なんか巻き込まれた
今回は閑話のようなものなので、読まなくても大丈夫です。
宮殿に入って連れてこられたのは、ナイツ・オブ・ラウンドのミーティングルームだった。待合室ともいう。兄がナイツ・オブ・ラウンドのベアトリックスだが、ちゃんと入るのは初めてだ。
「お、アレクちゃん! 久しぶり、今日もかわいいねぇ」
たしか、第8席のアンドリューだったか。アレクシアはリアノーラに付き合って、何度かこの場所に足を踏み入れているはずだ。アレクシアは魔女で、リアノーラとともに現在では珍しい存在だからだ。そして、確かにアレクシアはかわいいよ。しかし、その瞬間、アンドリューの右のこめかみを何かが打撃した。
「ってぇっ! リア、お前だな!」
「私の友達を冷やかすな」
「なんだよ。ほんとのことだろ。つーかお前、性格変わってね?」
「アンディの被害妄想だよ。私は容赦がないからね」
確かに、リアノーラには容赦というものが存在しなかった。ベアトリックスは、彼女の付き合いはかなり長いが、いまだにリアノーラの底が見えない。冷静で容赦なく、意外と短気。それが、ベアトリックスがリアノーラに抱く印象である。
一通りナイツ・オブ・ラウンドを紹介され、ベアトリックスは首をかしげた。
「人数足りなくないか?」
「足りないわよ。それもあって、あなたたちを呼んだんだもの」
リアノーラはさらりと言った。何となく嫌な予感がするのはベアトリックスだけだろうか。何となく、祥子とアレクシアと身を寄せ合う。
「アレクシアと、祥子といったか。2人とも、今日はうちの屋敷に泊まってくれ」
「へ? ベリティのうちにですか?」
ユリシーズのうちはすなわちベアトリックスの家だ。寡黙なアレクシアの代わりに尋ねた祥子の言葉は間違ってはいない。彼女はさらに尋ねる。
「何でですか?」
「不測の事態が発生したんでな」
ユリシーズは淡々と答えた。不測の事態ってなんだ。ベアトリックスは剣呑に兄をにらみつけた。
「巻き込んでおいて、事情は話さないつもりか」
兄は妹を睨み返した。
「話せば本当に巻き込むことになる。お前はともかく、よその御嬢さんはまきこめん」
まあ、道理である。ベアトリックスはユリシーズの妹だから、彼の裁量で巻き込むも巻き込まないも自由だが、アレクシアと祥子はそういうわけにはいかない。
「とにかく、お前たちを保護しなければならない事態に発展した。宮殿やフェアファンクス公爵家にかくまってもいいが、宮殿は逆に危険だし、公爵家は人がいないらしいからな」
「悪かったわね」
フェアファンクス公爵令嬢リアノーラが言った。たぶん、屋敷に人がいないのだと思う。いつ行っても、フェアファンクス公爵家は公爵家とは思えないほど閑散としていた。
「ちなみに、君たちが巻き込まれたのはリアのせいだからな。恨むなら彼女を恨め」
ユリシーズはあっさりと責任転嫁する。いや、実際にリアノーラのせいでも驚かないが、その言い方はないだろうと思う。ベアトリックスたちの目がリアノーラのほうを向いた。
「……いや、ごめん。事情を話したくても、話せないのが実際のところなのよね。目下のところ捜査中というか……」
視線をそらしてリアノーラはそう言う。なにしたのだろうか、この女は。まあ、リアノーラだから多方向に狙われていても不思議はない。好かれているのと同じくらい、恨まれているような娘だ。そして、リアノーラを従わせるために、友人であるベアトリックスたちが利用される可能性があるのは否定できない。
「……えっと。リアに対しての人質にならないように、私たちは保護されればいいんですか?」
呑み込みの早い祥子に、ユリシーズはうなずいて見せた。
「そうしてもらえると助かる」
「いや、ベリティのうちならそんなに忌避感はないですけど。ね?」
祥子がアレクシアに同意を求めた。アレクシアはこくりとうなずく。アレクシアはリアノーラを見上げていった。
「手伝おっか?」
「アレクには見てもらいたいものはあるわね」
そう答えるリアノーラに、アレクシアは首をかしげた。その後、リアノーラがアレクシアを連れて行ったので、ベアトリックスたちは彼女らが戻ってくるまでこの場所で待つことになった。
正直言って、かなり居心地悪かった。
