104日目 基礎魔法学:対人戦闘訓練【VS.ジオルド&ミーシャちゃん】
104日目
ギルの鼻に蜘蛛の巣が張っていた。今日も平和だ。
ギルを叩き起こして食堂へ。なんかやたらとパレッタちゃんの機嫌がいいと思ったら、『昨日の供物でヴィヴィディナがさらに高みへと近づいたの!』とのこと。よくわからんけど、あれほど耐久の高かった胴体さえもペロッと平らげたらしい。
よく考えてみれば、ヴィヴィディナのほうがギル要素をふんだんに取りまくっている気がする。これ、下手したらあのクモよりもヤバい怪物になるんじゃね?
なお、ギルはいつも通りジャガイモを『うめえうめえ!』って平らげていた。こいつがマッチョなのって、もしかしてジャガイモのおかげなのだろうか。
授業はステラ先生の基礎魔法学。開始早々、『昨日は大変だったみたいだね』って言われた。先生は外で授業をやっていたから話しか聞いていないらしい。もとより、あの程度の事故なら頻繁に起こるため、動く気にもならなかったそうな。
さて、今日も今日とて……っていうか今日が最後なんだけど、対人戦をすることに。ただし、今日はタイマンじゃなくてペアを組むってことになった。
『一緒に組もうぜ親友!』とかいうギルに大いに賛同し、最強の友情タッグを組むことに成功する。が、クラス中からブーイングの嵐を叩きこまれた。
しかも、『我がルマルマのバカの二極が組むとか、訓練になるはずないだろ? 頭湧いてるのか?』ってクーラスに言われてしまった。俺までバカ扱いとか、ちょうショック。
戦略的に考えて、俺とギルが組めば無敵だと思ったんだけどなぁ。人には絶対言えないけど、俺、相棒はギルしかいないと思っているし。アイツの筋肉は本物だ。
で、いろいろあってポポルと組むことに。ロザリィちゃんと組めなかったのが超悲しい。『飴玉やるから元気出せ』とあのおこちゃまポポルに元気づけられてしまった。あ、飴は普通のオレンジキャンディだった。味はなかなか。
対戦相手はジオルド&ミーシャちゃん。なんか意外な組み合わせ。
早速試合開始。開始直後、ジオルドが具現魔法で氷の大剣を作り出す。同時にミーシャちゃんが部分変化魔法で腕を炎にし、さらにリボンがそれに纏わりついて炎と水の鞭のような形態をとった。もうわけわかんねえなこれ。
対する俺たちは左右に分かれて突っ込んでいく。ポポルはすばしっこくて身が軽いから、変幻自在に動くリボンの攻撃(なんか八つくらいに分かれて串刺ししてきた)をひょいひょいかわし、わずかなスキを見つけては容赦ない連射魔法を食らわせる。
しかし独立した意思をもつリボンが瞬時に盾の形態をとり、ミーシャちゃんをガード。ポポルの異常な極点連射にうっすらとひびが入りかけるも、ミーシャちゃんがジャガイモをあてがった瞬間に強度が増した。ホントなんなのアレ。
その一方、鞭と流れ弾を避けつつ俺とジオルドは杖と剣を合わせる。ジオルドのヤツはグレイベル先生と似たタイプみたいで、肉弾戦の比率が大きい。
氷の大剣を使っていたと思ったら天使の羽も具現して空から襲ってくるし、かと思えばトゲトゲと接触感知式魔法陣が仕込まれた靴を具現して蹴ってくるし、意外にアグレッシブで獰猛。筋肉質な杖がなかったら結構危なかった。
一進一退の攻防が続いてたんだけど、チートクラスのリボンを相手にしていたポポルが押され始めたので、ペアらしく連携を組むことにした。
接触感知型の魔法陣を空中に多重展開し、ポポルの足場とする。ポポルはそれを駆け上がって空中からひたすら広域放射多重連射。射角が広がったおかげでジオルドもまきこめた。
俺に向かってくる弾は誘導反射魔法陣で全部ジオルドたちに跳ね返す。さりげなく足場の魔法陣の裏側にも展開しておいたから、攻撃機構と足場が両立してるってことになる。
これらにより局所的な魔法集中域の形成に成功する。マジで目の前全部が連射・反射された魔法で埋まってすさまじいことになっていた。文字通りあらゆる方向から連射弾が叩き込まれる優れもの。
『おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃっ!』ってポポルはハイになりながら撃ちまくってた。アイツの連射速度と魔力回復速度は見習いたい。ジオルドもミーシャちゃんもガードで精いっぱいだったし。
んで、さりげなくギルをリスペクトしつつヴァルヴァレッドのオッサン仕込みの腹パンをジオルドに食らわせようとしたんだけど、ここで向こうも連携を取ってきた。なんと、液状化したリボンを氷の大剣で凍らせ、氷結結界を張ってきた。
しかも、リボンがどんどん大きくなって氷の大剣と一体化する始末。弾は全部凍らされて落ちるし、ジオルドとミーシャちゃんの意思で氷の剣が無数に生成されて襲い掛かってくるし、なかなかヤバそげなコンビネーション。具現魔法とクレイジーリボンの相性が凄まじかった。
最終的にリボンが巨大な人の形を成し、それを纏った(なんか胸のあたりに取り込まれてた)ジオルドがやっぱり巨大なリボン氷剣を振いだした。空中にいたポポルが『ふぎゃああああ!』って撃ち落とされ、俺一人に。
が、ステキすぎる俺はここで反撃の方法を閃く。身体強化を施し、まだ残っていた魔法陣を足場にして複雑な空中機動を描きながらリボンの巨人に接近。近づいたところで風魔法を自らにあて、急加速して一体化したジオルドの下へとへばりつく。
『……あっ』ってジオルドが声を漏らしたけどもう遅い。あの巨人、デカすぎるからこうして本体に密着されるとなす術がない。ついでに一体化したジオルド自身も何もできない。
んで、闇の立体結界魔法陣でジオルドを覆い、ヤツの視界を完全に奪うと同時に、万が一の時のために持ってきておいたギルの使用済みタオルをぶちこんで密閉した。
直後にこの世の終わりを見たかのような悲鳴。さすがに可哀想な事をしたと今は反省している。
で、リボンの巨人の制御が失われたスキを突き、首根っこをひっつかんで拾っておいたおいたポポルをミーシャちゃんに向かってぶん投げる。『ぎにゃあああ!』、『みぎゃあああ!』って声と同時にごちんっ! ってヤバそげな音がした。
最終的に立っていたのは俺一人。ジオルドは白目をむき、ミーシャちゃんとポポルはおでこにたんこぶ作って目をぐるぐる回していた。
これ、俺の完全勝利じゃね? もちろん最後はポーズをとってビシッと決めておいた。
なお、ステラ先生からは『キミのその手段を選ばないところは魔系として美徳だと思うけど、もっと人への思いやりに目覚めてくれると先生はうれしいな』って言われた。困ったような笑顔がマジプリティ。
あと、授業終わりに来週のテストの説明があったんだけど、『内容はお楽しみで!』ってステキな笑顔で言われた。実技だけなのは確定らしいけど、何をするのかは一切不明。
不安がるロザリィちゃんに『何があっても君を守る』って笑いかけたら、『……周りに迷惑かけないように守ってね?』って言われた。なかなか難しい相談だけど、プリティなロザリィちゃんのお願いは全力で聞かねばなるまい。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ポポルとミーシャちゃんに執拗に腕をガジガジされまくった。ジオルドは具現魔法で形成した魔導安全靴(明らか戦闘仕様)で全力のケツキックをしてきやがった。超痛い。
『スペシャルハゲプリンを好きなだけ食わせるから機嫌直せ』って三人に言ったんだけど、三人ともに『いいから黙って殴らせろ』と返された。短気な人って怖いよね。
そうそう、ギルは今日も無傷でフィルラド&アルテアちゃんを倒したらしい。ペアだったパレッタちゃんは、ギルの傍らで二人の悲鳴と恐怖をヴィヴィディナに捧げていたそうな。
全力で遊んでもらえたからか、ギルのイビキはまた一段とうるさい。たまたま目についた巨人のまつ毛を鼻に詰めた。グッナイ。




