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147日目 The Secret ~俺とロザリィちゃんの愛の記録~

 やめるなら今のうち。警告はしました。

147日目


 さっきも書いたけど、連続で日記を書くのってなんか不思議。俺の記憶力が試されている。


 地平線の向こうから昇る朝日によって目覚める。ほったらかしにしていた触手のヌルヌルが中途半端に乾いてこびりついていた。が、あまりの虚しさと絶望感にすべてがどうでもよくなっていた。


 かなり高いところだからか、風がそれなりに強い。小鳥のさえずりも聞こえない。聞こえていたとしても、あの時の俺には何の意味もなかっただろう。


 もう何もかもがどうでもよくて、午前中はずっとそこに座ってぼうっとしてた。もうクラスルームには戻れないし、かといってほかに行く場所にあてがあるわけでもない。


 つーか、クラスルームどころかこの学校にいることに耐えられない。公衆の面前はともかく、ロザリィちゃんとステラ先生とピアナ先生に俺の消し去りたい忌むべき過去を知られてしまったのだ。どんな顔して会えばいいというのか。


 絶対ロザリィちゃんに嫌われた。ステラ先生にも嫌われた。ピアナ先生も俺を軽蔑するだろう。


 ぶっちゃけもうこれ以上生きる理由がなくなった。あの三人がいない人生なんてなんの意味もない。


 あの三人にゴミ屑を見るような眼差しで見られるくらいなら、いっそこのまま死んだほうが何倍もマシだ。マデラさんが地獄まで来てケツビンタするから自殺はしないけど。


 本当に不思議な気分だった。悲しみと虚しさ、そして若干の怒りがせめぎあっているというのに心はどこまでも穏やかで落ち着いている。やり場のない気持ちがただただ涙を流させ続けた。


 最後にロザリィちゃんとステラ先生とピアナ先生の笑顔を思い浮かべ、心の中で永遠のサヨナラを告げる。で、制服のルマルマローブを脱ぎ、最低限の日用品とこの日記だけを片手に立ち上がった。


 もうこの学校にはいられない。だから、だれも知らない場所──ロザリィちゃんたちが絶対来られないくらい遠くへ旅立とうとしたんだよね。


 浮遊術式を施し、さぁ、お天道様の気分のままに旅立とうとしたら……目の前にロザリィちゃんがいた。


 幻覚だと思った。俺の希望が見せた都合の良い理想だと思った。


 だって、ロザリィちゃんが浮遊術式を使うところを見たことがないし、使えたとしてここまで来ることはかなり難しいし、そもそもここに俺がいるのを知っているはずがないし、いくらあの時の俺でもこんなに近づかれるまで気づかない、なんてことはない。


 でも、次の瞬間に、『本当に、あまえんぼさんなんだから♪』って、そういって……





 ……ちゅっ! ってしてくれたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ほっぺとかおでこじゃなくて、くちびるにちゅっ! ってしてくれたぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 いやね、もうね、マジで呆然とした! ロザリィちゃんのくちびる、すっげぇぷるぷるでびっくりした! 甘くて、いい匂いがして、この世の何よりも最高だった!


 あと、ちょっと照れて恥ずかしがりながら真っ赤になっているところがマジプリティだった! かわいいって何度言っても足りないくらい! 俺、あんなにかわいい顔があるなんて生まれて初めて知った!


 実際のところ、最初はあまりに現実味がなさ過ぎて何が起きたのかわからなかった。で、呆然としていたら、『惚れさせた責任取ってよね♪ いなくなるなんて許さないぞっ!』って、すっごくにこって笑ってぎゅってしてくれた。しかも、『……は、はじめてだったんだからねっ!』って耳元でささやかれてマジでどうにかなりそうになった。


 そしてぬくやわこくてふっかふか。なんかもう、さっきとは別の涙が出てきてわんわん泣いてしまった。ロザリィちゃん、俺をぎゅっと抱きしめながらずっと頭を撫でてくれた。


 そのままいくらか経ったところでようやく落ち着いたので、ロザリィちゃんに話を聞く。どうやらあの後、俺が行方不明になったことで今日の朝からずっとみんなでそこらを探しまくっていたらしい。