* + 〇 + *
医務室に入ってナイツ・オブ・ラウンドの第3席リディア=スペンサーと第5席クェンティン=ケインを診察して、アレクシアは少し目を細めた。
「……呪術ね。強いわ」
「そうなのよ」
リアノーラが解呪したのか、女性のリディアの方はだいぶ呪力が弱まっていた。おそらく、クェンティンを解呪するよりもリディアを解呪する方が簡単だと判断したのだろう。クェンティンには封印魔法のみがかかっている。アレクシアもそう判断する。しかし……。
「……怪我も、呪術も、ティニーさんの方が重いでしょ。どうしてリディアさんを先に回復させるの」
「私の力では、完全に怪我は治せないし、解呪も1人が限界。すでに見つかってから半日近くたっているわ。……確実に助けようと思うなら、リディアさんの方が可能性が高いわ……」
リアノーラの言葉に、アレクシアはばれないように息を呑んだ。
怖い、と思った。10年近い付き合いだ。リアノーラが時に冷酷かつ冷静な判断を下すことは知っていた。それでも、人の生死までをこうして冷静に判断してしまうなんて。
呪術がかけられた。魔女であるアレクシアの見解がほしい。そういわれて、アレクシアはリアノーラについてきた。アレクシアが彼女を手伝うことは、今までも何度かあったから不自然ではない。医務室にも普通に入れた。
リアノーラは2人とも助けたいのだろう。しかし、現実は厳しく、夢を見るにはリアノーラは現実的過ぎた。
「それに、体力的にも、女より男の方があるもの。呪術に侵されているとはいえ、ティニーさんの方が死ななそうだったし。まあ、封印魔法が体に影響を与えることは少ないしね」
確かに、呪術を封印できているのなら、封印魔法自体は体にそんなに影響を出さない。目を覚ますのが遅れる可能性はあるが、そうすることで呪術の発動を抑えるのである。封印魔法というより睡眠導入魔法に近いのかもしれない。強制的に脳と体を休めることで、呪術の発動を防ぐのである。怖いと思ったのが一転。ちょっとこけかけたアレクシアである。
「そ、そんな理由?」
「理由の一つではある。もっと冷酷なところを言うと、リディアさんの能力の方が貴重だってことかな。ティニーさん並みの剣士なら、探せばいるけど、リディアさん並みの狙撃手はね」
「………なかなかいないってことね……」
実際に見たことはないが、リディアは超凄腕のスナイパーだという話だ。スナイパーと言えば、リアノーラの母であるディアナもスナイパーだ。
アレクシアはもう一度クェンティンのほうを見た。
「……うん。完全には解けないかもしれないけど、リア1人でも解けると思う。手を貸してあげてもいいけど、どうする……?」
アレクシアがおっとりと首をかしげていった。リアノーラは微笑む。
「そこまで迷惑かけられないわよ。診断してくれただけでもありがたいわ。そうね、頑張ってみるわ」
「……そうだね」
アレクシアは自分の魔術に自信があるわけではない。かかっている呪術を解け、と言われても、混乱する。火力には自信があるが、応用はリアノーラの方が効く。アレクシアの得意とする炎のほうが浄化能力にたけるのだが、アレクシアはリアノーラのように器用ではなかった。破壊力はあるが応用は効かない。アレクシアとリアノーラの魔術は真逆といってもよかった。
それを、リアノーラもわかっているはずだ。アレクシアが自分と同じ判断をすることを確認したかっただけなのだと思う。
あまり手伝うことはできないが、魔力を提供することはできる。リアノーラが封印魔法の上から解呪の魔法をかけるのを魔力を提供することで手伝う。リアノーラは火力バカのアレクシアとは違い、オールラウンドに対応する魔術師だ。その分、攻撃魔法は苦手らしいが、こんな時代にむしろ攻撃魔法はあまり必要ない。
とりあえずの処置を終え、アレクシアはリアノーラと病室を出た。行きがけに宮廷魔法医に遭遇して、軽く会釈する。
「……魔法医さんには、解呪能力ないの?」
「そこまでの魔力がないの」
「……そう」
よくある話だ。魔術がつかえるだけでも珍しいが、アレクシアやリアノーラのように大規模魔術を使える魔術師のほうが珍しい。
