142日目 突発家族面談
142日目
なんか元気ににゅるにゅる動いてるんだけど。限りなく不気味だったのでトイレに流しておいた。
ギルをたたき起こし、いつもの通り食堂へ。長期休暇中の休日というダブった休日だからか、今日は普通に人がいる。どうやらみんな本格的に曜日感覚がおかしくなってきたらしい。
朝食は贅沢にフルーツパフェをチョイス。今まで見たことのないものだと思ったら、『外部講師のお姉さんがパフェを出せとうるさくてねぇ……』とおばちゃんが困ったように笑っていた。身内のクソ女の行いにひどく恥ずかしくなる。
『よく言い聞かせておきますんで』って頭を下げたら、『あんたも苦労してるんだね』ってキャンディをくれた。ひょっとして、おばちゃんはキャンディを常備しているのだろうか?
もちろんギルはジャガイモを『うめえうめえ!』と食べていた。あまりにもうまそうに食べるものだから、普段はジャガイモなんて全然食べないはずのミニリカも食べていた。
『普通のふかし芋だよ……な?』ってこっちに聞いてきたけど、普通じゃないふかし芋だったらどうするつもりだったんだろうか?
朝食が終わり、さて、今日は何をしようかと思案していたところで、後ろから超ステキな女神ヴォイスが聞こえてくる。しかも、『──くん、先生とデートしない?』となんとも甘美な響きが。
もちろん、できる限りの笑顔を浮かべて振り返ったんだけど、そこにはにこにこガチ笑顔(目は笑っていない)を浮かべたステラ先生と、拘束魔法をガチガチにかけられ、首根っこをつかまれて引きずられているテッドがいた。
あきらかヤバそげ。でも、そんなステラ先生の表情にキュンと来た。
『来てくれるよね?』とステラ先生。残像が出るレベルでうなずく俺。がたがたと震えるテッド。いったい何があったのか。
で、応接室に。ステラ先生、部屋に入るなり『テッドさんは──くんのお兄さんのような人だと聞きました』と真剣な表情。凛々しくってマジステキだった。ステラ先生の可愛さも犯罪レベルだと思う。
実際のところ、ステラ先生が言ったことは概ね正しい。こいつから学んだことは腐るほどあるし、俺はかなり小さいころからこいつのお世話をしている。傍から見ればダメ兄貴と天才イケメン弟のように見えなくもない。
『──だから、保護者って扱いでもいいんですよね?』とステラ先生は今度はテッドに杖を向けた。テッドはもがくも、ステラ先生の拘束術式からは逃れられない。ミノムシみたいな無様な姿に思わず笑みがこぼれる。
が、これがまずかった。ステラ先生、『笑っていられるのは今のうち。さぁ、どこで、どうやって、どうしてキミが魔喰の触種を手に入れたのか教えてもらおうかな?』とにこにこガチ笑顔(目は笑っていない)。完全にスイッチ入っちゃってた。
そういや俺、触種の件で職員室に行くって約束、すっかり忘れてた。
『俺が兄ならヴァルのおっさんは父だ! ナターシャは姉だ! ミニリカは叔母だ! だから俺を解放してください!』とテッドがバカな発言をする。慌ててぶん殴って止めようとするも、『じゃあ、家族面談としましょうか♪』とステラ先生。死を覚悟した。
で、三人を集めたうえで家族面談。『魔喰の触種』の単語を聞いた瞬間にガチな顔になるナターシャたち。『どういうことだコラ』と杖を向けられ、さすがに命の危険を感じた。
てなわけで、『三人が危険な遺跡で回収し、マデラさんが厳重に封印したものを、この極悪非道に脅迫されて一緒にちょろまかしました』と正直に伝える。『てめえ、裏切る気か!』とテッドが変なことを言ってたけど、錯乱してしまったのだろうか?