 あまりにも思いつめた表情をしていたからか、ミニリカとテッドが『あいつのあんな表情は今まで見たことがない。本気で探さないとちょっとまずいかもしれない』といったらしく、あのナターシャでさえガチ心配して山の向こうまで飛んでいったとか。


 『なんでロザリィちゃんはここがわかったの?』って聞いたら、『愛の力です!』って言われた。『どうやってここまで来たの?』って聞いたら、『愛の力です!』って言われた。愛の力マジすげぇ。


 落ち着いた今ならわかるけど、たぶんあれ転移魔法……のはず。少なくとも飛行は使ってない。でも、人の空間転移ってそれこそステラ先生クラスじゃなければ使えないはずなんだけど。俺とロザリィちゃんの愛がガチすぎて逆に怖い。


 で、『落ち着いたなら、みんなのところに戻ろう?』とロザリィちゃん。でも、ロザリィちゃんは俺を嫌っていなかったけど、ほかのみんなはわからない。このまま愛の逃避行を提案しようかと頭を悩ませていたら、ロザリィちゃんがいきなり『──くんが私と一緒にお昼寝した時に使ってた毛布、今どこにあるか知ってる?』と聞いてきた。


 質問の意味がよくわからなかったものの、正直に『共用スペースにあった毛布なんだから、共用スペースにあるんじゃないの?』と答えたら、ロザリィちゃんはモジモジというか、わたわたというか、ともかくすっごくかわいく目を泳がせながら、真っ赤になって──




 『じ、実はあれ、共用のじゃなくて私個人のです! そそ、それで、わ、私がそのままもも、持ち帰って、す、す、す……すーはーすーはーしているのっ!』




 耳を疑った。ロザリィちゃんの顔から湯気が噴き出ている。『うぅぅ……っ!』って手でほっぺを押さえてしゃがみこんでしまった。何このかわいい生き物。あ、ロザリィちゃんか。


 しどろもどろになるロザリィちゃんから詳しく話を聞き出すと、どうやら俺が使用した毛布はロザリィちゃんの自前のものらしく、あの後さりげなく回収して自室にもっていったらしい。で、そのまま洗濯せずに今もベッドにあるそうだ。


 『だって──くんの匂いが好きなんだもん! 嗅いでいるとなんか落ち着くんだもん! 好きな人の毛布をすーはーするのは女の子的には普通だもん!』とロザリィちゃんはまくしたてる。毎晩ぎゅって抱きしめながら寝ていると聞いて、なんかちょっといい意味で恥ずかしくなった。


 なんだろう、この新しい感覚は。照れるっていうか……。自分がした時とは別の高揚感がある。クセになりそう。


 毎晩俺のをすーはーすーはークンカクンカするロザリィちゃん……そんなロザリィちゃんもマジプリティだと思う。


 さて、今度は逆に俺がロザリィちゃんをなだめる番になった。ぎゅって抱きしめ、背中をポンポンと叩く。ロザリィちゃんが俺の胸にほおずりしてくるのがくすぐったくって気持ちよかった。幸せすぎてもうなにがなんだかわからなかった。


 いくらか落ち着いてきたところで、『なんでいきなり暴露したの?』と問いかける。すると、『み、みんなのところに帰ればわかるよ?』と言われたので、じゃあ戻るかってことになった。


 でも、その前にもう一度だけロザリィちゃんを抱きしめ、俺のほうからちゅっ! ってした。もちろんくちびるに。ロザリィちゃんのかわいい顔がすごく良かった。


 マジですごくいい気分だったけど、言葉に表すことができない。俺の文章力のなさに泣けてくる。


 未来の俺よ。あの幸せをこの程度でしか表現できない今の俺を恨んでくれて構わない。あのすばらしい気持ちを、伝えきれなくて申し訳ないと思う。許してくれとは言わないが、少しでも思い出す糧になれば幸いだ。


 まぁ、あんなに幸せな気持ちを忘れるはずがないけどな!


