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118日目 上級生おつかれさまパーティー(あいつらマジクレイジー)

118日目


 ギルが垂れ目に。なぜ。


 朝、女子のメンツと共にギルの垂れ目について語りながら朝食をとっていたら(ポポル&フィルラドは昼近くまで寝てる。クーラスとジオルドはなんかの作業だろう。あと、ミーシャちゃんが『垂れ目もけっこうイイかも……』って言ってた)、食堂のおばちゃんに『今日は暇かい?』と声をかけられた。


 さすがに三十近く離れている人とデートをする趣味はないので丁重にお断りしたら、『すまんな、あたしゃもっと誠実なのがタイプだ』と言われた。アルテアちゃんからは『お前のその自信はどこからくるんだ?』、ミーシャちゃんからは『自惚れも度が過ぎると感心するの』、パレッタちゃんからは『ヴィヴィディナとの交際を認めなくもない』と散々に言われる。


 『──くんはすっごくカッコイイよ!』ってロザリィちゃんがポンポンしてくれなければ俺の心は砕けてしまっただろう。つーか、俺って不誠実に見えるの?


 ともかく、どうしたのかと用件を聞いたら、一日限りのバイトをしてみないかとのこと。なんでも今日は上級生の中間報告会だかの日らしく、それが終わった後にここで打ち上げをやる予定らしい。


 おばちゃんたちは前もってそれの準備をしていたらしいんだけど、今日になって体調不良で三人もダウンしてしまったとのこと。普段はピンチヒッターのバイトもいるんだけど、今日はその人がその打ち上げにも参加するから頼れないとか。


 で、『アンタ即戦力になりそうだから声かけた』と俺が名指しで指名されたわけだ。そういえば、おばちゃんとはハゲプリンやドレッシングで料理人としての熱い議論を交わした気がする。


 特にこれといった予定もなく、また示されたバイト代(日給)もおいしいものだったので受けることに。今日の打ち上げは俺たちの打ち上げよりはるかに規模が大きいらしいから、皿洗い兼ウェイター要員ってことでロザリィちゃんたちも参加。あと、仲間外れも可哀想なのでギルも参加。ギルに出来る事なんてほとんどないと思うけど。


 夕方からなのでそれまで英気を養おうとしたんだけど、『アンタは一人前として扱う』とおばちゃんにつかまり、料理の下拵え&準備をすることに。


 『食材は好きに使っていい。わかっているとは思うけど大皿中心で』とのリクエスト。好きに腕が振るえるのはいいけど、人数が多いから仕事がかなり多そう。少しだけマデラさんとこの厨房を思い出した。アレに比べれば百倍マシだけど。


 もちろん、せっかくなので好き勝手にいろんなものを作りまくった。人の金で料理するのって超楽しい。これがウィンウィンの関係ってやつか。


 そして夕方。憑きものが落ちたようにイカれた笑い声を上げる上級生たちがやってくる。体力の八割も残せていたから余裕はあった。あと、エプロン姿のロザリィちゃんが超可愛くって失神しそうになった。


 乾杯の後は大歓声が響く。まぁとにもかくにもよく食べて、揚げ物の皿が数秒もしないうちに空になった。酒もどんどん減っていく。フライドポテトもギルレベルのスピードでなくなっていった。


 聞き覚えのある声が混じっていると思ったら、上級生の真ん中でシキラ先生が酒をぐびぐびやっていた。ウワバミらしく、樽一つは飲んでるんじゃねーかってのにちょっと顔が赤くなっているぐらい。そこらの冒険者よりも良い飲みっぷり。


 もちろん、厨房は地獄。悲鳴と怒号がひっきりなし。おばちゃんたちは全力で料理を作り、アルテアちゃんやパレッタちゃんが運びまくる。上級生たちは金を持っているからか、『こっちがストップかけるまでお願いします』と事前に伝えられているそうな。


 そうそう、ミーシャちゃんは終始皿洗いに徹していた。あのクレイジーリボンを使えばしつこい油汚れも一瞬で落ちるからマジ便利。子供体型だから大皿を運ばせるのが危なっかしいって理由もあったけど。


 食堂の方はかなり盛り上がってきたらしく、ときおり魔法が飛び交っていた。ゲラゲラと狂ったように笑い続けている人がいてもお構いなし。やっぱクレイジーだ。


 灼熱の炎の傍で延々と揚げ物なんかを作り続けていたら急に呼び出しが。なにかヘマをやらかしたかと思って駆け付けたら、超笑顔のシキラ先生と女子生徒に囲まれた。


 『このプリンお前が作ったんだって!?』、『今度うちの研究室でグロス単位で発注してもいい!?』と酒臭い息を吹き付けられる。どうやら昼間に仕込んでおいたハゲプリンを気に入ってくれたらしい。


