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LOST SPELL  作者: 雲居瑞香
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解明しなかった事実

一応、これでひと段落となります。いまいち、まとまっていないですが……。

次からは、新章になるかなぁと思います。

 アルビオン国王チャールズ4世の即位5周年式典が終わり、各国の代表や国王は次々と帰っていった。エドワードはため息をついた。倒れたフェアファンクス姉妹は、姉ユーフェミアは過呼吸による過換気症候群、妹リアノーラは魔力の使い過ぎによる全身疲労だった。リアノーラは半日で目を覚ましたが、まだ青い顔をしており、ユーフェミアは絶対安静である。ついでに、宮殿で精密検査を受けるらしい。

いろいろ入り組んで起きた事件は、ひとまず終着を見せた。


 まず、ブライアンらによる行動は、アルビオン最強と言われた騎士アルヴィンを崇拝し過ぎた結果の行動らしいと結論付けられた。リディアとクェンティンを襲ったのは、自分の脅威になりうるクェンティンと、リディアの狙撃手の位置を奪うためだったようだ。

 彼の誤算は、後進の成長を正確に把握できていなかったことだろう。後進というか、フェアファンクス公爵家の姉妹の実力を把握していないこと、か。

 リアノーラによると、ユーフェミアの剣の腕はアルビオン屈指。単純な技術だけならば、おそらくアルビオン一だという話だ。特に初撃のスピードが半端ではない。問題は、彼女の体力と膂力がないことで、それさえクリアすればアルヴィンとすら張り合えるだろうという話だった。

 さらに、リアノーラの決断力。なまじ見た目は人畜無害なため、とっさの判断で『仲間』を殺せるとは思わなかったのだろう。しかし、彼女は腐っても武門フェアファンクス家の人間だった。ためらいなく、斬って見せた。殺しはしなかったが、正確に動きを奪って見せた。

 ただ、ブライアンたちの行いについては、わからないことのほうが多い。本当にアルヴィンを慕っての行動だったのか、もはや知るすべはない。かかわった者たちはすべて死んでいるからだ。もう一つ、第12席を賜っていたハロルドが、宮殿の広間出口付近で死んでいるのが発見された。死因は刺し傷による出血死。


 そして、アルビオンを巻き込んだセレンディのお家騒動。パトリスとレオンティーヌの言葉を信じるのならば、セレンディ王を幽閉したのはセレンディの奸臣たちらしい。それを、パトリスのせいにしたというのだが、そのあたりは定かセはない。しかし、セレンディ王が幽閉されているのは事実のようだ。何か隠している気がするが、知るすべはない。

 奸臣に父王を幽閉されたレオンティーヌは、すぐにセレンディを出たらしい。叔母であるファルシエ女王コーデリアに助けを求めるためだ。その際、パトリスに伝言を残していったそうだが、その伝言がうまく彼に伝わらなかったことがこの一連の騒動に発展したらしい。

 エドワードは知らなかったのだが、コーデリアはレオンティーヌとパトリスの叔母に当たるらしい。なんでも、2人の母親はコーデリアの姉なのだそうだ。ただし、異母姉だ。ファルシエの先の王は子だくさんで有名だった。レオンティーヌにとってコーデリアの持ちうる能力は魅力的だったのだろう。世界最強という物騒な二つ名に反し、コーデリア女王は慈悲深かったようだ。異母姉のことを聞いたコーデリアは、レオンティーヌを連れてアルビオンを訪れた。

 しかし、レオンティーヌが不在になったセレンディでは問題が起きていた。奸臣たちが父王の殺害を試みたのだ。数少ない信頼できるものを集め、パトリスは何とか国王暗殺を止めたそうだ。そして、彼らを残し、チャールズ4世の即位記念式典に参列することにした。国に残ったほうが賢明だと思うのだが、パトリスは姉を探すという目的をもってアルビオンを訪れたらしい。

