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LOST SPELL  作者: 雲居瑞香
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ナイツ・オブ・ラウンド1

誰か、文才をください……っ!

 リアノーラ=フェアファンクスはフェアファンクス公爵家の次女である。同時に王女の娘であり、このアルビオン王国の王位継承権第6位であり、そして魔術師だ。科学の出現で魔法が希薄になった現在で、魔術が使える希少な人物である。

 少し銀色がかった亜麻色の髪に鮮やかなサファイアブルーの瞳。誰が見ても美少女だというであろうリアノーラだが、彼女に向けられる視線が決して好意的なものだけではないことを、なにより彼女自身がよく知っていた。ただでさえ父と母が有名で注目を浴びるのに、リアノーラ自身が数少ない魔術師ときたものだ。魔術は科学で証明できないもののひとつであり、得体のしれないものという認識が広がりつつある。

 そんなありがたくない注目を浴びる彼女の職業は学生だった。アルビオン・フェナ・スクール高等部1年になる。少し変わったリアノーラだが、そんな彼女にも友人くらいはできるわけで、彼女は今日もいつものメンバーと昼食をとっていた。


「最近、物騒な事件多くない? 殺人犯の白骨死体、現る、だってさ。うえぇぇええ」


 新聞を読みながらアップルジュースを飲む彼女は、祥子・南条。大陸の東洋に浮かぶ島国・ヤマトの出身だ。いわく、彼女の両親は駆け落ちで、国元にいたらいつ親が押し掛けてくるかわからないから、という若干謎な理由でアルビオンに移住してきたらしい。

 祥子は小柄で緑がかったきれいな黒髪に深淵のような藍色の瞳が印象的な少女だ。アルビオン人とは違い目鼻立ちが薄く、肌の色も象牙なので偏見も多いが、彼女は器量よしなので今のところ問題はない。

「白骨死体ねぇ。そんなに簡単にできるもんなの?」

 祥子が意見を求めたのは、向かい側に座るやはり黒髪の少女だ。こちらは純粋な黒髪で、切りそろえた前髪の向こうから、大きめの琥珀色の瞳がのぞいている。

「……あたしでは無理。骨まで消し炭になっちゃうから」

「へ、へえ」

 意見を求めたはずの祥子が引いていた。

 この子はアレクシア=クレイン。体格は普通くらいで、やはりかわいらしい顔立ちをしているのだが、無口で誤解されやすい。しかも、彼女は魔女で、炎の扱いにたけている、という事実が拍車をかけている。

「アレク、君は相変わらず過激だね。で、リア的にはどう思うわけ?」

「ん?」

 リアノーラは話を振られて、話をふってきた少女を見た。

 座っていてもわかる長身。リアノーラも背が高い方だが、彼女はもっと高い。蜂蜜色の髪は肩に触れるか触れないか程で切られており、切れ長の瞳が強い意志を表している。目の色は菫色。

 騎士を目指す男装の麗人、ベアトリックス=ウェルティである。ちなみに、ウェルティ家は伯爵家で、ベアトリックスの母からくれぐれもよろしく、などという言葉をいただいている。

 リアノーラは首を傾けた。

「私は補助魔法の方が得意だし。一瞬で白骨に変える方法なんて、知るわけないでしょう」

「偉そうに言うなよ」

 ベアトリックスにつっこみを入れられたがスルーし、リアノーラはサンドイッチにかぶりついた。


「リアー」


 ちょうどかぶりついたところに名を呼ばれて、リアノーラはあわてて口の中のものを飲みこんだ。呼んだのは同学年のアリシアだ。

「何?」

「あんたのお姉さん、また倒れたって」

「……」

 リアノーラは沈黙した。アリシアにあんた、などと言われた公爵令嬢だが、リアノーラは気にしない。気になったのは。

「えっと。もう帰った?」

「え? うん。看護の先生からはそう聞いたよ」

「ああ、なら大丈夫ね」

 たぶん、誰かが迎えをよこしてくれたはずだ。なら問題ない。帰路の途中でぶっ倒れても、馬車に乗っていれば問題ない。迎えがない時は、辻馬車を見つけるまでに倒れたりするので、リアノーラが送っていく。