 そのまま流れでなぜか俺も参加することに。シキラ先生、気分が良かったのか例のクモの事件の時のことを話し出した。『一年生なのにやるね!』とテンションの上がった上級生のおねーさまに抱き付かれて超しあわせ。ぬくやわこくてあったかい。


 いい気分だったんだけど、ここで突如悲鳴が上がる。筋肉に任せて完璧すぎるウェイターをしていたギルが、ガチギレ一歩手前の表情で上級生(男)の腕をひねり上げていた。


 どうやら、すこし落ち着いてきたからミーシャちゃんがウェイトレスをやったんだけど、そのときに酔った上級生がミーシャちゃんの尻をちょっと撫でたらしい。それを見たギルがとっさに駆けつけて今に至るというわけだ。


 ミーシャちゃん、ちょっと涙目になってギルの背中に引っ付いている。上級生、『はなせよコラ!』と怒鳴る。ギル、『千切ってヴィヴィディナに捧げてやろうか?』とすごむ。周りの上級生、『やれやれやったれ!』、『いいぞ一年、ボコッちまえ!』、『どっちが勝つか賭けようぜ!』と盛り上がる。もうやだこの人たち。


 シキラ先生も『魔系なんだから実力ではっきりさせようぜ!』と超ノリノリ。オーディエンスが最高にエキサイティングする中で決闘もどきが始まる。『ちょっとは手加減してやろうか?』と相手はだいぶ調子に乗っていた。突き出す杖が震えてるほど酔っている。


 もちろん、結果はギルの圧勝。だってあいつの筋肉魔法通用しねえんだもん。一発弾いてワンパンで終了。上級生ピクピクしながら白目向いていた。シキラ先生、腹抱えてゲラゲラ笑ってた。


 で、『普段はまともなんだけど、あいつ酔うとダメなんだよな。酔いがさめたら顔面蒼白で謝罪しに行くと思う。俺の命に代えても土下座させる』とちょっと真面目な顔でギルとミーシャちゃんに頭を下げていた。こういうところはちゃんとするらしい。


 ギルもミーシャちゃんも一応それで謝罪を受け入れるってことになった。つーか、ギルは相手の左手首に尋常じゃない怪我を負わせたから、頷いておかないとまずかったんだよね。


 その後、一部で空気が嫌な感じになってしまったため、万が一のために作っておいたお手軽煉獄ケーキを提供する。普通の煉獄ケーキに比べてケーキとしてのクオリティは低いものの、手軽に作れて見た目と大きさだけはひけをとらないという優れもの。


 こういうことが日常茶飯事だった宿屋で頑張っていくうちに自然と身に付いたテクニックだ。『一点物は必ず予備を』ってのは宿屋的に常識だったりする。今回の場合はちょっと意味合いが違うけど。


 突如登場したサプライズなケーキに上級生たちはめっちゃ盛り上がった。『すっげぇぇぇぇ!』って叫びながらケーキをバクバク食っていた。冒険者たちを彷彿とする。そういや、あの宿屋ってお菓子がおいしいことでも有名だっていつかミニリカが言ってたっけ。


 ちょっとオトナにアルコールを効かせていたからか、酔いつぶれて寝こける人も増えてくる。面倒な宴会を潰すにはやっぱこれが一番だ。計画通り。


 酔っぱらってどうしようもないやつや寝こけてしまった人の相手は全部ギルに任せた。力仕事はやっぱあいつに限る。


 結局、最後までシキラ先生は飲んで食いまくってた。帰り際、『今日は世話になったな! うちで良ければいつでも遊びに来いよ!』と魔法材料研究室とElmedaNotha(シキラ先生が担任のクラス。エルメダノッサと言うらしい)に遊びに行ける権利を貰った。たぶん使わないだろうけど。


 『お疲れだったね!』とおばちゃんからはかなりの額を貰う。良いのかと聞いたら、『アクシデントに対応してくれたし、契約外の仕事をさせちゃったからねぇ』と言っていた。おばちゃん、ハゲプリンには気づいていたけど煉獄ケーキの事は知らなかったらしい。


 帰りは結構遅くなってしまった。部屋の前で別れるとき、ロザリィちゃんが『先生ならともかく、ほ、他の人と浮気とか許さないんだからねっ!』っていってほっぺにちゅってやってくれた。今日の疲れが一気に吹っ飛んだ。


 精神的に疲れたのか、ギルはイビキは一段とうるさい。俺もちょっと疲れたので、上級生のおねーさまがくれたなんかの魔法材料の試験片の失敗作(潰して売ればそこそこのお値段)を鼻に詰めた。グッナイ。

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