 ここで、レオンティーヌの伝言がうまくパトリスに伝わらなかったことが問題を起こす。つまり、パトリスには姉の所在地がわからなかったのだ。姉の所在地をつかむには、大きなイベントで騒動を起こすのが一番いいと思ったらしい。そこで、手を出したのはリアノーラだった。

 アルビオンの王族でもあるリアノーラにちょっかいをかけていると知れたら、アルビオンからセレンディに苦情が行く。そうすれば、レオンティーヌの耳にも入り、しっかり者の姉は戻ってくると思ったそうだ。大胆だがかなり抜けた、ずさんな作戦である。せめて他国を巻き込まずに自国でやればよかったのに。

 マーガレット教会に移動させられたコーデリアとレオンティーヌは、パトリスの魔力を追ってあの場所にたどり着いたという。一緒にいたエリスは案内役だったそうだ。まあ、国賓を勝手に行かせるわけにはいかない。


 いくらこちらに害意はなかったとはいえ、利用しようとしたのは確かで、彼の周囲に怪しいうわさが漂っているのも確かだ。性格に難ありである。手段を選ばないのはリアノーラも一緒だが、たちが悪い。そのあたりは、何気に強いレオンティーヌがセーブをかけてくれるのを祈る。

 本人たちを信じるなら、そういうことになるらしい。ついでに、国をとられても奪い返す自信があったとレオンティーヌは豪語していた。ちょっとリアノーラと通じるところを感じた。そして、パトリスも姉ならそれが可能だと思い、父を残すは危険と知りつつ、単身アルビオンまで出向いてきたらしい。


 という話が、ローデオルにかなり曲がりくねって伝わったらしい。大まかなところはあっていたが、細部は違う。まあよくあることだ。ローデオル王も他意があったわけではあるまい。親切心で教えてくれたのだろう。おかげで対策も立てられたわけだし。ちなみに、彼らはばっちり無事だった。騎士や軍が守っていたし、イルゼという魔術師殺しがいたから、物理的攻撃も魔術的攻撃も聞かなかったと思われる。


 またいつこんなことがあるかわからないということで、宮殿は今警備強化の最中だ。リアノーラの魔力が回復しないため、最低限のことしかできないが、しないよりはまし。

 エドワードは宮殿内の階段を上り、ナイツ・オブ・ラウンドの執務室に入った。中には、現在行動可能なナイツ・オブ・ラウンドの全員がいた。


「ティニーさん、リディアさん、大丈夫なんですか?」


 まだ包帯のとれていないクェンティンとリディアは、入ってきたエドワードを見て微笑んだ。

「大丈夫。まだ動くなとは言われてるけどね」

「大変な時に動けなくてごめんね」

 エドワードは顔を左右に振った。この2人は人が良すぎた。自分たちのほうが大変なのに。

 第5席、11席、12席。3人がいない。式典の前に戻ったようだ。だが、あの時とは違い、ブライアンはいない。代わりに、最強と呼ばれた騎士の娘がいた。

「それで、どうしたんですか?」

 呼びつけられたエドワードは、当たり前のようにユリシーズを見た。彼は笑いたいのか悲しいのか、不思議な表情で言った。

「話があるのは、私ではない」

 ユリシーズがさしたのはクェンティンだった。彼がニコリとほほ笑む。そして、とんでもないことを言い出した。


「俺、ナイツ・オブ・ラウンドをやめることにしました」


 へえ、とうなずきそうになって、エドワードは声を上げた。

「ええっ!?」

 エドワード、ウェンディ、アンドリューの声がかぶった。そこに、リアノーラの泣きそうな声が加わる。

「私のせい? 怪我、治らなかったから?」

 治癒術は得意ではないといったリアノーラだが、その実、クェンティンとリディアの治療に全力を注いでいた。彼らを苛んでいた呪術は、ブライアンがどこかから入手した呪術だと思われるが、当人が亡くなってしまったため、事実は闇の中だ。ともあれ、リアノーラはしっかりとこの2人の呪術を解いて見せた。

