123日目 害獣駆除のバイト
123日目
ギルの吐息だけが真っ白。ちょっと想像と違う。あと、今日も隣の部屋からポポルとフィルラドの悲鳴が聞こえてきた。
隣人のことは考えないようにしつつ食堂へ。新鮮な魚介が入ったとおばちゃんが教えてくれたので、朝からちょっと贅沢にアクアパッツァをチョイス。深い味わいと魚の旨みがマジ最高。
ニンニクや香辛料の類をほとんど使わずにあっさりな味付けにしてあるのもポイント高い。おばちゃんのこういうちょっとした工夫が本当に素晴らしいと思う。もちろん、ギルは工夫の欠片もなにもないふかし芋を『うめえうめえ!』って喰ってた。
魔系学生向けのアルバイトが気になったので、朝食後はギルを伴い学生部に向かう。すでにそこそこの人数がいたのにめっちゃ驚いた。上級生の姿はなかったけど、きっと別の場所でもっと難易度の高い依頼でも見ているのだろう。
で、掲示板のところに張り出された依頼用紙を見る。おいしそうなのはすでに持っていかれたらしく、内容はあまりパッとしないものが多い。草むしりとか調合とか採取とか、中には一日だけの家庭教師をしてくれなんてものもある。
ギルにも出来そうな仕事をってことで、畑の害獣駆除の依頼をチョイス。ハンコだけもらって早速町に。
依頼を出したのは町はずれの農家。そろそろ収穫時期だからか、獣どもがちょくちょく畑を荒らしに来るらしい。柵とかも作ってはいるものの、最近それを突破するやつが出てきたからどうにかしてくれって内容だった。
さっそく畑近辺を調査。問題の柵を見てみる。めっちゃでかい。イノシシくらいなら楽勝で防げそう。となると、普通のタヌキだとかイタチの類ではない。状況的に魔法生物の仕業。
しかし、妙なことに柵にはあまり傷がついていない。突破されたって割には壊れた場所がない。鳥の類かとも思ったけど、荒らされた作物についている食み痕は明らかに鳥じゃない。
となると、謎の犯人は柵を壊さず、かつ空を飛ばずにここに侵入したってことになる。これだけわかればもう十分だ。
『犯人の目星がついたので集まってください……』とかっこつけながら農家のおっちゃんを呼ぶ。悲しいことにギャラリーは一人。奥さんは買い出しに、娘さんはデートに行ったからいないとか。
『いったいどんなやつの仕業なんだ?』と尋ねられたので、ギルに頼んで畑の一部に穴をぶち抜いてもらう。思ったとおりそこにはトンネルがあり、気持ちよさそうにスヤスヤしているノームモールがいた。
こいつ、ぶっちゃけるとグレートな穴掘りができるモグラ。柵の下から侵入し、食い散らかした後は穴をふさいでゆっくりしてたってところだろう。
『もうちょっとだけ寝かせてくれよ……』と言わんばかりの安らかな表情を、俺は生涯忘れることはないだろう。
次の瞬間、ギルはむんずとそいつを掴み、そのまま躊躇いなくぐしゃっと握りつぶして始末する。仲間の断末魔が届いたのか、途端に畑中からノームモールが動き出し、地面を掘って逃げようとした。
が、トンネルに頭を突っ込んだギルが『ジャガイモぉぉぉぉ!』と爆音を発するとやつらはパニックになって地表へと出てきた。もちろん、地表には俺が事前に罠魔法陣を薄く広く展開している。出てきた奴は片っ端から魔法ショックで気絶した。
最終的に狩れたのは三十匹ほど。全部生け捕り。よくぞまぁこれだけいて畑がおじゃんにならなかったものだと感心した。
『こいつらどうします?』っておっちゃんに聞いたら、『キミたちの好きにしていい』と言われたので五匹だけ残し、他の連中を始末する様子を見せつけてから逃がしておいた。
こうしておけば『この畑はヤバい』と他の生物にも伝えるだろう。少なくとも、奴ら自身は二度と来ないはずだ。ギルの汗を丹念に畑にまいておいたから、生物の本能的にも近づけなくなるはず。
アフターサービスもしっかりしてあげるって俺超優しくね? 農家のおっちゃん、なぜかヤバいものを見る目でこっちを見てきたけど。
報酬金はそこそこ。仕事ぶりを気に入ってもらえたのか、おっちゃんがちょっと買い食いできるくらいのおまけをしてくれていた。結構気前がいいっぽいから、あの人の依頼があったら積極的に受けてみようと思う。
依頼達成の報告のために学生部にいったらロザリィちゃんとばったり会った。ロザリィちゃんはペット探索の依頼を受けていたらしい。『おつかれさま!』ってにっこり微笑んてくれて一日の疲れがふっとんだ。プリティすぎてまっすぐ見つめられない。
二十匹近くノームモールを握りつぶしたギルは、相変わらず大きなイビキをかいている。まだ握り足りないのか手をぴくぴく動かしているのが超怖い。ちょろまかしておいたノームモールの尾を鼻に詰め込んだ。グッナイ。




