秘密基地へ行こう
「ぼくがきみのいばしょをつくるよ」
いつだったか、まだ幼かった私にそんな小っ恥ずかしい事をぬかした奴がいた。記憶の中のそいつはいつでも笑顔で、そんなそいつによく振り回されていたものだ。
「るいぃ〜…」
まあ今だってそんなこいつに振り回されているわけだが……
今の私たちの状況を一言で表すなら
「……此処何処よ…?」
俗に言う"迷子"ってやつだ。
事の発端は目の前で泣きそうになっているこいつ"東雲 鈴"の提案だった。
「秘密基地行こうよ!!」
……は?
「なぁに?その顔、何言ってんだこいつみたいな顔しないでよっ!」
いや、何言ってんだこいつ。小学生でもあるまいし第一"今更"そんな所へ行って何の意味が……
「いやさー、もう大分行ってないでしょ?それでまだ残ってるのかなって思って」
「だからって何でこんな突然」
鈴に向かってそう尋ねると彼は少し考えるような仕草をしてみせてから
「…特に理由は無い、んだけどさ」
と答え、ふわふわの髪を指に絡めながら少し困ったように笑った。
特に理由は無い…ねえ…
……ったく、こいつはいつもそうだ。私に隠し事が出来るとでも思っているのだろうか?にしてめあの癖、まだ治ってないんだな…
「…いいよ」
「え」
何呆けた顔してるんだ、自分が誘ったんじゃないか。まさか本当に行くとは思わなかったとか?
「だから行くってば!あんたが行こうって言ったんでしょ」
「え、え、…えっ!!?うっわぁああああああああああああ涙ありがとうっ!!!!」
…………効果音が付くとしたら"ぱああああっ!!"とかだろうか、そんなくだらない事を考えてしまうくらいにこいつの大きな目は輝いていた。
「全くあんたはいっつもリアクションが大袈裟ってっちょっえっ!!!?」
「涙大好きっ」
視界が鈴でいっぱいになって一瞬思考がストップする。え、何やってんのこいつ、え、え
「はっ、離れろおおっ」
「あだぅっ」
止まってしまった思考回路を無理やり再起動させて下に見える鈴の顔にチョップをかます。
「いたっ」
「ばっばっばっばばばばばっばっばっ…!」
「…ば?」
舌が思う様に言葉を紡いでくれない、きょとんとした鈴の顔。
「っば、ばっっっかじゃないのっ!!??」
…ふう、やっと言えた。おかえり私の思考回路ちゃん。
「…え、僕バカじゃないよっ」
「いやいやいやいや、バカでしょ!?あんた自分の年分かってんの?じゅ、う、な、な、さ、い、わかる?何いきなり抱きついてんの!?というか抱きかかえてるの!!?」
こいつ頭おかしいんじゃないだろうか、そりゃ私達はいわゆる幼馴染って奴ではあるが、でも一応私は花の女子高生で鈴は男子高校生なのだ。
「えー?ダメ、なの…?」
いかにも不満ですって顔で尋ねてくる鈴。
いやいや、何処に不満があるというのだ。そんなに私を抱っこしたい?ありえないだろう、そんな事ぬかしたら流石に引く。……
「何が不満なのさ」
「うー…涙は僕に触られるの嫌なの…?」
「は…?」
少し、少しだけだけど問い詰めるような顔。いつもと違う雰囲気に戸惑ってしまう…何だこいつ…?
「………僕は、涙に触れてたいのになぁ」
「は、はぁあっ…!!?」
いじけたように呟く鈴。
ちょっと待て、え、…は?
「ど、どうせ小さい頃は一緒にお風呂入ってたのに…!とか言い出すんでしょ?わか、ってるんだからね」
「え?」
大きな目が数回瞬かれる
「何で分かったの?」
……………………………………………………………………………は、ぁ、あ、?
「いっ…!!?いったぁああああっっ何だよいきなりっ!涙のバカぁ!」
「 だからバカはそっちでしょ!あーもうドキドキして損した、ほんっと損した」
「ドキドキ?なんで?」
あ、しまった
「べ、別に何でもないから!変なとこ突っ込まないでよね」
納得のいってない顔だが説明なんて出来ない、何故か胸が少し苦しくなったのだ。理由なんて分からない
「時間の無駄だしもう許してあげるから早く行きたいんだけど」
「許すって何を…ごめんなさい、うん!行こうか!!」
まだ惚けている鈴をギロっと睨むと一瞬固まったあとぎこちなく謝ってくれた。
まあ、何はともあれ久しぶりに"あの場所"へ行くのだ。緊張しない事も無い、何せ小さい頃に色々な事を経験した場所なのだから。
「じゃあ、出発だね」
短い上駄作で…申し訳ないです。ちまちまと進めていきたいなぁと考えておりますのでよければ鈴と涙を暖かく見守ってやって下さい。次はいよいよ秘密基地に行くかもしれないです、コメントなど頂けましたら飛び上がって喜びます、|ω・`)…じぃ