 ともあれ、ロザリィちゃんをだっこしたまま飛び降りる。ぎゅってしがみついてくるロザリィちゃんの胸がすごくやわらかくてめっちゃ緊張した。


 行くのは大変だけど帰るのは一瞬で、地面に近づいたところでに風魔法で減速してふわりと着地する。もうロザリィちゃんが連絡を入れていたのか、それとも飛び降りがみんなの目についたのか、探索に行っていたらしきルマルマのメンツが次々に集まってきた。


 なぜかみんな、真っ赤になりながら『はやくクラスルームにこい!』と俺の腕を引っ張る。『またアレやるのかよ……!』、『もうお嫁にいけない……!』などと、なかなか不穏な雰囲気。


 で、クラスルームに到着。みんなが揃うまで妙にピリピリした雰囲気。ステラ先生が最後にやってきて、『し、心配したんだからねっ!』ってぎゅって抱きしめてくれて超幸せだった。


 さて、全員集まったのを確認して(ナターシャたちも含む)、ステラ先生が『じゃあ、さっきと同じようにポポルくんから始めようか?』となんかの魔法を使った。


 ポポルがあきらめたかのように立ち上がると、クラスルームの中央にでっけぇ概念的な魔導書が出現した。魔素の塊でできた本で、なんかいろいろと書かれている。なぜか読めなかったけど。


 で、ポポルが顔を真っ赤にしながら、『──! おまえハゲプリン一年分だからな!』とこっちを指さしてきた。そして、そのあとヤケクソ気味に絶叫した。


 『俺は十歳までおねしょしてました!』


 いや、マジでそう叫んでびっくりした。ポポル、ガチでプルプル震えていて、そのままむすっとした表情で座った。みんなは呆れにも同情にも、憐みのようにも見える表情を浮かべているものの、それほど驚いた様子はない。


 ポポルのおねしょはある意味しっくりくる……なんてぼんやり思っていたら、例の魔導書の一文がなぜか読めるようになった。その一文を見て絶句した。



【十歳までおねしょをしていた。 ポポル】



 『お前のために体張ったんだからな!』と容赦ないケツビンタを喰らい、ようやくこの魔導書の意味が分かってきた。どうやらあそこに書いてあるのは全部誰かの秘密らしい。ステラ先生のほうをちらりと見たら、『誰だって恥ずかしい秘密はあるんだよ?』と、聖母の微笑みをしてくれた。


 なんでも、これは《秘密の誓約書》という魔法らしい。あの魔導書が開かれた瞬間にその場にいたものは、魔導書の元に秘密を打ち明けなくてはならないそうだ。


 秘密はすべてあの魔導書に記録され、立ち会った人間の誰か一人でも他者に秘密をバラしたら、そこに書いてあるすべての人間の秘密がバラされる仕組みになってるとか。


 つまり、みんな秘密を暴露するから互いに秘密は守りましょうって魔法。バラしたらみんな道連れっていうオマケつき。


 『この魔法を使えば、あの場にいたみんな、だれも──くんのことを人に話したりできないからね!』とステラ先生。本当は国家間の約定を結ぶときとか、偉い人たちの内緒のお話をするときに使う魔法で、こういうことには使わないらしい。単純に難しい魔法であるため、使い手も少ないんだとか。


