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149日目 トイレの邪神様

149日目


 アエルノチュッチュ寮のほうで悲鳴。どうしてこうなった。


 慌てて飛び起き、窓をのぞく。なんか氷でできたでっけぇ蛇がアエルノチュッチュ寮を襲っている。めっちゃ長いしめっちゃ太い。たぶん、俺がギルに肩車してもらったくらいの直径があった。


 二人して急いでローブを羽織り、クラスルームへ。みんなが集まってくるころにはわがルマルマ寮のほうもずいぶんと冷え込んできており、夢魔らしく薄着(?)なちゃっぴぃが『へっくち!』ってくしゃみしてた。ちーん、って鼻をかませてあげたロザリィちゃんがマジ母性あふれていてプリティだった。


 当然のことながら、ナターシャたちもやってくる。『何が起こってるの!?』と聞いてきたので、『またアエルノチュッチュの連中がバカなことをしでかしたんだ!』と簡潔に答える。尻拭いはいつも俺たちって、ホントあいつらどうなってるんだろう。


 で、ほかの連中は寮の守りを固めてもらい、いつものメンツを引き連れて現場に駆けつける。


 ラフォイドルがウサ耳で闇の炎を、ゼクトが鼻毛ぼーぼーでラフォイドルに付与魔法を、シャンテちゃんが『にゃんにゃん!』って言いながら炎の精霊を召還してた。


 それだけじゃない。いち早く現場に駆け付けたらしきピアナ先生が超ロン毛。イチゴのつるで髪を結びながらも大樹による拘束を試みていた。ステラ先生はタップダンスを踊りながらアエルノチュッチュ寮に大魔法結界を張っている。


 そして、グレイベル先生はステラ先生やロザリィちゃんもビックリなボインになっていた。で、マジで人に見せちゃいけないヤバい顔(俺じゃなきゃちびってる)して氷の大蛇にスコップを叩き付けていた。


 スコップを振るう度に健康的な黒い肌のそれが谷間と一緒にぶるんぶるん揺れていて、顔さえ見なければマジで最高だった。


 んで、そんな様子をシキラ先生がゲラゲラ笑いながら記録用魔導触媒を展開していた。いったい何がどうなってやがる。


 『またてめェらの仕業かコラァ!』とラフォイドル。文句を言いながらも、さすがは組長というべきか容赦ない闇の炎鎖で氷の大蛇を攻めたてていた。


 が、この大蛇がなかなかに曲者。けっこうガチなラフォイドルの攻撃なのに全然傷つかないし、傷ついたところがみるみる修復していく。おまけに非常に身に覚えのある異常魔力波を放っていて、体表付近でいくらかこちらの魔法を乱しているらしい。


 ついでに、近づくだけでめちゃくちゃ寒い。歯がガチガチいっちゃう。


 シャンテちゃんに状況を聞こうとするも、『にゃんにゃん、にゃにゃーん!』と要領を得ない。しょうがないので鼻毛ぼーぼーのゼクトに話を振ったら、『冷気にあてられるとなんかヤバい効果が出るぞ!』とのこと。


 おい。そういうのはもっと早く言え。


 なぜか、俺の右腕だけギルレベルのマッスルアームに。ついでになぜか無性にジャガイモが食べたくなってくる。


 みんなはどうなったのかと振り向いたら、『いや、冗談抜きに、こんだけヤバい魔力波になんで無防備に近づいたの?』とナターシャに心配そうな顔をされた。なんか、俺はわかってるもんだと思って、俺以外に結界魔法をかけたっぽい。


 で、ステラ先生が『足止めしますのでその間に有効打をお願いします!』と言ってきたので、俺たちだけで作戦会議をすることに。


 『あんな化け物みたことない』とテッド。『古の文献でもそれらしいものはなかったのぉ……』とミニリカ。『確実にここで仕留めないとマズい』とおっさん。『ぶっ潰せば問題なくない?』とナターシャ。


 とりあえず、クーラスに罠魔法を仕掛けてもらう。が、巨大な罠魔法陣なのにいとも簡単に大蛇はぶち破った……っていうか、なぜか魔法陣ごと凍らせるというあり得ない事態。


 ジオルドが魔界のランタンを具現し、グレイベル先生とともに襲い掛かるも、氷結の舌で返り討ちにされ、なぜかニーソ姿になっていた。吐きそうになった。


 パレッタちゃんが炎蝕の呪をかける……も、こんがりポテトのかほりが漂う。ギルの喉がごくりと動いてマジ怖かった。


 アルテアちゃんが奴の氷の鱗の隙間を射撃魔法で狙い撃つ。確実に決まったはずなのに魔法が逆に取り込まれた。


 フィルラドがファイアジャイアントを召還。ジャイアント、一目散に逃げていきやがった。


 さすがにこれはヤバすぎる。しかし、『まだまだ子供だったな……大人の本気を見せてやろう』とヴァルヴァレッドのおっさんが大剣を引き抜いた。


 そしてマジで一瞬で、氷の大蛇の首をスパッと切り落とした。あれだけ攻撃しても全然傷つかないくらい硬かったのに。というか、動きがガチで見えなかった。


 崩れ落ちる蛇。ちょっとドヤ顔のおっさん。意外とあっけない幕引き……と思ったら、歓声が悲鳴に変わった。シャンテちゃんが『にゃにゃーん!』と叫ぶも、もう間に合わない。


