うおぉぉぁぁぁぁッ!?』と、ギルは悲しみの慟哭を上げる。が、ギルに触れようとする人間は一人もいない。俺も触れない。だってまだミンチになりたくないし。
最終的に、ミーシャちゃんが『手のかかるお子ちゃまなの♪』とかにこにこしながらクレイジーリボンを使ってギルに『あーん♪』ってやってた。ギルは『うめえうめえ!』とむさぼり、リボンはそんなギルに共鳴するかのように輝いていた。
すっげぇ異様な光景だったけど、本人たちが幸せならそれでいい……のか? あと、ちゃっぴぃが砕かれたジャガイモをぱくついて、ロザリィちゃんに『めっ!』って怒られてた。お叱りロザリィちゃんもマジプリティだった。俺も『めっ!』ってされたい。
さて、今日の授業は基礎魔法陣製図。その名の通り魔法陣の製図の授業……なのはいいんだけど、製陣用具がやたらかさばって持ちづらい。大きな製陣用紙でも折らずに入るって話だけど、デザイン面と利便性が致命的にクソだと思う。
で、製陣室に到着。製陣台がずらっと並んでいてちょっと感動。ガシャガシャ動かせてロマンあふれる。あと、『デイビーの野郎はシエナちゃんの胸をいつもガン見している』って手前の座っている人しか見えないところに落書きがあったので、『シエナちゃんとデイビー君の学年とクラスを教えて下さい』とだけ書いておいた。
別にやましい気持ちはない。ただ単に、そんな愉快なデイビー君を見てみたかったってだけだ。シエナちゃんはあくまでついでである。大きくて綺麗な人だといいなぁ。
担当の先生はキート先生っていう若い男の先生。背はそんなに高くなくて、マジで俺たちと同年代に見える。どちらかといえば丁寧な口調ではあったけど、たぶん私服なら俺たちと見分けがつかない。
で、早速授業。まず、魔法陣の製図ってのは結構重要だったりする。魔系はオリジナルの魔法陣を描くことがちょくちょくあるわけだけど、これを誰かに伝えるための設計図を好き勝手に描いていると、作り手が想像した通りの魔法陣をその図から再現することができないからだ。
だから製陣にあたってかなり細かい規格や条件があって、それを学んで社会でも通じる、知識のある人間ならちゃんと理解できる魔法陣を描けるようになりましょうってのがこの授業の目的らしい。
『現場を知らない人間が設計した魔法陣は再現できないことが多いんです。本人の中ではわかっていても、細かいところや全体が描かれていなくて完成品を想像できないんですよ。理想的……というか、本来あるべき製陣というのは、誰が見ても同じモノが出来上がるもののことを言います』ってキート先生は言ってた。
さて、早速実習に。とりあえず初回だから基本的な線の意味を学ぶ。
まず、太い実線が外形線で、細い実線が寸法線。破線が隠れた部分を示し、一点鎖線が中心を示す。
寸法線に付随する矢印の角度は固定。破線や一点鎖線の空白も規格が決まっているからそれに従う。文字や記号は製陣の場合ちょっと傾け、寸法線の上に書くときは高さを揃えて(この高さも決まっている)上にあげる。
なお、線の太さもそれぞれ全部決まっていて、同じ太い線でも意味合いが変わってくる場合もある。細かすぎてやんなっちゃうよね。
んで、とりあえず今言ったことを練習するために課題を出す……と、細かい数値付きで描くものを指示された。自分で枠組みを書いて、矢印とか線とかいっぱい書くだけの簡単なお仕事。
が、製陣台がボロ過ぎてまっすぐに線が引けない。水平に合わせてんのになんかカタカタするし、まっすぐなはずのスケールがゆがんでいる。角度固定もゆるくなっていて、線を引いている途中に明らかにずれていく。
マジでどうなってやがる。ボロいってベルじゃねーぞこれ。
当然のことながら、クラス中から抗議が殺到。『こんなんじゃまともに線が引けません!』、『台に凹凸があって紙が破れました!』、『角度直そうとしたら折れちゃった!』と各自が不満点をぶちまける。
しかし、キート先生は遠い目をしてニコニコと笑いながら『……先輩たちもその道を通りました。わが校に予算はありません。大丈夫、気合で何とかできます。いえ、何とかしてください』とだけ吐き捨てた。
もうやだこの学校。もう製陣台使う意味なくね?
結局課題の二割も終わらず、残りは全部宿題に。みんなマジで悲痛な面持ち。楽勝だと思っていただけにショックはデカい。あと、やってて思ってたけど、考えている以上に量が多くて面倒くさかった。
せっかく午後はフリータイムだったのに、みんなクラスルームで製陣してた。数少ない水平で凹凸のない場所を巡って戦争が起こる。俺はジオルド製のワンダフルな机をもってきたから問題なかったけど。
ずっと線を引きまくっていたせいで指が痛い。初回からこれとかひどすぎる。腹立つくらいに幸せそうにイビキをかくギルは、俺の動きを筋肉でトレースして課題を片付けていた。こいつマジずるい。
なんかちょっとイラッと来たのでみんな大好きオステル魔鉱石を鼻に詰めた。早く明日になーれっと。