 で、『さっさと次やれよ!』とポポル。なんでも、朝の段階でこの魔法を使ったはいいんだけど、秘密の共有者が増えるたびにかけなおさなくちゃいけないらしい。


 ちょっと全員分書く時間もないので、はしょって書くことにする。なお、みんなすっげぇ赤くなってもじもじしていたことをここに記しておく。




【──の毛布をすーはーしている。 ロザリィ】


【十歳までおねしょをしていた。 ポポル】


【ギルのカップをすり替えて自分のものにしてる。 ミーシャ】


【十三歳の時、深夜に地元の村の広場で全裸で踊った。 フィルラド】


【このまえ下着を洗濯せずに四日間つけっぱなしだった。 アルテア】


【パンチラを見やすいように計算してロフトの階段部の設計を行った。実際、今までに四回ほどパンチラに遭遇した。 ジオルド】


【たまにパンツをはかずに授業を受けている。 パレッタ】


【十四歳まで母に添い寝してもらわないと寝られなかった。 クーラス】


【脳筋はヘッドバッドで鍛えられるものだと最近まで思っていた。 ギル】


【異性と付き合ったことがなく、ファーストキスもまだなうえ、手をつないだことさえない。 ステラ】


【学生時代、罰ゲームとして先輩とともに女子トイレに侵入した。 グレイベル】


【寝ている彼氏にこっそりキスしている。ほおずりもしている。いろんなところに噛みついたりもしている。 ピアナ】


【国宝輸送依頼の際に中身をぶっ壊してしまい、接着剤でガチガチに固めて何食わぬ顔で納品した。 テッド】


【踊りを披露しに行ったある大国の超有力貴族がセクハラしようと襲ってきたため、踏みつぶしたことがある。証拠を公開したらたぶんその国は亡びる。 ミニリカ】


【実はナターシャ以外に三人ほど付き合っている女性がいる。 ヴァルヴァレッド】


【浮気されてイライラしたときにぶっ放した魔法が隣の国で天災になっていた。死者がでなかったのが幸いで、義捐金としてヴァルヴァレッドがため込んでいたへそくりを全額送った。 ナターシャ】




 なんかもう、いろんな意味でヤバい秘密ばっかりで開いた口が塞がらない。すっげぇ背徳的でドキドキした。


 ちなみに、あくまでこれは『人には言えない秘密』であるため、個人によってその傾向が変わるほか、必ずしも全部の秘密を言う必要はないそうだ。


 ほかにも、【実はだいぶ派手に胸を盛っている】、【何度か風呂を覗いたことがある】、【体毛が濃くて肌を見せられない】、【女装に興味がある】……などとわがクラスメイトの秘密が赤裸々に語られた。普段おとなしい子の意外な秘密に驚きを隠せない。


 もちろん俺も、例の秘密をバラされないようにするためにみんなの前でナターシャが言ったことのすべてを復唱する。一番最後な上にすでにバレているからか、特別緊張することもなかった。


 すべてが終わった後はみんなにケツビンタを喰らわされた。今回ばかりはガチもんで、マジで尻が真っ赤に腫れ上がっている。椅子に座るのがかなりきつい。


 ギルの秘密とか、ステラ先生の秘密とか、いろいろ言いたいことはあるけど、逆にみんなの結束が強まったような気がする。やっぱり秘密の共有って奇妙な親近感と連帯感が生まれるよね。


 さすがに長くなりすぎた。昨日の分も合わせると文章量がすさまじい。印象的な出来事がこの二日で多く起こりすぎたからだろう。もっとすっきりとまとめられるようになりたい。


 夜もだいぶ遅い時間になっている。徹夜以外でここまで夜更かししたのは初めてかもしれない。


 ギルはいつも通りに大きなイビキをかいている。その様子になんとも安心感が持てた。


 とりあえず、『すべてを流してなかったことにしてしまいたい』という俺とみんなの願いを込めて、ギルの鼻に祝福の清流を垂らしておいた。おやすみなさい。

 はい、これでバレたらルマルマの人たち(+α)にも呪われます。みんな道連れです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「秘密はすべてあの魔導書に記録され、立ち会った人間の誰か一人でも他者に秘密をバラしたら、そこに書いてあるすべての人間の秘密がバラされる仕組みになってるとか。」 もしかしてなんだけど…
[良い点] とりあえず、出てくるメンバー全員性格がいかれていることにさっき気が付いてしまいました。 よく考えなくても主人公もひどい奴だったし、クラスメイトもナチュラルに虫に虐待をしているし、主人公の…
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