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129日目 家庭教師という名の子守のバイト

129日目


 『シュークリームはノーセンキュー』と壁に血文字が書いてあった。なかなか落ちないしつこい汚れに苛立ちを隠せない。


 いつも通り、ギルを叩き起こしてから食堂へ。アルテアちゃんの教育の賜物か、すでにポポルは起きて食堂にいた。一応『根性を叩き直す』目的は達成されたため、今日はジョギングに行かなくていいらしい。


 が、フィルラドはそれでなおアルテアちゃんと共にジョギングに出かけたとのこと。珍しいこともあるものだと思っていたら、『ジョギング中だったらアルテアちゃんの尻を自然に眺められることにあいつは気づいたんだ』とポポルが教えてくれた。せっかく見直したのに動機が不純すぎて泣けてくる。


 でも、魔操着とかって体にぴっちりしてるやつが多いからその気持ちはわかる。俺もロザリィちゃんやステラ先生と一緒にジョギングしたい。あ、でも荒ぶるお胸を振り返ってみてたらさすがに不自然か。


 男のロマンを俺とポポルが語る傍らで、ギルは『うめえうめえ!』とジャガイモの魅力に取りつかれていた。あいつ、将来ジャガイモと結婚するんじゃないだろうか。


 あと、クーラスとジオルドもいたんだけど、あいつらは昨日に続き俺がメイキングしたベッドの寝心地の良さについて語っていた。昨日も快眠できたとのこと。


 ちなみに、どちらかというとジオルドは弾む太もも、クーラスは汗ばむうなじが好きだそうだ。二人ともなかなか分かっていると思う。


 食事の後はギル、ポポルと共に学生部にいってバイトを探す。なんだかんだで結構休んでしまったからここらでガッツリ稼いでおきたい。


 せっかくなのでポポルに仕事を選ばせたら、よりにもよってあいつは一日家庭教師なんてチョイスしやがった。『残ってる中で報酬がダントツによかった!』って言ってたけど、報酬が多いのに残ってるって明らかに地雷。こいつの判断能力に涙を隠せない。


 とりあえず三人で現場へ。相手は姉弟のトゥルトゥっていう七歳のガキ(女)とティルトゥっていう六歳のガキ(男)。見るからにいたずらっ子って感じで、俺たちが両親(依頼人)の話を聞いているときもずっと騒いでいた。


 あげく、俺のケツを叩いては逃げるという悪戯をしてくる始末。俺じゃなきゃブチ切れていた。


 『親戚の結婚式があるので、今日一日だけ魔法の指導をお願いできればと……』と両親。こっちもビビるくらいの勢いで頭を下げてきた。明らかに子守りの依頼。まぁ、こいつらを結婚式に連れてったら何するかわかったもんじゃない。


 で、両親たちはさっさと行ってしまう。後に残ったのは執拗にケツを叩かれる俺とズボンをずりおろされたポポル、そしてティルトゥによじ登られたギルだけだった。


 とりあえず、魔法を実際に体験してもらうために拘束の呪をかける。二人とも動きが止まった。『客に向かってなにやってんの……!?』とでも言いたそうな戸惑いの表情を浮かべる。


 もちろん、超笑顔でサムズアップを返しておいた。ギルもポージングを披露してアピールしてた。


 その後、ポポルが『こんな楽しい魔法もあるんだぜ!』とくすぐりの呪を連射。もちろん、拘束されてるからやつらは動けない。あいつらが『や、やっ、やめてえ!』と叫んでもポポルはイイ笑顔で連射しまくってた。


 せめてズボンをあげてからにしておくべきだったと今になって思う。パンツ&ヤバい笑顔で動けない子供に呪を連射するとか、絵面がひどすぎる。


 死にかけの魚のようにピクピクしてきたころでポポルは連射を止める。俺が優しく『お兄ちゃんと一緒に魔法の勉強しような?』と声をかけたら二人そろって唾を吐いてきた。


 どうやら奴らは魔法の恐ろしさを根本的に理解していないようだったので、ここで一発幻覚魔法をかけることにした。ギルに二人をしっかり押さえてもらい、『せくしー☆ギルが唇を突き出して迫ってくる』幻覚を構築する。


 途端にガチ泣きする二人。よほど恐ろしかったのか漏らしやがった。ポポルにもうっかり魔法をかけてしまったけど、一度体験したことがあるからかヤツは自力で幻覚を打ち破っていた。強くなったものだと思う。


 結局、その後は二人ともめっきりと大人しくなり、俺が魔法で下着を洗濯したり風呂をわざわざ沸かしてやったりしているところを黙って見ていた。水、火、風と基本的な要素は教えたってことでいいだろう。


 なお、途中でやることのないギルが筋トレをしだそうとしたので、高密度魔法要素を拳に展開してぶん殴っておいた。もちろん、俺の拳のほうがダメージを受けた。


 さて、昼飯を適当に食わせ、あとは昼寝でもさせて時間を稼ごうかと思ったところで『魔法の使い方を教えてください』とトゥルトゥが頭を下げてきた。


 いちいち教えるのも面倒だったため、『家事手伝いの一つもできない悪ガキに使える魔法なんてない』と突っぱねたら、『家事の仕方を教えてください』と食い下がる。


 どうも、この姉弟は魔法使いにあまりいいイメージがなかったらしい。が、ステキすぎる俺をみて考えを改めたようだ。そういうの、嫌いじゃない。


 そんなわけで、午後は魔法を絡めた家事の仕方を真面目に教えることにした。とりあえず水場関連の仕事が出来たらいいだろうと、食器の洗浄用の水魔法を中心に指導する。何度も食い下がって覚えようとする態度に好感が持てた。


 夕方ごろになってようやくトゥルトゥは魔法を覚えた。まだまだ初歩中の初歩とはいえ、半日でこれだけできれば上出来。態度もすっかり真面目なものになって、成功した時は『やっとできたぁーっ!』って歓喜のあまり抱き付いてきた。


 ガキはノーセンキューだけど、ああいう笑顔もいいと思った。俺が初めて宿屋の仕事を成功させた時もこんなかんじだったのだろうか。


 なお、トゥルトゥが俺から魔法を教わっている間、ティルトゥはギルと戦闘訓練(ただじゃれ付いていただけ)をしてポポルと昼寝をしていた。言うことを聞くようになっただけマシか。


 だいぶ暗くなったところで両親の帰宅。素直になっている二人に口をあんぐりと開けて驚いていた。まさか子守りに加えて躾&魔法指導までやってもらえると思っていなかったらしく、報酬にめちゃくちゃオマケをしてもらえた。超ラッキー。


 夕飯食って風呂入って今に至る。一日がかりの仕事だったからか、ロザリィちゃんと全然話せなかった。明日こそいっぱいしゃべりたい。


 そして今気づいたけど、俺のポケットの中にカエルの死骸が入っていた。『次はぶっ潰す』と汚い字のメッセージカードも入っていた。


 多分最後に抱き付かれたときだろう。ガキのくせになかなかやりおる。そしてあの真摯な態度も演技だということが判明した。


 次同じ依頼があったら受注して根性を叩き直そうと思う。マデラさんよりかは優しくするから、いい経験になるはずだ。ガキはガキのうちに躾けとかないとあとが面倒くさい。


 疲れて気力もないので、ギルの鼻にはカエルの死骸を詰めた。ゴミ処理に最適……なのか?

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