ナイツ・オブ・ラウンド2
相変わらず意味不明な点もあるかもしれませんが、よろしくお願いします。
少し、この国について説明したいと思う。
この世界最大の大陸、レイシエリル大陸の西に位置する島国が、我らがアルビオン王国である。今から約1000年前に女王ベアトリスがこの国の基盤を作ったといわれている。冬は寒く、夏は暑い。そんな国である。
アルビオンには、少し変わった風習があった。時の王が12人の騎士を集め、自らの親衛隊とするのである。これはナイツ・オブ・ラウンドと呼ばれ、通常の近衛騎士よりも強い権力を持った。立憲君主制の現代では、ナイツ・オブ・ラウンドを戒める法律があるが、封建制の最盛期では、力を持ったナイツ・オブ・ラウンドが公金を横領する、主君を裏切る、なんてことがざらにあったらしい。
さて、このナイツ・オブ・ラウンドだが、現在でも鋭意活動中だ。ナイツ・オブ・ラウンドの12人は将軍扱いであり、新国王の戴冠式には必ず参列する。12人そろっていないと、その国王は王として認められていないとみなされる。だから、かつての国王は12人の騎士探しを全力で行っていたらしい。
現在では、新国王の戴冠式には先代の国王のナイツ・オブ・ラウンドが参列することが多い。先代のナイツ・オブ・ラウンドを流用すれば、戴冠式までに探す騎士の人数が少なくて済むからだ。現国王チャールズ4世の戴冠式も、先代の国王のナイツ・オブ・ラウンドが参列した。
しかし、先代の国王に忠誠を誓った騎士たちは、戴冠式が終わると辞めていくことが多かった。チャールズ4世のナイツ・オブ・ラウンドも、戴冠式後には3人にまで減ってしまった。今は9人まで集まっているはずである。
「……陛下、何をなさっているんですか? え? ここ、お父様の執務室ですよね?」
リアノーラが勝手にソファでくつろいでいる国王に尋ねた。アルビオン王室には金髪が多く、チャールズ4世も例外なく金髪だ。宮殿まで一緒に来た第2王女マリアンヌも淡い金髪だった。金髪遺伝子が強いのだろうか。
「そうだぞ。ここは宰相の執務室だ」
チャールズ4世がこともなげに答えた。自分で入れたらしい紅茶を飲んでいる。
「……お父様は? というか、本当に何してるんですか?」
この部屋の本当の主はどこに行ったんだ。頬をひきつらせるリアノーラに「まあ座れ」とチャールズ4世が自分の向かいのソファを示した。言われた通り、座ってみる。
「お前の性格上、アルに相談しに来ると思ったからなー。勧誘活動だ」
チャールズ4世のこういう発言を聞いていると、本当に母と兄妹なんだな、と思う。リアノーラの母はチャールズ4世の妹なのだ。
ちなみに、アルというのはリアノーラの父のことで、アルヴィン=フェアファンクス公爵のことを示す。よくわからないのだが、チャールズ4世は父アルヴィンの後輩らしい。
そして、もう一つ。アルヴィンはチャールズ4世の父、ウィリアム2世のナイツ・オブ・ラウンドだった。アルヴィンは、戴冠式後にナイツ・オブ・ラウンドをやめた騎士の一人だ。たいていはそのまま騎士をつつけたり、後進の育成に手を出したりするものだが、アルヴィンはそこから文官に転向し、民に選ばれて宰相となった。
「勧誘活動って……」
「お前に私のナイツ・オブ・ラウンドになってほしいからな」
「自分の姪に何を言ってるんですか」
勢いでそう突っ込みを入れて、リアノーラは一つ息をついた。
「どうして私なんですか?」
「お前、その辺の騎士より強いじゃないか」
チャールズ4世はさらりと言った。アルビオン最強の騎士と言われた父を持つリアノーラは確かにその辺の騎士より強いだろう。小さなころからアルヴィン指導のもと、姉とともに剣をふるったものだ。単純に剣の腕だけで言うなら、姉の方がずっと強い。ただ、姉を誘えない理由はわかっていた。
「強い騎士が必要なら、お父様を誘ってみればいかがです?」
「断られた」
「……そうですか」
すでに勧誘済みだったらしい。父親がだめだから娘に目を付けたらしい。リアノーラはどこまで行っても、「アルヴィンの娘」でしかない。リアノーラの表情がこわばったのを見たチャールズ4世はにやりとした。