 アリシアに礼を言って別れると、リアノーラは食事を再開した。

「リアも大変だねー。お姉さんて、あの人でしょ。ちょっと変わった、3年生の」

「その人よ」

 祥子にうなずいて見せ、リアノーラは言った。

「別に大変って程じゃないけど。私は生まれた時からずっとこんな感じだもの」

 確かに姉は体が弱いが、強い、と言い切れないだけであって、実はみんなが思っているほどには弱くない。諸事情により、病弱設定を過剰にしているだけである。

 まあ、今はそれはどうでもいい。おなかがすいているリアノーラは、すべてを頭の隅に押しやって食べることに集中した。

 そこに、今度は中等部の女の子たちがやってきた。ちなみに、ここは高等部の食堂で、リアノーラたちは4人とも高等部1年の今年で16歳である。専攻は違うが、教養科目とかは同じだし、何しろ中等部どころか初等部のころからの付き合いである。

 高等部と中等部では制服が違う。ベースは同じだが、リボンの形や色などに差がある。そもそも、高等部はネクタイである。

 青色のワンピースの制服をまとった少女たちはベアトリックスに近づくと、一人の少女をつついてそそのかした。そそのかされた少女は、少しリアノーラたちを気にしながら何かを差し出した。


「あ、あの、ベアトリックス様。よか……よろしかったら、これ! 実家から送られてきたお菓子なんですけど……」


 王都に住まうリアノーラたちは自宅通いだが、遠くの地方から来ている人もいる。そういう人たちは寮に入るのだ。昔は全寮制だったらしいが、今はだいぶゆるくなっていて、半寮制といったところか。この子はその口なのだろう。

「……ああ、ありがとう。でも、いいの?」

「は、はい! うちのお菓子は美味しいです!」

 若干頓珍漢なことを言いながら、少女が激しくうなずくので、ベアトリックスはさわやかな笑みを浮かべた。

「ありがとう」

「い、いえ! そ、それでは、失礼しました!」

 キャーキャー言いながら少女たちは去っていく。何やらよくわからない間に焼き菓子をもらってしまったベアトリックスは苦笑した。

「ベリティってさ、つくづく生まれる性別が間違ってるわよね」

 祥子のしみじみとした言葉に、リアノーラとアレクシアは激しく同意した。

「確かに。全部受け取ることないのよ」

「……っていうか、いうことなすことが貴公子っぽい」

「だって、もらってあげないと、なんかかわいそうじゃないか」

 そういう発想が男っぽいのである。外見もあって、彼女は女性との皆様に人気である。かっこいいし、優しいし。男性だったら、プロポーズしますのに! という女生徒が後を絶たない。フェナ・スクールは別に女学校ではないのに、何がどうしてこうなったのだろうか。女学校だったら、かっこいい女性をお姉様とかと呼んで、恋愛対象になっちゃったりするらしいが。

「ま、かっこよくて男っぽい分には構わないと思うけどね」

 リアノーラはさらりと言った。某令嬢のように、やたらと口が悪いとか、そんなんではないから。

「そういえば、マリアもベアトリックスさん、かっこいいって言ってたわね」

 リアノーラは同じスクールに通う従姉妹のほわほわした顔を思い出して言った。

「……マリアって、この学校の中等部に通ってる、マリアンヌ王女のこと?」

「ええ。私の知り合いにマリアは彼女だけよ」

 顔を引きつらせるベアトリックスにとどめを刺し、リアノーラは彼女の肩をポンポンと叩いた。

「ま、騎士を目指すんならそのうち縁があるでしょ。頑張ってね」

 女性の騎士はいないわけではないが、やはり数は少ないので重宝がられる。ベアトリックスが本気で騎士を目指すなら、王女の護衛などにつく可能性は高かった。しかも、次期国王は女王である。マリアンヌの姉が、次の王だ。

「時々忘れちゃうけど、やっぱりリアは公爵家の令嬢なのよねー」

 間延びした声で祥子が言った。そんな今更なことを言われても。というか、忘れてたのか。いや、いいけど。そのほうが気楽だし。

「……リア。弟さんが来るよ」

 アレクシアに袖を引かれ、彼女が示す方を見ると、本当だ。リアノーラよりも茶色がかった亜麻色の髪の少年がこっちにやってくる。年は今年度で13。中等部2年生の弟、クリストファーだ。どこか少女めいた顔立ちの彼は、アクアマリンの瞳をひたとリアノーラの方に向けた。


