111日目 基礎魔法学:前期期末テスト(ステラ先生ごめんなさい)
111日目
ギルの目が燃え盛っている。冗談じゃなくてマジで。
ひどく気分が重い。自分がしてしまったことにどう責任を取ればいいのかわからない。鬱だ。俺はなんであんなことをしてしまったのだろう。例えマデラさんが俺を許してくれたとしても、俺は俺自身で俺を許すことができない。
日記を書くのがこうも億劫なのは初めてだ。正直書きたい気分でもないが、自らの戒めの意味を込めて書こうと思う。
今日のテストはステラ先生の基礎魔法学。俺は魔操着に着替えていつもの場所に向かった。今回は筆記はなしで実技だけだから、みんななんとなく明るかったのを覚えている。
杖の手入れなんかをしつつ待っていたら、ステラ先生が到着した。いつものローブじゃなくて、グランウィザードしか着ちゃいけないって噂のガチなローブを羽織っていた。めっちゃ凛々しい。ちょっと照れているところとかマジキュートだった。
ただ、次の瞬間に杖をコンコンしながら発せられた言葉──テスト内容に文字通り言葉を失った。
『今からみんなには先生と闘ってもらいます! なんでもアリで、先生に一発でも有効打を与えられたら合格! 一撃も入れられなかったら全員不合格! 必修だからみんな留年だよっ!』
もちろん、なんでもアリだから集団で囲んでもいい。おまけに、クラス全員で受けるテストだから、誰か一人でも一撃を入れられれば、その段階で全員合格。
あまりにも無茶苦茶な内容だけど、魔法ってのはつまるところ闘争の最たる手段と言う結果に行きつくらしい。魔法の神髄とは戦闘であり、その戦闘をうまくこなすために俺たちは勉強をしていて、その副産物としてその他の魔法技術が付随しているのだとステラ先生は言い切った。
が、いくらテストとはいえ、愛しのステラ先生に杖を向けることなんてできない。そんなことするくらいなら俺は学校をやめて先生とロザリィちゃん専用の無期限契約ハウスキーパーになる。
『どうしてもできません』って杖を捨て、ギブアップの姿勢を見せたらクラスメイトから非難の声。でも、そんなの知ったこっちゃない。
ステラ先生、『キミ、本当にぶれないよね。キミのそういうところ、先生けっこう好きだよ』って穏やかに笑ってた。
でも次の瞬間、『魔系は死んでも杖を離しちゃいけないって、先生教えなかったっけ?』と纏う雰囲気が恐ろしいものになった。そんな先生もマジプリティ。
気づいたら腹に激痛。で、思いっきりふっとばされて校舎に叩きつけられた。マデラさんと互角。ローブに仕込んでいたはずの緊急用緩衝魔法陣が粉々に砕け散ってた。
マジで一瞬気絶してた。防御込みであれとかマジヤバい。
ここにきてようやく気付く。ステラ先生が闇の召喚魔法(口が銃口になった翼を持つドクロがでてきた)で俺とギルに魔法弾を喰らわせていた。
しかも、『すげえすげえ!』と喜ぶギルを見ると、あいつの筋肉に傷がついている。本気の威力に背筋がゾッとする。
『今のは最終警告。次は本気でやるからね?』って言ったステラ先生に芸術的ななにかを感じてしまった。
クラスメイトたちの行動は早かった。先生が言い終わるか終らないかのうちに集中的な魔法攻撃を浴びせ、囲んでこれでもかと言わんばかりに多種多様な魔法を放ちまくる。
刃魔法、音魔法、雲魔法、針魔法、鍵魔法、食魔法、環魔法……といったマイナーな魔法のオンパレード。ヤバそげな薬品を投げているやつもいたし、連携魔術や大魔法陣、さらにはこないだ俺が特定危険魔法廃棄物に出しておいたギルのパンツを投げているやつもいた。
が、先生は無傷。可愛く欠伸なんかしている。なにをどうやってガードしたのかも不明だけど、うっすら水魔法要素を体に纏っていた。
で、『これじゃあ合格はあげられないなぁ』って火、水、雷の魔法矢を作り出した。めちゃくちゃいっぱいある上に、めっちゃ速い。しかも地味に追尾性能と反射性能があって、これだけでクラスの三割がダウンした。グランウィザードマジすげえ。
