151日目 メイキング・オブ・愛の杖
151日目
ギルの足が超すべすべ……と思ったら、スネ毛が透明化していた。この日記にも挟まってるっぽいんだけど。
ギルをたたき起こして食堂へ。不思議なこともあるもので、昨日ミーシャちゃんが言った通り外はざあざあぶりの雨だった。アルテアちゃんとフィルラドもジョギングにはいかずに二人でカフェオレを飲んでいた。
朝食はシンプルにトーストと目玉焼きをチョイス。寝ぼけまなこのちゃっぴぃが俺の膝に座ってきたので、パンの耳と白身だけ口に入れてやったら思いっきりビンタされた。しかも半熟とろとろの黄身を『きゃーっ♪』とか叫びながら食っちまいやがった。解せぬ。
しかたないので『うめえうめえ!』とジャガイモをむさぼるギルの皿からいっこくすねてコショウを振って食べた。あと、ロザリィちゃんが『ごめん、もう白身しか残ってない……!』って自分の皿を俺に突き出してわたわたしてるのが超かわいかった。
ロザリィちゃんの食べかけなら白身でもむしろウェルカムなので、お礼を言って食べようとしたら、グリルとローストに目の前で食われてしまった。
『甘やかし過ぎだ』ってアルテアちゃんがこっちにヒナをけしかけていた。隣でゲラゲラ笑っていたフィルラドには後で呪いをかけておこう。
さて、今日は大雨で外に出られてなかったため、中で時間をつぶそうってことになった。んで、ちょうどこないだの木材がいい感じになっているってことと、昨日の森で昆虫とかちょっとした枝とか採れたことから、工作でもするかってことになった。
みんなは『明日の釣り用に新しい釣竿作る!』って言ったんだけど、せっかくなので俺は新しい杖を作ってみることにした。最近どうも調子が悪い……っていうか、物理的性能はともかく魔法的性能に不満を感じるようになってきたし。
まず、今の筋肉質な杖をギルに頼んで粉々に砕いてもらう。破片になってもぴくぴく脈打っているのが超怖い。
次に新しい杖のベースとなるカミシノとペダッコをガリガリと削る。ぶっちゃけこれは仮枠みたいなもんだからそんなに細かくやらなくてもいい。どうせあとで組み合わせてガチガチに固めるし。
そして浸透液の制作。これ、杖に魔法的要素をしみこませるためのものなんだけど、どんな液を使ったか、その液にどんな成分が含まれていたのかで出来上がりがだいぶ変わってくる。
ちょっとガチめに、原初の霊水、ムーンフェアリーの涙、ラミアオイル、ギルの汗、ギルの涙、ギル・アクア、ナターシャのヨダレを加熱混合したものを使用することにする。混ぜ合わせた段階で明らかにヤバそげな匂いと魔素を発しだしたけど、あんまり気にしないことにした。
こいつに先ほどの杖のかけら、さらに各種友陣片と友陣砂を溶かし込み、弱火でじっくりコトコトと。全部の要素がドロドロに消えてなくなったら完成。
その間にあとでガチガチに固める用の接着剤を作る。こっそりクラスの虫かごからインビジブルスタッグ、ゴールデンアント、マジックバタフライ、ニジイロナナホシをちょろまかしてきたので、すり鉢でぐりぐりとすり潰してやった。
ホントは例のクリムゾンビートルもすり潰したかったんだけど(ペット的にかっこいいけど接着剤のほうがクール)、近くで釣竿を作っていたポポルとフィルラドが『接着剤のためだけにすり潰される虫の気持ちを考えたことあるのかよ!?』『さすがにそれをやったら戦争だぜ?』とガチで杖を向けてきたので断念することに。
さすがに杖なしで勝てるなんて楽観的な考えは持てない。杖があったら全力だったけど。
途中でギル・アクアを加えて全体的になじませる。このぐちょぐちょすり潰れていく感じが超快感。みんなもっと接着剤つくりをすればいいのに。こんなに楽しいのに何でやらないのだろうか。
いい感じにネトネトになったところで完成。俺ワンダフル三号と名付けた。あと、ギルがすり潰す時に『せめてベンジャミンにしてくれぇぇぇ!』とか叫んできたので、奴の鼻にインビジブルスタッグを噛み合わせておいた。
