127日目 洗濯日和
127日目
窓の外に大量のキャンディが放棄されてたんだけど。俺にどうしろというのだ。
いい加減曜日感覚がなくなってきたけど、今日は休日。少しだけゆっくり起きてからギルを叩き起こす。ふと思ったけど、こいつは俺に起こされなかったらどれくらいまで寝るのだろうか。後学のために今度実験してみるのもいいかもしれない。
食堂にいったら、すでにポポルとフィルラドがモリモリと朝ごはんを食べていた。ここ数日規則正しい生活を送っていたからか、休みの日でもしっかり起きられるし、食欲もすさまじいらしい。健康なのはいいことだと思う。
俺もガッツリとスペシャルホットサンドを食べる。大きく口を開けてもうまく食べられないという驚異のボリューム。
めちゃくちゃ頑張ったけどほんの少しだけ残ってしまったので、ポポルの腹巻の中でスヤスヤしていたグリルとソテーに与えておいた。奴らの食欲が旺盛すぎてちょっとビビる。
ホットサンドをミーシャちゃんとはんぶんこして『あーんっ♪』ってかじりつくロザリィちゃんがマジキュート。その瞬間に目が合ったんだけど、真っ赤になって恥ずかしがってた。行動の一つ一つが可愛すぎて逆に怖い。
あと、アルテアちゃんは一人で全部食べたからか、はんぶんこできなかったパレッタちゃんが残った奴をエッグ婦人とポワレ、マルヤキに与えていた。
実にいい天気だったので、今日は寝具を洗濯することにした。パジャマやシーツや枕カバーはもちろん、ベッドパッドまで処理してしまおうと気合を入れる。
ついでなので、汗臭さ&ヨダレ臭さ&ギル臭さが漂うギルのやつもやってやることに。『親友にマジで感謝!』とギルが超笑顔だっただけど、重労働だから手伝わせた。
やること自体はそこまで難しくない。シーツとベッドパッドを外に持ち出し、魔法ルーチンを組んで作った乱流水球(これマジ便利。洗い作業の負担がすごく減る)にぶち込んでジャブジャブするだけ。
せっかくなのでナエカ、リシオ、カミシノの葉、あとこないだなんだったかでグレイベル先生にもらった堕鳥草を用いて作った洗剤を入れておいた。花の甘くも爽やかな香りが超いいかんじ。原液はすごく強い香りだったからか、甘い香りが風に吹かれて遠くまで漂っていく。
やっぱ(仕事じゃない)洗濯って気持ちいい。この気持ちをどう表現するべきだろうか。俺が詩人ならここで気の利いた言葉の一つでも閃くのに。
大きな汚れを除いた後は細かい仕上げを手作業でやっていく。こればっかりはギルに任せられないのであいつにはその間に物干し台の設置を頼んだ。適当な材木を立てて横木をくくるだけの簡単なお仕事。
シーツや枕カバー(ヨダレ跡が凄まじかった部分の黄ばみがヤバかった。もちろんギルの)を念入りにゴシゴシしてたら、何をしているのかとポポル、フィルラド、クーラス、ジオルドがやってきた。洗剤の香りとギルがドタバタと動いていたせいで感づかれたらしい。
正直に(見ればわかるけど)ベッドの洗濯をしているのだと答えたら、『ギル借りてくぞ』と不穏な一言を連中は発した。まさかそんなはずあるまいとゴシゴシしてたら、超満面な笑みで『俺のも頼む!』と奴らはごちゃっとベッドパッドだのシーツだのをもってきやがった。
男スメル漂うそれを見せつけられてやらないというのは、宿屋の息子の沽券に関わる。しょうがないので水球をフィルラド、クーラスにも作らせ、俺特製スペシャル洗剤をそこにぶち込む。物干しも増量させた。でも肝心の仕上げ洗いは全部俺がやった。
全員分をしっかりゴシゴシしたところでそれらをまとめて干す。シワとかつかないようにぴんってやってパンパンしておいた。
こういう細かいところで手を抜くと、あとで痛い目に合うのだ。何度マデラさんにケツビンタされたかわからない。『手ェ抜いていい仕事があるはずないだろうが?』と、魔王も裸足で逃げ出す表情ですごまれたことを、俺は生涯忘れることはないだろう。
天気も良くて風もそれなりにあったから超すがすがしい気分。洗濯ものの良い香りがどこまでも広がっていく。ジオルドのナイトキャップが風に揺られていた。牧歌的(?)というのはこういうことを言うのだろう。
もちろん、なぜか洗濯物に紛れていたみんなのパンツは全体の内側に干しておいた。この辺はしっかりやっておかないとね。
洗濯物を干してたらマンドラゴラを数匹抱えたグレイベル先生にばったりと会う。『精が出るな』って褒めてくれた。グレイベル先生、あまり自室に人を呼ばないからついつい洗濯も滞りがちになっちゃうとか。
で、予想以上に採れたからってマンドラゴラを数匹おすそ分けしてくれた。超ラッキー。今度何かの魔法薬にでもしてしまおう。
午後の干している間はみんなでゆったりとボードゲームやカードゲームをして過ごす。ポポルもフィルラドも今日はゆっくりすると決めていたらしく、午後一杯みんなでだらけ切ってしまった。クーラスもローブの製作中だけど息抜きしたかったんだって。
夕方ごろに全員分の洗濯物を取り込む。お花の香りとお日様の香りがいい感じ。そのまま各自の部屋に持って行ったあと、俺のスペシャルなベッドメイキングを施す。マデラさん仕込みの完璧すぎる仕上がりにみんな開いた口がふさがらなかった。
『高級宿屋みたいなすげえベッドになった……!?』って言ってたので、『みたい、じゃなくて高級宿屋だ』って言っておいた。みんな、俺が宿屋の息子だってことを失念していたらしい。せっかく整えてやったのにポポルはベッドの上で飛び跳ねて遊んでいた。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。さすが俺と言うべきか、ベッドがふかふかで超寝心地がいい。枕もいい感じにお日様の香りと花の香りがする。リラックス効果が半端ない。
スペシャルな寝心地だからか、ギルは健やかに耳障りなイビキをかいている。数日のうちにはまたギル臭くなると思うと一抹の悲しさを隠せない。ちょっと奮発して人魚の悲涙石を鼻に詰めた。グッナイ。




