141日目 ヨダレ枕カバーとケツふりふりダンス
141日目
ヴァルヴァレッドのおっさんが白目をむいて気絶している。もうちょっと頑張ってほしかった。
忘れがちだけど今日は休日。気絶しているおっさんもスヤスヤしているギルもほったらかし、朝風呂にでもしゃれ込もうかとルンルンするも、なぜか扉が開かない。
よくよく調べてみたら、外側から厳重な魔導封印が施されている。術式のクセ的にナターシャ。あのクソ女、どこまで俺の邪魔をすれば気が済むのだろうか。
しょうがないので窓から脱出。パパッと風魔法を使い、エレガントに着地。そして悲しいかな、足がいつも通りあいつの枕カバーを回収するべく動いてしまった。
どうやら今日はアルテアちゃんたちの部屋で寝たらしく、すでにアルテアちゃんが部屋の前でゴミをつまむように(ゴミのほうがマシだっただろう)そいつを持っていた。今日も相変わらずヨダレ臭ぇ。
『わざわざごめんね』って声をかけたら、『……に、人間だれしも恥ずかしい秘密の一つや二つ、あるものだから、な?』って目を逸らされながら笑ってくれた。ようやくあいつの本性を知ってくれたようだ。
手早く洗濯を済ませてから朝食。今日はポテトサラダをチョイス。魔導封印を筋肉でぶち破ってきたギルはジャガイモのポテトサラダ添えを『うめえうめえ!』って貪ってた。
朝食を済ませたごろになってナターシャがやってきた。痴女染みた格好でうろつくものだから本性を知らない男どもが真っ赤になっている。ヨダレ臭いのは気にならないのだろうか?
『なんで扉を封印した?』って杖を突きつけながら聞いたら、『ヴァルが浮気しないように』と事もなげに答えられる。そういうことなら納得しなくもない。
特に何をする気にも起きなかったので、今日はクラスルームでゆっくりすることに。俺専用のロッキングチェアにぶらぶらと揺られ、静かな午前のひと時を楽しむ。
おっさんは医務室で、テッドはポポルたちと湖に釣りに。ナターシャはわからんけど、まぁ俺の目の前にいないから問題ない。
本を読んでいると、パレッタちゃんがヴィヴィディナの虫かごを持ってやってきた。『例の枕カバーはある?』と謎の質問。『すぐそこに干してある』と指さしたら、『ひとかけだけもらっていい?』と、これまたよくわからない答え。
俺、枕カバーに対してそんな質問が来るなんて思いもしなかった。
なんでも、『あれほど強力な魔女の体液が染みついたものなら、きっとヴィヴィディナの糧になる』とのこと。すでにナターシャのヨダレそのものは採取したらしく、異臭のする試験管を見せてくれた。
で、パレッタちゃんは俺の前で枕カバーのかけらにそれをしみこませ、ヴィヴィディナの籠にぶちこみやがった。なんかヴィヴィディナがガチな悲鳴を上げている。さすがに今回ばかりは同情しそうになった。パレッタちゃんは超笑顔だったけど。
食堂で昼ご飯を済ませ、昼寝でもしようかとクラスルームに戻ったら、六匹のヒナとエッグ婦人がケツをふりふりしまくってダンスちっくなことをしていた。
ローストとポワレのケツのキレが半端なかったことをここに記しておく。
その傍らではミニリカがニコニコ笑いながらヒナたちの様子を見ていた。どうやら踊りを教えていたらしい。
『──も踊るか?』と聞かれたけど遠慮する。何が楽しいのか、ミニリカはヒナと一緒になってケツをふりふりしまくってた。
『そのダンスを踊るにしては年を取りすぎてないか?』って言ったら、問答無用でぶん殴られた。解せぬ。
ヒナたちのケツふりふりをぼんやりとみていたら、いつの間にかロザリィちゃんとアルテアちゃんがやってきていた。『かわいいダンスだねっ!』ってにっこり笑う姿がマジプリティ。すさんだ心が癒される。
『主も踊るかえ?』とミニリカが誘うも、『は、恥ずかしいです』とロザリィちゃん。アルテアちゃんもあの衣装はちょっと勇気がいるらしい。
ミニリカの野郎、俺のほうをニヤニヤと見ながら『あれ着て踊れば男なんざイチコロじゃぞ?』とロザリィちゃんに挑発的な発言をする。そのまま押してほしかった。真っ赤になったロザリィちゃんがマジキュートだった。
夕食にて、テッドがギルやポポルと仲良く本日の釣果について話し合っていた。ギルが湖に素潜りし、爆音を立てて魚を水面に追い立てたところでテッドが投針、ポポルがテッド指導の連射魔法で仕留めたらしい。
もはや何も言うまい。ミーシャちゃんはギルをとられたのが気に食わなかったのか、『むぅ~……』ってずっと不機嫌だった。釣りの間、ずっと一人で竿をふるっていたらしい。
風呂入って雑談して今に至る。テッドはなんだかんだで馴染み、ミニリカも頼れるお姉さん(?)ポジションに落ち着いた。おっさんはよくわからんけど、今のところ問題は起こしていない。
ナターシャが今日一日おとなしかったのだけが気にかかるが、みんな魔系で多かれ少なかれクレイジーだから、意外と波長が合っているのかもしれない。このまま平穏無事に奴らが帰っていくことを強く願う。
ギルはいつも通り耳障りなイビキをかいている。おっさんもテッドも『もう二度とあの部屋では寝たくない』とか言ってせっかく誘ったのに断ってきやがった。旧交を温めようと思ったのに超悲しい。
とりあえず、手ごろなものがなかったので外に落ちてた蛇……の死骸を鼻に詰めた。おやすみつばち。