再びナイツ・オブ・ラウンドの事務室に戻るべく、階段を上がる。騎士服であるリアノーラは、アレクシアに手を差し出した。騎士であるなら自然なことだが、アレクシアは何となく慣れない。ベアトリックスにやられるのなら何となくしっくり来る気がするが。ただ、リアノーラのそのしぐさは結構様になっていた。
「……なんか慣れてない?」
不思議な気がして、アレクシアは尋ねた。
「エドたちに1日がかりで仕込まれたのよ。ずっとやってたら結構なれた」
さらりと言ったリアノーラは、素質があったのだろうか。血筋的に騎士の家系だし、素質があっても不思議ではない。
階段を上りきると、宮殿で見たことない人と遭遇した。中肉中背の、見目の整った青年だ。たぶん、リアノーラの姉のユーフェミアと同じくらいの年。リアノーラの表情がこわばる。いつもにこにこポーカーフェイスのリアノーラにしては珍しい。
「これはリアノーラさん。奇遇ですね」
「……パトリス殿下、ご機嫌麗しく」
リアノーラが騎士風の礼を取る。こわばっているリアノーラの顔を観察しながら、アレクシアは思った。……うん。これも様になっている。
パトリス殿下。どこの国の王子だろう。あんまりいい感じがしない。しかも魔術師。しかも、ちょっと厄介なタイプの魔術師だ。
「お会いできてうれしいですよ……。おや、そちらの少女は?」
「……友人のアレクシアです」
紹介するリアノーラに従って、制服のスカートをつまんで宮廷風のお辞儀をする。魔術師として宮殿に上がるときに、リアノーラに仕込まれた。アレクシアは有力財閥の娘だが、貴族ではないので、こういったしぐさには慣れない。
「これはまたかわいらしい方ですね。セレンディの第1王子パトリスと申します。お見知りおきを、アレクシアさん」
パトリスが芝居気たっぷりにアレクシアの手を取り、口づける。アレクシアは目をしばたたかせた。丸焦げにしなかったのをほめてほしい。
「これからどちらへ? よければ、僕とお茶でもいかがです?」
パトリスはリアノーラを見つめて言った。もしかしてリアノーラに気があるのだろうか。
実は、リアノーラはもてる。美人だし、頭もいいし、魔術師だし。しかし、彼女の身分が邪魔をする。公爵令嬢で、しかもうっかり王位継承権があるような少女だ。付き合いたくても言い出せない。この王子も彼女に惚れたくちか。そう思ってアレクシアはぶしつけにパトリス王子を観察した。
「申し訳ありませんが、わたくしもアレクシアもこれから予定がありますので」
リアノーラが丁重に断る。彼女の言葉は事実だが、思いっきりパトリスを避けているのがわかる。確かに、リアノーラが苦手そうな人だ。というか、押しが強そうなので同族嫌悪かもしれない。
「それは残念。そうですね、近衛は忙しいですよね」
「失礼いたします」
リアノーラはアレクシアの手を取ると、再び歩き出す。今度は少し速足だ。アレクシアはおいて行かれないようにちょこまかと足を動かす。アレクシアは小柄なので、リアノーラとは足の長さが違う。いつもはさりげなくリアノーラやベアトリックスが合わせてくれるのだが、どうやらリアノーラは一刻も早くその場を離れたいらしかった。
アレクシアはいまだにこの宮殿の内部をすべて覚えているわけではない。迷わないか心配になるほど広い宮殿だ。リアノーラとはぐれないようについていく。
「ただいま」
ナイツ・オブ・ラウンドの事務室の扉をあけながら、リアノーラは気軽に言った。部屋の中は、出た時よりも人数が増えていた。見回りに出ていたナイツ・オブ・ラウンドのすべてが集まっている。リアノーラを含めて全部で10人。現在2人脱落しているから。
さらに、国王のチャールズ4世。ナイツ・オブ・ラウンドが全員集まっているのはこの辺りにも理由があるだろう。ナイツ・オブ・ラウンドは王の近衛なので、王のいる場所に集まる傾向がある。さらに宰相のアルヴィン。どうやら、話を聞きつけて出てきたらしい。確かにこの方が話が早いけど。そして、ソフィア王女とユーフェミア。……なのだろうと思ったが、はっきり言う。見分けがつかない。たぶん、騎士服の方がユーフェミアだろう。見慣れない人にはそっくりに見えるくらいユーフェミアはいとこの第1王女と似ていた。
「リア、遅かったなぁ」