「安心しろよ。アルに断られなくてもお前にも声をかけていた」
「いや、どっちにしてもうれしくないですけど。……私が魔術師だからですか?」
「まあ、否定はできない」
魔術師が希少な現在、魔術師を抱えておくことが重要だとチャールズ4世は思っているらしい。まあ、いたら便利であるとは思う。
しかし、奇異の目で見られることが多いリアノーラにとって、打算であっても必要とされるのはうれしい。
「人の執務室で何をしてるんですか」
音もなく入ってきたのは父のアルヴィンだった。亜麻色の髪をうなじで束ね、リアノーラと同じサファイアブルーの瞳をしている。切れ長気味の目をした偉丈夫だ。ちなみに、リアノーラはどちらかというと父親に似ているといわれることが多い。
「よう、アル。お邪魔してるぞ」
「相変わらず気配がないわね、お父様」
チャールズ4世とリアノーラが好き勝手にいう。アルヴィンは表情に乏しい顔を少しひきつらせた。
「陛下。イングリス大臣が探していましたよ。リアを勧誘しに来るなら、仕事を終わらせてからにしてください」
「アルが宰相だろう。私の仕事なんて、上がってきた書類にポンと御璽を押すことくらいだ」
「ならなんで仕事がたまってるんですか」
アルヴィンの言葉に、なぜかチャールズ4世はアルヴィンとリアノーラを見比べた。
「……なんですか」
「いや、お前ら親子、そっくりだなーと思って」
「出てけ」
アルヴィンが扉を指さし、あろうことか国王に命令した。その不敬にも怒ることなく、チャールズ4世は「また来るぞ」と言って出て行った。もう来るなよ……。
「お父様、今の、いいの?」
一応聞いておくかとばかりにリアノーラは尋ねた。アルヴィンは「かまわん」と言い切る。持っていた書類を執務机におき、椅子に腰かけた。それを見たリアノーラは立ち上がる。簡易水場に向かい、紅茶の用意を始める。
「で。お前も何しに来たんだ」
「ん?」
自身の魔術で湯を沸かすリアノーラは振り返らずに言った。
「陛下がさ。ナイツ・オブ・ラウンドにならないかって言ってたでしょ」
「ああ」
「私、騎士じゃないけど」
「そうだな」
「……いいのかな、と思って」
アルビオンで騎士になるには、いくつか方法がある。まず、騎士学校を卒業すること。これが一番簡単な方法だといわれる。もしくは、騎士資格の得られる学校に入学し、騎士過程を卒業すること。リアノーラの友人であるベアトリックスはこの方法を実行中である。そして、現役の騎士に師事し、騎士試験を受けること。昔はこれが主流だったらしいが、今はあまり見かけない。
そして、最後に国王や宰相、将軍などから推薦される方法。リアノーラの現状はこれにあたる。そして、最も敵を作りやすい騎士になる方法がこれだ。ひいきされている、と見られるのである。しかし、今のナイツ・オブ・ラウンドのメンバーのほとんどは、チャールズ4世がスカウトしてきて騎士になったものばかりだ。これがチャールズ4世のスタイルなのかもしれない。
黙って娘の話を聞いていたアルヴィンに、リアノーラは紅茶を差し出した。濃い色をした紅茶を見て、アルヴィンは言った。
「これはお前が魔法で作ったんだな」
「魔術よ」
リアノーラは訂正した。魔法と魔術は正確には違う。魔術は術式を使って編み上げるものだが、魔法はその手続きを省くものだ。火と相性の悪いリアノーラは、魔術でないと火を起こせない。
「どっちでもいい。私たちには違いがわからんからな」
「お父様、魔力皆無だもんね」
アルヴィンは、潔いまでに魔力がなかった。家族内で魔力皆無なのはアルヴィンだけである。リアノーラの魔力は母からの血筋なのだろう。まあ、元をたどれば、父も母も同じところに行きつくのだが……って、今はそれはどうでもいい。
「この力を、お前はどうやって使いたい? 最後にはお前が決めることだ。私たちに強要はできない」
「……うん」
実は、母にもそういわれたのだ。リアノーラの両親は割と放任主義なのである。
仕事の邪魔になるので、部屋を出る。しかし、その前に一つ、と思ってリアノーラは尋ねた。