 クェンティンはにっこり笑うと、リアノーラを手招いた。近づいてきた彼女の手を握る。

「違うよ。リアは頑張ってくれた。君が頑張ってくれなきゃ、俺は死んでただろうって言われたよ」

「……でも」

 父アルヴィンの怪我を治せなかったことを負い目に持っているリアノーラは、怪我のせいでナイツ・オブ・ラウンドをやめたアルヴィンとクェンティンを重ね合わせているのかもしれない。

「でもじゃないよ。俺がナイツ・オブ・ラウンドをやめるのは、俺の意志だ。リアは自意識過剰だよ」

 ニコッと微笑んで毒を吐くクェンティンに、リアノーラはびくりとした。……どうしてこのナイツ・オブ・ラウンドには腹黒いやつが多いのだろう。

「俺もそろそろ年だからねー。フランクリンさんみたいに統率力があるわけでもないし、力が衰えてきたことを自覚したよ」

「そんなことない」

 リアノーラが即答した。クェンティンは両手でリアノーラの白い手を握る。

「……君は優しいね。でもね、リア。騎士は最高の力を出せるときが、騎士として最高の瞬間なんだ。最高の力を出せなければ、それはもう騎士じゃない。主君に合わせる顔がないんだ」

 エドワードは目を見開いた。そういうことか、と思った。同時に、クェンティンを引き留めることも不可能であると感じ取る。

「今なら俺も、アルヴィンさんの気持ちがちょっとわかる。最高の力を出せなくなった瞬間、あの人は騎士ではなくなったんだ。俺もそう」

 クェンティンも、アルヴィンと同じ理由で辞める。最高の力が出せなくなった自分を、騎士として認めたくないから。だから、辞める。

「でも、俺はアルヴィンさんほど頭がよくないから、後進の指導に回ろうと思う。まったく会えなくなるわけじゃないよ」

「……うん」

 こくりとうなずいたリアノーラに、クェンティンは父親のような笑みをうかべた。実際に、先王からのナイツ・オブ・ラウンドだったクェンティンは、リアノーラが生まれたころから彼女を見ているらしい。


「だから、リア。陛下の正式な騎士になってほしいんだ」

「……え?」


 リアノーラのうるんだサファイアブルーの瞳が見開かれる。クェンティンが辞めれば、ナイツ・オブ・ラウンドは八人になる。さらに臨時騎士であるリアノーラが辞めてしまうと、7人、上限の約半分になってしまう。フランクリンがもう前線に立たないことと、ユリシーズが後方支援に徹することも考えると、実質的な戦力は半分以下となる。ここでリアノーラが正式にナイツ・オブ・ラウンドになってくれれば確かに心強かった。

「リア。俺は君のことを生まれたころから知ってる。娘みたいに思ってた。平民の俺がおこがましいかもしれないけど、だんだん大きく、強くなっていく君が誇らしかった」

「……うん。でも、私はティニーさんのことお兄さんみたいに思ってた」

「お、うれしいね。お兄さんか。……リア、人の一生は短いんだよ」

 エドワードの脳裏に、自ら命を絶ったブライアンが思い浮かんだ。ただでさえ短い一生を、自ら終えてしまった……。

「その中でも、最高の力を出せる期間はさらに短い。俺は、君には世間に埋もれていてほしくない。その才能を、みんなに見せつけてほしい。強要はしないけど、俺のお願い。一応考えといて」

「……うん」

 リアノーラが目を閉じると、たまっていた涙が頬に滑り落ちた。

 おそらく、リアノーラはナイツ・オブ・ラウンドに正式に叙任されるだろう。エドワードは何となくそう思った。

 アルヴィンの代わりでも、ユーフェミアのためでも、もちろんクェンティンのお願いを聞いたからでもなく、自らの意志で、騎士になることを望むだろう。

 彼女は最初から騎士だったから。


ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

本当につたない文章で、読みにくいものを読んでくださった方々に心から感謝を申し上げます。

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