「リアッ! ユフィが!」


「もう聞いたわよ。なに? 知らせてくれようと思って中等部から来たの? 馬鹿ねー。同じ高等部にいるんだから私の方が情報が速いのは当たり前でしょう」

 口をはさむ間もなく、リアノーラは言い切った。すると、クリストファーはしょんぼりした。ちょっと言い過ぎたかな。

「まあ、迎えが来てたらしいから、大丈夫でしょう」

 リアノーラはクリストファーを落ち着かせるように言った。ついでに頭をなで、デザートのリンゴなんかを差し出してみる。クリストファーはそれをほおばった。

「子ども扱いしないでよ!」

「どの口がそれを言ってるの?」

 もちろん、リンゴを食べている口である。

「クリス君はお姉様思いだよねー。いい弟じゃん。うちの弟妹は生意気なんだよねー」

 にこにことクリストファーを眺めながら、祥子が言った。東洋人は童顔なので、クリストファーと並ぶと、二人は同じくらいの年ごろに見えた。

 赤くなったクリストファーは口の中のものを飲みこむといった。

「リア、今日は早い?」

「いいや? 宮殿に上がるわよ。もしかしたら帰らないかも」

「……そっかぁ」

 どことなくしょんぼりして、クリストファーは中等部に戻っていく。かわいそうだなぁ、とは思う。魔女という特殊な性質のせいで、リアノーラは宮殿の仕事に駆り出されることが多かった。姉のユーフェミアは体が弱いし、さみしいのだろう。あまりかまってやれない……って、別にリアノーラもユーフェミアのクリストファーの親ではないのだが。

「……またなんかあったの? もしかして、白骨死体騒ぎ?」

 魔女仲間のアレクシアは鋭かった。リアノーラはうなる。

「……いやあ、別件なんだけどね。ちょっと面倒くさいことに」

 先日のリアノーラの16歳の誕生日。サプライズで登場した国王陛下(リアノーラには伯父にあたる)はサプライズな置き土産をしていった。その件で、城にいるはずの父と作戦会議なのだ。ちなみに、リアノーラの誕生日は10月のはじめ。新学年の始まりが9月であることを考えると、リアノーラの誕生日は相当早い。

 ため息をついたリアノーラを心配し、アレクシアが言った。

「何かあったら手伝うから、遠慮なく言ってね。友達なんだから」

「ありがと、アレク」

 アレクシアも、リアノーラのように宮殿に呼び出されて用事を申し付けられたことがある。魔術師はそれほどに貴重なのだ。ちょっと魔力があって、明かりくらいは作れるかな、という人間は何人か知っているが、本格的に魔術がつかえる知り合いはほとんどいない。

 魔法が衰退した、この世界。100年ほど前まで魔術を使えるのが普通だったのに、気が付いたらリアノーラたちの方が希少人物になっている。アルビオンのすぐ東にある大陸の隣国、半島に位置するローデオルではまだ魔術は盛んらしいが、ほかのセレンディやファルシエなどの国は、やはりアルビオンのように魔術は衰退しているらしい。それでも、島国で特に特産物のないアルビオンは、頭を使え! ということで、科学の発達が速かった節があった。

「ところでみんな、次の授業何?」

 話を変えて、リアノーラは聞いた。この学校は、授業は選択制だ。朝のホームルームなどを行うクラスはあるが、とっている授業はバラバラだったりする。鞄は持ち歩くか、自分の指定ロッカーに入れる。ホームルームのクラスは変わることはめったになく、4人は初等部からずっと同じクラスだ。

「私、基礎数学よ。うえええっ。数学はきらいよ」

 祥子が色気のない声を出す。かわいい顔してこんな声を出すのは反則である。やめればいいのに、と思うが、リアノーラの比べる対象は極端なので、まあいいか、とも思ってしまうのは事実だ。

「あたしも基礎数学だよ。あたしも、数学は苦手だなぁ」


「あなたたち、それを理数学を専攻している人間の前で言わないでくれる?」


 アレクシアも祥子に同意したので、数学専攻のリアノーラはちょっとぐったりしていった。祥子は語学、アレクシアは歴史と、二人はまるっきり文系である。まあ、専攻しているといっても本格的な専門授業が始まるのは2年になってからだ。