「……お父様は。5年前のことがなかったら、ナイツ・オブ・ラウンドを続けてた?」
初めてアルヴィンが顔を上げた。リアノーラに遺伝したサファイアブルーの瞳が見透かすようにこちらに向けられた。
「……さあな」
「……そう」
リアノーラは一度目を閉じると、父に礼を言って執務室を出た。宮殿の廊下を歩きながら5年前のことを思い出す。
5年前。先代のウィリアム2世が亡くなった直後。チャールズ4世の戴冠式を控えていたころ。あの時、アルヴィンは現代医療でも人知を超えた魔法医療でも治らない傷を負った。父はリアノーラのせいではないというが、リアノーラは自分のせいだと思っていた。
あのことがなければ、父はまだ騎士だったかもしれない。そう思うと、自分が父から剣を奪ってしまったとしか思えなくなった。
回想にふけっていたリアノーラは自分が呼ばれていることにしばらく気づかなかった。
「リア!」
名前を呼ばれるのと同時に肩をたたかれ、リアノーラは驚いて振り返った。そこにいたのは、金髪碧眼の少年だ。第1王子ジェームズ・リチャード。王位継承権は第2位。アルビオンの王位継承は長子優先なので彼の姉が王位継承権第1位となる。
「……どうしたの?」
いつもニコニコと腹黒い笑みを浮かべているジェームズが、ひどく困惑したような表情を浮かべていた。彼は重々しく言う。
「一緒に来てほしいんだ」
* + 〇 + *
「だから、余計なお世話だって言ってんだろ!」
「こっちは心配してるんだ。心配くらいありがたく受け取れ!」
「うっさい! 心配は押し付けるもんじゃねぇだろ!」
「押し付けてないだろ! 純粋に言ってるんだから!」
第1王女の私室に入ると、同じ顔をした人が二人、言い争っていた。一方は銀髪でもう一方はプラチナブロンド。背丈も目の色もほぼ同じ。髪質も似ているし、声の高さも似ていた。リアノーラの姉ユーフェミアと、ジェームズの姉にしてこの国の第1王女、次期女王のソフィア・エリザベス。妹のマリアンヌもそうだが、彼女たちの名は300年前の女王、エリザベス・ヴィクトリアの名にちなんでいる。おそらく、ソフィアが即位すればエリザベス二世と号するはずだ。
と。それはともかくだ。どうしてこういう状況になったんだ。ユーフェミアもソフィアも我が強いのでよく衝突するが、たいていくだらないことだ。ちなみに、プラチナブロンドでやたらと口が悪い方がリアノーラの姉ユーフェミアである。
「……どうしてこんなことに?」
「さあ……気が付いたら、こんなことに」
ジェームズが苦笑いで答えた。彼はリアノーラの姉ユーフェミアと同い年だ。リアノーラの2つ年上になる。ソフィアはさらに1つ年上。そういえば、全寮制の男子校に通っている彼が、なぜ宮殿にいるのだろうか。
とりあえず、この場を治めるほうが先か。リアノーラはユーフェミアの後ろに回った。
「はいはい、ちょっと落ち着こう」
「っ!?」
背後から羽交い絞めにし、リアノーラは言った。ジェームズもソフィアを拘束している。
「リア!?」
「はいはい。体調は大丈夫なの? 倒れても知らないからね」
にっこり笑って言うとユーフェミアは憮然とし、リアノーラの腕を振り払おうとする。もう大丈夫そうだと判断し、リアノーラも手を放した。
「やあ、リア。今日もお疲れ様」
気さくに話しかけてきたのはソフィアだ。緩やかにウェーブがかった髪をかきあげ、リアノーラににっこりする。その顔はユーフェミアと驚くほど似ていた。二人とも、黙って澄ましていればはかなげな少女で通るのに、二人が二人とも性格残念だった。
「こんにちは、フィーア。うちの姉が何かしたの?」
リアノーラは気安くこの国の王女の名前を呼ぶ。本人たっての希望であるし、従姉妹でもある。リアノーラにとってソフィアは、王女である前に友人だった。
「いや……なんでああなったのかな?」
「――っ!」
ソフィアのけろりとした言葉に、リアノーラは切れそうになった。必死で笑顔を張り付け、耐える。落ち着け私。短気を起こすな。
見ればユーフェミアもけろりとしている。この二人、本当にそっくりだ。
似ているといっても限度がある。確かに、背丈はリアノーラよりも少し高いくらいで、髪の長さも同じだが、見分けはつく。一瞬迷うかもしれないが、正面から見るとかなり差がある。