もちろん、ベンジャミンもチャールズもリチャード(×2)もすり潰している。ヴィヴィディナを連れてきていれば彼女(?)の糧になったのだろうか。
浸透液が出来上がりつつあるところで本日のハイライト。さっき削った仮枠に心材を入れなきゃいけないんだけど、やっぱできることならこだわりぬきたい。
こいつにふさわしいのは生物材料。ユニコーンの鬣とか、シームルグの尾羽とか。ちょっと変則的だけど霊樹の若枝なんかでもいい。オーガのスネ毛とかでも悪くはないけど、性能はがた落ち。
要は魔法的要素の強い細長いもの(杖の親和性とか共鳴性、あとなじませるために生き物素材がベスト)ならなんでもいい。そして、俺の手元には俺が知りうる限り最高の魔力と最高の愛情がこもった素材がある。
未来の俺よ。もう、わかるよな? ──そう、愛情たっぷりステラ先生の髪の毛だ。
ただし、これで満足する俺じゃない。ミーシャちゃんたちと釣竿を作っているロザリィちゃんの元に行き、『何も言わずに髪の毛を一本くれないかな? 俺を信じてくれ』と頼む。
ロザリィちゃん、『……え、えっちなことに使わないならいいよ!』ってその場で一本取ってくれた。なんかよくわからんけどすっげぇうれしかった。
アルテアちゃんたちが『絶対やめろ! はやまるな!』、『よりによって──なの! どうせろくなことに使わないの!』、『呪っちゃう? ねえ、呪っちゃう?』って言ってたのがちょっと気になるけど。
そうそう、『ね、ねえ。──くんの髪の毛もくれる?』とロザリィちゃんに上目づかいに頼まれたので、お礼として俺の髪の毛も十本ほど引っこ抜いてプレゼントしておいた。
本当は手当たり次第に引っこ抜いてプレゼントするつもりだったんだけど、『す、数本で足りるから!』って止められた。あの時のロザリィちゃんマジプリティだった。
そしてとうとう心材投入。二本の髪の毛が絡み合い、杖としての核が築かれていく。そのまま浸透液に仮枠ごとぶち込み、魔素がしみ切るまで放置。どんな仕上がりになるのか、この段階でドキドキが止まらなかった。
なお、放置中はミーシャちゃんの釣竿の制作を手伝った。とりあえずこないだとおなじように仕上げ、ベンジャミングレート二号、俺ワンダフル三号でガチガチに固めておいた。
そうこうしている間に杖が安定化。最後に持ち手のところに適当な魔布を巻き、全体を俺ワンダフル三号でガチガチに固めて完成。
異常魔力波を放っているのに愛情と慈愛のオーラにあふれ、筋肉質でぴくぴくしてるのにどこかやわらかくて暖かいという究極の触り心地。もちろん杖としての性能もぴか一で、出力が今までとダンチ。
試しに風魔法狙撃をギルに放ったら、受け止めようとした奴の拳が弾かれた。『すげえすげえ!』って喜んでたけど、やっぱり拳そのものには傷一つなかった。
やっぱ杖の芯までステラ先生とロザリィちゃんの愛がしみこんでいる。ぎゅってにぎっているとすっげぇ落ち着くし、こころなし魔力の回復が早くなっている気がする。
これはマジで家宝にするべきかもしれない。慈愛の抱擁と名付けた。超かっこよくね?
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。マジでずっと握っていると安心して、ステラ先生とロザリィちゃんに抱きしめられている気分になる。すごくクセになりそう。なんかいい匂いもするし。下手にギル要素を加えないほうがよかったかもしれない。
終わってから杖の強度計算をしていないことに気づいたけど、なんとかなってるから問題ないだろ。愛の前ではあんなの無意味だ。
今日一日力仕事を任されていた(主に材料の切断とか)ギルはスヤスヤと大きなイビキをかいている。ちょっと眠いので、手元にあった俺ワンダフル三号を鼻にたらしておいた。
明日は湖に釣りに行く予定。暑すぎない程度にほどほどにいい天気でありますように。




