124日目 新薬被検体のバイト
124日目
ギルがつぶらな瞳になっている。意味が分からない。
どうやら今日もフィルラドたちはアルテアちゃんに叩き起こされたらしく、朝方に悲鳴が聞こえた。ジョギング三日目だけど、少しは体力ついたのだろうか?
そんなことを考えながら食堂へ。朝食はオムレツをチョイス。甘く仕立てた卵がなかなかにデリシャス。朝なのにバクバク食べられて心地よい満腹感。
ギルはもちろんジャガイモを『うめえうめえ!』って喰ってた。最近俺の杖にジャガイモを与えていなかったので、ついでにあてがって謎のエネルギーを補充しておく。みるみる萎びていくジャガイモにどうしようもない恐怖を感じた。
とくにやることもなかったので、今日も昨日に引き続きアルバイトを探す。ちょっと早めの時間だったからか、今日は昨日よりも依頼が多かった。せっかくなのでギルに選ばせたら、『こいつがいい!』と新薬の被検体の依頼を取ってきた。
以下に内容をそのまま示す。
・魔系限定。
・下級生のみ。
・戦闘力はないほうが好ましく、人数は最大で二人まで。
・友達が少なく、二、三日いなくても心配されない人が理想。
・杖は持ってこなくても可。むしろ邪魔になるのでもってこないほうがいいです。
なぜこうもアヤシイものを、そして限りなく自分にふさわしくないものをチョイスするのか。本人が納得しているから文句は言わなかったけどさ。
で、俺はギルの付き添いということでついていく。依頼人は流れの薬師。魔系とかそんなんじゃなくて、純粋に知識だけで薬草を調合する人。本人の魔法的な力はほとんどないけれど、魔系の人が加工した材料は使うことがあるとか。
着くや否や、『早速飲んでくれ!』と無精ひげを生やしたおっさんがビンをギルに突き付けた。中では紫であり緑でもある、異臭を放つ明らかにヤバい薬が入っている。一瞬マジでおっさんの頭を解剖にかけようかと悩んだ。
なんでも、旅の途中で新種っぽい薬草を見つけたから効果を試してみたいとのこと。すでに動物実験は済ませてあるらしく、命に別状がないことだけはわかっているそうな。
『猫に飲ませた際も大丈夫だったから心配せずに……』とそいつが説明している間にギルは薬をがぶ飲みする。もちろん変化はなし。それどころか『おかわり!』と言い出す始末。
『え……あ、え?』と呆然しているそいつを無視して、ギルは大鍋で煎じられていたヤバそげなその薬を鍋ごと頂く。人一人くらい入れる大きさの鍋なのに、『うめえうめえ!』って言いながらあっという間に飲みきってしまった。
あまりにうまそうに飲むものだから、底に残ったのを小指につけてちょっと味見してみたら、ヴィヴィディナでさえ吐き気を催すレベルのゲロマズだった。しかも飲んだ直後に体内の魔素が夥しい変調を来しだす。
あきらかに悪意のある薬。それも劇薬一歩手前。死にはしないけど、魔系殺しとして使えちゃいそう。俺じゃなきゃそのまま魔法を封じられ気絶していた。
ここでこいつが『魔系学生向けに』被検体依頼を出した理由を察する。野郎、最初っからこうなることがわかっててやったらしい。依頼を受けたのが俺やギルじゃなかったら大惨事だった。
あまりに腹が立ったのでその場でギルに薬を全部処理してもらい、俺はそいつを拘束魔法陣でふんじばった。無駄に抵抗してきたのでギルの使用済みタオルで顔を覆い、苦しみだして嘔吐いたところで、そこらにあったヤバそげな薬を手あたり次第に口にぶちこんでおいた。
尋常じゃない悲鳴が聞こえたけど、悲鳴あげられるだけ元気があるってことだろう。俺のしったこっちゃない。
で、そのまま麻袋に入れ、ギルに担がせて学生部に突き付ける。たまたま学生部に来ていたシキラ先生が超嬉しそうに『俺に尋問やらせてくれよ!』というのでそういうことになった。
『ルンルン(例の禁晶蜘蛛の名前らしい)のおかげで足を切るのはすげえ得意なんだぜ!』とシキラ先生は自信満々。薬師の男、尋常じゃないくらいに震えて文字通り漏らしていた。ばっちぃ。
一緒にいたグレイベル先生が『俺も立ち会います』って慌てて後についていったけど、もしグレイベル先生がいなかったらあいつはどうなっていたんだろうか。
なお、尋問結果は数日中に伝えるとのこと。面倒なことにならなければそれでいいや。
風呂後の雑談中、『大変な目にあったね……』って頭をポンポンしてくれたロザリィちゃんがマジでプリティだった。ロザリィちゃんのためだったら、俺はあの薬を全部飲み干せる。
だいたいこんなもんだろうか。妙に長くなってしまったしイマイチまとまりがないように感じる。もしかしたら疲れているのかもしれない。ギルの鼻にはあの薬師からくすねてきたよくわからん薬草を詰めた。明日はいい日でありますように。