『そろそろやる気になってくれたかな?』って先生がこっちを見たけど、それでも俺には無理だった。先生は魔法で強制的に杖を俺に持たせたけど、俺は振えなかった。フィルラドやアルテアちゃんに『いい加減腹くくれよ!』ってケツビンタされてもダメだった。
ステラ先生、そんな俺を見て『人としてステキだと思うけど、魔系は人である前に魔系だってことを忘れないでね?』って微笑んだ。
次の瞬間、何かに気づいたみんなが一斉にギルの後ろに隠れる。先生の影から風と炎を纏った大きな熾天使(ちょっと先生に似てた)が現れ、炎の拳をぶつけてきた。こっそり友想の守護布を体に巻いてないかったら保健室行きだっただろう。
先生の本気が凄まじすぎる。文字通り、地面に大穴があいていた。
でも、たかだかこの程度で俺のステラ先生への愛を妨げることはできない。無言で立って無抵抗の姿勢を示す。
『ちゃ、ちゃんと戦ってくれないと先生本当に困っちゃうよぅ……! お願いだから真面目に戦ってよぉ……!』って涙目になるステラ先生が超可愛かった。
あと、『こいつ真性のクレイジーかよ……』ってクーラスが呆れたようにつぶやいていた。後で知ったけど、あの段階で被弾ダメージ一番大きかったのって俺らしいんだよね。立っているのが不思議なくらいの状態だったとか。
『俺はステラ先生とは絶対に闘いません』と真剣に伝えたら、先生はちょっと考え込んで、『じゃあ、助っ人呼びます!』ってなんかの魔法陣を展開した。辺りに煙が立ち込め、気づいたら完全武装したヨキがちょっと離れていたところにいたロザリィちゃんの隣にいた。
そんで、あの野郎ロザリィちゃんにskだいえhyらlだしうえぬだしぇdかぉだいだじょあああ!!!!!1lkmtswrdrfbjhjんklmk;おびうgxてrsbkjlにゅyvんぃのつy
(ぐしゃぐしゃと文字のようなものが書き殴られていました。文字列は適当です)
落ち着いた。今でも手が震えているが、なんとか頑張って書こうと思う。
ヨキの野郎、いきなりロザリィちゃんの肩を馴れ馴れしく抱いて、抱いて、抱いて……『次の休日デートしようや~♪』とか言ってほっぺにチューしやがった! マジふざけんじゃねえぶっ飛ばすぞ!
あの時俺、なんか大事なものがブッツンしたんだと思う。その場にいた女子全員が『ひっ!』ってガチな悲鳴ちっくなものをあげてたし。
無意識にミニリカに教えてもらった縮地法(足裏に風魔法を展開させた走行法)を用いて接近し、驚いたヨキの顔面を高密度魔法要素を纏った拳でぶん殴った。
ヨキが距離を取ったところでロザリィちゃんにハンカチを渡し(ほっぺふいて貰う用)、お姫様抱っこをして安全地帯へと連れて行った。
『先生を攻撃していいの?』と可愛らしく首を傾けるロザリィちゃんと友人たち。もちろん、『どうせヨキだ。生かして帰すな』と宣言した。
その間にも雷魔法による擬似魔法生物(ハチ形態がマイジャスティス)を展開しヨキに仕向ける。あいつが炎魔法で焼き払った瞬間に精霊憑依でタイタンの巨腕を召喚し、そのままヨキを握りしめた。
すぐにぶっ壊される……も、周囲に多次元魔法体を無数に展開することに成功。連鎖起動射撃と中規模連鎖誘爆が出来る優れもの。
もちろんすぐさま爆破した。教室の窓が一斉に割れる。ジャイアントゴーレムくらいなら塵も残らない威力。
しかし、当然の如くヨキは生きている。ローブの端がちょっと焦げたくらい。だけど、ここでクーラスが多重罠魔法を着地点に展開し、ポポルが全力の広域連射魔法で身動きの取れないヨキに激しい攻撃を加えた。
ヨキの野郎、『ちょっとはやりますな~♪』とか言って光の魔法針で罠魔法をぶち抜き、闇のカーテンでポポルの攻撃を全部跳ね返してきやがった。
ミーシャちゃんのリボンがそれを全部受け止め、その陰からフィルラドが大量のエレメンタル・バグを召喚。魔法雰囲気が非常に不安定になり、ヨキの魔法の威力が明らかに落ちる。
そのままあいつを食い破ってくれればよかったんだけど、さすがは教師と言うべきかすぐに変調に対応してしまった。しかしそちらに気を取られたせいで、パレッタちゃんが放った重枷の呪いをまともに受け、地面に膝をつく。