まず、ユーフェミアはソフィアに比べて表情が少ない。加えて目つきも鋭い。二人とも碧眼だが、ソフィアの方が目の色が濃かった。ユーフェミアは若干目つきが悪く、笑えば切れ長の目も和むが、怜悧と言っていい美貌だ。対して、ソフィアも怜悧だが、幾分柔らかな顔立ちで、同じ切れ長の目でもこんなに違うのか、と思う。他人が見れば見分けがつかないかもしれないが、身内ならばせいぜい一瞬見間違う程度だ。
「……まあいいわ。ユフィを呼び出したってことは、また影武者?」
ユーフェミアはソフィアの影武者だ。その似た容姿から抜擢された。それ以外にも譲れない理由があるのだが、それは今はおいておく。
「っていうか、ユフィ、体調不良じゃなかったの?」
学校でそういう報告を受けた気がするのは気のせいだったのだろうか。
「一度屋敷に帰ったけど、呼び出された」
「あ、そ」
平然としているユーフェミアに、リアノーラもそっけなく返した。まあいいか。元気なら。
「リアの言うとおり、影武者を頼みたいんだ。明後日、ローデオルから来賓が見えるそうだ。その時の夜会に」
「あら。また急ね」
リアノーラがのんきに言った。ローデオルはアルビオンから一番近い大陸の国だ。魔術大国で、この科学が進歩し、魔術がすたれた時代にも、まだ色濃く魔術の面影が残っているらしい。魔術師の端くれとして、リアノーラはいつかローデオルに行ってみたいと思っていた。
「さらに2日後、ファルシエやエンブレフ、セレンディなどその他もろもろの国から来賓がある」
続いたソフィアの言葉に、リアノーラは戸惑う。
「どうしてそんなに……ああ、即位5周年」
「その通り」
今年、わが国の王チャールズ4世の即位5周年だ。通りで来賓が来るはずだ。チャールズ4世即位の折は、リアノーラはまだ11歳だった。しかし、魔術師であるという物珍しさとその身分の高さから、戴冠式に出席していた。ちなみに、ユーフェミアはその頃すでに影武者の任についていた。ユーフェミアよりソフィアの方が年上なのだが、割と大丈夫だったらしい。どう考えても、当時ソフィアの方が背が高かったが、歩きにくいのを承知でハイヒールを履いてみたりして背格好を似せていたのだそうだ。
チャールズ4世即位の戴冠式で、彼の隣にいたのはソフィアではなくユーフェミアであった。ソフィアはリアノーラの隣にいた。ユーフェミアの存在は、ソフィアの安全を護るためであり、同時にチャールズ4世の護衛のためであった。
「エンブレフからも来るの? 遠いのに」
リアノーラが素直な感想を言うと、ソフィアがそうだね、とうなずいた。
「何か思うところがあるんだろう。リアも忙しくなるな」
「……そうね」
考えないようにしてたのに。各国から、国王レベルの来客があるのなら、警備システムが強化され、魔術師万能型であるリアノーラが動員されることは目に見えていた。
「ローデオルからは早いのね。確か、昨年国王が変わったはずね」
「マクシミリアン2世だね。去年の戴冠式には、僕が父上について行ったけど……」
「どんな人?」
おそらく、そばによる機会があるであろうリアノーラたちはジェームズの言葉に耳を傾ける。去年のマクシミリアン二世の戴冠式は、ソフィアは体調を崩していけなかった。ユーフェミアではなくソフィアが、である。いくらなんでも他国の王の戴冠式で、王女を偽るようなまねはしない。それでもまあ、ソフィアが行くのならユーフェミアもついて行っただろうが。
「話したわけじゃないからよくわからない。見た目は普通の人だったと思うけど……ああ、美形だったね」
よくわからないが、王族は美形が多いのである。やはり初代が美形で、その遺伝子が受け継がれているから、ということだろうか。実際に、ソフィアもジェームズもマリアンヌも美人だ。
全然役に立たない情報をもらい、リアノーラは少し戸惑った。しかし、すぐに気を取り直して腕を組む。
「じゃあ、明日も来ればいいのね。ユフィ、体調崩さないでね」
「……リア、お前、私のことをなんだと思ってるんだ」
