125日目 魔系男子とホットケーキ
125日目
ギルから薬草のかほり。もうちょっと頑張れよって思った。
ギルを起こして食堂へ。今日もアルテアちゃんはフィルラドとポポルを連れてジョギングに出かけたらしく、食堂に見当たらない。ロザリィちゃん、ミーシャちゃん、パレッタちゃんが三人で大きなケーキを食べていたのでそれに混じる。
どうして朝からケーキを食べているのかと聞いたら、パレッタちゃんが『ヴィヴィディナが進化の兆しを見せたの!』と笑顔で答えてくれた。よくわからんけど、成人のお祝いみたいなものらしい。あの怪物はいったいどんな姿になるのだろうか。
最悪の場合、隙を見つけて接着剤にするほかないだろう。パレッタちゃんには悪いけど、手遅れになる前にすり潰しておかないと後が怖い。
虫の話題が出ただけでぷるぷる震えるロザリィちゃんがエクセレントプリティだった。可愛いって言葉はロザリィちゃんのためにあるのだと実感する。
昨日いろいろあってイマイチやる気が出なかったため、今日はゆっくりすることに。午前中は栽培スペースで適当に水やりをすませ、いつもの調合をごりごりと進める。最近腕が上がってきたのか、全体的に前よりも質が良くなっているのがうれしい。
作った薬はいつもどおり処理しておく。ふと気づいたけど、クラス資金が思った以上に増えていていいかんじ。代わりにクラス財産の薬品類がすっからかんだったけど。みんななんだかんだでしっかり働いているらしい。
調合とかやっている人をほとんど見ないのがちょっと残念だ。アルテアちゃんも最近は全然やってないし。これからは日課として供給したほうがいいかもしれない。
保冷庫のチェックをしたらエッグ婦人の卵が結構溜まっていたので、午後はのんびりとお菓子作りをすることに。時間も材料も豊富にあったため、久しぶりにホットケーキを焼くことにした。あれ、おやつにぴったりなんだよね。
一人で鼻歌なんて歌いながら生地を焼いていたら、甘いにおいにつられたのか汗だくのジオルドと少しやつれた顔のクーラスがやってきた。クーラスはここのところずっとひきこもって例のローブを作っているらしいんだけど、魔法陣の編み込みに思った以上に手間取っているのだとか。
『理論上はできるんだけど、実際の作業がツラすぎる』ってこぼしてた。立体交差と魔深が密接にかかわってくるから、一つのファンクションパターンを陣造するだけでも相当時間がかかってしまうそうだ。型紙から作るって意外と大変なんだな。
ジオルドにも何をやっていたのか聞いたんだけど、『ちょっと内緒だ』ってはぐらかされた。そう言われると聞きたくなるけど、ホットケーキが焦げそうだったのでやめておいた。
で、三人で実食タイム。どっしりと腹にたまりながらもふわふわでいいかんじ。仄かな甘味とはちみつの香りもグッド。デコレーションのクリームとギル・チェリーのアクセントも最高。
『やっぱ落ち着くなぁ……』、『疲れたときは甘いものだな』ってクーラスとジオルドも喜んでくれた。最近はクーラスも甘いものに目覚めつつあるとか。男三人でホットケーキを食べるってのもちょっと悲しいけど。
いつになくゆったりとおやつタイムをすごし、三人で後片付けをしていたら唐突にケツに痛みが。何事かと振り向いたら今度は左手に痛み。ボロボロになったポポルが俺にケツビンタを、泥だらけになったミーシャちゃんが俺に噛みついていた。
で、二人そろって『何で残してくれなかったんだ(の)!?』と涙目で抗議される。ポポルはジョギングの後に魔物と追いかけっこを、ミーシャちゃんはギルと共に害虫駆除をしていたらしく、疲れ切ってたところでクラスルームから漂う甘い香りにわくわくしていたそうな。
『期待だけさせるなんて、どうしてこんな残酷なことするんだ!?』って言われたけど、ちょっと理不尽じゃね? 今回はマジで俺悪くなくない?
しょうがないからまた新しく作ろうと思ったけど、中途半端に残っていた卵は茹で卵にしてマルヤキたちに上げていたためまた今度ってことになった。あいつら、なんであんなにもうまそうに卵を食べられるのかイマイチよくわからない。
で、夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。ロザリィちゃんは今日はピアナ先生のところで料理の勉強をしていたらしく、ホットケーキの件を聞いて『甘いもの……』って呟いてしょぼんとしてた。そんな顔もマジプリティだった。
ギルのイビキは今日もうるさい。面倒くさいから卵の殻でも詰めておこう。