それを見逃さずにアルテアちゃんが高速精密射撃魔法を発射。あとちょっとのところでよけられるも、頬に一筋の傷をつけることに成功。相手が衝撃を受けているところで、具現魔法により愚者の鉄槌を出したジオルドが脳天をかち割ろうと空から襲撃する。
地面が揺れる。土煙が半端ない。思わず『やったか!?』と呟いたのがいけなかった。
土煙が晴れたそこには、中規模クレーターとぴんぴんしているヨキ、そして背後を取られたジオルドがいた。
ヨキの野郎、体術もそれなりに出来るらしく、ぼろぼろになりながらもジオルドを締め上げていた。『さすがにちょっとビビったで~♪』と、明らかな強がり。
が、そんなことしているからあいつはダメだ。今までずっと機会をうかがっていた──偽装魔法と錯覚魔法を施しておいたギルが急接近していることに気づかない。
で、『俺の事忘れんなよな!』とギルの渾身の一撃がもろに腹に入った。『げふぅ……ッ!』っとヤバそげな音を漏らす。体をくの字に曲げたまま、冗談抜きにやつは水平に吹っ飛んでいく。
しかしヨキのヤツ、吹っ飛ばされながらも追撃せんと迫るギルに陣魔法、魔法弾、嵐龍の息吹、ゲートキーパーの鉄扉など、あらゆる攻撃&妨害を仕掛ける。近年まれに見る魔法のパレードに驚きを隠せない。あの状態であれだけの魔法を瞬時に展開したのだけは認めなくもない。
でも、秘蔵のジャガイモを食って覚醒したギルの筋肉は『弱ぇ弱ぇ!』とすべてを弾き飛ばしていた。鉄扉に至ってはヘッドバッドで粉々にされていた。
『予想以上にやるね……』とヨキは顔色を変える。ギルの筋肉を甘く見過ぎていたらしい。あきらかにガチな禁呪、またはグランウィザードクラスの詠唱を始め、陣を紡ぎだす。奴の背後に大精霊と神聖七星魔導陣が現れた。
今のギルじゃ発動を妨げることはできない。俺も位置的に難しい。
誰もが諦めかけたその時、『ギルばっかにいいカッコさせるかよ!』、『オイシイところは頂くんだから!』とポポルとミーシャちゃんがギルの背中を蹴って前に躍り出る。いつの間にか背中に引っ付いていたらしい。
明らかにヨキとの距離はあるし迫りくる魔法に対して無防備。しかし、当たる直前にミーシャちゃんが部分変化魔法で両腕をハーピーの翼に、足をハーピーの鉤爪にしてポポルをひっつかみ、空中でさらに加速&複雑軌道で高角から接近した。
で、そのままミーシャちゃんのリボンが部分変化魔法を伴い、鋭利なギルの筋肉と言うわけわからない形状を取って魔法陣を断ち切る。そして、ポポルの極点連射がヨキの杖を弾いた。
あいつ、杖そのものは離さなかったけど魔法は失敗。ギルは渾身の蹴りをヨキにぶち当てる。しかし、瞬時に多重展開された魔法陣により、ヨキは後方へと吹っ飛んで威力を大幅に減衰させた。
が、ここまで俺の読み通り。『後は頼むぜ親友!』とポージングを決めるギルにサムズアップを送り、こちらに無防備な背中を見せて飛んでくるヨキを筋肉質な杖でぶん殴った。この杖マジ便利。
叩き落したところでロザリィちゃんへの罪を自覚させるために腹にヤクザキック。テッド仕込みのめっちゃ痛いやつ。しばらく飯食えないアレ。ヨキも『うっ!』って胸を詰まらせていた。
ところが『そ、そろそろ終わりにしまひょか?』とまるで反省を示さなかったので、『一生悔い続けろ』と、とっておきの魔法を発動する。ヨキの首筋から黒くてぬめっとした太い触手が何本も生えて、ヨキに絡まった。
『やっ……!』って上げた悲鳴を、なぜあの時の俺は聞き逃したのだろうか。
ヨキの体から力が抜け、魔力の匂いもどんどん薄くなり、代わりに触手はどんどん太く、ぬめぬめになっていく。抵抗しようにも四肢に触手が複雑に絡んで動けないし、魔力をどんどん吸われているから、まともに魔法も発動できない。
これはタイタンの腕で掴んだ時に仕込んだ魔喰の触種だ。俺の魔力で育った、俺の意のままに動く優れもの。まさかこいつを使う羽目になるとは思わなかった。
こいつ、寄生先の魔力を糧に成長し続けるから、相手が元気なうちはどんどんその魔力を吸収して大きくなり続ける。だから物理拘束もすっげぇことになる。
物理、魔法的な耐久性も成長し続けるし、もし傷ついても吸収した魔力で修復するかなりタフなやつ。