チャールズ4世が軽く言う。リアノーラは不機嫌そうに言う。
「パトリス殿下に捕まったんです」
「またか。大丈夫か?」
エドワードの気遣いに、リアノーラはすげない。
「平気。何かあったら外交問題だから」
確かに。でも、何となくエドワードがかわいそうな気がするアレクシアである。アレクシアは居心地悪そうにしている祥子とベアトリックスのもとに駆け寄る。
「ただいま」
「お帰り」
祥子が軽く手を上げる。彼女も巻き込まれたのだろうか。アレクシアとベアトリックスが巻き込まれることはもうほぼ確実だが。こればっかりは自分の生まれながらの問題なので仕方がない。少なくとも、アレクシアとベアトリックスは自力で対処できる。
「彼女たちの力を借りようとするなら、保護者の許可がいるだろう。みんな学生だ」
宰相であるアルヴィンが言う。保護の方針から、いつの間にか巻き込まれる方向に変わったらしい。確かに、多くの人と一緒にいたほうが安心感がある。ここでは相手も何もできないだろう、と思える。
「それに、議会が納得するか?」
「私のナイツ・オブ・ラウンド入りを強行したばっかりだしね」
リアノーラも冷静に言う。叙任(仮)当時、すでに16歳だったとはいえ、現在の認識ではまだまだ子供。反対する議会を、宰相と国王が無理やり抑え込んだのだろう。
「お前の場合は魔女であることと私の娘であるということで、割とすんなり通ったぞ。むしろ、王位継承権を持っていることが問題になったな。ユフィの場合と同じだ」
「王位継承権を返上した方がいい?」
「それはやめろ」
冗談めかして提案したリアノーラに、アルヴィンが即座にツッコミを入れた。何となく、アレクシアにはアルヴィンの考えがわかる気がした。リアノーラは、何があってもしぶとく生き残りそうだから、万が一王族に不幸があっても王家の血筋が途絶えないと思ったのだろう。わが子に厳しい父親だ。
「それでいくと、問題は祥子だな。ベアトリックスはユーリの妹だし、アレクシアは魔女だ。リアの前例で行くと、許可が下りる可能性が高い」
ユーフェミアがさらりと言う。たぶん、ユーフェミアの方だと思う。よく見たらプラチナブロンドだし、高等部でよく見る顔だ。ソフィア王女はシルバーブロンドだし、よく見ると結構顔立ちが違った。
「……通訳として使いたいという話だったが」
アルヴィンの目がユリシーズの方に向く。チャールズ4世のわきに立っていたユリシーズはうなずく。っていうか、いつの間にそういう話になったんだ。たぶん、アレクシアとリアノーラが席を外している間にそういう話になったのだろう。リアノーラも微妙に顔をひきつらせている。っていうか、未成年を雇用していいのか? ああ、そうか。バイトなら大丈夫か。
「半端に事情を知っているよりも、むしろ巻き込んでしまった方が安全だと判断しました」
アレクシアは祥子を見る。顔がこわばっている。暗に危険であるといわれているのだ。魔女のアレクシアや剣術にたけるベアトリックスとは違い、祥子には身を守るすべがない。腕に覚えのあるものが多い危地に飛び込む方が危険か、人の少ない伯爵家にいる方が安全か、微妙なところではある。
それにしても、通訳か。確かに、アレクシアとベアトリックスは臨時の護衛として紛れ込ませてしまえばいい。2人の能力上、ナイツ・オブ・ラウンドの近くに配属されるだろう。
しかし、祥子はこの中で言えば普通の少女でしかない。頭がよく、機転は効くが自分を守るすべはない。だから、通訳という国王か宰相のそばにいる役目を与えた。
ただし、問題は、現在世界的に使われている言語は、今から150年ほど前に作られた世界共通語であることだ。もちろん、その国の母国語のようなものは残っているが、世界の9割の人は世界共通語が話せる。世界共通語は人工語なので、単語も文法も簡単で覚えやすい。アレクシアたちが普段使うのも世界共通語だ。祥子とリアノーラはかつてアルビオンで使われていたアルビオン語が話せるらしいが、アレクシアとベアトリックスは話せない。
つまり、何が言いたいかというと、通訳を設置しなくても、他国の人間と会話は成り立つということだ。最近ではアレクシアたちのように、世界共通語しか話せない人も多い。むしろ、祥子のように14か国語も話せるほうがおかしい。