姉の扱いがひどいリアノーラに、ユーフェミアが突っ込む。ユーフェミアの『大丈夫』『平気』は知り合いの中では信用されていない。そういいながら、体調を崩すのがユーフェミアという女だった。現在妹のリアノーラたちに健康管理されている状態である。
「さして用がないなら私は行くわよ」
リアノーラはみんなで楽しく雑談するために登城したわけではない。2日後にローデオル王が来るのなら、それなりの準備をしなければ。っていうか、2日後って……。
「にしても、急に決まったな」
リアノーラが思ったことを、ユーフェミアが代弁してくれた。普通、もっと早くに情報が来るはずなのだが。少なくとも、当初の予定では、即位5周年の式典には各国の代表者が参加の予定で、その情報は今からひと月前にはすでに届いていた。ローデオルも例外ではないのだが、どうしていきなり変わったんだ。準備する側にもなってみろ。
「よくわからないけど、ひと悶着あったみたいだよ?」
何があったのかはわからないが、ジェームズはそういった。本当に何があったのだろうか。ちょっと気になる。
「もちろん、あちらからも護衛が来るが……リア、すまん」
両手の平を合わせて謝ってくるソフィアに、リアノーラは笑いかける。
「いいわよ、別に。実務レベルで動くのは私じゃないし。謝るならナイツ・オブ・ラウンドに謝ってあげて」
「……そうする」
ソフィアはうなずいた。かわいそうなナイツ・オブ・ラウンド。国王の警護もあるのに、さらに他国の国家元首の護衛もしなければならない。それはいいのだが、心の準備ができているかではだいぶ違うだろう。
そこに、ノックがあった。やってきたのは、リアノーラとはエントランスで別れた第2王女のマリアンヌだ。豪華な桃色のドレスに身を包んだ彼女は、ふわふわした印象と相まって幻想的に見えた。
「まあユフィ。最近調子はどう?」
「……なんでみんなそういうかな」
みんなに体の具合を尋ねられ続けるユーフェミアは若干うんざりしてきていた。ここにいるということは、そこそこ元気だということだ。無理をしなければ、大きく体調を崩すことはない。
「……元気だよ」
「よかったわ」
ふわふわと邪気のないマリアンヌ相手では、さしものユーフェミアも強く出られないようだ。そのマリアンヌは、続いてリアノーラに目を向けた。
「リア。さっき、ナイツ・オブ・ラウンドのエドワード=リプセット卿が探してたわよ?」
エドワードはナイツ・オブ・ラウンドの1人だ。年が近いので、よく組まされる。確かに、登城してから結構時間がたっているし、他国の王が来日することに関しての話だろう。登城したという報告があったので、呼び出されたようだ。
「じゃあ行くわ。ユフィのことよろしくね」
「ちょっと」
「ああ。任せて行って来い」
何か言いたそうなユーフェミアを遮り、ソフィアがにっこりして言った。
再び、無性にキレたくなったがぐっとこらえる。キレてもリアノーラが疲れるだけだ。ソフィアもユーフェミアもけろりと気にも留めないに違いない。だから、リアノーラはすべてを日記に書きとめる。すべてを日記にぶつける。未来に残るかもしれないが、彼女たちに無意味と知りながらぶつけるよりはいい。後はどこか草原で思いっきり叫べれば完璧だ。
だからリアノーラはにっこり微笑んで部屋を出た。そのまま宮殿内を闊歩する。学生服ではあるが、学生服も正装の一種だ。それに、リアノーラの顔は宮殿内では認知されている。希少な魔術師だからだ。むしろユーフェミアの方が認知度が低いかもしれない。主君であるチャールズ4世の姪であることも手伝って、宮殿内で邪険にされることはめったになかった。
「リアノーラ様、こんにちは」
「こんにちは」
メイドに声をかけられ、リアノーラはおしとやかに歩くふりをしながらあいさつした。メイドとすれ違うと、また大股で歩き出す。
「こんにちはー」
ナイツ・オブ・ラウンドの事務所にたどり着くと、リアノーラは扉をあけながらあいさつした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
次はナイツ・オブ・ラウンドの皆さんが出演する予定です。