 両断した首から別の首が再生していた。しかも三つ首っていうおまけつき。


 あわてておっさんが剣を構えなおすももう遅い。三方向からベロリンチョされ、残ったのはブラジャー姿のおっさんだけだった。ナターシャもミニリカもテッドも腹を抱えてゲラゲラ笑ってた。


 さて、ここまで来るともうわかってくる。俺はなるべくやさしく、ウサ耳を揺らしながら闇の翼で薙ぎ払うラフォイドルに『ちゃんとトイレ掃除はしていたか?』と聞く。『……そういや最近水道の調子が悪かっ……ハッ!』といかにもテンプレな答え。


 なんのことはない。アエルノチュッチュの連中はトイレ掃除を怠ったせいで、トイレの邪神様を怒らせてしまったのだ。


 ホントあいつらろくでもない。トイレを掃除しないとか、ちょっと理解に苦しむ。人としてどうなんだろう。俺がマデラさんだったら地獄の百連ケツビンタを喰らわせているところだ。


 しかし、『ここ数日トイレのほうで妙な気配があった! それにあのくそ蛇、トイレの配管のほうから出てきやがった! やっぱてめえらのせいじゃねえか!』とラフォイドルは因縁をつけてきた。


 いったい何のことを言っているのかマジでわからない。俺がしたことなんて、せいぜい……増殖し続けるジャガイモをトイレに流したことと、異常魔力波を放つ試験片をトイレに流したことと、よくわからん蛇をトイレに流したことくらいだ。


 こないだの異常魔力波を放つ氷とか、外に放置されていたルマルマキャンディが昨日の大雨で下水に流れたとしても、別にそれ俺のせいじゃないよね。全部全部アエルノチュッチュのせいだし。


 ともあれ、トイレの邪神様を倒さなくちゃいけない。うんうんと頭をひねっていたところ、『普通にぶん殴ればよくね?』とギルが言うので、ギルに任せることにした。


 ギルのやつ、冷気を浴びても『冷てえ冷てえ!』とぴんぴんしてる。で、物置小屋くらいなら一飲みできそうな頭を『弱え弱え!』と思いっきり蹴り上げる。あんな巨体がのけぞるの、俺、初めて見た。


 『……キミ、人間?』ってブラジャー姿のおっさんがギルに問いかけたけど、ギルは笑いながら氷の鱗をべりべりはがして遊んでいて気づいていなかった。あいつだけ住んでる世界が違くね?


 さて、ギルが相手をしてくれたおかげで時間ができたので、こっちも攻勢に入る。『へますんなよ、バカ弟!』とナターシャが挑発してきたので、『色ボケ姉貴に言われたくないね』と返しておいた。


 やったのはこないだと同じ《浮気デストロイ》。ギルやグレイベル先生がひきつけている間に六属性魔法要素を構築。術式展開、呪文詠唱、呪歌歌唱に魔法陣構築をまとめてこなす。地面に、空中に、高次元高要素立体結合魔法体(反魔法要素使いまくり)を展開した。


 俺自身が使える最強の魔法……ってこともあるんだけど、今回は一味違う。吸収魔法によるレプリカなんかじゃなくて、ナターシャのオリジナルの《浮気デストロイ》がさらに組み込まれるように展開されている。


 当然、二重になったぶん、威力は乗算で効いてくる。共鳴が共鳴を引き起こし、魔力の匂いも気配も半端ない。なんか伴う衝撃波ちっくなものだけで体が吹っ飛びそう。臨界到達一歩前。俺とナターシャじゃなきゃ暴走させている。


 名づけるなら、《浮気デストロイ:リンクドライブ》ってところだろうか。『ひゃっはー! ひさしぶりにぶっぱなすぞー!』とナターシャは超嬉しそう。


 そのまま炎の魔素を強めにして、息を合わせてトイレの邪神様に叩き込む。灼熱の渦がマジ熱い。なんか地面が溶岩っぽくなっている。アレ喰らって燃え尽きない生き物とか、生き物じゃない。


 トイレの邪神様の巨体は文字通りすべて灰になっていた。黒い灰じゃなくて、うちのテスト用紙くらいの驚きの白さの灰。火山が噴火したってこれだけの灰は見られないんじゃないかってくらい。焦げ臭いにおいがぷんぷん。


 そして悲しいことに、俺たちの相手は普通の生き物じゃなかった。


 あの蛇、灰から再生しやがった。しかも、なんか頭としっぽの両方に八つくらい頭が出来てるんだけど。グロテスクってレベルじゃねーぞ。


 『……えっ』って呆然とするナターシャ。まだ魔素を身にまとっているとはいえ、絶対無敵の結界内で全力でぶっぱなした魔法が効かなかったのは相当ショックらしい。つーか、『おいおい、俺がいるってことを忘れるなよな、親友!』って巻き込んだギルがぴんぴんしている段階で、とどめを刺せていないのは確実だった。


