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138日目 厄日

138日目


 アエルノチュッチュ寮が騒がしい……と思ったら、季節外れの局所的な寒波で扉のすべてが凍り付いてしまったらしい。俺の部屋からつららも見える。ホント、あいつらはろくなことをしでかさない。やんなっちゃう。


 なんとなくいい気分だったので、朝食のデザートにソフトクリームをチョイス。バニラの香りと滑らかな舌触りがマジデリシャス。


 これ見よがしにアエルノチュッチュの連中の前で食べたんだけど、奴らは俺のことなんか見向きもせず、歯をガチガチ言わせながらホットコーヒーを飲んでいた。このクソ暑い中何を考えてるのだろうか。


 ギルはもちろんジャガイモ。『うめえうめえ!』とバクバク貪っている。こいつは暑くて食欲がなくなったりはしない……よな。だってギルだし。


 朝食後、なぜかステラ先生に呼び出しを食らう。夏服姿のステラ先生がマジ女神だった。玉のようなお肌がマジビューティフル。


 『どうかしましたか?』って紳士的に笑いかけたら、『……話は聞いてないの?』と不思議そうに首を傾げられた。仕草がかわい過ぎて考えるどころじゃなかった。


 ともあれよくよく聞いてみると、なんか夏季特別講座(外部から講師を招いて行う。自由参加。体裁を整えるため組長は絶対参加。聞いた瞬間絶望した)のために呼んだ外部講師が俺のことを呼んでいるらしい。


 しかも、こともあろうに俺の知り合いだと名乗っているのだという。俺の知り合いなんてこの辺にはいないはずなんだけど。


 で、ともかくステラ先生に連れられて一緒に応接室に行ったんだけど、そこですごーく身に覚えのある気配を感じた。もうね、全身が逆立っちゃうくらいヤバそげなやつ。


 慌てて『用事を思い出したんで帰ります!』って言って全力ダッシュで逃げようとしたんだけど、部屋の中から『いい根性しとるのう?』とガチ殺気。この世に神はいない。


 『そんなこといわずに、ね?』ってステラ先生が頭をポンポンしてくれたので、意を決して扉をぶち破り、出合頭に雷魔法を叩き込む。いつぞやのハチ形態のやつと、網状に広がって全身に激痛を与えるやつ。


 が、俺の奇襲なんてあいつらは読んでいたらしい。ハチは叩き潰され、網は断ち切られ、そして俺に向かってナイフが飛んできたので、筋肉質な杖で叩き落としておいた。


 『ちょっとはやるようになったじゃねえか!』、『ためらいのなさが向上したな』、『なかなかいい顔になったのう!』と悪魔どもがほほ笑んだ。しばらく見ることがないと思っていた連中がそこにいた。


 テッドと、ヴァルヴァレッドのおっさんと、ミニリカだ。あの、マデラさんの宿屋の常連の連中だ。


 思いがけない再会に思わず気分が滅入る。しかも、この三人が来ているってことはまず間違いなくあいつもいることが確定。


 『おまえらだけか?』と聞いたら、三人ともが超いい笑顔。そして、爆発音が響いた。


 アエルノチュッチュ寮が爆発したらしい。いや、正確にいえば凍り付いたアエルノチュッチュ寮を広域化された極点的な爆破魔法(矛盾してるようだけどガチ)で解凍したようだ。


 『よーっす、おひさぁー!』とか言って相変わらず痴女染みた格好のナターシャが入ってきたから間違いない。今日は厄日だ。


 『どうやってここに侵入した?』と杖を突きつけつつ面談。ステラ先生がドン引きした様子でこっちを止めようとしてきたけど、冗談抜きにこのくらいやっておかないとダメだ。俺の今の性格や考えは主にこいつらのせいで形成されてしまったといっても過言ではない。


 『こないだ手紙で伝えただろ?』とテッド。『外部講師募集の知らせをマデラさんが受けてな』とヴァルヴァレッドのおっさん。『なんだかんだで心配だったのじゃろう。格安で受けたうえ、私らの旅費も全部出してくれた』とミニリカ。『そんなことよりケーキ食べたい!』とナターシャ。


 どうやら、こないだトイレに流した手紙にこのことが書いてあったらしい。マデラさん、外部講師の依頼を受け、こいつらにマデラさんからの依頼として発布したようだ。契約金と報酬金が釣りあわないから、きっと今までのツケをチャラにしてやるとでも言ったのだろう。


 マデラさん、変なところで心配性だ。わざわざこんなに回りくどい真似をしなくてもいいのに。こないだ手紙だって送ったよな?