 リアノーラのひそかな野望は、魔法を科学で証明することである。そのために、まず学ぶのは数学だ。幸い、リアノーラは理系の脳をしていた。

「そういうリアの授業は?」

 アレクシアに尋ねられて、リアノーラは「法学よ」と答える。すると、ベアトリックスが首を傾けた。

「前々から思っていたんだが、どうして理系のお前が法学を取るんだ? もっと簡単な文系授業はあるだろう」

「あるわね」

 と、思いっきり体育会系なベアトリックスにリアノーラはうなずいて見せた。

「身分上、必要なのよね。騎士団の仕事手伝ってると、必要になることもあるし。独学でやるよりは単位になった方がいいなーって」

 魔術師は減少中だ。リアノーラのように魔術を自在に操れる魔術師はほとんど存在しなくなっている。希少価値の高いリアノーラは、騎士団の作戦に参加させられることがあった。まあ、この国の成人は16歳からなので、未成年を変なところに連れて行くわけにはいかず、城で捜査協力、というレベルのお手伝いをしていた。


「何!? 騎士団で必要なのか!? どうしてそれを先に言わないんだ!」


 ベアトリックスが叫ぶ。いきなり荒れたベアトリックスに、ほかの3人は若干引いた。

「……ごめん。そんなに本気で騎士になりたいと思ってるとは思わなくて」

「騎士は実力さえあればなれるじゃないか!」

「馬鹿ね。最近は頭もよくないとは入れないわよ。ってか、ナイツ・オブ・ラウンドとかになる人は、官吏に負けないくらい頭がいいんだからね。ほら、エリザベス女王の夫のエリアル殿下は知ってるでしょ?」

 ちなみに、300年前のアルビオン女王エリザベスの夫であるエリアルを輩出したのは、リアノーラのフェアファンクス家である。いろいろあって、フェアファンクス家は一回血が途切れ、エリザベス女王とエリアルの息子がフェアファンクス家を再興したという話がある。だから、リアノーラは、たとえ母が王女でなくとも、正しく王家の血を引いていた。

「元ナイツ・オブ・ラウンドで、確か、女王に脳筋だって言われ続けた人よね」

 と、歴史を専攻しているアレクシアが言った。その話を聞いた時、脳筋って言葉がその時代からあったのか、と、リアノーラはひそかに感心していた。

「その人よ。エリザベス女王が聡明だったからそういわれてるけど、本当は学者並みに頭が良かったそうよ。専門は天文学」

「めちゃくちゃ頭いいじゃないか!」

 ベアトリックスがショックを受けたように言った。まあ、彼女はしばらく放っておこう。

「でも、どうしてそんなこと知ってるのよ。別に歴史専攻じゃないのに」

 祥子につっこまれ、リアノーラは自分の名前を持ち出した。


「一般教養のアルビオン史で習ったでしょ。私のうちは、古くから続く名家なのよ。しかも、エリアル殿下はフェアファンクス家出身だしね!」


 資料が残っているのは当たり前である。その後の、アルビオン内乱とか、科学戦争で焼けなかったのはある意味奇跡だが。まあ、アルビオンは戦争に参加した、というのもおこがましいくらいにしか参加していないが。

 ベアトリックスが騎士になれない、と騒いでいるが、別に彼女も馬鹿ではない。かといって頭がいいわけでもないが。まあ、騎士の記述試験に受かるくらいに持ち上げることはできる。