 ……マジで、なんであいつ無傷なんだろう? いや、たしかにちょっと髪がちりちりになってたけどさぁ。


 トイレの邪神様、マジで激おこに。猛吹雪を呼び起こし、アエルノチュッチュ寮を完璧に凍らせた。ミーシャちゃんが慌ててリボンを展開したからラフォイドルやシャンテちゃんたちはなんとか身を守ることができたけど、生徒はみんな固まって防御に徹するので精いっぱい。リボンがなかったらみんな凍り付いていただろう。


 『あっ、これそろそろ俺も出なきゃヤバくね?』ってシキラ先生が触媒を取り出したといえば、そのヤバさがわかるはずだ。こんな段階でも応援に来ないほかの先生や上級生はマジクレイジーだと思う。


 しかし、ここで『われらを忘れてもらっては困るのう!』とミニリカの声が。『勝手に入ってくんなぁ!』と怒るナターシャを無視し、『ちょいと入らせてもらうの』と俺たちの無敵結界の中に入ってきた。しかも、『お、お邪魔します』って言うステラ先生を連れて。


 とたんに魔素に満ち溢れる二人。全体魔力量は等しいから、その分俺たちの魔素が薄れたけど、ステラ先生が『ちょっと本気だします!』と胸から拘束具を二つ取り外した。大きな谷間がコンニチワしてすっげえくらくらした。


 『さて、ちょいと躾をしてやろうかえ?』とミニリカは結界内で踊りだす。ゾッとするほどの灼熱感を帯びた気配があたりに満ちて、なんかわかんないけどすっごい芸術的で動けなくなった。


 ちょっと文章おかしいけど、ともかく今まで見たことのないすごい踊りってことだけは伝わってほしい。


 なんでもあれ、『戦炎神の獄葬舞』とかいう古の禁術にも指定されたヤバい踊りらしい。それを無敵結界内で踊っているってだけでもすごいのに、なんと……


 ステラ先生とその熾天使(期末テストの時のやつ)も一緒に踊ってた。


 もうね、マジで美しすぎて気絶しそうだった。キラキラ輝いていたってのもそうだし、ちょっと恥ずかしそうに、でもなんとなく楽しそうにはにかんでいるところがマジ女神だった。ぎこちなくがんばって踊っている様子もグッド。後ろの熾天使は超ノリノリ&キレキレで踊ってたけど。


 ステラ先生があんなにエキゾチックでセクシーなダンスを踊ってくれるなんて、もうマジで信じられない。意識してないのに心の底に焼き付いて、しばらく目が離せなかった。


 さすがにちょっと時間がかかったんだけど、『ちょっとは働きますかね!』ってシキラ先生が明らかヤバそげな触媒(たぶんルンルンの)を使ったよくわからん魔法でトイレの邪神様を足止めしてた。元が同じだからか、すげえよく効いてたのが印象的。


 で、『終いじゃ! 合わせろ!』とミニリカが踊りのフィニッシュを決める。二人分の踊り&火と風の熾天使の踊り&《浮気デストロイ:リンクドライブ》の効果でもはや熱さすら感じない何かがトイレの邪神様に叩き込まれる。


 そして、文字通り跡形もなくなった。いや、なにがどうなったのかさっぱりわからなかったんだよね。今まで感じたことのない炎の魔素を感じたんだけど、マジでそれだけ。


 『久しぶりにいい運動したわ!』とミニリカは笑い、『あたしの獲物とりやがってぇ!』とナターシャは怒ってた。シキラ先生は『いい触媒がとれそうだったのに……』ってしょぼんとしてた。グレイベル先生は『……これ、元に戻るんだよな?』って自分のダイナマイトメロンをたゆんって持ち上げていた。


 なんだかんだであっけない最後。そのまま普通にクラスルームに戻って、普通にグダグダと過ごし、いつも通りに夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。


 一応ものすごい緊急事態のはずなのに、こうも自然に日常に戻るあたり、魔系ってクレイジーだと思う。


 なお、途中いつの間にか姿を消していたテッドはアエルノチュッチュ寮の隅で筋肉質な触手により子供に見せちゃいけない縛りをされた状態で見つかった。誰にも気づかれずに複数の頭を暗器で仕留めたものの、その性質上傷が小さかった故にあっという間に再生され、冷気をもらったそうな。


 ちゃっぴぃがキャッキャと笑いながらそんなテッドをゲシゲシ蹴ってたけど、ロザリィちゃんが『そういう趣味は人前で見せちゃいけません!』って怒ってた。……なんか微妙にポイントがずれてる気がするけど、ロザリィちゃんはかわいいからそれでいいや。


 なんだかんだでちょっと遊び足りないのか、ギルのイビキはいくらか不安定だ。そして俺のマッスルな右腕のせいで日記が書きにくかった。


 とりあえず、なぜかフードに入っていたトイレの邪神様の氷鱗……のかけらをギルの鼻に詰めておく。増えたらシキラ先生に高値で売り付けてあげようっと。


※明日はファイアゴミ。マジック廃棄ゴミはまたこんど。

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