こいつが弱るってことは吸収先の魔力が枯れたってことだから、魔法的にも物理的にも危険性がなくなったって判断していい。一度やられたが最後、自分だけ(内側から)じゃまず破壊できないのがこいつの最大の特徴だ。
いつでも発動できたけど、寄生したあげくに身体拘束、魔力吸収と言う明らかななオーバーキルなので、ヨキが心の底から反省の意を示せば使わないつもりだった。
『あっ……ちょっ……ぬめぬめ……っ!』ってヨキのくせにキモチワルイ声をあげていてたいそう不快。無駄に魔力が豊富なのか、いつまでたっても魔力が枯れる気配がない。
ここで最後の抵抗として、ヨキは俺に全力の魔法を放ってきた。油断していたせいか腕に直撃。バキッて嫌な音がして左腕が折れる。みんなの悲鳴が上がった。
が、この程度で魔法を止める俺じゃない。この程度で動揺していたら、マデラさんのところじゃやっていけない。それに、ついさっきステラ先生から『魔系は死んでも杖を離すな』って言われたばかりだし。
表情を一切変えずにヨキをにらみつけていたら、『マジかよ……?』、『い、痛くないのぉ……!?』と、周りから妙に心配そうな目で見つめられる。腕の一本や二本、もう何回も折れたことがあるから、こっちとしては今更なんだよね。
んで、これ以上変に抵抗されるのも困るので、嫌ではあるけどローブをひっつかんでずりおろし、ヨキの首元を曝け出す。胸元が妙に綺麗なのに無性に腹が立った。
『おい、それ以上は……!』と止めるクーラスの言葉を聞いておけばよかったと、後でめちゃくちゃ後悔した。
俺さ、ヨキを完全に無力化するために、あいつの首筋に噛みついて吸収魔法使ったんだよ。魔力を完全にからっけつにしたかったし、万が一の時のために魔力補充もしたかったし。
たださ、なんかやたらと甘くていい匂いがしたんだよ。もうね、マジで楽園にいるんじゃないかってくらい。
しかもさ、妙に首筋が柔らかいし、抵抗できないようにぎゅって抱きしめた体もすっげぇほわほわふわふわしてるの。
もうね、悟ったね。これ、ヨキじゃないって。
おそるおそる首から顔を離してよくよく見たら……
全身を触手に絡まれたあげく、盛大に胸元をめくられたステラ先生がそこにいた。しかも、俺に抱きしめられ、首までかまれちゃっていたっていうおまけつき。
ステラ先生、真っ赤&超涙目。『ひんっ……! ふぇっ……!』って若干しゃくりあげている。慌てて触手を消すも、ローブにしっかりと触手の跡がついているし、全身ぬめぬめ。
一応言っとくけど、胸元が出ているだけで、胸は出ていない。でもちょっと谷間が見えて超せくしーだった。
どういうことかと思ったら、俺を本気にさせるために先生が使った魔法、ヨキの召喚魔法じゃなくて、俺に対する幻覚魔法だったらしい。俺が今までヨキだと思って戦っていた相手はステラ先生だったってことだ。魔喰の触種と俺の吸収によって魔力が切れかけたのと、身の危険を感じたから魔法が解けたらしい。
道理でヨキのくせに妙に魔法のバリエーションが豊富で規模もすごかったわけだ。なお、他のみんなは普通にステラ先生に見えていたとのこと。
ロザリィちゃんとアルテアちゃんが先生をポンポンして、自分のローブをかけてあげていた。しょうがなかったとはいえ、なんか視線が冷たい。
パレッタちゃんは『テストは終わりだ。男子はさっさと出て行け。さもなくば貴様らの股間に全力の呪いをかける』と言ってみんなを追い払った。
先生、『キ……キ、ミは、わ、わるっ、悪くなんて、な、いから……っ!』って言ってくれたけど、その言葉をそのまま信じるほど俺は子供じゃない。半泣きのまま女子たちに連れられていく先生を、俺は折れた腕をぶらぶらさせながら見送ることしかできなかった。
自己嫌悪が凄まじい。でも先生が超可愛かった。どうしよう。あと先生の体超柔らかかった。すっげぇいい匂いがした。俺、これ責任取らないとダメだよな?
テストが合格したのだけは幸い。今度お詫びの品をもって全力で土下座しに行こう。
もっと具体的に書けるが、これ以上やったら俺の精神が崩壊する。反省の意味を込めて、今日はそのまま眠ることした。
ステラ先生、マジでごめんなさい。