『でも、僕は本当はやりたくなかったんです!』と涙ながらに弁明したら、『……つらいことがあったんだね?』と、ステラ先生がやさしく微笑みながら頭をポンポンしてくれた。ステラ先生がマジ聖母過ぎて気絶しそう。すっげえいい匂いがする。
が、ここでテッドのクソ野郎が『それは演技だ! そいつ泣いてない!』とかぬかしやがる。おまけに『唆してきたのはそいつのほうだ!』とか証拠もない言いがかりをつけてきやがった。
『俺はうまく盗めればギャンブルの借金をチャラにできるぞって唆されたんだ! こいつはナターシャへの日々の復讐のためにあの種を盗んだんだ!』と、わけのわからないことをほざきだしたので、洗濯しようと回収してそのままだった狂おしいほどにヨダレ臭い枕カバーを奴の口に突っ込んでおいた。
言葉にならない絶叫が聞こえた気がするけど、俺の知ったこっちゃない。嘘つきは粛清されるべきなんだし。
『本当なの……?』とちょっと笑顔が固まった先生。『彼は昔から妄想癖があったので……』と俺。『そいつだぞ!? よりにもよってそいつだぞ!? 信じてくれよ先生さんッ!』とテッド。
『バカだバカだとは思っていたが、ここまでこやつらがバカだったとはのぉ……』、『おまえら、超えちゃいけないラインの上で全力で反復横飛びするよな』、『クソガキとバカの触手ぷれい……いや、見せしめにはちょうどいいか?』と三人。
結局、『こいつが殊勝な態度を取るなんてありえない。実際、今まで隠し持って使う機会をうかがっていただろう?』と謂れなき罪の烙印を押されてしまった。本当にこいつらは昔から理不尽だ。俺に何か恨みでもあるのだろうか?
で、『封印指定遺物は危ないから封印指定されているの! 盗んだうえに人に使おうとするなんていけません!』とステラ先生に怒られる。ミニリカからはケツビンタを、ヴァルヴァレッドのおっさんからは拳骨を、ナターシャからはヘッドロックを食らう。
無駄にデカい胸がすげぇ圧迫して邪魔だ。そしてほのかにヨダレくせぇ。
もちろん、ステラ先生にだけは全力で謝った。具体的に何があったのかはおっさんとテッドがいる手前言えなかったけど、この種の一番の被害者はステラ先生だったし。
が、ここでナターシャが衝撃発言。『この先生クラスの魔法使いなら、完全に発動しきる前に処理されるでしょ? アンタ程度が本当にこの人に使えたの?』とのこと。
なんでも先生が最後にやったように、めちゃくちゃ魔力のある人なら、あの種が魔力を吸収しきる前に術者に攻撃をして魔法を解くことができるらしい。尤も、あれは俺が使ったってことを含めなくても吸収&成長スピードが半端ないから、それができる人なんて事実上ステラ先生クラスしかいないわけだけど。
どういうことかとステラ先生をじっと見つめたら、明後日の方向を見ながら『……模擬訓練だし、学生に本気になるとまずいから、結構魔力を制限しているの』と答えてくれた。俺たちルマルマを全員相手にしてなお、手加減していたらしい。
あまりにも信じられなかったので『証拠を見せてください』って言ったら、『……ほかの人にはナイショだよ?』って胸元からごっついペンダント的なアクセサリーを四つも取り出して見せてくれた。これ全部ステラ先生の魔力を制限している、いわば枷みたいなものらしい。
試しに一個付けさせてもらったら、魔法一つ使うのにいつもの倍以上の疲労を感じた。枷ってレベルじゃねーぞこれ。
これを四つも付けた状態であれだけヤバい魔法を使いまくってたとか、どういうことだろうか。ステラ先生マジ最強。
あとあのアクセサリー、あったかくてちょっと湿っていて、ステラ先生の匂いがしてすっげぇくらくらした。胸元から取り出したってことは、つまりそういうことだよね? 思い出したら余計にドキドキしてきたんだけど。
結局『もう二度と悪いことはしない』とステラ先生の前で誓い、その場でお開きになった。ミニリカたちはそのあともなんかステラ先生と話していたけど、いったい何を話したのか聞くのが怖い。
とりあえず、テッドはどうにでもしていいから俺のことだけはマデラさんに告げないでくれと伝えておいた。幼少の俺に冷静な判断力とかなかったはずだから別にいいよね。子供の妄言を諌めずに悪乗りする大人のほうが悪いに決まっている。
よくわからんままに無為に休日をすごしてしまった。あいつらが来てから日記にあいつらのことしか書いていない。あいつらを気にしすぎてロザリィちゃんや友人たちと会話する時間も減っている。
よかったことといえばぷんぷん怒った顔のステラ先生が見られたことくらいだろうか。実に貴重でなかなか有意義だったと思う。怒ってる顔もマジキュートでまた怒られたいと思った。
今日も元気に大きなイビキをかいているギルがうらやましい。こいつは気苦労などしたことがないのだろう。
むしゃくしゃしたので、今日はギル・ポテトをすり潰し、ギル・アクアを馴染ませたうえでボール状にベンジャミングレート二号でガチガチに固めたものを鼻に詰めておいた。
がんばれ、俺。
※明日は燃えるゴミ。魔法廃棄物も出しておく。俺のテクを用いても汚れが落ちなくなってしまったナターシャのヨダレ臭い枕カバーは指定危険物の日でも大丈夫だろうか?




