128日目 ギルリスペクト&味覚反転
128日目
なぜか俺の涙が止まらない。もうやだ。
涙をボロボロと流しつつ食堂へ。ポポルたちは今までにないレベルで快眠できたらしく、すでに集まってその寝心地の良さを語り合っていた。すっげぇ晴れやかな顔に宿屋の息子としてうれしい気分になった。
が、俺の登場にみんながぎょっとした顔をする。ポポルが慌てて『そんなに俺の枕臭かった!?』、フィルラドが『ホームシックだろ!? そうなんだろ!? そうだって言ってくれよ!』、ジオルドが『……たまには、思いっきり泣いたっていいんだ』、クーラスが『どうせまたギル関連だろ?』と発する。クーラスのカンの良さに驚愕を隠せない。
事情を説明してから朝食。なんとなくふざけたい気分だったので、今日はみんなでジャガイモを食べることにした。いつもギルが食べている蒸かし芋をみんなで『うめえうめえ!』とギルリスペクトしながら食べる。もちろん、俺たち五人合わせてもギルが食った量には勝てなかった。
ジャガイモを食べていたら、ゼクトやシャンテちゃん、さらにはラフォイドルまでヤバいものを見るような目つきでこっちを見てきた。手を振ってやったらみんな目を反らしてそそくさとどこかへ行ってしまった。
さて、腹も膨れたところで今日は何をしようかと考えていたら、ステラ先生、グレイベル先生、ピアナ先生が慌ててやってきた。何事かと口を開く前にステラ先生にぎゅっと抱き付かれる。そして『辛いときは我慢しなくていいんだよっ!』って言われた。
ちょう幸せ。マジでぬくやわこい。洗剤よりもはるかにワンダフルな甘い香り。頭がくらくらして失神しそうになった。
が、クーラスによって引き離される。フィルラドが『どうしたんですか?』とその理由をステラ先生に聞いたら、『──くんが泣きながらジャガイモを食べているって聞いて……』とのこと。
なんか、俺が拗ねていると勘違いしていたらしい。で、いざってときのためにグレイベル先生たちも連れて慌ててやってきたとか。
よくよく考えてみれば、号泣しつつジャガイモを食ってたらおかしいに思われるに決まっている。それも、今回は真面目なクーラスやジオルドも含めてみんなで狂ったようにジャガイモを食べてたわけだし。
というか、先生方に俺はいったいどう思われているんだろうか。別に拗ねたからって学校をぶっ壊すわけでもないのに。もしかして俺、問題児リストとかに載っているの?
『び、びっくりさせないでよぉ……っ!』って頬を膨らませながら帰っていくステラ先生がマジ女神だった。あと、グレイベル先生が帰り際にジャガイモを一つ食べて『……うめえうめえ』って呟いて笑いそうになった。
その後はクラスルームに戻ってダラダラと過ごす。ギルは近くの山に筋トレに、フィルラドはエッグ婦人たちの散歩に、ポポルはグレイベル先生のハンモックで昼寝に、クーラスは図書館に行った。ジオルドだけは『内緒だ』とか言いながら行方をくらます。
方向的に作業場だけど、一体何をしているんだろうか。まぁ。そのうちわかるだろう。
なんとなく手持ち無沙汰になったのでステラ先生から貰った本を読む。リシオのアブナイ使用法(味覚反転の妙薬)が手軽にできそうだったのでぱぱっと作ってみることに。比率と手順が面倒だったけど、珍しい素材はマジックバタフライの鱗粉くらいだったからそう長い時間もかからずに完成した。
作ったら使いたくなるのが人のサガ。ちょっと本気を出して極甘ふわふわシュークリームを作り、味覚反転の妙薬を仕込んで保冷庫に放置しておいた。
夕飯食って風呂入って雑談中、いつものロッキングチェアでゆらゆらしてたらパレッタちゃんとポポルの悲鳴。珍しくパレッタちゃんが涙目で、めちゃくちゃ目が吊り上がって女の子がしちゃいけない表情をしていた。
どうやら二人仲良くシュークリームをはんぶんこしたらしい。で、互いに極甘……この場合、極苦になっているものを思いっきりぱくついたってわけだ。
パレッタちゃん、『悪戯した奴は正直に名乗り出ろ。今なら水虫の呪で済ませてやる』と恐ろしいことを言い出す。もちろん誰も名乗り出ない。俺も無関係を貫く。が、なぜかみんなの視線が俺に突き刺さる。
『おいコラ』とポポルがすごむ。が、お子様なヤツがすごんだところで怖くもない。パレッタちゃん、『若ハゲの呪のほうが好きだったか?』とアブナイ笑顔を見せる。若ハゲとか想像しただけでチビりそう。
『証拠もないのに犯人だなんて決めつけないでくれ』って言ったら、パレッタちゃんがヴィヴィディナの虫かごを持ってきて俺に突き付けた。途端にヴィヴィディナが寮全体に響きわたるくらいの大きな悲鳴を上げる。『貴様の負のオーラをヴィヴィディナはこんなにも喜んでおるぞ?』とパレッタちゃん。ガチギレすぎてキャラが変わってた。
みんなすっかり俺を犯人と決め付けてる。みんなからの信用のなさに泣きそう。
天使なロザリィちゃんだけは俺を信じてくれると思ってじっと見つめたら、包容力溢れる笑顔を浮かべ、『うん、素直に謝ろうね?』ってポンポンされた。そんな顔もマジキュートで惚れ直した。
執拗にケツビンタされたケツが未だに痛む。手には歯形もくっきり。口にはどうがんばっても拭えなかったしつこい苦味が残っている。呪われなかっただけマシなのだろうか。
アホ面晒して眠るギルに八つ当たりしたくなったので、ほんの一口だけ残ったシュークリーム(俺とポポルの歯型付き)をギルの鼻に詰め込んだ。悪あがきだけど、ファイアスウィープでも口に含んで寝よう。
※明日は燃えるゴミ。魔法廃棄物もぶちこんでよし。この苦味もどこかへさよならバイバイしてしまいたい。