 にしても、どうしてそんなに騎士になりたいんだ。今度訊いてみようと思って、いつも忘れる。

「っていうか、あんたのお兄さん、ナイツ・オブ・ラウンドでしょう。どうして知らないのよ」

 リアノーラが痛烈なつっこみを入れると、ベアトリックスはがっくりした。

「……兄が特殊だと思っていたんだ……」

 なんかちょっとかわいそうになってきた。まあ、確かに彼女の兄は特殊ではあるのだが。

「……で、結局ベリティの次の授業は?」

 仕方がないので、話を逸らすと、ベアトリックスは小さく言った。

「ああ……私は次はない。行ってらっしゃい」

「……そんなに落ち込まなくても、数学くらいは見たげるわよ」

 リアノーラはベアトリックスの肩をたたく。時計をちらりと見て、立ち上がる。

「じゃあ私、教室遠いから先に行くわね」

「うん。じゃあ、ホームルームにね」

 祥子が手を振る。アレクシアはまつ毛をぱちぱちさせたが、何も言わなかった。ベアトリックスは難しい表情でまだ悩んでいる。

 リアノーラは苦笑し、次の法学の授業に向かった。


 * + 〇 + *


すべての授業を終えたリアノーラは、校門のところで空を見上げていた。

「これは……一雨来るかしら」

 アルビオンの王都ロザリカは晴れていることの方が珍しいが、雨が降るというのも実は珍しい。曇っていることの方が多い。

 まあ、雨が降っても、どうせすぐにやむだろうけど……。

 ロザリカは、通り雨が多かった。

 リアノーラが校門で立っているのは、迎えを待っているからである。今日はこのまま宮殿に上がるのだ。そういう時は、宮殿側が迎えをよこしてくれる。というか、このフェナ・スクールに通っている第2王女の帰宅の馬車に便乗するだけだが。

 馬車の音が近づいてきた。王家の紋章、薔薇と獅子が描かれている。豪華な馬車は、リアノーラの前に止まった。


「リアノーラ様、お待たせいたしました」


「ええ、ありがとう」

 馬車の戸をあけてくれた御者に、リアノーラはにっこりほほ笑む。リアノーラはおおよそ、公爵家の令嬢とは思えないふるまいをするが、令嬢らしいしぐさを取ることはもちろんできる。

 中に入ると、灰色がかった金髪の少女が微笑んでいた。

「こんにちは、リア」

「こんにちは、マリア」

 リアノーラも挨拶を返す。

 ふわふわの長い髪に、大きな夢見る空色の瞳、ふっくらした頬に赤い唇。いかにもお姫様らしい彼女は、正真正銘のお姫様、第2王女のマリアンヌ・ヴィクトリアである。リアノーラとはいとこにあたる。

 青色の制服のドレスを上品に着こなしたマリアンヌは今年で14歳。中等部の3年生で、リアノーラの弟クリストファーの一つ上だ。ふわふわした容姿から、実年齢よりも幼くみられることが多い。


「今日も騎士団のお手伝いなの?」


 動き出した馬車の中で、マリアンヌが訪ねた。リアノーラは顔をひきつらせる。彼女は知らないのだ。リアノーラが彼女の父親から打診された話を!

「ちょっとお父様に用があるのよ」

 どうにか微笑んでごまかす。ここは笑ってごまかせ!

「まあ。アルヴィン様に?」

 マリアンヌがおっとりと首をかしげた。こういう時、彼女はのんびりした性格でよかったと思う。マリアンヌはさらに「どんな用? わたくしに話せないの?」と尋ねてきたが、リアノーラはとにかく笑ってごまかす!


「もうっ。リアのケチ!」


 思いっきりしかめっ面をされたが、リアノーラはマリアンヌの追及がなくなってほっとした。

 アルビオン王国のニクス宮殿には割とすぐ到着した。スクールから宮殿までは大通りをまっすぐ上ってくるだけでいいからだ。

「では、リア! また明日!」

「ええ」

 リアノーラはマリアンヌに向かってうなずくと、「さて」と自分に気合を入れて宮殿を歩き出した。父は現在の宰相だ。3年前、厳正なる選挙で国民から選出された。

 母が言うところの「世界一いい男」であるところのアルヴィンは先代の王のころにナイツ・オブ・ラウンドとして名をはせていた。それが今では文官の長である。人生、何が起こるかわからない。

 リアノーラはまっすぐ父の執務室に向かう。リアノーラはよく宮殿に出入りするので、すでに警備担当の騎士とは顔なじみだ。顔を見ると通してくれるので楽。

 多くの文官が行き来する廊下を歩き、宰相の執務室の扉をノックした。


「空いてるぞー」

「!?」

 なんだか今、聞こえてはいけない声がした気がした。リアノーラは勢いよく扉を開けた。


「よう、リア。お父様との再会は少し待ちなさい」

「何してるんですか、チャールズ陛下……」


 リアノーラは思わず眉間を抑えた。アルビオン王国国王チャールズ陛下が、宰相の執務室に我が物顔で居ついていた。ちなみに、本物の宰相はいなかった。どこに行ったのだろうか……。



ここまで読んでいたたいて、ありがとうございます。

まさかの本題までたどり着かないという……まあ、次回には騎士云々の話になる予定です。

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