148日目 夏休みあと一週間
148日目
外が大雨。嵐ってレベルじゃねーぞこれ。
いつも通りにギルをたたき起こし、いつもどおりに食堂へ。すでにみんな起きていたものの、昨日のことがあるからかどこかぎこちない。互いにヘンに遠慮しているっていうか、いつものフランクさがない。
が、ここで俺が『お互い何もなかったことにしたんだ。いつも通りにジャガイモ食おうぜ』と軽いジョークをかましたら、みんながぷっと噴き出してくれた。クスって微笑むロザリィちゃんがマジプリティだった。
で、ギルと一緒に『うめえうめえ!』とみんなでジャガイモを食べる。さすがに女子はそう言わなかったけど、俺たちに合わせてくれたのか少しだけ食べてくれた。もちろん、エッグ婦人もバクバク食っていた。
さて、今日は休日なのに大雨ってこともあって、自然とみんながクラスルームに集まる。やることがないな……なんて思ってたら、ふと夏季長期休暇があと一週間ほどしかないことに気づいた。
さすがに絶望する。ちょっと前に始まったばかりだと思っていたのに。
まだやり残したことがたくさんあるので、とりあえずそれらを列挙することに。『まだみんなで泳ぎに行ってない』とフィルラド。『もっと釣りしたい!』とミーシャちゃん。『虫取り行ってなくね?』とポポル。『ローブ出来てねぇ……』とクーラス。
それに、鉱石の採掘やロザリィちゃんとのデートもしていない。もらった割引券もそのままだ。ジオルドの謎の行動の正体もわかっていない。
あまりにもグダグダ夏休みを過ごしていたことに絶望する。バイトとかはたくさんやったけど、みんなとの思い出ってのを作っていない。
これはちょっとまずいってことになったので、次の一週間のどこかでみんなで泳ぎに行くってのと、虫取りに行くってのと、釣りに行くってことだけは決めた。空いた日にロザリィちゃんとデートしようと思う。
なんやかんやと話していたら、ミニリカがやってきた。そういやこいつらいつ帰るんだと思ったら、『本当は今日じゃが、この天気ゆえ明日になった』とのこと。昨日一昨日のうちに帰り支度と挨拶する予定が潰れてしまったために、意外と都合がよかったとか。
で、何を思ったかミニリカのやつ、『あのアルテアスペシャル美容液を少し分けてくれんかのう……?』と上目づかいで甘えてきやがった。『歳を考えろよ』って言ったらぶん殴られた。解せぬ。
なんでも、アルテアちゃんたちが使っているのを少し借りたらしいんだけど、思いのほか効果が高くてハマってしまったらしい。『ここまで効きのよい美容液は初めてじゃ! 見よ、お肌がすべすべぷるぷるであろ?』と頬を突き出してきたので、『いつもと変わらなくね?』って答えたら再びぶん殴られた。老害ってこれだから困る。
ともかく、断る理由もなかったのでクラスの意見を聞いたうえで何本か持たせておいた。『材料さえ教えてくれればこちらでも作れるんじゃが……』と言ってきたので、『お互いのために知らないほうが良い』とだけ答えた。
それを聞いたミニリカは何かを察したらしかったけど、『……アンチエイジングのためには止むをえまい』と悟りきった顔をしていた。あいつのアンチエイジングにかける情熱がイマイチよくわからん。
夕方ごろ、ヴァルヴァレッドのおっさんとテッドが帰ってくる。校長達とかにあいさつ回りに行っていたらしい。『最後だし、久しぶりにお前のフライドポテト食わせてくれよ!』と二人して言うので、しょうがないから作ってやった。
『やっぱいい塩加減だな!』、『ジャガイモの使い方がマデラさんより豪快で好きだぞ』、『うめえうめえ!』と連中は夕食中、酒を片手にずっとフライドポテトを喰っていた。当たり前のようにギルが混じっていたけど、だれも気にしなかった。
夕飯食って風呂入って雑談中、今日一日見かけなかったナターシャがクラスルームにやってきた。しかも恐ろしいことに、『……この前はちょっと、悪かったわね』って頭を下げた。俺、あいつの口から謝罪を聞いたの初めてかもしれない。
しかも、『この子、あげる』と、キーキー騒ぐ夢魔の魅惑種(しかも最上位!)をこっちに突き出してきた。ミーシャちゃんの胸くらいまでの身長だけど、めっちゃぼんっ! きゅっ! ぼんっ! なグラマラスぼでぃーなうえ、顔がめっちゃかわいい小悪魔系だった。
天然ものでもここまで質のいい夢魔はそうそういない。どうやって捕まえてきたのだろうか。
『どうしてこれを?』と聞いたら、『昔、プレゼントに夢魔がほしいってアンタ泣いて騒いだじゃない?』と慈愛の微笑みをされた。『そういえばそんなこともあったのう……』と懐かしそうに目を細めるミニリカに、『あんときゃいろんなところを駆けずり回ったなぁ……』とテッド。『結局見つからなくてぬいぐるみで我慢してもらったんだよな』とおっさん。
やべえ。そういえば、『夢魔の乳しぼりをしたい』ってワガママ言った気がする。『夢魔と一緒に寝たい』とも言った覚えがある。過去の自分をこれほどまでにぶん殴りたいと思ったのは初めてだ。
しかし、ここでナターシャが『……ほら、これで純正のハゲプリンが作り放題なんでしょ? せいぜいかわいがってあげてよね』とフォローを入れてくれた。あいつがこんなにもやさしいなんて、明日はなにか異常事態が起こるに違いない。
そのまま夢魔は俺が引き取ることになったんだけど、抱っこしようとしたらなぜか『ふーッ!』って顔面をひっかかれまくった。俺に乳しぼりされるのが相当お気に召さないらしい。
『俺がやるよ!』とポポル。『いや、俺が』とフィルラド。『下心が見え見えだぞ……ここは紳士な俺が』とクーラス。『妹の世話で慣れている。俺こそふさわしい』とジオルド。
もちろん、みんな女子たちに容赦ないケツビンタを喰らっていた。
最後に、ギルが『じゃあ俺がやっちゃうぜ!』というと、本能的な恐怖を感じたのか夢魔は泣きながらロザリィちゃんの背中に隠れた。
そりゃそうだろう。ギルに乳しぼりなんてさせたら夢魔の乳がもげる。冗談抜きにマジで。
結局、しばらくはロザリィちゃんがあずかるってことになった。ロザリィちゃんなら信用できるし、俺のものは全部ロザリィちゃんのものだ。何も問題ない。『これからよろしくね、ちゃっぴぃ(夢魔の名前)!』って頭を撫でるロザリィちゃんがめっちゃプリティだった。
だいたいこんなもんだろうか。今日も妙に長い。そういや、夢魔ってエッグ婦人たちと同じ扱いでいいのだろうか? 今日はロザリィちゃんと同じベッドで寝るらしいけど、人型の魔物ってこの辺の判断が困るよね。今度ジオルドに頼んでロフトに設置できる小さなベッドでも作ってもらおうと思う。
今日も元気にギルはイビキをかいている。明日こそナターシャたちが無事に旅立てることを願って、旅立ちの響実を鼻に詰めた。グッナイ。