 『即刻別の人物を用意するべきです』とステラ先生に進言するも、『こんな有名人の方々をお招きする機会も予算もウチにはないから……』と、やんわりと断られる。


 非常に腹立たしい&不可解なことに、こいつらは世間様で超一流の冒険者として知れ渡っているのを今更ながら思い出した。中身は全員人として終わっているのに。


 とりあえず今日は顔合わせだけで、明日から特別講座を開くらしい。こいつらの実体験を適当に話し、ある程度の実習を組み込むのだとか。こいつらにそんなことができる脳があるようには思えないけど。


 何もかも忘れてさっさと帰り、ロザリィちゃんに慰めてもらおうと思ったんだけど、なぜか連中は俺の後をついてくる。


 『お前の寮で寝泊まりする許可をもらってるぜ?』とテッドが言ったとき、膝から崩れ落ちてしまった。なんでこうも面倒事は起こるのか。トラブルを起こす未来しか見えない。


 俺はともかく、アエルノチュッチュを除いたみんなだけは、何としてでも守らねばなるまいと心に誓う。ここであいつらが変なことをしたら、宿の評判にも関わりかねないし。


 が、俺の心配はよそにクラスルームに行ったらみんなが大はしゃぎだった。マジでこいつら有名人だったらしい。


 『テッドさんってあのテッドさん!? サインもらっていいかな!?』、『針やナイフと絡めた魔法でテッドさんに勝るやつはいないんだぞ!?』とポポルとクーラス。


 中身はただのチンピラ&不良な上に女運が悪く、ピーマンが食えずにマデラさんにしばしばケツビンタを食らっているのを知らないらしい。ついでに手癖が悪くてギャンブル好き。俺、こいつに金を貸して踏み倒されたことが何度もある。


 『魔法舞踊家のミニリカさんでしょ!? 若くてきれいで魔法もすごい素敵な人なの!』、『……ま、まぁ、魔系女子なら一度はミニリカさんのダンスにあこがれるよな、うん』とミーシャちゃんとなんか照れてるアルテアちゃん。


 実年齢は××(書いたら殺される)な上、食っても食っても体が貧相なだけのババアロリだと知ったらどんな顔をするのだろう。日々のアンチエイジングは欠かせず、おまけに妙にケチ臭くて頻繁に子供料金を使う癖に、酒場でミルクが出されるとブチ切れるというまさに老害だ。


 『ヴァルヴァレッドさん……まさかこの目で見られるとは思わなかった……!』、『男ならやっぱ最強の戦士にあこがれるよな……!』とジオルドとフィルラド。


 たしかにこの中では比較的まともだけど、とにかく浮気性。ナターシャに何度ボコられても、いつまでも浮気を繰り返し続ける男として最悪な奴。あと大酒飲みで大喰らい。アレだ、ダメ亭主をよりひどくしたような奴だ。……この中じゃすっげぇまともに見えるのが悲しいけど。


 『ナターシャさんの呪は世界最高。私の心の師。ぜひヴィヴィディナについての意見を聞きたい』、『魔系女子のトップアイドルだよ! 冒険者最強の女魔法使いさんだもん!』とパレッタちゃんとロザリィちゃん。


 もはや説明不要。我儘。家事全般がまるでできないうえにキレやすく、ズボラで毎朝枕をヨダレまみれにする女として終っている魔女。テッドと同じく、問題を起こすのはだいたいこいつ。見た目だけはいいけれど、性格は最悪で人前ではピクシーみたいにぶりっこするから始末に負えない。


 俺が魔法を覚えたのは、だいたい全部こいつらから身を守るためだ。あと、実力をつけないとこいつらに対抗できなかった。何度悪戯されたり呪われたりして泣いたか数えれきれない。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。あいつら四人とも、クラスメイトの前ではいい人を演じ切りやがった。今はクラスルームに簡易ベッドを作らせて四人で雑魚寝させてある。


 みんなが大反対したけど、あいつらは冒険者だから屋根があるところで寝られるだけましだ。それに、夜中に何をするかもわからないし。


 ギルだけはあいつらを見た瞬間に『早く逃げろ親友ッ!』ってとっさにファイティングポーズをとって殴りかかってくれた。ヴァルバレッドのおっさんに受け止められてたけど。つーか、ギルが受け止められるのもおっさんが体勢を崩すのも初めて見た。


 なんかひどく疲れた。瞬間的な筋肉を行使したギルのイビキが不規則だ。明日からの波乱に絶望を隠せない。


 とりあえず、食堂からくすねてきたピーマンを鼻に詰め込んだ。これが少しは効いてくれるといいんだけど……。

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