しかし、今、そういうことを言っている状況ではない。備えあれば憂いなしということにしておく。
「宮殿にいること自体が危ないだろ。ナイツ・オブ・ラウンドはともかく、騎士なんて名目化してるし、実際に宮殿警備を担当するのは軍隊だ。数が多いうえに、身元の分からない者が多い。お父様、宮殿に来させるよりはうちで預かった方が安全なんじゃないか? うちならお母様もいるし」
ユーフェミアが穿った意見を言う。フェアファンクス公爵家の屋敷で預かってもらう意見は先ほど出たが、人の少なさに却下された。リアノーラとアルヴィンがいるならフェアファンクス公爵家は安全そうだが、この2人はしばらく宮殿に詰めているだろう。
「でも、私もユフィもお父様も屋敷には帰らないじゃない。お母様もクリスも宮殿のパーティーに参加したりするんだから、祥子が1人になっちゃうじゃないの。それに、いきなり住むところを変えたら、余計に怪しまれるわ」
「それはそうだが」
「宮殿に出入りするなら……。まあ、うちで預かるよりはベリティの家で預かってもらうほうが安全だわ」
リアノーラは先ほど出た話をそのまま言った。アレクシアとリアノーラが一度退席する前は、ユーフェミアたちがいなかったのだから、話が通っていないのは仕方がないのかもしれない。
「はいはい」
フェアファンクス姉妹の不毛な言い争いに、ソフィア王女が手をたたいて介入した。
「2人とも、論点がずれてるぞ。それに、決めるのは私たちじゃない。祥子ちゃんだ」
アルトの柔らかな声。ユーフェミアの声と似ているが、彼女のものよりは穏やかでやわらかい。
「ソフィア王女の言うとおりだ。喧嘩したいなら訓練場で暴れてこい」
アルヴィンにもつっこまれ、姉妹はむっと黙り込んだ。っていうか、暴れて来いって……何となく、フェアファンクス公爵家の日常が見える気がした。
「……リア。彼女たちの家族に結界をかけることは可能か?」
ユリシーズが尋ねた。リアノーラは首をかしげつつ、いう。
「まあ……魔法陣が描かれたものを持ってもらえば。でも、それだと私から離れすぎると効力が」
魔法陣は魔力を循環させることで魔力を増やして魔術を使用する。しかし、魔力が希薄になった現代、魔力の供給源が離れすぎると魔法陣の効力が薄くなるという弱点があった。ユリシーズは構わない、という。
「式典の最終日の前の日に渡してやってくれ」
「……わかったわ。3人とも、いいかしら」
リアノーラが観念したように両手を上げて言った。続いて視線を送られた証拠がうなずく。
「えっと……はい」
祥子がコックリうなずく。アレクシアもややあってうなずいた。ベアトリックスについてはユリシーズが勝手に承諾した。それを見て、ユーフェミアが眉を吊り上げる。
「いいのか? リアの友人の時点で危ないけど」
「変に住む場所を変えるよりはいいだろう。ことを起こすなら、最終日に一気に起こすだろうから、最終日を乗り切れればいい。陛下のそばなら、お前やナイツ・オブ・ラウンドがいる」
「私にそんな余力はない」
今度はユーフェミアとその父の言い争いである。
「ユーフェミアさんって、何者?」
「……リアのお姉さん」
祥子に聞かれて、アレクシアは答えた。そうとしか言いようがなかった。後で本人に聞いてみようか。
そんな中、フェアファンクス親子の会話が聞こえた。
「リア、今日は屋敷に帰ってくれ。クリスがごねているらしい」
「ええっ!? 私だけ!?」
「私はまだ仕事がある。夜は寒いからな、できればユフィを動かしたくない」
「どうせ私は丈夫だよ」
すねたようにリアノーラがむくれた。
「っていうか、私も今日夜勤なんだけど」
「あ、いいよ。私がかわろう。リアは帰ってあげな」
エリスが手を上げて名乗り出た。リアノーラが引きつった笑みを浮かべる。
「エリス……あなたっていい人だけど、時々空気読まないわよね」
諦めたように、リアノーラは言った。こうして、アレクシアたち3人は巻き込まれたのである。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
い、いまいち話の流れが……。そのうち書き直すと思います。




